研究
令和3年度 中央大学学術研究奨励賞受賞者一覧
(順不同・敬称略)
氏名 (ふりがな) 所属身分 |
研究業績等の内容(要旨) | 他機関からの受賞 ○受賞名 ○授賞機関 ○受賞日 |
奨励賞推薦理由(要旨) |
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久保 知一 (くぼ ともかず) 商学部 教授 |
本論文は、流通・マーケティング研究における伝統的かつ重要な研究領域の一つである卸売業の機能と介在根拠についてミクロの視点から考察したものである。ミクロの視点からみると卸売業者の介在根拠は顧客価値提供にあるとした上で、卸売業者の提供する顧客価値とは何か、その源泉は何かというリサーチクエスチョンを設定する。考察では、その顧客価値を多属性モデルと延期-投機の分析枠組を組み合わせることで理論的に説明し、続いて、食品卸売業に対する質問票調査により得られた545 社の有効回答データを用いて実証分析を行っている。結論として、卸売業者が生み出す顧客価値とは、卸の提供物から得られるベネフィットに関する顧客の知覚貨幣価値であり、その重要な要素は配送の延期やサービスのカスタマイズであるとし、さらにその源泉が組織能力、仕入の投機、人的資産特殊性にあることを明らかにしている。延期-投機、カスタマイゼーションという構成概念間の関係を整理し、また自明ではあっても定量的に把握されていなかった延期を引き受けるための投機の性質を実証的に明示した点において、理論、実証の両面で先駆的な研究業績である。 | ○優秀論文賞 ○日本商業学会 ○2021年5月29日 |
日本商業学会は、同学会が発行する『流通研究』に掲載された論文の中から、優れた論文に対して優秀論文賞を授与している。2021年度の受賞論文が久保知一「卸売業者が作り出す顧客価値とその源泉」『流通研究』第23巻第2号である。本論文は、小売業とともに流通研究の重要な研究対象である卸売業を取り上げ、その機能について顧客価値という新たな視点に立ち理論的な分析の枠組みを提示し、加えて、実証分析において代表的な業種である食品卸売業を対象に考察を行った先駆的な研究成果である。長年にわたって、やや停滞してきた卸売業研究を前進させる優れた研究業績として高く評価できる。中央大学学術研究奨励賞を授与するに十分値するものと考え、ここに推薦する。 |
西川 可穂子 (にしかわ かほこ) 商学部 教授 |
候補者である西川教授は、気候変動と並ぶ全地球的な環境問題であるプラスチック海洋汚染を改善しようと、その主要な汚染源である陸域、特に河川のプラスチック汚染を調査研究している(”マイクロプラスチック汚染の現状と課題”J.JSWE,44,p35-42,共著2021)。 更に候補者は、これまで日本水環境学会のマイクロプラスチック委員会の副委員長として、学術交流の活性化と共に、自治体や省庁との連携強化にも尽力してきた。 対象研究であるプラスチック汚染は、特にアジア諸国における汚染を最小限にしなければならない現状がある。候補者は、アジアの研究者と共同研究を展開中だが、海外へのフィールド調査ができない状況にあり、新たにアジアのプラスチック汚染に関するオンライン国際ワークショップ”Plastic pollution in Asian waters - From land to ocean”を立ち上げた。プラスチック汚染の影響は、社会的にも影響が広範囲なことから、幅広い視点での議論が重要であるため、この国際ワークショップでは、他の関連学会と連携して、複数学会の共催とした。その運営の中心的な役割を担い、成長著しいアジア諸国とそれに関心のある人々との連携強化のため活動していることが評価された。 |
〇水環境国際活動賞 〇日本水環境学会 〇2021年3月11日 |
候補者が所属する日本水環境学会では、水環境分野の国際交流・国際協力の促進を目的として、本学会の活動趣旨に沿っており、かつ優れた国際的な活動として選定されたものを「水環境国際活動賞」として顕彰している。西川教授は、2021年度日本水環境学会年会にて、”Plastic pollution in Asian waters - From land to ocean”の活動計画を認められ、この賞を受賞した。 候補者は、これまで海洋プラスチック汚染の軽減には、河川を含めた陸域のプラスチック汚染対策が重要であり、特にアジア諸国における汚染を最小限にしなければならない現状を認識して、研究活動を展開してきた。日本のマイクロプラスチック研究は、世界でも進んでおり、これらの研究者と共に、アジアにおけるプラスチック汚染の軽減に貢献しようと、今年度新たにオンライン国際ワークショップを立ち上げたことが評価された。コロナ禍で、交流や現地での調査研究ができない中、アジア地域の研究者やステークホルダーと交流し、研究成果の情報を共有することが今後の対策に不可欠である。プラスチック海洋汚染の改善は、現在の状況把握と共に、汚染の回避、最小化、軽減、環境回復などの研究成果を総合して多岐に渡る総合的な議論が必要である。この国際ワークショップでは、複数学会の共催とすることで、その議論が多面的かつ深化することが期待される。これらの活動が評価され、表彰をされた。 |
香取 眞理 (かとり まこと) 理工学部 教授 |
香取眞理氏の研究分野は、統計力学、数理物理学及び確率論である。香取氏は、ランダム行列、シュラム・レヴナー発展 (SLE)、ガウス自由場、行列式点過程など、統計力学において重要なモデルを、ダイソン模型とよばれる相互作用粒子系の確率過程を核として研究してきた。 上述の一連の研究の源流は2000年代に見られる。当時香取氏は、種村秀紀氏(千葉大(現在、慶応大))と共同で非衝突確率過程の構成とランダム行列理論との関連を明らかにした。その時代は、粒子数有限の系を取り扱った後に粒子数が無限となる極限を考えるのが通常であったが、彼らは最初から無限粒子系を扱うことの重要性を認識し、実際に無限粒子の非平衡ダイソン模型を構成した。この仕事の影響は大きく、香取氏は2011年に、伝統あるフランスのLes Houchesスクールに招聘され「Symmetries and Structures of Matrix-Valued Stochastic Processes and Noncolliding Diffusion Processes」と題する10時間の連続講義を行なった。2010 年代には、楕円関数型行列式過程の導入、ダンクル過程の性質の解明、ダイソン模型に対する流体力学極限の議論等を行い、2016年にSpringer社から「Bessel Processes, Schramm-Loewner Evolution, and the Dyson Model」と題する書籍を出版した。この学術専門書は、題名に含まれる3つのテーマを結ぶユニークな観点を提供するものである。1本のSLEを駆動する確率過程として、通常、ブラウン運動が採用される。一方、多重SLEにおいてどのような確率過程を駆動関数として選択すべきかは全く自明ではない。香取氏は越田真史氏(学振PD(現在、Aalto大))と、近年SheffieldやMillerらが 1本のSLE曲線とガウス自由場との結合系を研究していることに注目し、多重SLEをガウス自由場と結合させて定常な確率場を構成すると、多重SLEを駆動する多粒子確率過程がダイソン模型として一意に定まることを証明した。また香取氏は堀田一敬氏(山口大)との共同研究において多重SLEの流体力学極限に関する結果も得た。 |
〇2021年度日本数学会解析学賞 〇日本数学会 〇2021年9月14日 |
日本数学会では、解析学及び解析学に関連する分野において著しい業績をあげた研究者を毎年3名選出し、日本数学会解析学賞としてその業績を顕彰している。香取眞理氏は本年度(2021年度)にその一人として選ばれた。授賞題目は「統計力学と関連する無限粒子系の研究」である。数学の解析学の一分野である確率論は長い歴史を持つが、数学分野のノーベル賞といわれるフィールズ賞の対象となったのは最近のことであり、2006年の WernerのSLEに関する研究を契機とする。以来、確率論及び関連分野で4件の授賞があったが、それらはすべて統計力学モデルに関係する。解析学賞は若手のみを対象とする奨学賞としての性格をもつものではなく、また過去の一時点における業績ではなく、選考時点で進行中の研究に連なる業績を授賞の対象としたものである。今回の香取氏の解析学賞授賞理由においては、「研究業績等の内容」の欄に記した過去約20年にわたる研究業績とともに、この数年における研究、すなわちランダム行列の発展として研究対象となっている行列式点過程に関する、楕円関数拡張、円環上のガウス型解析関数の零点分布、更に、行列式点過程間の双対性に関する研究なども評価されている。2016年のSpringer社からの英文専門書出版は、解析学賞の授賞理由にも挙げられているが、そのeBook版のダウンロード数が過去6年間にわたり定常的に多かったことから、この11月にSpringer LinkのMathematics and Statistics eBook Collectionに加えられている。解析学賞の授賞理由にも記述のある行列式点過程の楕円関数拡張に関する研究は、香取氏が2018年度前期の本学在外研究期間中に滞在先のウィーン大学で行ったものであり、その研究成果は2019年に学術誌Communications in Mathematical Physicsに掲載された。この学術誌は、数理物理学の分野におけるトップ・ジャーナルである。多重SLEと自由ガウス場の結合に関する越田氏との共同研究結果はアメリカ物理学協会(AIP)から出版されている Journal of Mathematical Physics誌に2020年に掲載されたが、これは優れた論文に対して編集長が指名するEditors Pickに選ばれている。また香取氏は、ドイツのBielefeld大学で2022年8月に開催が予定されている Summer Schoolの8名の講師の内の一人に選出されている。このSummer Schoolは数学と理論物理学の博士後期課程大学院生やポスドク研究員約50名を対象として2週間行われ、各講師は1週間にわたって講義するということである。 上記の研究業績は本学の学術研究奨励賞としても相応しい大変優れたものであり、また香取氏には今後も継続して研究を行うことが期待できる。香取眞理氏の本学におけるより一層の活躍を祈念して、学術研究奨励賞に推薦する。 |
鈴木 宏明 (すずき ひろあき) 理工学部 教授 早川 健 (はやかわ たけし) 理工学部 准教授 |
近年、マイクロ流体チップを用いた単一細胞解析デバイスが盛んに研究されている。候補者は、チップ上の広い範囲で強い操作力が発生可能であり、チップ作製が容易なオンチップ微細操作法として、振動誘起流れを用いた独自の方法を提案してきた。振動誘起流れとは、チップ上にマイクロ構造体を作製し、チップに高速振動を印可した際に構造体周囲に局所的な流れが生じる現象である。この現象を利用することで、様々な細胞操作を簡便に実現できると期待されており、本研究では、ポンプを必要としない微量サンプルのためのマイクロミキサーを提案した。また、作製したミキサーの混合性能を、粒子画像流速(PIV)解析を用いて定量的に評価した。 | 〇ROBOMECH表彰(学術研究分野) 〇日本機械学会(ロボティクス・メカトロニクス部門) 〇2021年6月7日 |
候補者が受賞した賞は、日本機械学会ロボティクス・メカトロニクス部門が共催する講演会において、研究内容及び技術的成果に対して高い評価を得たものであり、実質的にロボティクス・メカトロニクス部門講演会の約1300件に及ぶ発表の最優秀賞に相当するものである。候補者は独自技術の提案と解析、試作を主体的に行い、本賞を受賞した。このような研究業績は今後の中央大学の学術基盤となる可能性を秘めており、中央大学学術研究奨励賞の受賞者に値すると考え、ここに推薦した次第である。 |
中村 太郎 (なかむら たろう) 理工学部 教授 |
近年、宇宙技術の発展に伴い、ロケット打ち上げの需要が高まっている。イプシロンをはじめとした固体推進剤ロケットは液体推進剤ロケットに比べてコストは安いが、大量の固体推進剤を安全に製造することは難しい。したがって、固体推進薬を安全かつ連続的に製造することが必要となる。そこで候補者らは、腸の蠕動運動に基づいて開発した蠕動運動ポンプロボットを用いて、今まで困難であった固体推進剤の混合搬送プロセスの連続性と安全性を実現した。さらに本ポンプロボットによって生成された固体推進剤の燃焼試験を行い、安定的な燃焼速度を得ることに成功した。 | 〇部門優秀論文表彰(ロボティクス・メカトロニクス部門) 〇日本機械学会(ロボティクス・メカトロニクス部門) 〇2021年6月7日 |
本業績は、日本の固体ロケット技術が、世界的な宇宙開発競争において勝ち抜くための革新的な技術として非常に注目されている。なお、本研究はJAXAとの共同研究の成果として、通常では難しい燃焼試験を通じて、蠕動運動ポンプロボットによる推進剤生成の有用性を実証している。本ポンプロボットは、様々な大型プロジェクトへの参画やテレビ・新聞等のマスコミにも注目を浴びており、候補者が設立した中央大学発ベンチャー企業ソラリスを通じて、実用化の検討も始めている。よって、これらの成果は、中央大学の研究力や技術力の水準の高さを国内外にアピールすることができることから本賞に推薦する。なお、候補者の役割は、本プロジェクトの研究統括とプロジェクトマネージメントである。 |
西田 治文 (にしだ はるふみ) 理工学部 教授 |
西田治文氏は長年植物化石研究を行い,多数の研究成果を出版しており、2012年から4年間は国際古植物研究機構の副会長も務めた。加えて、日本学術会議第25期においては連携会員としてIUBS(国際生物科学連合)分科会委員長などを務め、2023年3月には本学後楽園キャンパスにIUBS第34回総会を招聘するなど、研究及び社会活動において多岐にわたり活躍している。 | 〇第21回日本進化学会賞 〇日本進化学会 〇2021年8月20日 |
日本進化学会賞は、日本進化学会が毎年、進化学の分野ですぐれた学術研究や実践活動を行なってきた研究者を顕彰するものである。受賞理由は、植物化石研究において世界的に活動し、植物の系統進化を形態だけでなく、生理、共生など多角的な視点から明らかにする多数の業績をあげたこと、さらに日本語の著作を通して化石研究の魅力と可能性を一般に普及した功績である。古生物学分野の研究者としては初の受賞である。 |