研究

平成30年度 中央大学学術研究奨励賞受賞者一覧

(順不同・敬称略)

氏名
(ふりがな)
所属身分
研究業績等の内容(要旨) 他機関からの受賞
○受賞名
○授賞機関
○受賞日
奨励賞推薦理由(要旨)
礒崎  初仁
(いそざき はつひと)
法学部・教授
本書は、神奈川県の松沢成文県政(2003~2011年)を題材として、日本の自治体(地方政府)がいかに運営されているかを「自治体政権」の視点から実証的・動態的に描いたものである。日本の地方自治は制度論の観点から規範的に論じられることが多いが、本書は上記県政の政策展開と自治体運営の過程を素材として、自治体政治の実態とダイナミズムを構造的に提示するとともに、マニフェストなど今後の地方政治の可能性を示している。 ○第8回(2018年度)自治体学会研究論文賞
○自治体学会
○2018年8月25日
上記候補者を推薦する理由は、第1に、ひとつの自治体政権の誕生から終焉までのプロセスを参与観察の手法によって丹念に描いたことである。第2に、「自治体政権」という概念と枠組みを提示し、自治体政治の理論的・立体的な分析に成功していることである。第3に、首長の「マニフェスト」に着目し、その有効性と限界を実証的かつ理論的に分析したことである。そのほか、首長選挙の実態、首長と地方議会の関係、職員組織の問題点、地方メディアの課題など、本書が発掘した視点と投げかける問題は深く、大きい。
そのため、「日本における自治体の発展と地方自治に対して顕著な貢献をなしたと認められる、会員による著作」に贈られる本賞を受賞したものであり、強く推薦する。
後藤 孝夫
(ごとう たかお)
経済学部・准教授
本書は、日本において営業収入が2兆円弱に達し、法人事業者だけでその数が1万5000社にもなりながら、学界の内外でまとまった研究が少なかったタクシー産業を扱った研究書である。本書は実態把握編、現状分析編、政策分析編および政策提言編の4部構成になっている。
その具体的内容として、第Ⅰ部「現状把握編」では、軽貨物タクシー、運転代行などの周辺サービスをも含めた史的経緯、東京、他都市、地方部で大きく異なる市場の状況、さらに3箇所(ニューヨーク、スウェーデン、タイ)の海外事例を整理・検討している。
第Ⅱ部「現状分析編」では、タクシーサービスの需要面での特徴、ならびに労働問題、法人・個人両タクシーの別を含めた供給面での特徴について分析している。
第Ⅲ部「政策分析編」では、自由化と統制の間で揺れ動き、きわめて複雑化している規制政策の政策過程、ならびに新たなサービスを含めた事業区分について分析している。さらに、東京での初乗400円化を含めた運賃問題、台数規制の是非と可否、安全性、ICT進展の影響とライドシェア問題と、最近のタクシーをめぐって注目を集めている様々な問題についても論述している。
そして,第Ⅳ部「政策提言編」では、これまでの分析結果を踏まえて,タクシー規制の公共選択的側面および地域主権の必要について、著者らの見解が述べられている。
〇日本交通学会賞(著書の部)
○日本交通学会
○2018年10月6日
日本交通学会は、1941年12月に財団法人東亜交通学会として設立されて現在に至る、日本学術会議協力学術研究団体でもある学会である。日本交通学会は、交通に関する優秀な学術的業績を顕彰するために日本交通学会賞(著書の部)を設けており、2018年度は候補者らが受賞した。
受賞対象である『総合研究 日本のタクシー産業:現状と変革に向けての分析』(2017年 慶應義塾大学出版会)において、候補者は共編者として、書籍の企画から編集に至るまで参画した。くわえて、候補者は上記書籍全18章のうち2章(第3章「都市部のタクシーの現状と背景」および第6章「タクシー需要はなぜ減っているのか」)を分担執筆し、書籍の学術的内容に少なからず貢献していると考えられる。
したがって、候補者を中央大学学術研究奨励賞候補者として相応しいものと認め、ここに推薦するものである。
渡邉  浩司
(わたなべ  こうじ)
経済学部・教授
渡邉氏は、フィリップ・ヴァルテール氏(フランス・グルノーブル第3大学名誉教授)が2014年にパリのイマゴ出版から刊行された浩瀚な『アーサー王神話大事典』の邦訳を奥様ともに実現し、2018年2月に原書房から上梓された。本書は中世期にヨーロッパの様々な言語で書かれたアーサー王物語全般を対象とし、その古層に学際的な立場から迫った画期的な事典である。今後、ヨーロッパ中世文学や比較神話学の研究者たちにとって必携の書となることは間違いない。渡邉氏は圧倒的な情報量を誇るこの事典の邦訳に挑まれ、見事に完成させた。 ○翻訳特別賞
○日本翻訳家協会
○2018年10月19日
日本翻訳家協会は、国連教育文化機構(ユネスコ)に非政府機構として認可された国際翻訳連盟の正会員団体であり、当協会による顕彰は半世紀にも及ぶ伝統を有している。この協会は、毎年日本で刊行される翻訳作品の中で特に優れた訳業に対しその業績を顕彰しており、本年度はフィリップ・ヴァルテール著『アーサー王神話大事典』(原書房)の邦訳を担当した渡邉夫妻に対し「翻訳特別賞」が授与された。なお翻訳作業の過程では、ヴァルテール氏の高弟にあたる渡邉浩司氏が中心的な役割を果たされた。
高橋  豊治
(たかはし  とよはる)
商学部・教授
『グローバル経済における空港のファイナンスと投資』創成社
海外の空港における民営化や経済規制を詳細に解説したGraham and Morrell(2016) Airport Finance and Investment in the Global Economy, Routledgeの翻訳書であり、民営化や資金調達のみならず、ベンチマーク、価値評価、財務分析、空港の競争などの重要課題に取り組んでいる。日本の空港のこれからを考えるには最適な書籍である。
○第11回住田航空奨励賞
○(公益財団法人)交通研究協会
○2018年12月4日
現在、インフラの改革が注目されている。空港の整備・運営では、航空のグローバル化を受けて、空港の民営化が世界的に進んでいる。日本では、滑走路等の基本施設は公的所有のまま運営を民間に任せるコンセッションが、仙台空港を先駆けとして普及しようとしている。コンセッションは民営化の一種であり、民営化では資金調達やファイナンスの分析が肝要である。これまで世界的にみて、空港のこの面に焦点を当てた分析は皆無に近い。本書は、民営化や資金調達のみならず、ベンチマーク、価値評価、財務分析、空港の競争などの重要課題に取り組んだ点が評価され、交通研究協会から航空分野の優秀図書に与えられる住田航空奨励賞を、翻訳ながら、高橋豊治教授も含む共訳者が受賞した。高橋豊治教授の貢献は7章「空港のファイナンス」の翻訳と、本書のテーマである「ファイナンスと投資」面からの全体の調整である。以上のことから本書は、本学の顕彰にも値する著書であり、同書の執筆に携わった高橋豊治教授を奨励賞授与者として推薦する。
結城 祥
(ゆうき  しょう)
商学部・准教授
クレイトン・クリステンセンが「イノベーターのジレンマ」の文脈で言及したように、企業の製品開発の方向性や成果は、顧客との取引関係や企業が埋め込まれた取引の階層的ネットワーク(チャネル構造)によって強い制約を受けるものと推測される。しかしながら、マーケティング・チャネル論は、取引関係の管理やチャネル構造の設計・選択が製品開発成果に及ぼす影響のメカニズム解明を軽視してきた。この既存研究の空白地帯を埋めるべく、マーケティング・チャネル論と製品開発論に依拠して仮説を導出し、わが国の製造業者から得られたデータに基づく実証分析を行った。分析の結果、①顧客群との信頼関係構築によって、製造業者は良質な市場情報の入手が可能になり、それによって製品の有用性が向上すること、②顧客群との信頼関係は製造業者の自律性を高める効果も有しており、その結果、新奇性の高い製品の開発が促されること、③チャネルの閉鎖性は製造業者の自律性を低下させ、新奇な製品の開発を妨げる効果を持つことが見出された。 ○日本商業学会 優秀論文賞
○日本商業学会
○2018年5月25日
1951年に設立された日本商業学会は、会員数1千名を超える、わが国最大級の流通・マーケティング学術団体である。結城准教授の研究成果は、当学会の主要学術誌『流通研究』に論文として掲載され(タイトル:「取引のネットワークと製品開発の成果」)、2018年5月に開催された日本商業学会第68回全国研究大会において、優秀論文賞を受賞した。同賞は、毎年度の掲載論文の中から最も優れた論文1纂に対して授与されるものであり、結城准教授の論文は、①研究プロセスが適切で、論理展開が一貫していること、②実証分析に際して、既存研究が抱えていた概念測定に関する限界の克服を試みたこと、③多くの日本企業にとっての課題である「脱コモディティ化」への重要な示唆を与えていることなどが高く評価され、今回の受賞となった。
なお、結城准教授による今回の優秀論文賞受賞は、2011年に続いて2度目であり、日本商業学会会員の中で唯一、同賞を複数回受賞するという快挙を成し遂げている(2018年12月現在)。さらに結城准教授は、2015年にも同学会の学会賞(奨励賞)を受賞しており、学会の研究活動に多大な貢献を果たしてきたことを申し添え、本年の中央大学学術研究奨励賞候補者として強く推薦する次第である。
井原 透
宋 小奇
(いはら とおる)
(そう しょうき)
理工学部・教授
理工学部・助教理工学部助教
産業用タービンや航空機のジェットエンジンに使われる耐熱ニッケル基合金インコネル718を、産業界で一般的に広く使用されている超硬工具で切削油を使わない乾式で切削すると、工具上に着く凝着物が同工具の摩耗を抑制するという、著者らが新規に見出した機能についての実験とその理論化からなる論文であり、発想の新規性,切削油や工具コストの低減に繋がるので産業界に役立つ知見を有するということで、高い評価を得た。 ○Best paper award     ICPE2018(17th International Conference on Precision Engineering)
○Japan Society for Precision Engineering
○2018年11月14日

(井原先生)
ICPE2018は世界の精密工学界を先導する国際大会であり、日本精密工学会主催である。今大会はFUNACの稲葉会長がチェアマンとなり、本賞の贈呈者となった。
本論文は、200件あまりの発表論文から9件選ばれたうちの1件である。マザーマシン工作機械の主機能である切削に関する新規的かつ有用性ある成果が得られている。共著者三名、宋小奇、高橋幸男、井原透のうち、候補者である井原は、指導および企画と考察の統括を担当した。

(宋先生)
ICPE2018は世界の精密工学界を先導する国際大会であり、日本精密工学会主催である。今大会はFANUCの稲葉会長がチェアマンとなり、本賞の贈呈者となった。
本論文は、200件あまりの発表論文から9件選ばれたうちの1件である。マザーマシン工作機械の主機能である切削に関する新規的かつ有用性ある成果が得られている。共著者三名、宋小奇、高橋幸男、井原透のうち、候補者である宋は、計画および実験の大部分、考察とまとめを担当した。
髙桑 宗右ヱ門
(たかくわ そうえもん)
理工学部・教授
国際生産・オートメーション学会(DAAAM:本部ウィーン工科大学)の機関誌DAAAM International Scientific Book 2018に掲載された単著論文“Integration of management and simulation for manufacturing systems”に対して、同学会の2018年度学会賞(金メダル:大賞)が候補者に授与された。 ○2018年度学会賞(金メダル:大賞)
○国際生産・オートメーション学会
○2018年10月25日
候補者は、2016年度~2017年度の2年間、中央大学共同研究費「インダストリー4.0環境下の生産とマネジメントに関する国際研究拠点形成」の研究代表者として、一連の研究成果を国内外の主要な学会などに発表し、また日本オペレーションズ・リサーチ学会『オペレーションズ・リサーチ』誌(2018年Vol.36、No.4)の「特集 IoTがもたらす製造業の新展開」、ならびに日本情報経営学会『日本情報経営学会誌』(2018年Vol.37、No.4とVol.38、No.1)の「特集 第四の革命:IoTと経営(上)」、「特集 第四の革命:IoTと経営(下)」の3誌のゲストエディタとして共同研究の研究成果の編集に尽力した。受賞論文は、共同研究費プロジェクトにおいて候補者が実施してきた研究を発展させて投稿したものであり、特に、IoT/インダストリー4.0環境下における生産活動に対して、経営・マネジメントと生産工場、そしてシミュレーションの3者について、それぞれを連結するための応用事例を示した上で、マネジメントシステムの統合化を体系的に提案した内容が評価された。
高松 瑞代
(たかまつ みずよ)
理工学部・准教授
過去3年間の論文3編を対象としている。第一の論文は、正確な数値と誤差を含む不正確な数値を明確に区別して動的システムをモデル化する道具である混合行列束のKronecker標準形に関する組合せ論的な解析を行っている。さらに、動的システムの可制御性解析への応用として、混合行列束によるディスクリプタ形式で記述される線形システムの可制御部分空間の次元が効率的に計算できることを示している。
第二と第三の論文は公共交通システムの最適設計に関わるものであり、都市部の過密化と地方の過疎化という、我が国が今日直面している課題に取り組んでいる。第二の論文は、非常に混雑する東京首都圏の通勤時間帯に着目して、優等列車停車駅を最適化する手法を提案している。第三の論文では、バスの運行本数が著しく少ない過疎地域を対象として、最適化手法を用いて鉄道とバスの時刻表を設計している。どちらの論文においても、大量の実データを用いて数値実験を行うことで、提案手法の有用性を示している。
○第8回 研究賞奨励賞
○日本オペレーションズ・リサーチ学会
○2018年9月6日
研究賞奨励賞は、独創性と将来性に富み、オペレーションズ・リサーチの発展に寄与する研究業績を挙げている若手研究者を対象とする賞である。高松瑞代氏は組合せ最適化の工学的応用および最適化手法を用いた公共交通設計の研究に取り組んでおり、優れた業績をあげている。理論的な課題から実務的な課題まで幅広く研究しており、さまざまな分野への応用を目指すオペレーションズ・リサーチ学会から研究業績が認められ、研究賞奨励賞を受賞している。よって、中央大学学術研究奨励賞の候補者として推薦する。
中村 太郎
(なかむら たろう)
理工学部・教授
本論文は、モバイル化を目指した小型軽量空気圧源の開発について記述されている。
現在、空気圧システムに用いられる空気圧源はコンプレッサという機械的に圧力を生じさせる装置を使用している。しかしこの装置は重量が大きく小型化が困難であることから工場内等での決まった場所でしか使用できなかった。一方、最近では空気圧人工筋肉をはじめとした軽量高出力のアクチュエータの開発が盛んにおこなわれており、このアクチュエータを人間に装着することで、パワーアシストやリハビリテーション等への応用が期待されているが、空気圧源が大型化しているためそのモバイル化が困難であった。そこで本論文では、炭酸水素ナトリウム(重曹)とクエン酸を用いた化学反応による全く新しい空気圧源を提案・開発し、その小型軽量化に成功した。また基底圧力による回帰回路を適用することで、化学反応の促進化にも成功した。
○日本フルードパワーシステム学会 学術論文賞
○日本フルードパワーシステム学会
○2018年5月25日
対象とされた賞を授与している日本フルードパワーシステム学会は、油圧空気圧等を用いた流体機械やそのシステムに関する日本で唯一の学術団体であり、日本やアジアを中心として活発に活動している。本賞は2017年度に出版された数十件の論文中において特に優れた1件の論文を対象にして授与される賞である。また本論文は2018年10月のアクセス数でも4位にランキングされ、その注目度が高い。なお、本研究はNEDOのプロジェクトの一環である。この中で候補者は、プロジェクトの最高責任者であり、研究統括・提案・技術的な開発指導を担当している。
田中 洋
(たなか ひろし)
戦略経営研究科・教授
田中教授は長年マーケティングの研究と実践に関わり、これまでに約20冊の著書(共著、編集を含む)を出版し、約89纂の研究論文を出版している。今回受賞対象となった『ブランド戦略論』(2017年12月刊、有斐閣)は500ページを超す大著であり、著者の長年のこの分野への取り組みの集大成と目されている。マーケティング分野で注目されるブランドを対象として全体を理論・戦略・実践・事例の4部に分け、幅広く既存研究を踏まえ独自の見解を披露しつつ初めて体系化に成功している。出版当初か読売新聞・日本経済新聞に相次いで書評が掲載されたのを初めとして、学会賞をふたつ受賞し、世間的にも既に高い評価を得ているのが本書である。 ○日本マーケティング学会マーケティング本「大賞」
ならびに日本広告学会賞
○日本マーケティング学会、日本広告学会
○2018年10月14日、2018年10月13日
「ブランドに関する広範な知識を現代的な視点から体系化した大著」 マーケティングにおいて重要なコンセプトであるブランドに関する広範な情報や議論を網羅し、現代的な視点から体系化することによって、実務家・研究者の双方がブランド戦略を俯瞰的かつ深く理解できる良書である。
ブランドに関する議論を「理論」「戦略」「実践」「事例」の4つの観点から整理しており、幅広い読者が自らの関心領域を入口にブランド戦略を多元的に考察できる内容になっている。特に30もの事例集は圧巻であり、読む者を飽きさせない。さらに、どの時代にも通底する社会や人々の生活を起点としたブランド戦略の本質が語られており、ビジネスのあるべき姿が描かれている点も評価に値する。