研究

平成27年度 中央大学学術研究奨励賞受賞者一覧

(順不同・敬称略)

氏名
(ふりがな)
所属身分
研究業績等の内容(要旨) 他機関からの受賞
○受賞名
○授賞機関
○受賞日
奨励賞推薦理由(要旨)
関野 満夫
(せきの みつお)
経済学部・教授
『現代ドイツ税制改革論』(税務経理協会、2014年7月刊行)
経済グローバル化の進む1990~2010年代ドイツにおける税制改革の動向、議論と問題点を、所得税、消費税、法人税、富裕税、環境税という主要税制全般に渡って実証的に分析したものであり、とくに税制改革による所得分配への影響に注目して「租税の公平性」の視点からドイツ税制の課題を摘出している。本書の構成は以下のとおりである。
序論
第1章 所得税改革と所得再分配―税制改革2000の検討を中心に―
第2章 所得税のフラットタックス構想
第3章 売上税(付加価値税)の現状と改革
第4章 2008年企業税制改革―グローバル化と企業課税―
第5章 企業税制と営業税問題―グローバル化と地方企業課税―
第6章 富裕税(純資産課税)の動向と再導入論
第7章 環境税制改革
○第24回租税資料館賞
○公益財団法人租税資料館
○2015年11月19日
授賞団体の公益財団法人・租税資料館は1991年5月に設立された、日本最大の租税に関する専門図書館である。その設立目的は「わが国税務の発展に寄与すること」であり、そのために、①租税に関する資料・文献等の収集・管理・公開、②租税理論・会計理論等の調査研究の促進、③租税研究・会計研究等に関する人材育成、を行っている。日本の学術研究を促進するという意味では、租税資料館は「学会」に準じる学術研究団体である。
また租税資料館が毎年度授与している「租税資料館賞」は、租税・会計等に関する優秀な著作・論文を審査・選考の上、顕彰するものであり、関連する学会・研究者の間でも注目されている学術賞である。
なお「租税資料館賞」授賞対象となった関野満夫著『現代ドイツ税制改革論』は、推薦者(財政学)から見ても、以下の3つの点において学術の発展に寄与し、社会的にも高く評価できるものと考える。①1990年代以降の経済グローバル化の中でのドイツ租税構造の変貌や税制改革の動向を総合的・包括的に解明した研究書であり、わが国で類書がほとんどない状況の中での先駆的業績であること。②現代の租税原則は一般に「公平、中立、簡素」と言われるが、経済グローバル化中でドイツを含む先進諸国で遂行されてきた税制改革は、「所得課税から消費課税へ」、「所得税の累進性緩和」、「法人税率引き下げ」など「中立」、「簡素」の視点のみである。その中で本書は税制改革による所得分配への影響に注目し、「公平」の視点から問題を提起している。これによって税制改革のより客観的総合的評価が可能になっている。③本書はドイツ税制改革の動向を論じているが、ドイツで議論された所得税のフラット化(累進性緩和)、法人税率引き下げ、消費税の軽減税率問題、富裕税(純資産課税)、環境税制改革は、今日の日本税制が直面している問題でもあり、今後の税制改革のあり方を考えるにあたっても貴重な参考になることである。
以上の理由から、関野満夫著『現代ドイツ税制改革論』は、2015年度中央大学学術研究奨励賞に該当するものと考え、推薦するものである。
渡邉 浩司
(わたなべ こうじ)
経済学部・教授
(渡邉教授)
2012年から2015年にかけて、中央大学出版部から毎年春に刊行されてきた『フランス民話集』Ⅰ~Ⅳの全4巻の企画・翻訳・編集に携わった。フランス全域の民話を厳選して紹介したこの貴重な訳業は、中央大学人文科学研究所の「比較神話学研究」チームによるものである。
○第51回日本翻訳出版文化賞
○NPO法人日本翻訳家協会
○2015年10月16日
(渡邉教授)
毎年日本で刊行される翻訳作品の中でも特に優れた訳業に対し、日本翻訳家協会より贈られる「日本翻訳出版文化賞」を受賞した『フランス民話集』Ⅰ~Ⅳの全4巻は、フランス全域に伝わる地方色豊かな民話を、中央大学人文科学研究所の「比較神話学研究」チームが翻訳・編纂したものである。日本翻訳家協会は、国連教育文化機構(ユネスコ)に非政府機構として認可された国際翻訳連盟の正会員団体であり、当協会による顕彰は半世紀にも及ぶ伝統を有している。渡邉氏は、受賞作品となった全4巻で、中心的な役割を果たされた。
本田 貴久
(ほんだ たかひさ)
経済学部・准教授
(本田准教授)
2012年から2015年にかけて、中央大学出版部から毎年春に刊行されてきた『フランス民話集』全4巻の中でⅢとⅣで翻訳・編集に携わった。フランス全域の民話を厳選して紹介したこの貴重な訳業は、中央大学人文科学研究所の「比較神話学研究」チームによるものである。
(本田准教授)
毎年日本で刊行される翻訳作品の中でも特に優れた訳業に対し、日本翻訳家協会より贈られる「日本翻訳出版文化賞」を受賞した『フランス民話集』Ⅰ~Ⅳの全4巻は、フランス全域に伝わる地方色豊かな民話を、中央大学人文科学研究所の「比較神話学研究」チームが翻訳・編纂したものである。日本翻訳家協会は、国連教育文化機構(ユネスコ)に非政府機構として認可された国際翻訳連盟の正会員団体であり、当協会による顕彰は半世紀にも及ぶ伝統を有している。本田氏は、受賞作品となった全4巻のうちⅢとⅣで、中心的な役割を果たされた。
結城 祥
(ゆうき しょう)
商学部・准教授
結城氏の著作(結城祥(2014)「マーケティング・チャネル管理と組織成果」千倉書房)について、その概要を紹介する。なお、以下では「著作」と表記する。日本企業のマーケティング行動の特徴を形作ってきたのは、そのマーケティング・チャネル管理のあり方であった。市場リーダーと呼ばれる企業は流通業者の行動を管理し、他者である流通業者をあたかも自社の一部であるかのようにコントロールしてマーケティングを実行し、高い組織成果を得てきたのである。とはいえ、市場リーダーではない多くの製造業者は自社製品の販売に際して、製品流通に参加する流通業者の管理問題に直面するのが現実である。その際、製造業者は流通業者という他者を通じて自社目標を達成する必要がある。この問題は「他者を用いて事をなす(Doing things through others)といういわば経営の根本問題の1つであった。しかし、既存研究はこの管理問題と組織の経営成果を別々に扱ってきており「研究のための研究」に陥っていた嫌いがあった。結城氏の著作はこのような問題意識の下、製造業者のチャネル管理とそれがもたらす製造業者の経営成果への影響というチャネル研究の本丸とも言えるテーマに取り組んだものである。著作は大きく3つの部に分けて構成されており、第1に過去の膨大なチャネル研究を要領よく整序した上で、未解決の問題の存在を指摘した文献研究、第2に既存研究の問題を克服するための独自の概念枠組の形成と仮説の提唱、そして第3に研究の文脈に合わせて工夫された手堅い実証研究から構成されている。主な発見は次の通りである。製造業者によるチャネル管理行為(販路開拓行為と流通業者を同調させる行為)は、売上成長率と投資収益率にプラスの影響を与えるものの、その効果は市場地位によって調整され、流通市場の変動性からは影響されない。この発見は、市場地位によってとるべきチャネル管理行為が変化することを示唆しており、学術的に新たな発見であるばかりか、実務家にも有益なものと考えられる。 ○日本商業学会奨励賞
○日本商業学会(日本学術会議協力学術研究団体)
○2015年5月30日
結城祥商学部准教授は永年にわたり、製造業者が製品流通にあたって直面するマーケティング・チャネルの管理のありかたとそれがもたらす企業組織への成果の効果を研究対象とし、一貫した研究を蓄積してきた。その成果がこのたび著作として結実した。マーケティングチャネル研究が属するマーケティングおよび流通の学域は、多くの研究者がひしめく激戦地帯である。しかし、過去のいくつかの金字塔的業績の影響力の下(たとえば、情報処理組織論を確立した Simon, H. (1997), Administrative Behavior, Free Press や、取引費用経済学を確立した Williamson (1985), Economic Institutions of Capitalism, Free Press など)、日米ともにチャネル研究は、実証分析技法の洗練化やデータの多様化などの研究手法の面での発展はあれど、新たな分析枠組の提唱には至らない状況にあった。そのような学界の現状にあって、結城氏の著作は久しぶりに登場した新たな成果であった。
この著作の魅力は、学習理論に基づく分析枠組が新奇かつ魅力的であるばかりではない。第1に、徹底した文献レビューによって、既存のチャネル研究が蓄積し、袋小路に陥っていた3つの問題領域(チャネル構造選択とチャネル管理の断絶、パワーと協調の断絶、チャネル行為と組織成果の断絶)の対立する主張を見いだし、解決可能な問題として定式化している。膨大な既存研究を要領よく整理し、隠れていた重大な論点を概念化する手腕は高く評価されるものである。第2に、著作が扱った3つの問題は独立に扱われておらず、結城氏が提唱する一貫したストーリーの下で説明されている。しばしば散見される単発の論文をまとめただけのまとまりのない学術書とは異なって、結城氏の高い研究構想力が伺われる。第3に、実証分析において随所に見られる工夫の数々も高い評価に値する。この著作が扱った製造業者による流通業者の管理が組織成果に与える影響という問題は、前者がダイアドのレベルとして、後者が事業部レベルとして把握される問題であり、分析単位が異なっていた。過去の研究者はこの難問を解決することができず、この重要な問題が手つかずで残されてきたのである。結城氏は様々な工夫を凝らすことによって、この問題に対処した。たとえば「分析単位を1対1の関係から製造業者を要とする1対多の扇状的関係(p.155)」に置き換えた上で、チャネルの協調度(同調水準)を「製造業者に同調を示す取引相手数の割合(pp.175-176)」として操作化するという工夫を行っている。これは一例に過ぎず随所でこうした工夫が見られており、地道な実証研究を積み重ねてきたことが伺える。ここまで結城氏の著作が高い学術的価値を持つ力作であることを述べてきた。このことは流通・マーケティング研究者が集う我が国最大規模の学術組織である日本商業学界でも認められ、本年5月に香川大学にて開催された全国大会にて学会賞(奨励賞)の栄誉に浴していることを申し添えたい。以上、推薦者は結城祥准教授を本年の中央大学学術研究奨励賞候補者として強く推薦する次第である。

西田 治文
(にしだ はるふみ)
理工学部・教授

ルグラン・ジュリアン
(ルグラン・ジュリアン)
理工学部・助教

福井県に分布する前期白亜紀手取層群の北谷層は、日本有数の恐竜化石産地として知られ、これまでに恐竜類、翼竜類を含む多くの動物化石が発見されている。一方で、当時の生態系を復元する際に最も重要な植物化石の報告は少なかった。また、前期白亜紀は世界に被子植物が拡大した時期であるが、日本における被子植物の侵入時期はほとんど明らかになっていなかった。本研究は北谷層の花粉化石相を初めて詳細に明らかにし、さらに北谷層では初めての被子植物花粉を発見し、当時の生態系と環境の変遷を明らかにした。 ○2014年度論文賞
○日本古生物学会(日本学術会議協力学術研究団体)
○2015年6月26日
本研究は、北谷層における植物相とその変遷及び被子植物の出現を明らかにし、恐竜類などの動物化石研究にも不可欠な生態系全体の復元と環境変遷の理解に大きく貢献した。また、関連新聞報道もなされ、本学においても顕彰に値する業績であると認めます。
趙 晋輝
(ちょう しんき)
理工学部・教授
色弱の客観的な補正基準に基づき、個々人の色覚特性に合わせて色弱者に一般色覚者と同様な色知覚を与える手法を提案し、色弱者による主観評価を行うことで色弱補正方式を確立した。 ○第8回日本色彩学会論文賞
○日本色彩学会(日本学術会議協力学術研究団体)
○2015年9月27日
人間の色知覚は個人毎、色毎に異なる複雑な特性を持ち、それは外から観測不可能であるため、従来、色弱補正の基準は知られておらず、個人差への対応は原理的に難しかった。
そこで候補者らは、人間の色弁別閾値に基づき、個々人の色弱者に一般色覚者同様の色知覚を提供する方式を提案し、色弱者による主観評価によってその効果を確認している。本研究の成果は高く評価され、国際学術誌Color Research and Applicationsに掲載され、日本色彩学会の論文賞を受賞している。

有光 哲彦
(ありみつ あきひこ)
理工学部・助教

戸井 武司
(とい たけし)
理工学部・教授

自動車車室内において、多数のスピーカおよびマイクロホンによる計測システムを用いて、運転者および同乗者の座席領域における個別の機能性音環境の構築手法を提案し、世界で初めて多チャンネルオーディオに適用して多領域音場制御の有効性を実証した。 ○2015年度第65回自動車技術会賞論文賞
○公益社団法人自動車技術会(日本学術会議協力学術研究団体)
○2015年5月21日
候補者は、自動車車室内の運転者および同乗者の座席領域において、個別に機能性と快適性を著しく向上する機能性音環境の構築に関する研究を推進し、先駆的な研究論文「自動車車室内における逆問題的接近法に基づく多領域音場制御」を2014年9月自動車技術会論文集に発表した。本論文は、中央大学と自動車会社との複数年に亘る産学共同研究の成果であり、実用化を目指した2件の特許出願など、将来の産業応用が大いに期待される。この研究業績に対し、過去3年間に自動車工学又は自動車技術の発展に寄与する優れた論文を発表した個人および共著者に贈られる『2015年度第65回自動車技術会賞 論文賞』を受賞した。世界的な自動車会社が受賞する中、大学筆頭は候補者のみであり、中央大学の名声向上にも極めて貢献しており、学術研究奨励賞に強く推薦する。
鳥海 重喜
(とりうみ しげき)
理工学部・准教授
本論文は、買い物弱者の増加、生鮮食料供給体制の崩壊を研究背景に、現状の生鮮食料品と高齢者に着目した人口の分布から福岡市のフードデザート問題を分析したものである。フードデザート問題をこれ以上悪化させないようにするために必要となる生鮮食料品店の最小店舗数ならびにその立地を、集合被覆問題に帰着させることで求めている。先行研究では、フードデザート問題の解決策を提案しているものが多いのに対し、本研究では現状よりも悪化させないことを念頭に置いていることが特徴である。 ○2014年年間優秀論文賞
○日本都市計画学会(日本学術会議協力学術研究団体)
○2015年5月22日
評価できる点としては、第一に、最寄りの店舗が撤退した場合、フードデザート地域の予備群としての準フードデザート地域を定義して、これをフードデザート地域とともに抽出する手順を提案した点があげられる。第二に、フードデザート問題に対して、必要な施設数や施設の重要度を数理計画問題として評価する方法を提示しており、実用上の有効性を期待できる点があげられる。
青木 英孝
(あおき ひでたか)
総合政策学部・准教授
論文「企業のガバナンス構造が経営戦略の変更に与える影響」は、1990年代以降の日本企業におけるガバナンス構造の変容(株式の相互持ち合いの減少と外国人株主・機関投資家の増加、執行役員制度や社外取締役の導入といったトップ・マネジメント改革)が、経営者の意思決定(多角化戦略の変更)に与える影響を分析したものである。東証一部上場企業の16年分のパネル・データを用いて推計した結果、伝統的なガバナンス構造の逆機能および、市場の規律や取締役会改革が適切な戦略変更に寄与していることなどを発見した。 ○日本経営学会賞(論文賞)
○日本経営学会(日本学術会議協力学術研究団体)
○2015年9月3日
日本経営学会誌・第34号に掲載された青木英孝准教授の論文「企業のガバナンス構造が経営戦略の変更に与える影響」が、平成26年度日本経営学会賞(論文部門)を受賞したため。なお、同論文は、日本経営学会の学会ニュース(No.48/2015.9)において、「従来結びつけて議論されることが少なかったガバナンス論と戦略論の接点を実証的に検証している独創性と、今後の新たな研究領域を開拓しえていることが高く評価されての受賞となりました」と評価されている。
久保田 敬一
(くぼた けいいち)
戦略経営研究科・教授
本論文は、研究グループが独自に構築した上場同族企業全データベースを用い、ファイナンス論の基本変数およびマーケットマイクロストラクチャー分野の情報非対称性を測る変数により、同族企業とそうでない上場企業群の財務比較を行った。ここで、同族企業の定義は、創業者家族が10%以上の株価を保有しているか、家族から代表権を持つ取締役が出ているかである。実証分析から、ファミリービジネスは負債のコストは低く、自己資本コストは高く、また負債の利用が少ないことから利子支払節税枠が少なく、投資のハードルレートとなる加重平均資本コストがより高いことが発見された。さらに、同族企業の上場株式の情報の非対称性は、私的情報の到着がポワソン過程で到着するモデルから導出されるAdjusted PINという測度で測ったところ、より高かった。 これらの発見からの政策的提言は、同族企業はリーズナブルな範囲で負債を増加させて加重平均資本コストを下げるべきであるという点と、自発的かつタイムリーな開示を目指して創業者家族以外の一般株主のための利益を図るべきであるという2点である。 ○起業家研究フォーラム賞
○起業家研究フォーラム
○2015年7月18日
爾来の経営学のファミリービジネス研究分野に初めて、ティックデータを用いたファイナンスマーケットマイクロストラクチャー研究の方法論を用い、上場ファミリービジネスの株式の情報の非対称性の相対確率を計算し、これら企業群の自己資本コストが高くなってしまっている要因の一つを発見した業績が高く評価された。本雑誌は、経済学国際分野で高いランキングを持つ査読付雑誌である。