ELSIセンター

第4回ELSIコミュニティアクティビティ報告

2023年06月20日

第4回コミュニティアクティビティを2023年5月31日(水)に開催しました。今回は、デジタル庁・Web3.0研究会が2022年12月に「Web3.0研究会報告書」を発表されたことを受け、Web3.0の現状と展望から、今後、学術界や産業界がどのように取り組んでいくべきかを、コミュニティ内で検討することを目的としました。


【日時】2023年5月31日(水) 15:50~17:20
【場所】オンライン
【プログラム】
  1. 「Web3.0に関する政府検討状況の中間報告−概要」
    :中央大学ELSIセンター副所長・石井夏生利教授
  2.「メタバースとブロックチェーン〜Web2.0の世界とWeb3.0の世界」
    :中央大学ELSIセンター所長・須藤修教授 
  3.フリーディスカッション 


Web3.0研究会は、「デジタル社会の実現に向けた重点計画」(令和4年6月7日閣議決定)等において「ブロックチェーン技術を基盤とするNFT(Non-Fungible Token、非代替性トークン)の利用等のWeb3.0の推進に向けた環境整備」が盛り込まれたことを踏まえ、所要の検討を行うべく開催されてきました。
この構成員の一人として参画した石井教授より、「Web3.0研究会報告書」で示されたWeb3.0の推進のためのコア要素であるデジタル資産、分散型自律組織(DAD)、分散型アイデンティティ(DID)、メタバースとの接合、利用者保護と法執行等についての議論の概要やただちに着手すべきイノベーション促進法等が説明されました。
次に、須藤教授より、メタバースとブロックチェーンに焦点をあて、ここ数年の社会の変化に伴うWeb3.0への産学金それぞれの立場からの期待の変遷が説明されました。

これらの説明により、生成系AIが2022年に大きく注目を浴びた結果、Web3.0は以前ほどの期待感を持たれていない現状であるけれど、Web3.0の推進のためのコア要素は個々に重要であり、議論を継続していくことが共通認識として共有されました。
これを踏まえたディスカッションでは、以下のような意見が積極的に提示されました。

 


■Web3.0への不信

Web3.0の技術を用いた取引では国境を越えるものも多くあり、詐欺の懸念があるNFT売買の打診があるという話は身近に存在する。国際的な枠組みで対処していく必要がある。

NFTが登場した当初は投資的な期待が大きく、投資家の買い占めにより本来のターゲットとなる消費者が購入できないような問題が生じた。購入したい人が購入できる体制を整えるべきだ。

メタバースは当初は物珍しく感じるが、それ単体ではすぐに飽きてしまうように思える。飽きさせないためのサービス提供のような、経済的な取引が可能となることでそれを防げるのではないか。

一部の若者には、スタートアップのためにWeb3.0が大きく期待されているようだが、Web3.0の思想ではイノベーションに繋がらないのではないか。

Web3.0の技術を安心して使えるような、ソフトローとハードローを組み合わせた規制が必要である。

 

■アバター利用の有効性

メタバースに関連しては、身体的に不自由な方の社会参画の観点で、アバターの利用が期待できるのではないか。このため、福祉行政の働きが必要である。

個人で複数のアバターを使い分けるが可能なメタバースの世界では、複数アバターをコントロールするため、自律的に動くアバターが必要になると想定される。

このため、現在の外形のみを再現したアバターから、知能を付加したアバターへの発展が期待される。

例えば、生成系AIを付加することで、本人の発言内容や話し方を再現したリアリティがあり、自律的に活動するアバターが形成できるのではないか。

自律的に活動するアバター同士が交流することで、世界が変わっていくだろう。

自律的に活動するアバターが実現すると、そこから個人情報等を引き出すソーシャルハッキングへの対処が重要になる。

このような発展の可能性を見越して、アバターの著作権、肖像権等の権利の位置付けを早期に検討する必要がある。

AI先進国に追いつくためには、このような議論や対策を日本においていち早く行うべきである。

 

■Web3.0への見通し

Web2.0との比較で、人間が相対的により幸せになるためにWeb3.0の技術を適宜使っていくことが重要である。

このため、個別の技術等について、活用方法をより深掘りしていく必要があるのではないか。

海外からの受注やNFTでの決済も実現している地方自治体での先行事例もあり、リアルな転入の前段階として現地を知ってもらい、交流するツールとして活路がある。

メタバースの事業化の多くが失敗しているとはいえ、決して少なくない事業化が達成されていることも重要である。

ブロックチェーン等の新技術の犯罪まがいの利用が前面に出ている現状は問題であり、このような利用を排除する枠組みを構築しておくということは必須な取り組みである。

 


 

今回も貴重な議論となりましたが、今後も、ELSIセンターとELSIコミュニティは、最新の技術動向やサービス動向とELSIとの関係について、様々な観点での検討に取り組んでいきます。


 参考リンク : デジタル庁・Web3.0研究会 https://www.digital.go.jp/councils/web3/