ELSIセンター

第1回ELSIコミュニティアクティビティ報告

2022年08月26日

 AIを実際に使用する中でELSI(倫理的、法的、社会的)課題に直面している様々な企業・組織が参加する「ELSIコミュニティ」が、各企業・組織内での課題を共有し、その解決を目指して開催するのが、「コミュニティアクティビティ」です。その第1回の開催内容について報告します。

【日時】2022年3月2日(水)
     オンライン開催
【テーマ】各組織でのAI活用に対する動きと課題
【プログラム】
 趣旨説明:中央大学ELSIセンター所長(国際情報学部教授) 須藤 修
 企業からの話題提供 2件
 中央大学からの話題提供:中央大学ELSIセンター副所長(国際情報学部教授) 石井 夏生利
 フリーディスカッション

 ELSIセンター所長の須藤の趣旨説明の後、まず、企業の方から、
●AIガバナンス(AIを有効かつ安全に提供/運用するための環境を整備)
●リスク管理/品質マネジメント/教育
についての事例紹介や、AIを使用して事業を進めるに当たって感じている課題として、
・現場の「やりたいこと」とエンジニアの「できること」の調整に多大な労力がかかる
・大学と企業の取り組みのタイムスケールの違い
などの話題提供がありました。
 続いて、中央大学の石井夏生利は、
「サイバー空間でアバターが活動するようになる社会でのプライバシー等の問題」
というテーマで話題提供を行いました。

 その後のディスカッションでは、特に次の3点に参加者の関心が集まり、熱心に議論が行われました。

■プライバシーの問題について
 企業からの話題提供の中で、プライバシーとデータ活用について、「可能だが倫理的に問題のあること」「法律的に不可能なこと」「問題ないこと」などが猛烈な速さで変化している状況において、
・環境変化に関心があり素早く対応できるデータサイエンティスト
・環境変化を適切に理解・解釈するプライバシーの専門家
の二種類の人間による対応が必要とされている、との指摘があったのをきっかけに、議論がなされた。
 企業の現場において、プライバシーの専門家人材は限られており、ELSIセンターへの期待が大きいとの発言に対し、中央大学の個々の研究者の研究や知見を集約したり、ELSIセンターに新たな「学術構想グループ」をつくって研究したりしていくとともに、現場で生じるプライバシーの問題に対応できる人材の育成や体制整備の検討も進めていきたいとのコメントがあった。

■社会的受容性について
 企業からの話題提供の中で、法的に問題がない使い方をしていても批判されるといった「社会的受容性」の問題について、
・基本的につかみどころがない? 移ろうもの? 国・文化・年代・リテラシーなどに依存する?
・法律・ルールに従っていても社会受容性の問題で批判されるのは民間企業としてはつらいところだが、避けようがあるものか? 炎上リスクは本質的に避けがたいものなのか?
といった疑問が提起されたのを入り口に、議論が展開された。
 社会的受容性は法的問題でなく、倫理や人々の感覚、社会通念に起因する問題という側面がある一方で、個人情報保護法や契約民法などの細かく決められている法律よりも大きな規模の、人権問題や憲法のようなレイヤーの法とかかわる問題になりそうなものも含まれている、とのコメントが出された。

■規制のありかた
 EUはAIに対し、「ハードロー」と呼ばれるような厳しい規制を設ける考え方である。日本もそれにならうのか、あるいは「ソフトロー」の考え方に立ち、そうした他国の法律とその根本的な考え方を知ったうえで、法律でぎちぎちに縛らずとも社会に受け入れられるようなシステムを探っていくのかどうか? 今後、検討していくべき大きな課題が提起された。

 上記3つの論点のいずれについても、今後、「ELSIコミュニティ」と、ELSIセンターの中で学術研究を担う「学術構想グループ」の間で、企業での現場の声を聞きながら研究成果をフィードバックしていければ、という方向性を確認し、閉会しました。