ELSIセンター
所長からのメッセージ
中央大学ELSIセンター所長
松崎 和賢
(国際情報学部 教授)
情報化とグローバル化の進展により、私たちの社会はかつてない速度で変化しています。とりわけ、人工知能(AI)をはじめとする先端技術は、暮らしや働き方、さらには意思決定のあり方まで、大きな変革をもたらしつつあります。たとえば、医療診断の支援、交通分野の自動運転、教育における個別最適化学習など、AIの活用によって私たちの生活はより便利で効率的になっています。一方で、AIの判断に潜む偏見や差別、過剰な個人情報の収集・利用、誤情報の拡散、ブラックボックス化された意思決定など、技術の進歩とともに深刻な倫理的・社会的課題も表面化しています。
こうした新たな課題に対して、既存の社会規範――宗教的・倫理的価値観や法制度――が必ずしも十分に対応できているとは言えません。たとえば、AIによる判断の責任の所在や、感情をもたないAIが福祉や教育の現場で意思決定を行うことの妥当性など、これまでの枠組みでは解決が困難なテーマが次々に浮かび上がっています。欧州連合(EU)をはじめ、日本を含む各国でAI関連の法制度整備が進みつつありますが、いずれもまだ緒についた段階に過ぎません。AIや先端技術が社会に本格的に実装されていくこれからの時代においては、新たな規範のあり方を構想し、社会にふさわしいルールを提案していくことが、極めて喫緊かつ重要な課題です。
中央大学ELSIセンターでは、国内の研究者や実務家との連携を通じて、「ELSI大学サミット」などの機会を重ねながら、対話と共創の場を築いてきました。当センター設立時に掲げた理念には、「科学技術イノベーションと共進化する、すべての人々がインクルーシブな社会発展を創造するために、新たな倫理や規範、来るべき社会の在り様について追求すること」、そして「産官学連携の研究基盤により、社会の様々な課題群を解決することへの貢献」が含まれています。今後もこの理念を継承し、急速に変化する技術と社会の接点で生じる課題に取り組んで参ります。