社会科学研究所

公開研究会「地域社会の変動と国際変動」開催報告(社会科学研究所)

2019年02月27日

 2019年2月17日(日)、中央大学多摩キャンパスにて下記の公開研究会を開催しました。

 

【日     時】 2019年2月17日(日) 13:00~17:00

【場     所】 中央大学多摩キャンパス2号館4階 研究所会議室2

【主     催】 中央大学社会科学研究所 研究チーム「社会変動」(幹事:野宮 大志郎)

【開催テーマ】 地域社会の変動と国際変動

 

【報 告 要 旨】 

 今回の研究会では、社会変動への接近の仕方について議論を深めた。具体的には、領域やアプローチの異なる5本の研究を集め、社会変動に接近するにはどのようなアプローチが良いのか、またどのレベルの社会変動に関する議論がより適切かなどについて議論した。

 

1.近藤 和美 氏 (中央大学商学部兼任講師)

 「アグリフードシステムのオルタナティブとしての産消提携運動」

 本報告では、産消提携運動が取り上げられた。消費者と生産者の新しい関係の登場が、参加者個人に対してどのような影響を与えるのか、また運動のオルタナティブ性がどのようにして徐々に積み上げられてきたかなどについて、議論が展開された。近藤によれば、参加者個人には新しいアイデンティティが登場し、

 また組織には、生産者と消費者との間の関係のあり方の変化、また農に対する新しい考え方が登場した。

 

2.安野 智子 研究員(中央大学文学部教授)

 「世論調査と民主主義への信頼」

 本報告では、インターネット需要の増加という近年の変動が、大きく民主主義のあり方に与える影響を探る努力がなされる。安野によれば、近年の情報環境の変化は、マスメディアと世論調査への信頼を揺るがすという変動をもたらし、その結果、社会全体の世論そのものが見えにくくなっている。この変化が、今後、民主主義にどのような変化をもたらすか、これを読み解くことが今後の課題として議論が閉じられた。

 

3.北 蕾 客員研究員

 「中国中小企業の世代交代についての考察」

 本報告では、今日の中国における中小企業の事業継続がますます困難となる現状について、この現状は何によってもたらされたのか、また、この変化は、次に何を生み出すかについて、議論が提示された。ここで指摘された要因は、一人っ子政策の帰結、グローバル化の進展など、やはり従来の研究で登場してきたものであった。

 

4.曺 三相 客員研究員(中央大学文学部兼任講師)

 「ドイツと日本は「普通の国」であるのか:国際政治学における普通化の議論に関する一考察」

 本報告では、日独比較を用いて、国家が「普通の国」になる過程を理解する方法とアプローチについて議論が展開される。様々な観点から諸議論が検討された結果、現実主義的アプローチと構築主義的アプローチを基軸としつつも、国家の「普通化」の過程であらわれる諸要因の相互作用に焦点を当てたアプローチがより適切であろうという結論に至っている。

 

5.林 文 客員研究員(東洋英和女学院大学名誉教授)

 「社会調査にみる信仰と素朴な宗教的感情をめぐって-日本における変・不変と国際比較-」

 本報告では、日本人の宗教意識とその変遷の仕方について、国民性調査から得られるデータを分析した上での洞察が描かれる。国家間比較では、やはり日本人の宗教意識は他国のそれとは幾つかの点で異なること、また、変化という観点からは、宗教意識も「3.11」などの大きな社会現象が起こる前と後では、異なることなどが指摘されている。 

 

 今日我々が経験する社会変動を、五つの研究を通して観察した結果、幾つかの理解が得られる。まず社会変動へのアプローチには、やはり現実主義的なアプローチから文化的なアプローチまでがある。近藤報告と林報告は文化的アプローチに傾き、北報告と安野報告は現実主義的アプローチに傾く。次に社会変動のレベルも多様である。安野報告と林報告は社会全般、北報告と近藤報告は社会内の組織、曺報告は国家レベルでの社会変動を取り扱っている。

 今後の社会変動研究では、研究対象のレベルによってより適切なアプローチを考慮しながら、研究戦略を練る必要があるとの思いを新たに研究会であった。