社会科学研究所

公開研究会「フランスの家族政策の歴史ー1930年代から第二次大戦後までー」開催報告(社会科学研究所・経済研究所)

2018年08月03日

2018年7月7日(土)、中央大学駿河台記念館にて、下記の公開研究会を開催しました。

【テーマ】 フランスの家族政策の歴史ー1930年代から第二次大戦後までー

【報告者】 福島 都茂子 氏(宮崎産業経営大学法学部教授) 

【日 時】 2018年7月7日(土)13:00~16:00

【会 場】 中央大学駿河台記念館320号室

【共 催】 社会科学研究所 研究チーム「暴力・国家・ジェンダー」(幹事:中島 康予)/ 経済研究所「思想史研究会」(幹事:鳴子 博子)

【要 旨】

 少子化対策の充実が喫緊の課題とされる日本で、少子化対策に成功したと言われるフランスの家族政策への関心は高くなってきている。100年以上にわたるフランスの家族政策の歴史を研究されてきた報告者(福島都茂子(2015)『フランスにおける家族政策の起源と発展』法律文化社 )は本報告で、家族手当を中心に1930年代から第二次大戦後までのフランスの家族政策を検証された。まず、ヴィシー時代の忌避、人口政策研究の忌避という仏日それぞれの事情から該当時期の先行研究が少ないこと、そうした中で宮本悟(2017)『フランス家族手当の史的研究』(御茶の水書房)の稀少性が指摘された。現在のフランスの家族手当の特徴を、報告者は第2子以降に20歳まで支給、子供数に応じた累進的増額、所得制限なしのユニバーサル型支給(2015.7より一部変更有)と要約された。

 次に、18世紀後半からのフランスの人口動態とその認識について、人口増加率が独英伊と比べ緩慢であったこと、フランスにおいて人口減少問題は「国家的危機」、特に1930年代には国の「死に至る病」と認識されるまでになった点が強調された。

 第三に、19世紀後半以降の家族手当前史が紹介され、民間企業の家父長主義的な家族手当から出発して、労働者数に応じた拠出金を雇用主が金庫に支払い、金庫から労働者に手当を支給する「家族手当補償金庫」の設立や1913年の多子家族扶助法へと徐々に公的な関与が増していったこと、さらに民間団体「フランス人口増加国民連盟」(1896)の影響が語られた。

 第四に、1930年代の家族政策について①1932年法(ランドリ法)②1938年デクレ③家族法典に分けて分析された。そのうち、出生率低下への危機感の深まりの中で出された②の1938年デクレは、家族手当制度を整備したもの、統一した明確な人口増加政策と見なされること、③の全167条の家族法典は、「家族の権利の保護」、「出生率上昇・人口増加の政府の本格的取り組み」として現在の仏家族政策研究者から高い評価を受ける一方、いわゆる「子なし税」、堕胎の取り締まり強化といった抑圧的な施策も含まれていたことが指摘された。

 第五に、ナチス占領下のヴィシー政府の家族政策(単一賃金手当の創設、母性賞賛プロパガンダ、死刑を含む堕胎の厳罰化、既婚女性の労働制限等)と体制転換後の臨時政府の家族政策との間には大きな変化のなかったことが示された。

 最後に、現在のフランスの高出生率は仕事と育児の両立支援策によると評価されているが、報告者は現金給付等の充実した経済支援策の存在が前提となっている点を示され、本報告全体を通じて、近年のフランスの高出生率はヴィシー期を含み、長期にわたる家族政策の継続性があって実現できたものであり、フランスの家族政策には連続性があるとの認識を強調された。

 以上のように、本報告は1930年代を中心に仏家族政策の歴史を検証する内容豊富な報告であった。当日は西日本豪雨の影響で、第二報告(太田仁樹氏)が延期され 、本報告のみの開催となった。そうした事情もあって、当方からの急なお願い(報告時間の延長)に快く応じてくださり、当初の予定である60分を超えて90分にわたってご報告くださった。

 報告後の質疑応答では、まず、社会保障政策研究の観点から政策の不連続性を見る宮本悟研究員が観点の違いについてコメントされ、人口学研究の佐藤龍三郎客員研究員や京都から参加されたフランス社会政策研究の深澤敦氏から、それぞれ専門性の高い質問、指摘が出された。他にも多くの参加者から質問があり、活発な質疑応答が続き盛会であった。(主催チーム記)