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2017年11月08日

社会科学研究所研究叢書30『民意と社会』が日本世論調査協会報『よろん』に紹介されました

【公益財団法人 日本世論調査協会について】

 当協会は世論調査を実施している企業・団体・マスコミ機関とこれらについて関心を持っている個人を会員とし、世論調査・社会調査の普及・発展を推進することを目的とする公益財団法人です。

 (日本世論調査協会サイトより 2017.11.8参照 <http://www.japor.or.jp/>)

 

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(日本世論調査協会報『よろん』vol.120, p.52-55, 2017.10.31)

 

-------- 図 書 紹 介 -------

安野智子 編著

『民意と社会』

(中央大学出版部 2016年)

横山 智哉(立教大学)

 本書は「民意」に焦点を当てた4人の著者による論文集である。最近、様々なメディアを通じて「民意を問う」という言葉に触れる機会が増えている。もちろん、「民意」をどのように測定するのかという問題はあるが、現状では「民意」を測定する上で、選挙や世論調査は重要な手段となりうる(p.ⅰ)。だたし、本書はそのような手段を通じてマクロレベルでの「民意」を単純に示すだけでは不十分であり、マクロレベルで「どのような人が、どのような意見を持っているのか、それはなぜか」(p.ⅰ)というリサーチクエスチョン(以下、RQ)を解明することが重要であると主張している。

 第1章「「相対」政党支持率と「相対」内閣支持率の安定性について」(宮野勝)では、各報道機関が実施する世論調査において、内閣支持率や政党支持率の数値が異なる理由を分析している。たとえば、新聞5社が麻生内閣誕生時に実施した世論調査では、内閣支持率の数字に最大で8%の差が生じていた(p.2 表1-1)。このように、報道各社の世論調査結果が一致していないという点は、世論調査の信頼性に疑問を抱かせる可能性がある。

 そこで、本章は「政党もしくは内閣支持率が報道各社で大きくばらつく問題をどのように捉えるべきか」(p.2)という問いに答えるために、「相対」支持率という指標の導入を提案している。通常の世論調査では、調査全体の有効回答者数を母数とした上で、政党支持率や内閣支持率を算出する(「絶対」支持率)。一方で、「相対」支持率とは何らかの意見表明をした人を母数として上で、各支持率を算出するものである。たとえば「相対」自民党支持率は、いずれかの政党を支持する人全体の中で占める自民党支持者の割合を意味する。

 そして、読売新聞、朝日新聞、毎日新聞、日経新聞、共同通信社の5社が実施した世論調査における政党支持率もしくは内閣支持率に基づき、2種類の支持率(「絶対」・「相対」支持率)を算出した。その結果、「絶対」支持率よりも「相対」支持率の方が、報道社間における数値のばらつきが小さくなることが明らかとなった。つまり「相対」支持率という新しい指標を導入することで、各報道機関が実施した世論調査の結果が、実はある程度一致していることが示された。この点に基づき、「報道機関による世論調査は、測定の安定性という意味で、見かけの結果のばらつき以上に信頼性がある」(p.22)と結論づけている。

 第2章「内閣支持率の測定と内閣交替希望時期」(宮野勝)では、現行の世論調査が「内閣支持」に関する民意をどのくらい正確に測定できているのかという問題意識に基づき、内閣支持を尋ねる選択肢数が回答に及ぼす影響を分析している。通常、内閣支持は「支持している」「支持していない」という2値の選択肢で測定されてきた。ただし、従来の指標では「支持・不支持」の強度を測定できておらず、「有権者の支持・不支持のニュアンスを詳しく理解することができない」(p.26)。そのため、たとえば積極的な支持から消極的な支持へと変化する民意の動向を見誤る可能性がある。また、内閣を支持する人は内閣の長期存続を望み、内閣を支持しない人は内閣の即時交替を望むというように、「内閣支持」に関する民意から「内閣交替希望期間」を読み取ることの妥当性も検討する必要があると指摘する。

 そのような問題関心に基づき、2013年から2015年にかけて実施した3つのオンライン調査が実施された。具体的には、内閣支持に関して2件法の選択肢(「支持する」「支持しない」・「わからない」)で尋ねた後に、5件あるいは7件法(「強く支持する」~「まったく支持しない」・「わからない」)で再び尋ねた。その結果、2件法で測定した「支持する」あるいは「支持しない」という回答の中には「強い支持」から「強い不支持」までの「支持の強弱のニュアンス」(p.55)が含まれていることが明らかとなった。また、「内閣の支持」する回答者は内閣の早期交替を望んではいないが、一方で「支持しない」回答者でも、必ずしも内閣の早期交替を望んでいるわけではないことが示された。

 以上の議論に基づき、世論調査を通じて「内閣支持」を尋ねる際には、過去の調査との継続性を確保するために2件法の選択肢を用いる必要はあるが、同時に5件あるいは7件法で内閣支持をより正確に測定することを提案している。また、内閣支持と内閣の早期交替希望が必ずしも一致しないことから、内閣支持率と内閣の交替希望を対応させることには慎重になるべきであると結論づけている。

 第3章「2010年名護市長選挙における「民意」の動態」(塩沢健一)では、2010年名護市長選挙に関する郵送調査を実施し、前回行われた2006年の同市長選挙時における投票行動との変化、および調査時点と1年前の時点における普天間移設問題に関する態度変化を分析している。なお、2010年の名護市長選挙で初めて移設反対派の候補が勝利したという点を踏まえれば、前回の選挙(2006年)では容認派候補に投票したが、今回の選挙(2010年)では反対派候補に投票した人の行動が特に重要となる。

 分析の結果、2010年の名護市長選挙において、移設反対派の候補者に投票した人の行動は一様でないことが明らかとなった。具体的には、一貫して移設反対派の候補者に投票した有権者と、前回の選挙で容認派に投票したが今回は反対派に投票した有権者に着目した場合に、後者の人々の投票行動に対して鳩山内閣支持は影響を及ぼしていなかった。一方で、両者の投票行動には容認派の前市長の業績に対する否定的な評価が強く影響していることが明らかとなった。また「1年前の時点」と「現在」における普天間移設問題に対する態度変化を検討した結果、移設先について「県内移設」から「県外・国外移設」へと態度を変化させた人々に関して、その態度変化に鳩山内閣支持の影響は認められず、同じく前市長の業績に対する否定的な評価が大きく影響していることが明らかとなった。

 以上の結果から、名護市民の投票行動や普天間基地に関する態度変化に対して、民主党への政権交代そのものが与えた直接の影響が限定的である(p.81)ことが明らかとなった。遡れば、2009年に実施された総選挙において、当時の民主党代表であった鳩山由紀夫が「最低でも県外、できれば国外へ移設」と演説し、沖縄県内のすべての小選挙区で民主党が公認あるいは支援する候補者が当選している。そのような政治的文脈が存在していたため、2010年名護市長選挙は、民主党政権誕生の影響を大きく受けた選挙として全国的に大きな注目を集めた(p.63)。しかし、従来の先行研究が扱ってきた都道府県や政令市レベルのケースとは異なり、名護市のような更にミクロレベルの地域では、国政レベルの選挙情勢や政治状況が地方選挙に与える影響が弱くなることが示唆された。むしろ、本研究の結果が示すように、名護市の人々の投票行動や政策態度に対しては前市長への業績評価が強い影響を及ぼしている。したがって、たとえ国政の政策課題とリンクした争点であったとしても、その地域における独特な文脈を反映した「民意」があり、国政の文脈からのみで地方選挙の帰結を解釈することの危険性を示唆している。

 第4章「小選挙区比例代表並立制における比例公認」(スティーブン R.リード)では、日本の小選挙区比例代表並立制における政党の比例公認行動に着目することで、並立制における比例区の特徴を明らかにしている。具体的には、政党の比例区の公認にはどのような種類があるのか、そしてどのような原則に沿って比例公認が決定されるのかという点について論じている。

 日本の政治制度では、小選挙区と比例区との重複立候補が可能であるため、小選挙区で落選した候補者が比例で復活当選する場合がある。そのため、小選挙区で否定された候補者が復活当選していることに対する有権者からの批判が存在する(p.93)。一方で、政党側からすれば、同一順位の重複立候補者を増やすことが望ましい戦略となる。なぜならば、そのような候補者は、小選挙区の候補者と同じく努力しなければ当選できないため、得票を最大化する努力が喚起される。その帰結として、政党の比例票が多く集まることで、復活当選をするための議席数が増えるだけでなく、候補者の当選確率も高まることに繋がるためである。

 すなわち、当選確実と思われる「楽勝公認」を減らし、同一順位の重複立候補である「同順位公認」を増やすことが、政党の公認戦略にとって最適となる。このような戦略の特徴を踏まえれば、二大政党は比例区における「公認」を利用することで、勝利する見込みが少ない選挙区でも候補者を擁立できるため、単純小選挙区制の問題点である無風区を最終的には減らすことが可能となる。同時に、第三党にとっては小選挙区で勝利する見込みが少ないため、比例区からより多くの議席を獲得する選挙戦略が重要になることが明らかとなった。

 第5章「原子力発電をめぐる態度変化とその規定要因」(安野智子)では、2011年3月に起きた東日本大震災および福島第一原発事故の1年後、2012年3月および2013年2月に実施したオンライン上のパネル調査を分析している。なお調査では、回答者にとって争点の顕現性が高く熟慮した争点として「原子力発電」、他方で熟慮していない争点として「外国人参政権」という2つの争点に関する態度をそれぞれ測定している。

 分析の結果、2時点における「原子力発電」に対する態度に関しては、政治知識量が多い群と少ない群とで相関係数の値に大きな差は見られない。その一方で、「外国人参政権」に対する態度は、政治知識量が少ない群の方が2時点における相関係数の値が低いことが明らかとなった。また、第2波時点での争点態度を従属変数とした分析の結果、「原子力発電」に対する態度は、政治知識の保有量に関わらずイデオロギーの自己定位に規定されており、自信を革新的であると答えるほど、「原発全廃」を支持するようになることが明らかとなった。その一方で、「外国人参政権」に対する態度は、政治知識量が多い群においてのみイデオロギーの自己定位が影響を及ぼしており、政治知識量が少ない群では保革イデオロギーが政策態度を規定する効果は認められなかった。

 既存のパネル調査を用いた研究では、調査時点間の回答者の意見の相関は低く、かつ同じ調査内でも様々な争点態度の間にイデオロギー的一貫性がみられないことが指摘されている。このような結果を踏まえて、回答者の意見や態度の安定性は低く、様々な政治争点を自身の保革イデオロギーと関連づけて考えることが困難であるため、世論調査で測定した回答の信頼性は低いと論じられてきた。しかし、本章の結果に基づけば、日常的に熟慮された政治争点に限れば、政治知識が低い人でも調査時点間の態度の安定性は高く、かつ自身の保革イデオロギーと結びつけて政策態度を形成することが可能であることが明らかとなった。すなわち、態度の安定性やイデオロギー的思考は争点について熟慮した経験があるかどうかに依拠すると考えられるため、自分自身にとって重要な争点であれば、政治的エリートと同様の判断を下す可能性が高いことを示唆している(p.124)。

 以上のとおり、本書に収められた論文は、それぞれ独立したアプローチから冒頭に示したRQを解明しようと試みることで、書籍として1つのまとまりを持つことに成功しているといえるだろう。

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