社会科学研究所活動報告(2018年度研究チーム)

活動報告(2018年度研究チーム)

「暴力・国家・ジェンダー」

研究活動最終年度に当たる本年度は、外部の研究者の研究成果を共有することを継続するとともに、本研究チームの3年間にわたる研究成果を研究叢書という形で公刊すべく、研究成果の集約を行った。
本年度に3回開催した公開研究会のうち、多摩キャンパスでの1報告がチームメンバーの報告であり、中央大学駿河台記念館での2報告(「フランスの家族政策の歴史」、「カール・レンナーの属人的(非領域的)民族自治論と二元的国家構想」)が外部の研究者の報告であった。外部の研究者による報告やその後の質疑応答は、研究チームメンバーの研究の進展にとって示唆と刺激に富むものであった。
加えて、第27回中央大学学術シンポジウム「地球社会の複合的諸問題への応答」が開催された本年度、同シンポジウムメンバーで「理論研究」チームを代表して報告を行った鳴子博子研究員が、中央大学学術シンポジウム研究叢書に寄稿する。このことを通して、研究所全体の活動と本研究チームの研究活動とが架橋されたことを付記しておきたい。
本研究チームの研究活動は当初の予定通り、本年度末に終了した。2019年秋には研究叢書として刊行する予定である。

【研究活動】

第1回公開研究会 2018年7月7日(土)13:00~16:00
(中央大学駿河台記念館320号室)(共催:中央大学経済研究所「思想史研究会」)
報告者:福島都茂子(宮崎産業経営大学法学部教授)
テーマ:フランスの家族政策の歴史―1930年代から第二次大戦後まで―
要旨 :少子化対策の充実が喫緊の課題とされる日本で、少子化対策に成功したと言われるフランスの家族政策への関心は高くなってきている。『フランスにおける家族政策の起源と発展』(法律文化社)の著者である報告者は、家族手当を中心に1930年代から第二次大戦後までのフランスの家族政策を検証された。ヴィシー時代の忌避、18世紀後半からのフランスの人口動態とこれについての認識、19世紀後半以降の家族手当前史、①1932年法(ランドリ法)②1938年デクレ③家族法典に分けた1930年代の家族政策についての分析、ナチス占領下のヴィシー政府の家族政策と、体制転換後の臨時政府の家族政策との間の連続性などを丁寧に考察された上で、現在のフランスの高出生率は仕事と育児の両立支援策によると評価されているが、報告者は現金給付等の充実した経済支援策の存在が前提となっている点を強調された。報告後の質疑応答では、それぞれ専門性の高い質問、指摘が出され、今後の研究課題が示唆されるなど有意義な研究会であった。

第2回公開研究会 2018年10月20日(土)14:00~17:00
(中央大学駿河台記念館570号室)(共催:中央大学経済研究所「思想史研究会」)
報告者:太田仁樹(岡山大学名誉教授)
テーマ:カール・レンナーの属人的(非領域的)民族自治論と二元的国家構想
要旨 :帝国からヒトラーによる併合を経て第二次世界大戦後の第二共和国に至るオーストリア史の中で政治家・理論家として生きたレンナーの民族理論の背景について、ハプスブルク君主国以降の歴史から説き起こされ、カウツキーを理論的支柱とするブリュン綱領(属地原理による「諸民族の連邦制」)が採択される中、属地主義に反対し、独自の民族理論、民族政策を模索する社会民主党右派に位置するレンナーの活動と構想について報告された。レンナーは、民族性原理を否定して脱民族化した一般行政を担う領域的構成国家と、属人原理(非領域的原理)に基づき組織され文化行政を担う民族的構成国家(民族帰属は個人の自己申告)とからなる連邦国家、二元的国家構想を主張する。レンナー案の民族国家は文化的民族自治組織ではなく、領域国家とともにそれぞれが立法機関・行政機関を持つ国家機構である。レンナーの言う「自決権」は自治権を意味し、レンナー構想の狙いは民族性原理(領域国家=民族国家)の克服にあった。報告後の質疑応答では、とくに、S.ナスコ『カール・レンナー:1870-1950』の訳者である青山孝徳氏が研究会の議論をより活性化したことを付記する。

第3回公開研究会 2019年1月12日(土)15:00~17:30
(中央大学多摩キャンパス2号館4階研究所会議室2)
報告者:沖川伸夫(中央大学法学部兼任講師)
テーマ:相模原市県立高校設置促進運動にみる一断面―婦人学習グループと河津市政の連携―
要旨 :1954年11月に市制施行がなった神奈川県相模原市は、工業化・都市化の進展によって人口が急増し、都市の基盤整備などの諸問題に直面することになった。1975年にまとめられた同市の財政白書のサブタイトルが「こども急増びんぼうはくしょ」であることが端的に示しているように、県立高校の増設問題も、そうした問題の一つである。報告者は、「相模原市県立高校設置促進市民のつどい」の開催(1974年)とそこに至るプロセスを、相模原市公文書・古川喜章資料・小林良司資料を丹念に読み解きながら、婦人学級・婦人学習グループの活動と、河津市政という2つの経路が合流していったという観点か解明した。公民館で学び行動する女性が地域の課題を探り、原因を解明し、解決策を提示する推進力になり、女性の活動が、市民総ぐるみの基地返還運動の経験を持つ地域リーダーたる河津市長と出会い、市民総ぐるみの抗議運動へと結実した。このような市民の自発的な声と行政の施策の「下からの結集」は、市民と行政の協働のとりくみであると言うことができる。社会教育主事が専門職から一般職採用に転換するなど、市民政治の基盤となった公民館活動をとりまく厳しい現実と照らし合わせるならば、本報告がきわめて今日的な課題にとりくんでいることが確認できた。

「惑星社会と臨場・臨床の智」

本研究チームは、「ヨーロッパ研究ネットワーク」の活動を基盤に、“惑星社会の諸問題を引き受け/応答する(responding for/to the multiple problems in the planetary society)”ことを目的として発足した。イタリアの社会学者A.メルッチの“惑星社会論(vision of planetary society)”とA.メルレルの“社会文化的な島嶼性論(visione di insularità socio-culturale)”に基づき、“惑星社会の諸問題を引き受け/応答する(responding for/to the multiple problems in the planetary society)”“臨場・臨床の智(cumscientia ex klinikós, living knowledge)”を“探究/探求”してきた。最終年度である今年度は、第27回中央大学学術シンポジウムにおける成果報告および研究叢書38(『“臨場・臨床の智”の工房――国境島嶼と都市公営団地のコミュニティ研究』)のとりまとめを行った。

【研究活動】

現地調査 2018年10月25日(木) 調査者:新原道信(中央大学文学部教授※)、天田城介(中央大学文学部教授※)
テーマ:仙台での現地調査および資料収集
概要 :本研究の一貫として、仙台において現地調査を実施した。「3.11」以降の“臨場・臨床的な在り方(ways of being involved in the crude reality)”についての意見聴取を行い、今後の研究計画の参考とした。とりわけ、個々の住民とボランティアのなかで、これまで意識してこなかった精神的要素への着目が顕著に表れ、通常の「復興」にむけての社会計画的アプローチではすくいとれない要素の重要性が提起された。この点からも、“臨場・臨床的な在り方(ways of being involved in the crude reality)”をいかに確保し、現場で生起しつつある“臨場・臨床の智(cumscientia ex klinikós, living knowledge)”を把握するかについての議論を行うことが出来た。

研究成果報告 2018年12月1日(土)
(京都市・大谷大学本部キャンパス)
報告者:鈴木鉄忠(共愛学園前橋国際大学専任講師※)
テーマ:惑星社会と臨場・臨床の智の媒介項としての地域社会
概要 :本研究チームの客員研究員であり、地域社会学会の研究委員会委員を務める鈴木鉄忠を地域社会学会研究例会に派遣し、研究例会に参加する社会学者たちに本研究チームの研究成果を報告し、意見交換を行った。とりわけ、「惑星社会と臨場・臨床の智」の媒介項となる<地域社会>を調査研究する上で、長期・中期・短期持続の時間論を含めた理論と方法の構築と事例の比較可能性について、検討してもらった。

【そのほか】

「惑星社会と臨場・臨床の智」では、主要な研究活動として、公開研究会・シンポジウムを開催すると同時に、非公開の研究会を行ってきた。この研究会は、“うごきの比較学”研究会として定例化され、公開研究会・シンポジウムに向けての打ち合わせのみならず、インテンシブな討論による概念の錬磨、研究計画の策定などにおける進展が見られた。とりわけ、“臨場・臨床の智”をとらえるための“うごきの比較学(”Comparatology”of nascent moments)”:コミュニティ・スタディーズ/地域学/比較学の有機的結びつきに関する検討がなされた。

「国際関係の理論と実際」

本研究チームは、今日のグローバル化した時代において、国際関係がますます複雑化したために、新しい国際関係理論の構築が必要であるという認識を強くしていると同時に、グローバル化によって変容した国際関係の実際的なあり方を分析する必要があるとの認識に立って、国際関係の理論的考察と現状分析をめざしている。本年度は、国際政治におけるサイバーセキュリティの問題、都市化の問題、中国の対外行動と国際政治、中国の一帯一路構想と国際政治学の変容等の問題を考察してきた。グローバルの進展と行き詰まりという国際社会の状況変化のなかで、国際関係そのものの転換を余儀なくされており、それに応じて国際関係理論の解体構築が課題となっている。今後は国際関係に関する理論と現状分析を引き続き行い、報告書にまとめる作業に入りたいと考えている。

【研究活動】

第1回公開研究会 2018年6月9日(土)16:00~18:00
(中央大学駿河台記念館310号室)
報告者:土屋大洋(慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科教授)
テーマ:サイバーセキュリティと国際政治
要旨 :今回の研究会では、慶應義塾大学土屋大洋教授に、サイバーセキュリティと国際政  治をテーマに報告して頂いた。土屋氏は始めに、近年のサイバースペースの状況について、Deeper、Darker、Dirtierという3つの傾向を持つ「3D化」が進んでいると述べ、特定のユーザーにしか見られないDarkWeb又はDarkNet上でサイバー犯罪に使われるマルウェア(コンピュータウィルス)の交換や、サイバー攻撃の委託といった取引がなされていることを紹介した。
土屋氏は、米中露北朝鮮などサイバーセキュリティにおける主要国の現状について次のように述べた。中国に関しては、マンディアント社というセキュリティ会社の報告書において、上海にあるビルに配置されている61398部隊が関与していると指摘され、後にアメリカ司法省が人民解放軍の将校5人を起訴するという事態に至った。61938部隊の拠点となっているとされるビルは、人民解放軍関連の建造物が立ち並ぶ一帯で実際に行ったことはないが、インターネット上のストリートビューで建物を確認することは可能である。北朝鮮に対しては近年「wannacry」への関与も取沙汰されたが、以前から積極的にサイバー攻撃を仕掛けており、ソニーピクチャーズへのサイバー攻撃に関与していると米国政府が発表し、北朝鮮に対する制裁を発動したことは注目に値する。中国と北朝鮮だけでなく、ロシアも近年サイバー攻撃で注目されている国家の一つである。特に2016年の大統領選挙の際には、通称「コージーベア」と「ファンシーベア」と呼ばれる2つのグループがヒラリークリントンを落選させる為に活動したことが報告されている。これらの事例を見るとトマスリッドが言うように、国家が本気で取り組めば、アトリビューション(犯人の帰属を明らかにすること)は可能であると言えるのではないかと、土屋氏は見解を示した。

第2回公開研究会 2018年6月22日(金)16:00~18:00
(中央大学多摩キャンパス2号館4階研究所会議室2)(主催:中央大学政策文化研究所「現代中国と世界」プロジェクト・チーム)
報告者1:劉北成(城)(清華大学教授)
テーマ:都市化とその問題─パリ再建を中心として―
要旨 :ベンヤミン(Walter Benjamin, 1892-1940 ドイツ生まれの哲学者、評論家)の『パリ・19世紀の首都』(中国語版 劉北成訳)を手がかりに、都市の文化と社会について考えてみたい。
ルイ・ナポレオン(Charles Louis-Napoléon 1808~1873)の第二帝政時代、オ  スマン(Georges Eugene Haussmann, 1809-1891)の指揮により、パリ改造計画が実施され、大通りの建設、下水道の整備などが行われ、不潔な街から美しく衛生的な街に生まれ変わった。だが、パリ・コミューンの崩壊時に主要な建物は火に包まれた。
ベンヤミンは「ボードレールにおける第二帝政期のパリ」において、ボードレール(Charles-Pierre Baudelaire, 1821-1867 詩人)の筆によって、パリは初めて叙情詩の題材となったばかりか、乞食やゴロツキ、ボヘミアン文人、退役兵らといった都市現象を描いた、と指摘する。ここにボードレールの近代性がある。
報告の最後には、都市と文学、近代性に関わり、22世紀の北京を舞台とするSF小説郝景芳『北京折畳』や柳冬撫子の詩も紹介された。
報告者2:顧濤(清華大学副教授)
テーマ:世界史から見た「孔子」
要旨:今回の中央大学訪問で行った三回の講演、報告において、私は日本の研究を参照す ることに努めた。すなわち第1回では林巳奈夫(1925-2006 京都大学)の東アジア文明の誕生に関する見解を、第2回では穗積陳重(1855-1926 中央大学)の礼と法の中国的伝統に関する見解を、そしてこの第3回では井上靖(1907-1991作家)の中国文明とその他の文明の融合に関する見解を参照している。今回は、世界文明史の観点から孔子を議論してみたい。
まず孔子の外見はどのうだったと考えるだろうか。東京の湯島聖堂(1975年 台湾 からの寄贈)には世界最大の孔子像があるが、これは北京の清華大学の像とは異なっている。また孔子画は中国でも古来様々なもの描かれ、また日本で描かれたもの、西洋書籍所載のものも異なる。また今日、孔子の故郷山東省では玩具の孔子フィギュアまで作られている。このように孔子は古今東西、さまざまにイメージされてきた。
孔子の意義は広く認められてきた。Benjamin Schwartz(ハーバード大学)は、「孔子は類い希な唯一無二の地位を占めており、古代の文明でこれに匹敵する適当な人物は見いだしがたい」と述べている。また孔子は歴代の中国皇帝により「文宣王」「大成至聖文宣先師」等の諡号を送られ、尊崇の儀礼が行われてきた。孔子の神聖化が極度に進んだ反動として、五四運動では孔子の教えは「人を食う」ものだと厳しく批判されたが、近年はまた孔子の智恵に学ぶことが唱えられている。 では、われわれはどのように孔子に学ぶべきだろうか。孔子の教えを伝える経書は『論語』だが、これは孔門の又弟子によるもので、前漢ですでに三種の抄本があり、今日みられるテキストは三国時期に確定したものである。さらに、『論語』には何晏、皇侃、韓愈、朱熹、さらに日本の安井息軒等、歴史上種々の注釈が付けられ、重要な点においても解釈は大きく異なっている。
真の孔子の姿を探求する上で最も重要なものは『史記』「孔子世家」である。司馬遷は孔子を「至聖」と評価するが、そこに描かれる孔子の一生は成功とは言いがたいもので、50歳頃まで貧しく、小吏であり、政治の枢要を司ったのは数か月に過ぎず、その後12年間諸国を周遊し、68歳で帰国し、六経の編纂を行い、73歳で没した。彼の「苦しみの一生」については、井上靖、徐梵澄等の解釈もあるが、旧訳聖書「ロブ記」やギリシャ神話を参照して解釈することもできよう。このように、世界文明史の視座により、孔子の新たな解釈をし、考察を深めることができると考えられる。

第3回公開研究会 2018年12月22日(土)17:00~20:00
(中央大学駿河台記念館560号室)(主催:中央大学政策文化研究所「現代中国と世界」プロジェクト・チーム)
報告者1:服部龍二(中央大学総合政策学部教授)
テーマ:元広島市立大学広島平和研究所所長 浅井基文インタビュー
要旨 :外務省中国課長などを歴任された浅井基文氏に対して行ったインタビュー内容を、1980年代前半の日中関係に関わる部分を中心に紹介し、参加者と質疑応答を行った。主な内容は以下の通り。
1.在中国日本大使館参事官時期
歴史教科書問題
2.アジア局中国課長時期
胡耀邦来日(1983年11月)、胡耀邦来日当時の日中関係4原則、胡の国会演説、中曽根訪中と第2次円借款(1984年3月)、張愛萍国防部長の来日(1984年7月)、中曽根の靖国神社公式参拝(1984年8月)、香山健一の訪中(1986年3月)、文書管理
報告者2:滝田賢治(中央大学名誉教授)
テーマ:中国の対外行動と米中関係
要旨 :1971ー72年の米中接近、1979年の米中国交正常化以後、約40年にわたりアメリ  カは中国の経済発展を支援し、中国が市場経済化すれば民主化し、国際社会に協調的になると期待して関与政策を続けてきた。代表はH. Kissinger、Z. Brzezinski、C. Riceである。だが、現在この期待はうらぎられた、だまされたというのが米政界、議会でのコンセンサスとなり、台頭する中国に強硬姿勢をとるようになってきた。報告の構成は以下の通り。
1.国際政治の中の米中関係./2.習近平政権の基本的認識/3.対外政策の具体化/4.内外政策の背景/5.中国の安全保障政策/6.軍事力の強化・拡大の背景/7.軍事力の強化・拡大の現実/8.中国の軍事力評価/9.経済力:予測/10.対外膨張政策/11.アメリカの対中認識/12.対中警戒・ヘッジ政策/13.宇宙軍(Space Force)
各報告後、活溌な討論が行われた。

第4回公開研究会 2019年3月20日(水)13:00~17:00
(中央大学駿河台記念館600号室)
報告者: 鈴木規夫(愛知大学国際コミュニケーション学部教授)
テーマ:“「国際政治学」は終わったのか”をめぐって―ポスト・ウェストファリア・レジー ム構築途上としての<一帯一路>―
要旨 :はじめに報告者は、近代日本における国際政治学の形成と融解をめぐる物語は如何にして記述可能かという問題設定を行い、酒井哲也氏の『近代日本の国際秩序論』を手がかりに日本における国際政治学の形成について論じた。続いて、葛谷彩・芝崎厚士編『「国際政治学」は終わったのか―日本からの応答』を参照しながら、国際関係論、パワーポリティクス論、リフレクシビズム、英国学派、ガイア仮設等を紹介し、国際政治学の終わりという問題設定に対する応答について言及した。
報告者は、こうした西欧中心の国際政治学の問題を提起しながら、次に、近代中国の国際秩序論の検証の必要性と<一帯一路>構想を検討する。その内容は、<一帯一路>構想の生成、日本の「中国研究」プロパーの人びとは何をどのように思考するのか、世界政治の構造変動の意味、世界秩序と規範の解体構築、<一帯一路>構想の思想的基盤とその性格―社会主義の構築などであった。報告者の問題関心は、西欧中心の国際政治学理論が中国あるいはアジアの台頭によって転換を迫られているというところにあるように思われる。

「環境社会的配慮と国際連携」

本研究チームは、実務的な問題の解決を目指し次の二点を研究テーマとしている。第一に地球環境の変動により生じた問題に対応するためには、これからどのような社会的な配慮や枠組みが必要とされるのかを明らかにすることである。第二に、これらの問題に対してアジアを中心とする国際連携の中で日本が果たせる役割について考察し、協働の道筋を探ることである。研究開始2年目の活動にあたる本年度は、各自研究員による調査研究をすすめると共に、公開講演会を実施した。公開講演会では、主にモンゴル国を取り上げ、資源大国であるモンゴルの文化、環境、経済について4名の講師(招聘講師3名、研究員1名)による講演会を実施した。昨年に引き続き、研究員による現地調査もモンゴル国(モンゴル気象水文環境研究所)と協力し、現地で気象観測などの共同研究も実施した(渡航費用等の本研究費からの補助はなし)。

【研究活動】

公開講演会 2019年3月12日(火)13:00~16:30
(中央大学駿河台記念館420号室)
全体テーマ:グローバル化による環境の変容と国際連携―モンゴル国の文化・農業・環境―
講演者・テーマ:
森永由紀(明治大学商学部教授)「馬乳酒からみる遊牧世界」
小宮山博(名古屋大学客員教授)「地球温暖化とモンゴル国農牧業」
渡邉正孝(中央大学研究開発機構 機構教授)「モンゴルの気候変動適応策と持続可能性」
西川可穂子(中央大学商学部教授)「モンゴル国の表層水における水質と衛生」
個別発表の後、一般参加者も参加して「モンゴルと日本の持続可能な発展のために」というテーマで討論会を実施した。一般参加者からも多くの発言があり、活発な議論がなされた。

「情報社会の成長と発展」

本研究チームは、日本における情報社会の成長と発展を支えてきたFLOSS(Free / Libre / Open-Source Software)の歴史を振り返るとともに、現代における活用の状況を探ることを目的とするものである。本プロジェクトの前身たる「情報社会その成長の記録」研究プロジェクト引き続き、これまであまり明文化されてこなかった1990年代から2000年代にかけて日本にFLOSSが導入されてきた状況を詳らかにしたうえで、現代の活用例についてケーススタディを中心として明らかにする。本年は,前プロジェクトで収集したデータの整理をさらに進めるとともに、首都圏だけでなく地方での活動状況を調査すべく、北海道でのFLOSSの展開状況についての調査分析を実施した。

【研究活動】

公開研究会 2018年7月7日(土)13:00~13:45
(札幌コンベンションセンター)
報告者:佐々木伸幸(有限会社サンビットシステム 取締役社長)
テーマ:北海道におけるOSSコミュニティ
概要 :本公開研究会は、オープンソース歴史研究会の一環として実施されたものである。オープンソース歴史研究会では、1990年~2000年代の記録を残すプロジェクト活動をしている。今回は北海道オープンソースコミュニティで活躍されている佐々木氏からの報告がなされた。
本報告の趣旨は、90年代から00年代にかけて、フリー・ソフトウェアやオープンソース・ソフトウェアに関する活動が、北海道ではどのようにしておこなわれてきたか、中心的に活動した団体やコミュニティにはどのようなものがあったかというものである。
日本においてインターネットの商用化は90年代の前半に進められたが、北海道では、Internet Initiative Japan (IIJ)の札幌支店が起源となった。その活動を中心として、北大などで学術的にインターネットを利用していた人々やパソコン通信などで繋がっていた人々が北海道のコミュニティを形成していった。物理的なつながりとして90年代前半に札幌市のテクノパークを中心としてコンピュータ・ネットワークが接続された他、1996年には、北海道大学、山本教授を中心にNetwork Community Forum (NCF)が発足、人的なコミュニティ活動が拡がっていった。
2005~2006年頃には法人格を持った団体であるLOCALが設立され、今までバラバラにやっていたコミュニティ活動の運営、会場の手配や受付などの運営支援をする活動が行われるようになった。LOCAL設立の趣旨は、コミュニティを支援するコミュニティがメタコミュニティーをサポートする人コミュニティを支援するというものであった。
なお、今回の報告においては、札幌を中心とした活動に加えて、地理的に広範囲に渡っているという北海道の特殊性を加味したうえでコミュニティ活動がどうあるべきかについても論じられ、さらに、次世代をになう人材を支援していかねばならないと考えている今後の展開についても報告された。

「社会変動」

グローバル化、トランスナショナル化など様々な変動の潮流の共存が、現代世界の大きな特徴である。しかし、その過程や動態については、解明されていないことが多い。本共同研究では、それら諸潮流を大きく社会変動と捉え、多様な側面から研究する。具体的には、信頼や民主主義や社会運動にあらわれる政治的側面、人権、ジェンダー意識、信頼などが示す社会文化的側面、さらに企業行動やマクロ経済動向を通して観察できる経済的側面の三つの側面に焦点をあてて現代社会の変動を理解する。その際の方法論もそれぞれの側面に応じて多様な形をとる。すなわち、日本社会の変動を他国との比較で捉えようとするマクロ国際比較、人々の活動のレベルに焦点を絞って行うイベント分析、また、個人の内的側面の細かな変化を観察するために採用するテキスト分析などを本研究チームでは採用する。

【研究活動】

第1回公開研究会 2018年9月28(金)12:40~16:10
(中央大学多摩キャンパス2号館4階研究所会議室2)
報告者・テーマ:
佐々木正道(元中央大学元教授)「情報化社会における「信頼感」-全国意識調査(平成29年実施)を中心に」
片野洋平(鳥取大学准教授)「農村社会の変動:在村・不在村者の土地所有意識から」
野宮大志郎(中央大学文学部教授)「聖化する被爆者:言説空間の変動を掴む」
要旨 :社会変動の把握に際して、政治経済変動などいわゆる「ハード」な事象の変動やそれらの変動をもとに社会変動のあり方を類推するプラクティスはよくなされている。これに対して、文化や意識などいわゆる「ソフト」な事象の変動を掴む研究やプラクティスは比較的少ない。本研究会では、「土地所有意識」、「言説」、「信頼感」といった三つの意識領域をもとに、社会変動のあり方を掴む努力を紹介した。これらの発表により、文化・意識領域での変動理解について議論を進めることができた。
社会意識変化について、三つの異なった観点と手法からの報告が行われた。佐々木報告は、日本社会における「信頼」のあり方について最新のデータを使って変動を観察したものであった。これに対して、片野報告は不在村地主の土地所有に関する意識の変化についてろんじたものであった。最後の野宮報告は、戦後、被爆者に対する社会意識の変化についてシンボル化という観点からの観察を伝えたものであった。三つの意識変動の捉え方についても、佐々木報告はコレスポンデンス分析、片野報告は重回帰分析、野宮報告はトレンド分析とネットワーク分析を用いてそれぞれの対象の把握を行っていた。   
社会変動の測定について、多様な観点からの把握の試みが提示されたことで、参加者はあらためて変動をつかむことの困難と重要性に気付かされた研究会となった。

第2回公開研究会 2018年10月11日(金)13:30~15:30
(中央大学多摩キャンパス2号館4階研究所会議室1)
報告者:プシシュトフ・コネツキ(Professor Krzysztof T. Konecki, University of Lodz)
テーマ:Qualitative Sociology
要旨 :コネツキ教授は、Theories, Paradigms, and Research と題した講演にて、社会学における質的手法について、その核となる思考方式、今日の質的研究の概要、そして将来への展望について持論を展開された。コネツキ教授によると、質的手法の核心は、変化のプロセスを介錯的に理解するということにある。質的手法は量的手法と対立するわけではないかが、プロセスの把握という課題に対しては非常に有効に働く、というものである。この議論は、質的手法を支持する従来の議論から大きく隔たるものもではない。しかし、そのプロセス理解の際に、観察する現象の統合的に把握に役立つ「統一的性質」を理解することとする主張は、新しいものであ
る。
参加人数は少なかったものの、講演後、コネツキ教授の主張を巡って活発な議論がなされ、充実した意見交換の機会を持つことができた。

第3回公開研究会 2018年11月26日(金)13:30~16:30
(中央大学多摩キャンパス2号館4階研究所会議室1)
報告者:ザン ウエンホン(Professor Zhang Wenhong, 上海大学)
テーマ:Urbanization and Social Change in China
要旨 :Zhang教授より、現代社会で進行する大きな社会変動とそれに伴う社会階層変動についての報告があった。Zhang教授は、従来の中国の社会変動に対する見方とは異なる視点を提示された。すなわち、中国社会では20世紀終盤からの急速な経済発展に伴い農村から都市への労働者人口の大きな変動があったが、同時に、中国固有の戸籍制度がその変動のあり方に一定の歯止めをかけている。それゆえ、多くの人が指摘する社会階層の流動性についても、諸側面から測定すれば、階層間での人の流動性はさほど高くない、という知見を提示された。
この知見は、斬新であり、また既存の我々の理解に挑戦するものだが、データをもとに新しい理解のあり方を提示されたことで、フロアの聴衆は大きな刺激を得た。また、その後の討論も活発に行われた。

第4回公開研究会 2019年2月17日(日)13:00~17:00
(中央大学多摩キャンパス2号館4階研究所会議室2)
全体テーマ:地域社会の変動と国際変動
報告者・テーマ:
安野智子(中央大学文学部教授)「世論調査と民主主義への信頼」
林文(東洋英和女学院大学名誉教授)「社会調査にみる信仰と素朴な宗教的感情をめぐって―日本における変・不変と国際比較―」
曺三相(中央大学兼任講師)「冷戦後日独の外交・安全保障政策 の普通化に関する比較」
北蕾(早稲田大学トランスナショナルHRM研究所招聘研究員)「中国中小企業の世代交代についての考察」
近藤和美(中央大学兼任講師)「アグリフードシステムのオルタナティブとしての産消提携運動」
要 旨:今回の研究会では、社会変動への接近の仕方について議論を深めた。具体的には、領域やアプローチの異なる5本の研究を集め、社会変動に石器するにはどのようなアプローチが良いのか、またどのレベルの社会変動に関する議論がより適切かなどについて、議論した。
近藤和美報告「アグリフードシステムのオルタナティブとしての産消提携運動」では、産消提携運動が取り上げられた。消費者と生産者の新しい関係の登場が、参加者個人に対してどのような影響を与えるのか、また運動のオルタナティブ性がどのようにして徐々に積み上げられてきたかなどについて。議論が展開された。近藤によれば、参加者個人には新しいアイデンティティが登場し、また組織には、生産者と消費者との間の関係のあり方の変化、また農に対する新しい考え方が登場した。
安野智子報告「世論調査と民主主義への信頼」では、インターネット需要の増加という近年の変動が、大きく民主主義のあり方に与える影響を探る努力がなされる。安野によれば、近年の情報環境の変化は、マスメディアと世論調査への信頼を揺るがすという変動をもたらし、その結果、社会全体の世論そのものが見えにくくなっている。この変化が、今後、民主主義にどのような変化をもたらすか、これを読み解くことが今後の課題として議論が閉じられた。
北蕾報告「中国中小企業の世代交代についての考察」では、今日の中国における中小企業の事業継続がまずます困難となる現状について、そのこの現状は何によってもたらされたのか、また、この変化は、次に何を生み出すかについて、議論が提示された。ここで指摘された要因は、一人っ子政策の帰結、グローバル化の進展など、やはり従来の研究で登場してきたものであった。
曺三相報告「冷戦後日独の外交・安全保障政策 の普通化に関する比較」では、日独比較を用いて、国家が「普通の国」になる過程を理解する方法とアプローチについて議論が展開される。様々な観点から諸議論が検討された結果、現実主義的アプローチと構築主義的アプローチを基軸としつつも、国家の「普通化」の過程であらわれる諸要因の相互作用に焦点を当てたアプローチがより適切であろうという結論に至っている。
林文報告「社会調査にみる信仰と素朴な宗教的感情をめぐって―日本における変・不変と国際比較―」では、日本人の宗教意識とその変遷の仕方について、国民性調査から得られるデータを分析した上での洞察が描かれる。国家間比較では、やはり日本人の宗教意識は他国のそれとは幾つかの点で異なること、また、変化という観点からは、宗教意識も「3.11」などの大きな社会現象が起こる前と後では、異なることなどが指摘されている。
今日我々が経験する社会変動を、五つの研究を通して観察した結果、幾つかの理解が得られる。まず社会変動へのアプローチには、やはり現実主義的なアプローチから文化的なアプローチまでがある。近藤報告と林報告は文化的アプローチに傾き、北報告と安野報告は現実主義的アプローチに傾く。次に社会変動のレベルも多様である。安野報告と林報告は社会全般、北報告と近藤報告は社会内の組織、曺報告は国家レベルでの社会変動を取り扱っている。
今後の社会変動研究では、研究対象のレベルによってより適切なアプローチを考慮しながら、研究戦略を練る必要があるとの思いを新たに研究会であった。

国際シンポジウム 2019年3月8日(金)・9日(土)9:00~17:00(両日)
(中央大学駿河台記念館)
テーマ:Current Social Change in Urban and Rural Areaas in East Asia
報告者:Xie Lizhong(北京大学)、Wang Chunguang(Chinese Academy of Social Sciences)、矢澤修次郎(一橋大学元教授、成城大学研究員)、Antimo Farro(ローマ大学)、Kevin Mcdonald (Middlesex University)、Konttinen Annamari (Turku University)、Rafal Smocxynski (Polish Academy of Science)、Kim Ik-ki (Renmin University)
要旨 :本国際シンポジウムは、より大きな東アジア者社会学会大会の中でのサブテーマ「Current Social Change in Urban and Rural Areaas in East Asia」のもと、研究交換をして議論を深めることを目的として開催された。
東アジアは、大きな変化の中にある。最近の北朝鮮と米国との関係の急激な変化や中国の台頭という国際関係の中での変化、また、日中韓の間の不幸な歴史、さらには、今日の領土係争問題など様々なレベルでの軋轢がある。しかし、そうした問題があるにもかかわらず、例えば、環境問題、貧困、家族変容、コミュニティの崩壊と変化など、共通に議論し、相互に学び研鑽するテーマが多数存在する。
Xie Lizhong氏とWang Chunguang氏は、現代北京で起こっている急速な都市化とそれに基づく環境変化とコミュニティ変化についての報告があった。またこれに連動してKim Ik-ki氏からは、韓国と中国の文化的差異と交流の可能性についての報告があった。矢澤修次郎氏は、現代日本における「都市化以降」の社会問題、すなわち新しいタイプの都市の形成の可能性を指摘する声が上がった。一方、ヨーロッパからはAntimo Farro氏が古代遺跡を放置・崩壊させることなく同時により効率的な都市を目指す方法とその社会学的な理論的基礎について、またKevin Mcdonald 氏からは、イギリスの「リスク社会」を前提として、イギリスを巻き込む中東問題の本質とその解釈について、Konttinen Annamari氏からは、フィンランドの福祉制度と環境問題との関係、最後にRafal Smocxynski氏からは、ポーランドの移民増加とそれぞれのコミュニティでの共生のありかたについての発表があった。
このように、多様な国家の経験から、現在それぞれの国で起こっている諸問題について相互理解を深められる時間を共有できた。大変貴重な機会となった。

「有権者と政治」

本研究チームは,有権者の意識と行動を,政治の動きと絡め,理論的かつ実証的に研究することを目的としている.このためには,社会科学の多分野の研究者の協力が求められることになり,本研究チームは,社会学・社会心理学・政治学・経済学など,広く社会科学の諸分野の研究者から構成されている.テーマとして,現代日本の政治の重要問題を取り挙げつつ,それらと有権者の意識と行動の諸相との連関・動態を中心に研究し,また分析のための方法の精緻化を研究している.

【研究活動】

第1回公開研究会 2019年3月26日(火)13:00~17:00
(中央大学多摩キャンパス2号館4階研究所会議室3)
報告者1:三船 毅(中央大学経済学部教授)
テーマ:有権者の政策空間の変容と参加
要旨 :現在の日本で顕在化している排外主義的な政治行動に参加する人々が、諸種の政策を如何に関連付けて政策空間を構成しているのか、グラフィカルモデリングという統計モデルから分析された。
中心的な知見は、「ネットで意見」に参加し、極度に保守イデオロギーが強い有権者は、有権者全体と比較して、諸種の政策を連関させて政策空間を形成しているのではなく、安全保障イデオロギーに関わる政策「防衛力増強」「日米安保強化」「憲法9条改正」を他の政策から切り離して独立させているという点である。それは限りなく民主主義体制維持からの逃避となりうるとされた。
全ての有権者がその内容を理解でき、超保守、極右的イデオロギーを有する者の間でも意見が分かれるような政策争点が存在すれば、一部の超保守,極右的イデオロギーを有する有権者も、その単純化された政策の関連性をより複雑にして民主主義体制を維持する政策空間をもつことが可能になるのではないかと論じられた。
報告者2:塩沢 健一(鳥取大学地域学部准教授)
テーマ:「平成の大合併」をめぐる住民投票の再検証―合併特例法の規定に基づく住民投票の分析―
要 旨:2000年代前半に急加速した「平成の大合併」をめぐっては、わずか数年の短い期 間に400件以上の住民投票が行われた。合併を争点とする住民投票は、住民投票条例に基づくものと、合併特例法に規定された住民投票制度に基づくものの、主に2種類がある。条例に基づく住民投票では合併の是非や枠組みが問われるのに対し、特例法に基づく投票では公式な合併協議の場となる「法定合併協議会(法定協)」の設置の是非が争点となる。
本報告では、砂原(2018)による分析の追試・改善を行いつつ、塩沢(2008)の分析モデルも援用しながら、住民投票制度が当初予定していたことと実態との乖離を明らかにすることを目的として、計量分析を試みた。
法定協が併存しかねない状況自体が、投票率や得票率に影響を及ぼし、実質的に2つの案から一方を選択する形の住民投票となったことで、有権者の関心を喚起し、また既定の合併方針の追認という意味合いから「反対多数」の結果が多く見られ、こうした活用例は当初の制度化の意図に沿ったものとは言えず、各事例における投票後の帰結を踏まえても、制度化の趣旨どおりに機能したとは言い難いと論じられた。
報告者3:種村 剛(北海道大学高等教育推進機構特任講師)
テーマ:先端科学技術の社会実装についての熟議の場―討論劇を用いた科学技術コミュニケーションを事例として―
要旨 :報告者が行っている討論劇を用いた科学技術コミュニケーションの実践を、熟議システム論の観点から整理した。日本の「科学技術コミュニケーション」には、科学技術理解増進と「科学と社会」の二つの系譜があり、特に後者は熟議民主主義の狙いである「熟議を通じた参加者の意見や態度の変容」と関連している。先端科学技術の社会実装を題材として、内容を演じて伝え、その是非を考える討論劇は、熟議を進めるための一つの手法になりうると論じられた。

第2回 公開研究会 2018年3月15日(木)13:30~15:00(中央大学多摩キャンパス2号館4階研究所会議室2)
報告者1:塩沢 健一(鳥取大学地域学部准教授)
テーマ:選挙区域の拡大が投票率に及ぼす影響ー鳥取・島根両県における「合区選挙」実施を踏まえてー
要約 :2016年夏の参議院議員選挙で戦後政治史上初めて選挙区の「合区」が導入された。本報告では、中国地方の一人区に着目し、合区対象地域の鳥取県・島根県に加え、合区対象とはならなかった岡山県と山口県も分析対象として、市町村レベルのデータをもとに、合区導入が投票率の変動に及ぼした影響について、分析が試みられた。
異なる選挙間の投票率の変動を従属変数として分析し、合区や市町村合併など「選挙区域の拡大」に関連する変数や、地域ダミーとしての「鳥取ダミー」は、2種類の従属変数、すなわち合区導入前の2つの選挙間における投票率差(2013年―2010年)および合区導入前後の投票率差(2016年―2013年)に対して、それぞれ異なる形で作用していることが報告された。
報告者2:種村 剛(北海道大学高等教育推進機構特任講師)
テーマ:科学技術の用途の両義性概念の形成ーデュアルユース概念の形成と変容ー
要約 :近年、安全保障(政策)と科学技術(政策)が接近している。科学技術の「用途の両義性」は、安全保障と科学技術を結びつける鍵概念の1つであり、本報告では、科学技術の用途の両義性(デュアルユース)概念の公式文書における形成過程が論じられた。
日本における科学技術の用途両義性の概念には《フィンクレポートを参照する系譜》と《核エネルギーと日本学術会議の声明を参照する系譜》の二つの系譜があり、それぞれにおいて、科学技術の善用・悪用の捉え方が異なる。そのため、この二つの概念の系譜が、日本の公式文書における用途両義性概念の位置付けを困難にしていると報告された。

「多様化する家族」

本研究チームは、多様化が進む日本家族をさまざまな角度から研究し、その成果を社会に還元することを目的にしている。
その目的を達成するために、各研究員が各自の専門で研究してきた家族の多様化の実態を報告し合い、外部の専門家の報告を加えたシンポジウムを実施し、一般市民に現代日本家族で起こっていることを正しく理解してもらうことを主眼にしている。
今年度は、カップル関係の多様化に関してのシンポジウムを開催した。現代日本では、カップル関係、すなわち、性や結婚の多様化が生じている。結婚問題を専門とする山田研究幹事、及び、高齢者の夫婦関係に詳しい廣岡研究員、同性愛カップルの調査研究をしてきた神谷研究員が、一般市民にわかりやすい形で各自の研究成果を報告し、LGBTに詳しい専門家を加えたシンポジウムを二回開催し、討論、質疑応答などを通じて、各々の知識を深めると共に、市民とその成果を共有した。

【研究活動】

第1回公開講演会 2019年1月30日(水)18:30~20:30
(多摩市関戸公民館大会議室)
全体テーマ:多様化する家族―同性婚・ひとり親家庭・卒婚―
報告者・テーマ:
原ミナ汰(共生社会をつくるセクシュアル・マイノリティ支援全国ネットワーク代表理事)
「LGBTからSOGIE―性的指向・性自認・性表現の織りなす多様な色あい―」
山田昌弘(中央大学文学部教授)「『人生案内』にみる[LGBT]の悩みの変化」
廣岡守穂(中央大学法学部教授)「卒婚のススメ」
神谷悠介(中央大学)「LGBTとパートナーシップ」
概要 :「多様化する家族」をテーマに、原ミナ汰氏、山田昌弘研究員、神谷悠介客員研究員の三人が報告、その後、廣岡守穂研究員の司会で討論を行った。
まず、原ミナ汰氏がLGBTが置かれた状況と同性カップルについて自分の体験を交えてわかりやすく説明し、つづいて山田研究員が読売新聞の身の上相談の事例からLGBTの相談事例を分析、つづいて神谷客員研究員が同性カップルの生活実態についての調査結果を紹介した。
討論では、司会の広岡研究員が卒婚を推奨する立場から、同性カップルの生活実態は異性愛カップルにとってうらやましいのではないかと問題提起して議論が進んだ。議論は、はじめ同性カップルをめぐって行われたが、会場の若い参加者からシングルマザー家庭の問題についての質問が出るなど、多摩市長、市議会議長も聴講に来ていただき、参加者を交えて大変活発な議論が行われた。(参加者数:一般市民を中心に約50名

第2回公開講演会 2019年3月21日(木)13:30~15:30
(旭川市市民活動センター)
全体テーマ:多様化する家族、婚活、卒婚、同性婚―どうなる私たちの家族―
報告者:廣岡守穂(中央大学法学部教授)、山田昌弘(中央大学文学部教授)、神谷悠介(中央大学)
概要 :旭川市市民活動センターCODOとの共催で、家族の多様化について市民とともに考えるシンポジウムを開催した。
山田研究員が「恋愛結婚の衰退と婚活」というテーマで、現代若者の結婚、恋愛事情に関して発表した。若者が経済的に不安定になっている中、伝統的家族にこだわる、つまり、家族の多様化がすすまないために、かえって結婚や恋愛が衰退している状況を説明した。廣岡研究員が「卒婚」というテーマで、ご自身の夫や妻という役割から解放されて自由な生き方を尊重しあう卒婚という生き方を紹介した。長寿化している現在、卒婚が一つの高齢期の夫婦関係のあり方であることを解説した。そして、神谷客員研究員が、多様化する性の形、LGBTについて解説した後、日本でのインタビュー調査結果に基づき、同性同士で同居生活を営む「同性婚」の実態について報告した。
3人の報告の後、旭川在住のコピーライター勝浦恭子氏の司会で、シンポジウムを行い、フロアからも質問もあり、「日本の家族の多様化」をめぐって、活発な討論が行われた。
中央大学父母の会旭川支部のみなさんに運営にご協力いただいた他、北海道在住の中央大学卒業生の方々も多数参加された。一般市民の方々も多数聴講に訪れ、旭川市議会議員、新聞記者等も来場された。その模様は、北海道新聞4月1日付け夕刊にも紹介された。(参加者数:一般市民を中心に約90名)

「フォーラム『科学論』」

2018年度については,諸般の事情により研究活動は実施しなかった.