社会科学研究所活動報告(2017年度研究チーム)

活動報告(2017年度研究チーム)

「暴力・国家・ジェンダー」

研究活動初年度に当たる前年度は、公開研究会では外部の研究者の研究成果を共有し、年度末の合宿研究会では研究員の研究課題の共有、意見交換を行ったが、そうした前年度の活動を踏まえて、本年度は、外部の研究者の研究成果の共有を並行して行いつつ、徐々に研究チームメンバーによる研究成果の報告、共有に重心を移すべく研究活動を進めた。
 本年度に三回開催した公開研究会・五報告のうち、多摩キャンパスでの二報告(イタリアのオペライズモ / エドマンド・バーク研究)がチームメンバーの報告であり、中央大学駿河台記念館および多摩キャンパスでの三報告(戦時下の慰問活動 / 日本の女性大臣 / フェミニズムとスコットランド啓蒙思想研究)が外部の研究者の報告であった。加えて、本チームは、第27回中央大学学術シンポジウム「理論研究」チーム主催の中央大学社会科学研究所シンポジウム「ジェンダー・暴力・デモクラシー」(2018年2月3日、駿河台記念館)を共催した。
 今後は、個々のメンバーの研究をさらに進め、チームとしての研究成果の刊行に向けて準備を進める予定である。

【研究活動】

(※は研究チームメンバー)

第1回 公開研究会 2017年7月5日(水)17:00~19:30(中央大学多摩キャンパス2号館4階研究所会議室2)

報告者:中村勝己(中央大学法学部兼任講師※)

テーマ:イタリアにおけるオペライズモ(労働者主義)の理論と実践について

要旨 :報告ではスターリン批判とハンガリー事件を経て始まった戦後イタリアの社会主義・共産主義勢力の改革運動であるオペライズモ(労働者主義)の思想潮流の創始者ラニェーロ・パンツェーリ(1921-64)とマリオ・トロンティ(1931-)の思想が取り上げられた。彼らはアントニオ・ネグリ(1933-)の先駆者でもあるが、トロンティのマルクス読解は「工場と社会との関係が有機的になった」との認識を示した<社会的工場論>に結実したこと、パンツェーリのマルクス読解はイタリアの技術革新(第二次産業革命)を批判的に分析する技術論となったこと、彼の<労働者自主管理>の構想は再読すべき価値あることが論じられた。

第2回 公開研究会 2017年8月5日(水)14:30~18:00(中央大学駿河台記念館360号室)

報告者:第1報告 押田信子(横浜市立大学大学院都市社会文化研究科共同研究員、中央大学経済研究所客員研究員)
第2報告 岩本美砂子(三重大学人文学部教授)

テーマ:第1報告 戦時下における女性アイドルの慰問活動―軍部発行・監修の慰問雑誌2誌から見た慰問に関する考察―
第2報告 日本の女性大臣について(政務次官・政務官・副大臣を含む)

要旨 :押田報告は、第一に慰問雑誌『戦線文庫』(海軍省)『陣中倶楽部』(陸軍省)の解読を通して、陸海軍省の慰問部署である恤兵部の国民動員の実態を明らかにし、現代に通じる論点を示すこと、第二に、戦地慰問の事例として中村メイコ、内海桂子両氏に実施した聞き取り調査を検証し、戦時における女性芸能人の慰問行為を考察することであった。岩本報告は、多数の資料を駆使して日本の女性大臣(政務次官等を含む)の状況を7点にわたって解析し、今後の課題、展望を示唆した。7点とは、22年間の女性大臣の不在、特色ある内閣、女性大臣等の登用されやすい省、第2次安倍内閣以降に目立つ「保守的」な女性大臣たち、女性大臣の資質等であった。質疑応答では、学外からの参加者も多く質問は多岐にわたり、活発な意見交換、議論が続いた。

シンポジウム 2018年2月3日(土)13:00~17:00(主催:第27回中央大学学術シンポジウム「理論研究」チーム)(中央大学駿河台記念館620号室)

報告者:第一部 棚沢直子(東洋大学名誉教授)、平野千果子(武蔵大学人文学部教授)、
原千砂子(桐蔭横浜大学法学部教授)、堀川祐里(中央大学大学院経済研究科博士後期課程院生)
第二部  鳴子博子(中央大学経済学部准教授※)、西海真樹(中央大学法学部教授※)、
武智秀之(中央大学法学部教授※)、中島康予(中央大学法学部教授※)

テーマ:ジェンダー・暴力・デモクラシー(共通テーマ)

要旨 :共通テーマの下、第一部では、哲学、歴史、政治学、経済史を専門とする外部の研究者の参加を得て、「力関係の起源としての世代」、「ナポレオンと植民地―反乱・奴隷・女性」、「再生産における女性主体と暴力」、「戦時期日本における既婚女性の就業環境」の各報告がなされた。続く第二部では、「理論研究」チームメンバーが、「ジェンダー視点から見たフランス革命―暴力と道徳の関係をめぐって―」、「構造的暴力としての言語政策: 琉球/沖縄の言語をてかがりとして」、「人口減少時代の福祉とデモクラシー」、「投票デモクラシーとポピュリズム」の各報告を行った。第一部、第二部を通して、地球社会で繰り返されるさまざまな「暴力」が浮き彫りになり、フロアとの活発な討論が繰り広げられた。

第3回 公開研究会 2018年2月24日(土)13:00~17:30(中央大学多摩キャンパス2号館4階研究所会議室2)(共催:中央大学経済研究所「思想史研究会」)

報告者:第1報告 高橋和則(中央大学法学部兼任講師※)
第2報告 土方直史(中央大学名誉教授、中央大学経済研究所客員研究員)

テーマ:第1報告 エドマンド・バークを読むモーゲンソー
第2報告 フランシス・ライトのフェミニズムの背景としてのスコットランド啓蒙思想-ジョン・ミラーの女性史論を中心にして-

要旨 :高橋報告は20世紀の国際政治学者モーゲンソー(1904-1980)が、主著『国際政治』(1948)において、エドマンド・バーク(1729-97)にどのように言及、評価したかを追った。モーゲンソーは『同盟国の政策についての所感』(1793)と『フランスの国情』(1791)から引用しているが、1793年の著書についてモーゲンソーは、対仏大同盟をフランスの普遍的君主制の世界支配に対する対抗連合と見なし、バークをナポレオン敗北後、大国となったイギリスの行動原理の理論的指導者と考え、1791年の著書について、バークの中にフランスの普遍的君主制に対抗するバランス・オブ・パワーの議論を読み取っていることが説明された。土方報告は、フランシス・ライト(Frances Wright,1795-1852)のフェミニズムに着目する。スコットランド・ウイッグの知的環境の下に育ったライトは、著述活動を経て、アメリカで奴隷解放を目指す社会改革実験、事業を実践する。彼女の思想は三つの思想圏、三つの契機から影響を受けて形成された。第一に、ジョン・ミラーを中心とするスコットランド・ウイッグの影響、刺激、第二に、ベンサムの功利主義、第三に、ロバート・オウエンのユートピア社会主義との関係である。報告はこれら三つの契機の内容の検討に進んだ。報告後、参加者より多岐にわたる質問が出され、活発な議論が続いた。

「惑星社会と臨場・臨床の智」

本研究チームは、「ヨーロッパ研究ネットワーク」の活動を基盤に、“惑星社会の諸問題を引き受け/応答する(responding for/to the multiple problems in the planetary society)”ことを目的として発足した。イタリアの社会学者A.メルッチの惑星社会論とA.メルレルの社会文化的な島嶼社会論に基づき、個々人のレベルにおける〈“惑星社会の諸問題”への“知覚”と“生存の在り方”の見直し〉について、社会運動論・臨床社会学・歴史社会学などによる複合的アプローチである“リフレクシヴな調査研究”を行う。日本とイタリアの研究者の協力体制により、1980年代以降の日本とイタリアの地域社会と社会運動の動態、その構造とメカニズムに焦点を合わせ、「可視的な社会運動」の“深層/深淵”で萌芽する“臨場・臨床の智(living knowledge )”の把握を試みることによって、「3.11以降」の“生存の場としての地域社会”形成の指針を提示することを目的として調査研究活動を行った。

【研究活動】

(※は研究チームメンバー)

研究成果報告(1) 2017年5月12日(土)~5月14日(日) 秋田市・秋田県立大学

報告者:阪口毅(中央大学※)

テーマ:コミュニティの移動性と領域性:インナーシティにおける「集合的な出来事」の比較分析

概要 :2016年度から2017年度にかけて、「可視的な出来事」と「潜在的な過程」との連関を捉えるための認識論・方法論の検討を行った。これらの研究成果の発表のため、鈴木が研究委員会委員として参加する地域社会学会大会に阪口を派遣し報告を行った。

研究成果報告(2) 2017年5月12日(土)~5月14日(日) 秋田市・秋田県立大学

報告者:鈴木鉄忠(中央大学※)

テーマ:変動局面の「地域社会」――方法論的検討

概要 :2016年度から2017年度にかけて、「可視的な出来事」と「潜在的な過程」との連関を捉えるための認識論・方法論の検討を行った。これらの研究成果の発表のため、鈴木が研究委員会委員として参加する地域社会学会大会に鈴木を派遣し報告を行った。

現地調査(1) 2018年2月15日(月)~2月16日(火)

調査者:阪口 毅(中央大学※)、大谷 晃(中央大学※)

テーマ:狭山丘陵一帯の現地調査および資料収集

概要 :客員研究員の阪口毅と準研究員の大谷晃は、共同研究の一環として、2012年より東京郊外、立川・砂川地域におけるフィールド・リサーチを継続してきた。しかし立川・砂川地域の形成史を把握し、歴史的な視野をもった比較地域学へと展開していくためには、当該地域を含む武蔵野への人口移動の起点であった狭山丘陵への調査フィールドの拡大が必要となった。そのため今回の現地調査では、狭山丘陵一帯における歴史資料館・民俗資料館を訪問し、“臨場・臨床の智”に関する基礎資料の収集を行うと共に、さらなる調査研究の展開にむけた協力関係の形成を行った。

現地調査(2) 2018年3月26日(月)~3月29日(木)

調査者:新原道信(中央大学文学部教授※)、鈴木鉄忠(中央大学※)

テーマ:沖縄県宮古島と石垣島の自衛隊基地配備予定地における地域住民の反対運動と“臨床・臨場の智”に関する現地調査及び聞き取り調査

概要 :2017年3月の石垣島調査に続いて、宮古島・石垣島での調査を行った。とりわけ石垣島においては、1年間の状況の変化に着目しつつ調査を行った。宮古島においては、基地関連施設のフィールドワークおよび軍事基地配備と地域社会の実態調査と資料収集、反対運動参加者との意見交換を行った。宮古島から石垣島に移動し、陸上自衛隊基地配備予定地のフィールドワークおよび石垣市立図書館にて字・公民館・コミュニティに関する資料収集、石垣市役所市史編纂課にて関連資料の問い合わせと収集を行った。

【そのほか】

 「惑星社会と臨場・臨床の智」では、主要な研究活動として、公開研究会・シンポジウムを開催すると同時に、非公開の研究会を行ってきた。この研究会は、“うごきの比較学”研究会として定例化され、公開研究会・シンポジウムに向けての打ち合わせのみならず、インテンシブな討論による概念の錬磨、研究計画の策定などにおける進展が見られた。とりわけ2017年度は、“臨場・臨床の智”をとらえるための“うごきの比較学(”Comparatology”of nascent moments)”:コミュニティ・スタディーズ/地域学/比較学の有機的結びつきに関する検討がなされた。

「国際関係の理論と実際」

研究チーム「国際関係の理論と実際」は、今日のグローバル化した時代において、国際関係がますます複雑化したために、新しい国際関係理論の構築が必要であるという認識を強くしていると同時に、グローバル化によって変容した国際関係の実際的なあり方を分析する必要があるとの認識に立って、国際関係の理論的考察と現状分析をめざしている。本年度は、21世紀の日中関係、ボーダースタディーズという新しい理論的視座、ロシアの北朝鮮政策、国際関係における同盟理論、トランプ政権の政策を考察してきた。

【研究活動】

(※は研究チームメンバー)

第1回 公開研究会 2017年11月6日(月)11:00~12:30(法学部と共催)(中央大学多摩キャンパス8号館8302号室)

報告者:入江 昭(ハーバード大学名誉教授)

テーマ:21世紀の日本と中国

要約 :はじめに1960年代以降の世界的な状況に触れて、1960年代の世界的な学生運動やベトナム反戦運動の高まりのなかで、学生や若い世代の政治的関心が高揚する一方、これらの世代は同時に、冷戦中であるとはいえ、戦後世界の平和な時代のなかで生きていた点を指摘した。そしてこの世代の若者とりわけ研究者のなかには、研究に集中できない世代でもあったけれども、国際政治におけるアメリカの位置づけについて学ぶ価値を見出し、国際関係や覇権主義の時代に関する研究に専念した人たちも多くいた。しかし、国際政治において重要なのは、国家や覇権の問題というよりも、人と人とのつながりであり、文化や市民というレベルでの交流であることを強調した。
 21世紀の日本と中国というテーマに関しては、まず、第二次世界大戦以前の日本と中国との関係に言及され、20世紀の植民地主義の時代において日本が天皇制という体制のもとで中国を侵略した歴史、またその歴史が植民地支配からの解放の歴史であった点についても言及した。他方、日本は敗戦によってアメリカに占領され、戦後は戦前の日中間の関係と類似して、アメリカによる占領からの解放の歴史であるが、沖縄の米軍基地は依然として存在し続けている点に触れ、それを継続させている現在のアメリカのトランプ政権と安倍政権について批判的に言及した。最後に、21世紀の日本と中国の関係を考えるうえで大切な点は、国際関係において人間中心の時代が到来し、国家間の関係よりも市民を基礎とした人間関係を築くことであるとされた。また21世紀の日中関係を考えるうえで歴史に学ぶことの重要性を強調した。

第2回 公開研究会 2017年12月22日(金)16:00~18:00(多摩キャンパス2号館4階研究所会議室4)

報告者:岩下明裕(九州大学アジア太平洋未来研究センター、北海道大学スラブ・ユーラシア研究センター教授)

テーマ:「領土という病」を克服するために―ボーダースタディーズの視座―

要旨 :最初に、政治地理学の視点から、ボーダーランドという概念を提示し、境界に跨る地域を総称する言葉であるという説明があった。歴史的には、17世紀の主権国家を境界付けるウェストファリア的な主権について触れ、主権国家の確定と領土の再編成を、ボーダーリーションとリボーダーリゼーションという概念で説明した。
 ボーダースタディーズの分析的な手段としては、透過性(permeability)という概念が提示された。この概念は、国境という境界を前提としつつも、米墨国境や西欧のシェンゲン協定のように境界を越えて行き来できる可能性を示唆するものであり、境界を分析するうえでの有効なものであるとした。たとえばメキシコとグアテマラのある国境地帯は透過性が100パーセントのところが存在する。旧ソ連とキューバとの関係にも透過性がみられた。
 海洋の境界の問題は複雑であり、陸地と違い可視的ではないところに特徴があり、また共に利用することができる点にも特徴がある。これは特に排他的経済水域ではなくて、その周辺の共同水域(公海)である。それだけでなく日韓で問題となっている竹島(独島)周辺、尖閣諸島周辺も境界が実質的に曖昧となっている点を指摘した。
 報告者は研究対象の1つでもある北方領土問題にも言及し、国境の正当性問題から千島列島あるいはクリル列島の問題を取り上げた。千島列島は地理的に南北千島に分かれるが、南千島がいわゆる北方四島であるが、国境という点からみてサハリンもまたこの地域の境界地域に属しており、タイムラインという視点で考察する必要があると説明された。最後に、国境をめぐってはボーダーツーリズムの必要性を主張した。

第3回 公開研究会 2018年1月12日(金)16:00~18:00(中央大学多摩キャンパス2号館4階研究所会議室2)

報告者:斎藤 元秀(杏林大学元教授※)

テーマ:ロシアの北朝鮮政策──核兵器・ミサイル開発を中心に──

要約 :ロシアの朝鮮政策の目標は、公式には平和、安定、繁栄の三つとされるが、このほかアメリカ一極支配の阻止、ロシアの大国としての存在感の顕示ということも指摘すべきである。
 ソ連は北朝鮮の核兵器開発を支援せず、原子力の平和利用のみ容認したが、北朝鮮は密かに核開発を進め、ソ連崩壊後はロシア政府の関知しないところで生活苦のロシア人科学者を雇用したとされる。近年、北朝鮮は核開発を加速化させ、2006年10月には地下核実験、2017年9月には水爆実験の成功を宣言するに至った。ただし、ロシア側は北の核能力及びミサイル能力に関して、低く評価している。
 北朝鮮が核兵器・ミサイル開発を推進する理由は、体制維持、安全保障、国威発揚などである。北のミサイルは短・中距離のスカッド、ノドン、テポドン、そしてグアムを射程に収める新型中距離弾道ミサイル・ムスダン(2016年6月発射)と続き、2017年11月には米本土を射程に収める大陸間弾道弾(ICBM)火星15の発射に至った。北朝鮮が近年急速に発展させたICBMの技術がウクライナから流出したものか、ロシアから来たものかについては情報が錯綜しており、なお確定できない。国連安保理決議に基づく北朝鮮経済制裁に関し、ロシアは、厳しい経済制裁は北朝鮮の暴走を招く恐れがあり、また北の国民生活に影響を与えるということを理由に、反対している。こうしたロシアの姿勢は、北朝鮮に対する厳しい制裁の実施を主張する米国のトランプ大統領の姿勢と対照的である。
 北朝鮮核問題については、ロシアは6者協議による平和的解決を求め、米朝の直接会談や中国の仲裁に内心反対だが、パートナーシップ関係にある中国との関係を重視し、表向きは中国の動きに反対の姿勢は示していない。一方、日本が北朝鮮の脅威に備えるためとの名目で──実は中国の台頭を睨んで──地上配備型迎撃ミサイルシステム イ-ジス・アショアの導入を決めたのに対し、中国ほどではないが、ロシアも反発を示し、北方領土問題をからめて日本を牽制している。
 今後も北朝鮮の核兵器・ミサイル開発は続くと予想され、武力行使以外の方法でこれを阻止もしくは凍結をしようとするならば北の体制保証が不可欠であり、米朝平和条約の締結が必要となるだろう。北の核との共存を受け容れることになるのかもしれないという見方もある。以上の報告のあと、核ミサイル問題をめぐる米朝妥協の可能性と日韓の国民世論、日本の外交戦略、サイバー・セキュリティ等に関わる意見や質問が出され、活発な議論が行われた。

第4回 公開研究会 2018年1月26日(金)17:00~18:30(中央大学多摩キャンパス2号館4階研究所会議室1)

報告者:玉置 敦彦(東京大学政策ビジョン研究センター特任研究員)

テーマ:秩序と同盟―アジア太平洋におけるアメリカ外交―

要旨 :同盟とは何かという問いから始めて、現代の日米同盟のような非対称同盟についての考察が行われた。まず同盟については、「共通の脅威に対抗する暫定的攻守協定」として説明され、戦後世界においてはソ連に対する「封じ込め」、抑止、力の均衡として作用し、それはアメリカによる支配と統制、アメリカによる国際公共財の提供を意味していたとされる。
 アメリカにとって同盟によってどのような政策目標を実現しようとしてきたのかという点に関しては、アメリカは、同盟国の多岐にわたる継続的協調、すなわち軍事力、外交、政治・経済システムの継続的協調、そして非対称同盟である主導国と提携国の保護と協力を実現しようとしてきた点が指摘された。
 同盟問題でのポイントとなっていたのは、「提携勢力」という概念である。アメリカは戦後経済的な支援などをベースとした間接支援を「提携勢力」としての東アジア諸国に行ってきたが、このことが同盟形成の基礎に置かれ、同盟の安定化をもたらした。しかし、フィリピン、韓国、日本という同盟国、いいかえればアメリカとの「提携勢力」の不安定化という事態が生じ、アメリカは「提携勢力」安定化の試みを行ったとした。こうして同盟と秩序の肯定的関係がもたらされたが、冷戦終結後、東欧諸国のNATOへの加盟、日米同盟のグローバル化、中露のリベラルな秩序への参加と存在感増大によって、秩序と同盟との乖離がもたらされたとされる。2000年代のアフガン戦争、イラク戦争、ロシアのクリミア侵攻、中国の南シナ海・尖閣への拡張はその代表的な事例である。またトランプ政権はリベラルな国際秩序構想の放棄につながっている点が説明された。
 最後に、秩序と同盟の将来については、同盟と法の支配、民主主義、自由貿易などのリベラルな秩序の維持ということの重要性が指摘された。

第5回 公開研究会 2018年3月29日(木)16:00~18:00(中央大学駿河台記念館310号室)

報告者:川上 高司 (拓殖大学教授、海外事情研究所長)

テーマ:トランプの乱とアメリカの衰退

要旨 :トランプ政権の登場と、国際社会におけるアメリカの相対的な地位の低下がもたらす影響について報告が行われた。今日アメリカから中国へ、経済や軍事だけでなく、文化圏のパワー・トランジションが起きているのではないかと指摘する。また、パワー・トランジションが実際に起きているならば、トランプ以外が大統領に就任したとしても、アメリカの選択肢は少なく、トランプ政権と同じような政策をとっていたかもしれない。
 このように、台頭してきている新興国と、既存の覇権国との間では、戦争が生起しやすいことがグレアム・アリソンの『米中戦争前夜』において指摘されているが、一方で、これらの国家間での戦争が回避された例もある。そこでは、戦争が回避されるためには、高い権威をお互いに有すること、国家より大きな機構があること、文化的な共通点があることが重要であると指摘されている。
 このような中、将来はどのように展開していくのか。中国は短期的にはアメリカと取引をし、G2体制の構築に走るだろうが、インドの台頭と中国の人口問題から、中国の覇権は短期的なものになると報告者は指摘した。一方で、覇権が短命に終わることは、中国の弱体化を表すものであり、国内の不満に乗っかる形で、対外的に強硬な姿勢をとりかねないとも述べた。
 また、今日のアメリカの安全保障政策の特徴として、統合参謀本部議長が提出する『国家軍事戦略』に基づき、2017年の『国家安全保障政策』や2018年の『国家防衛戦略』、『核態勢見直し』が作成されるなど、軍部主導であると評した。そして、このような環境下において、ボルトンが国家安全保障問題担当大統領補佐官に就任したことは、北朝鮮情勢を鑑みると、日本の安全保障政策に悪影響を与えると結論づけた。

「環境社会的配慮と国際連携」

本チームは,実務的な問題の解決を目指し次の二点を研究テーマとしている.第一に地球環境の変動により生じた問題に対応するためには、これからどのような社会的な配慮や枠組みが必要とされるのかを明らかにすることである.第二に,これらの問題に対してアジアを中心とする国際連携の中で日本が果たせる役割について考察し,協働の道筋を探ることである.研究初年度にあたる本年度は,公開講演会,チームメンバーによる合宿研究会,研究員によるモンゴル現地調査を実施した.公開講演会では,主にモンゴル国を取り上げ,3つの視点:戦略的パートナーシップ,伝統薬,自然環境変動について,精力的に活動を進めている外部の専門家2名と研究員1名による講演を行った.また,合宿研究会では,参加者が各自の研究課題・研究計画を報告し,次年度の主な研究計画を立案した.研究員による現地調査では,モンゴル国(モンゴル気象水文環境研究所)と協力し,現地で気象観測などの共同研究を実施した.

【研究活動】

(※は研究チームメンバー)

公開講演会 2018年3月19日(月)13:30~16:30(中央大学駿河台記念館 320号室)

テーマ:グローバル化による環境の変容と国際連携 ~モンゴルと近隣諸国を中心に~

報告者:清水武則(前モンゴル駐在特命全権大使)、佐竹元吉(昭和薬科大学薬用植物園研究員)、中野智子(中央大学経済学部教授※)

概要 :資源大国であるモンゴルの経済発展、医療、気候変動について三人の講師がそれぞれのテーマで講演を行った.清水氏は,新たな戦略的パートナーであるモンゴルの現状と日本の役割について,佐竹氏は,モンゴルとミャンマーの伝統薬とその品質について,中野研究員は,広域気象・植生データから見たモンゴルの自然環境変動について発表した.個別発表の後,一般参加者も参加して「モンゴルと日本の持続可能な発展のために」というテーマで討論会を実施した.一般参加者からも多くの発言があり,活発な議論がなされた.

合宿研究会 2018年3月19日(月)~3月20日(火)

場所 :熱海市

報告者:西川可穂子(中央大学商学部教授※)

テーマ:モンゴル国における“河川へ流入する生活雑排水と薬剤耐性菌の混入リスク”について

概要 :薬剤耐性菌の表層水中への拡散は現在,世界各国で報告が相次いでいる.しかしながら,文献調査の結果,モンゴル国における本格的な報告はほとんどなく,今後の調査が必要である背景と調査の実施方法について報告した.個別報告の後,参加者の相互の研究概要を共有し,来年度のチームの研究実施内容について議論を行った.
 

現地調査 2018年2月28日~2018年3月5日

場所 :モンゴル国バガヌール市・バヤンウンジュル村

研究者:中野智子(中央大学経済学部教授※)

調査テーマ:モンゴル国の草原生態系における環境変動に関する調査

概要 :2018年夏に、モンゴル国のステップ草原に位置するバヤンウンジュル村およびバガヌール市を調査対象地域として、気象観測、植生調査、遊牧家畜の調査を行う予定である。そのため今回の現地調査では前述の調査対象地に自動気象観測装置の設置を行った。現地調査に際しては、モンゴル気象水文環境研究所の研究員Ganbat Bavuudorj氏に協力をお願いし、調査に同行してもらった。

「情報社会の成長と発展」

本研究チームは,日本における情報社会の成長と発展を支えてきたFLOSS(Free / Libre / Open-Source Software)の歴史を振り返るとともに,現代における活用の状況を探ることを目的とするものである.2016年度まで実施してきた「情報社会その成長の記録」研究プロジェクト引き続き,これまであまり明文化されてこなかった1990年代から2000年代にかけて日本にFLOSSが導入されてきた状況を詳らかにしたうえで,現代の活用例についてケーススタディを中心として明らかにする.本年は,前プロジェクトで収集したデータの整理をさらに進めるとともに,成果の対外的な報告と,今後の進め方に関する分析などを実施した.

【研究活動】

(※は研究チームメンバー)

調査研究 2017年10月16日(月)~22日(日)

場所 :ポルトガル

出張者:飯尾 淳(中央大学文学部教授※)

概要 :ポルトガルのヴィラモウラで開催されたICWI2017(The 16th International Conference on WWW/Internet)に参加し,本チームで遂行した研究成果を,「J. Iio, K. Tsukakoshi, M. Hatta, and K. Kazaana, “How Did They Start Using OSS? ― Survey of OSS Developers in Japan,” ICWI2017, pp. 120-126, Vilamoura, Portugal, (2017.10)」としてまとめ,報告した.さらに,同会議で発表された各報告を聴講,とくに欧州を中心として当該分野で研究を進める研究者との議論を深め,情報交換を行った.WWW/Internetでの発表内容は,情報セキュリティ,ネットワーク通信方式,WWW上でのアプリケーション等,多岐にわたり,最先端の研究状況に関して俯瞰した情報収集を行うことができた.今後は,本件と,日本の状況の対比等を通じて,日本の情報社会形成および発展の経緯に関する分析を加える予定である.

「社会変動」

グローバル化、トランスナショナル化など様々な変動の潮流の共存が、現代世界の大きな特徴である。しかし、その過程や動態については、解明されていないことが多い。本共同研究では、それら諸潮流を大きく社会変動と捉え、多様な側面から研究する。具体的には、信頼や民主主義や社会運動にあらわれる政治的側面、人権、ジェンダー意識、信頼などが示す社会文化的側面、さらに企業行動やマクロ経済動向を通して観察できる経済的側面の三つの側面に焦点をあてて現代社会の変動を理解する。その際の方法論もそれぞれの側面に応じて多様な形をとる。すなわち、日本社会の変動を他国との比較で捉えようとするマクロ国際比較、人々の活動のレベルに焦点を絞って行うイベント分析、また、個人の内的側面の細かな変化を観察するために採用するテキスト分析などを本研究チームでは採用する。

【研究活動】

(※は研究チームメンバー)

国際シンポジウム 2017年11月18日(土)~20日(月)(中央大学駿河台記念館)(共催:学術シンポジウム「意識調査チーム」)

報告者:佐々木正道(中央大学元教授※)、石川晃弘(中央大学名誉教授※)、吉野諒三(統計数理研究所※)、矢野善郎(中央大学文学部教授※)、その他(約50名)

テーマ:信頼の国際比較

概要 :本シンポジウムでは、特に「信頼」に焦点を当て、その研究の国際的最先端を探るべく行われた。国際会議は3日間にわたって開催され、多様な視点から研究成果が報告された。国際比較が中心となったが、国内アクターに焦点を合わせた研究、またある特定の個人を取り上げての「信頼」意識など、多様な分析レベルからの報告があった。同様に、信頼の倫理道徳的源泉を問う社会哲学的な議論、また信頼についての学説史的研究、さらには多様な実証研究を元にした報告があった。
「信頼」は、社会生活を構成する上で必要不可欠なものである。その存立根拠を問い、またそれぞれの社会における多様な展開のありようを確認することは、社会科学の名の下にあるいかなる学問領域にあっても重要な作業となる。
国際シンポジウムは、最終日まで多くの参加者で賑わった。また、参加者相互に多くの新しい研究ネットワークを築くという成果も得ることができた。

公開研究会 2018年2月16日(金)13:20~17:00(中央大学多摩キャンパス2号館4 階研究所会議室1)

報告者:小熊信(労働調査協議会主任調査研究員※)、藤田泰昌(長崎大学経済学部准教授※),石川晃弘(中央大学名誉教授※)

テーマ:トランスナショナルから国内組織に連なる変動と意識変化

概要 :グローバルレベルでの国際政治経済の動きが、各国のマクロ経済変動に影響を及ぼし、さらに、当該国の中での産業経済組織の活動に影響を及ぼすさまを、三つの報告を通して学習した。とりわけ、三報告を通して、GATTやWTOなどのグローバルな構造的枠組みが、各国の経済活動に一定の制限を課し、その結果が、国内産業組織の個々の構成員が感じ取れる程度にダイレクトな影響を及ぼす過程を明らかになった。

「有権者と政治」

「有権者と政治」チームは、有権者の意識と行動を、政治の動きと絡め、理論的かつ実証的に研究することを目的としている。このためには、社会科学の多分野の研究者の協力が求められることになり、本研究チームは、社会学・社会心理学・政治学・経済学など、広く社会科学の諸分野の研究者から構成されている。テーマとして、現代日本の政治の重要問題を取り挙げつつ、それらと有権者の意識と行動の諸相との連関・動態を中心に研究し,また分析のための方法の精緻化を研究している。

【研究活動】

(※は研究チームメンバー)

第1回 公開研究会 2018年2月26日(月)13:30~14:30(中央大学多摩キャンパス2号館4階研究所会議室3)

報告者:寺村絵里子(明海大学経済学部准教授※)

テーマ:女性党首を支持するのは誰か?-JES Ⅳ調査を用いた分析ー

要約 :日本の女性党首に着目し、女性党首を支持する層とはどのような属性を持つ人々なのかが分析された。『The Global Gender Gap Report 2016』によれば、ジェンダー・ギャップ指数の日本の順位は、調査対象144カ国のうち114位と低い。中でも「政治における平等」の順位は129位であり、うち「過去50年間の国家代表の男女比」のスコアはゼロと極めて低い水準にとどまっている。なぜ、日本では男女で投票率があまり変わらないのに女性党首はほとんどいないのか。また、その中で、女性党首を支持する人とはどのような属性を持つ人なのだろうか。これらの問いに対し、政治家に対する「感情温度」のパネルデータを用いて検証がなされた。
 結果として、第一に、女性党首支持には支持政党の影響が大きくあらわれる。第二に、女性であることは女性党首支持の確率を高める、第三に大卒層で他の学歴層よりも支持確率が高まる、という3点が報告された。

第2回 公開研究会 2018年3月15日(木)13:30~15:00(中央大学多摩キャンパス2号館4階研究所会議室3)

報告者1:塩沢 健一(鳥取大学地域学部准教授※)

テーマ:選挙区域の拡大が投票率に及ぼす影響ー鳥取・島根両県における「合区選挙」実施を踏まえてー

要約 :2016年夏の参議院議員選挙で戦後政治史上初めて選挙区の「合区」が導入された。本報告では、中国地方の一人区に着目し、合区対象地域の鳥取県・島根県に加え、合区対象とはならなかった岡山県と山口県も分析対象として、市町村レベルのデータをもとに、合区導入が投票率の変動に及ぼした影響について、分析が試みられた。
 異なる選挙間の投票率の変動を従属変数として分析し、合区や市町村合併など「選挙区域の拡大」に関連する変数や、地域ダミーとしての「鳥取ダミー」は、2種類の従属変数、すなわち合区導入前の2つの選挙間における投票率差(2013年―2010年)および合区導入前後の投票率差(2016年―2013年)に対して、それぞれ異なる形で作用していることが報告された。

報告者2:種村 剛(北海道大学高等教育推進機構特任講師※)

テーマ:科学技術の用途の両義性概念の形成ーデュアルユース概念の形成と変容ー

要約 :近年、安全保障(政策)と科学技術(政策)が接近している。科学技術の「用途の両義性」は、安全保障と科学技術を結びつける鍵概念の1つであり、本報告では、科学技術の用途の両義性(デュアルユース)概念の公式文書における形成過程が論じられた。
 日本における科学技術の用途両義性の概念には《フィンクレポートを参照する系譜》と《核エネルギーと日本学術会議の声明を参照する系譜》の二つの系譜があり、それぞれにおいて、科学技術の善用・悪用の捉え方が異なる。そのため、この二つの概念の系譜が、日本の公式文書における用途両義性概念の位置付けを困難にしていると報告された。

「フォーラム『科学論』」

2017年度については,諸般の事情により研究活動は実施しなかった.