社会科学研究所

活動報告(2014年度研究チーム)

2014年度研究チーム

「東京の社会変動」

「東京の社会変動」チームは、2014年度は各メンバーとも執筆準備を行い、2015年3月にその成果として研究叢書第29号『東京の社会変動』(川崎嘉元・新原道信 編、中央大学出版部)を刊行した。

「モバイル社会と若者」

「モバイル社会と若者」チームは、2014年度は各メンバーそれぞれ、これまでの研究で得られた知見をまとめるとともに、今後の研究の方向性について検討をおこなった。その一つが海外での調査の可能性を探ることであり、調査協力者の検討などをおこなった。

【研究活動】

今年度、研究会(合宿研究会含む)などは特に行わなかった。

【研究調査】

今年度、研究会(合宿研究会含む)などは特に行わなかった。

【その他】

2014年6月17日に香港中文大学兼任理教教授合田美穂氏による公開講演会手を開催した。

「平和学の再構築」

本プロジェクトは、戦争の不在、貧困の撲滅、経済格差の是正など、広い射程で平和を捉えながらも,同時に個々の社会や個人に密接にかかわる平和学、具体的な弱者・被支配者の視点を重視しつつ、あるべき社会・国家・国際社会を構想する平和学を再構築することである。プロジェクト最終年度となる2014年度は、これまで主査を務めてきた都留康子が上智大学に転勤したのにともない、主査を西海真樹が引き継いだ。おもな活動としては、(1)公開研究会を2回開催し、国際テロ戦略について、ゲストスピーカー1名ょ招き、中国外交と日・中・米関係、および、国際対テロ戦略について、ゲストスピーカーから報告をしていただいた後、活発な質疑応答を行ったこと、および、(2)3月下旬に鹿児島で合宿を行い、研究成果論文集(2015年度刊行予定)への各自の論文構想について討議し、知覧特講平和館および川内原発を見学し、平和の意味を再確認したこと、の2つがあげられる。過年度と同様本年度も、国際政治学、国際開発学、平和学、国際法学などのメンバーのさまざまな専門領域から学際的に平和の意味を問い直すことができた点、有意義な1年であった。

【研究活動】

第1回 公開研究会 2014年6月27日(金) 16.40~18.10

講師 :三船恵美(駒澤大学教授)

テーマ:習近平体制下の中国外交と日米中関係

要約 :最近「G2論」や「チャイメリカ」などの世界政治の米中共同管理論が議論されているが、,中国はこれを否定している。台頭に見合う応分の責任負担を米国は中国に求めているが、中国は各国の責任能力に差異があることを基礎に米中関係を構築しようとしている。中国が米国経済を下支えするなかで米国が中国にたいして一定の配慮はするものの、グローバルな課題や米中間の摩擦について、顕著な成果は得られていない。両者が抱える課題も依然として多く、米中間の協調に過大な期待・評価をすることはできない。

第2回 公開研究会 2014年12月5日(金) 18.00~20.00

講師 :植木安弘(上智大学教授)

テーマ:国際対テロ戦略

要約 :イスラム国(IS)などのテロは、現代世界の深刻な脅威ISはシリア、イラクにまたがる「領土」を基礎に影響力を行使している。その強固な統治体制の中核には旧サダムフセイン政権の人々がいる。外国人戦闘員数は現在では2万人。リクルート方式や広報に長け、若い人、社会に溶け込めない人、社会に不満な人々がISに惹かれ加わっていく。ISは軍事力で抑え込めばすむという話ではない。対策として資金源を断つとともに、既存国家内部の弱者対策や社会政策を充実させていくことも重要な課題となる。

第3回 研究会(合宿研究会) 2015年3月29日(金)~31日(火)

場所 :城山観光ホテル(鹿児島)

参加者:磯村早苗、上原史子、臼井久和、内田孟男、鈴木洋一、竹内雅俊、都留康子、西海真樹、星野智、宮野洋一、望月康恵、計11名

テーマ:1日目は城山観光ホテル内で、研究成果論文集(2015年度刊行予定)への各自の論文構想を資料をもとづいて討議。2日目は知覧特講平和館と川内原発をそれぞれ見学。

要約 :論文構想として各参加者から「文化・平和・開発の相互関連」「戦争責任・戦後責任と平和構築」平和学の変遷「サイバーテロと平和構築」「文明基準と平和学」「ノーベル賞と国連」など多岐にわたる論文テーマと構想が提示された。これらをどのように有機的につなげまとめるかについて、2015年7、8月にあらためて協議することになった。知覧特講平和館の諸資料から特攻に参加した若き兵士たちの心情と彼らを取り巻く当時の社会情勢をヴィヴィットに知ることができた点で、俣、川内原発の見学から九州電力の強力な原子力広報の一端を見ることができた点で、それぞれ有意義だった。

「3.11以降の『惑星社会』」

本研究チームは、「ヨーロッパ研究ネットワーク」の活動を基盤に、"惑星社会の諸問題を引き受け/応答する(responding for/to the multiple problems in the planetary society)"ことを目的として発足した。「3.11後」ではなく「3.11以降」という言葉の背景には、《日本社会とそこに生きる私たちの「状況・条件」は、「震災、津波、原発事故」で変わってしまったのではなく、"多重/多層/多面の問題群(the multiple problems)"は、「3.11以前」にも「客観的現実のなかにすでにとっくに存在」し、「3.11」はその問題が顕在化する契機となったに過ぎない》という見方が在る。「社会的行為のためのグローバルなフィールドとその物理的な限界」という二重性を持つ"惑星社会"で生起する"多重/多層/多面の問題"の意味を把握するために、ヨーロッパ、地中海、大西洋、日本、アメリカなどの各地でのフィールドワークからの知見を持ち寄り"惑星社会"という現在を生きる人間の"生存の在り方(Ways of being)"と社会の構成のされ方を見直すことを企画した。

【研究活動】

研究会:2014年4月29日、5月13日、6月20日、7月29日、8月29日、12月23日、2105年1月28日、2月16日

報告者:新原道信、鈴木鉄忠、阪口毅、友澤悠季

テーマ:惑星社会の諸問題を引き受け/応答する"惑星社会のフィールドワーク"

要約 :幹事の基調報告と他メンバーによる報告・議論を行い、「"境界領域"のフィールドワークから"惑星社会の諸問題"へ」というテーマの深化につとめた。

地域社会学会大会・研究例会等での報告::2014年5月10日、10月4日、11月29日、2015年2月7日

報告者:阪口毅、古城利明、新原道信、鈴木鉄忠

テーマ:惑星社会の諸問題を引き受け/応答する"惑星社会のフィールドワーク"

要約 :メンバーの主要な研究活動の場となっている地域社会学会において、阪口毅(2014年5月10日早稲田大学)が大会自由報告、古城利明(10月4日、明治学院),」新原道信(11月29日、同志社大学)、鈴木鉄忠(2015年2月7日、首都大学・秋葉原サテライトキャンパス)が、それぞれ依頼され研究例会での基調報告を行い、本研究チームの研究成果を開示し研究交流を行った。

【研究活動】

調査機関:2015年3月9日~3月11日

調査地域:徳島県徳島市

出張者 :新原道信、鈴木鉄忠、阪口毅、友澤悠季

要約  :「3.11以降」の日本の地域社会で生起しつつある"惑星社会の諸問題"の実態調査を行った。

「グローバル・エコロジー」

「グローバル・エコロジー」チーム2014年5月、7月、12月と研究会を開催し、2015年3月には合宿研修を実施して研究成果の刊行に向けた準備作業の一環として各メンバーにテーマについて報告してもらった。研究会については、地球環境ガバナンスについての現状についての認識を確認し、海洋環境についての認識を深め、EUのリージョナル環境ガバナンスと環境レジームの関連性についても視野を広げることができた。研修合宿については、改めて本チームの基本テーマについて研究員同士の相互理解を深め、研究成果をまとめる方向性を確認することができた。

【研究活動】

第1回研究会:2014年5月16日(金)

報告者:太田宏(早稲田大学教授)

テーマ:地球環境ガバナンス

要約 :地球温暖化やオゾン層破壊などの地球環境問題に関して、地球的規模での取り組みとしてのさまざまな領域で地球環境ガバナンスの枠組が形成されているが、報告者は、地球温暖化のレジームとの関連性について興味深い視点から報告した。

第2回研究会:2014年7月3日(木)

報告者:蔡李廷

テーマ:Chinas Maritime Strategy of East Asia

要約 :近年、中国は経済発展し、エネルギー資源などの確保と影響力の拡大を図って、南シナ海などの海洋への進出を強めている状況にある。そうした中で、フィリピンやベトナムをはじめとするASEAN諸国はこうした中国の動向に懸念をもって対応している。本報告では、海洋資源やエネルギー資源といったことを背景に中国の東アジアの海洋戦略について詳細に分析した。

第3回研究会:2014年12月12日(金)

報告者:兼頭ゆも子(中央大学大学兼任講師)

テーマ:環境条約とEUの関係

要約 :EUは28ケ国から国家連合体であり、環境政策の分野では各国が共通の環境政策を進めており、指令や決定といったEU環境法も整備されている。環境条約については、EU法との関連でどのような位置づけがなされているのか、というが本報告のテーマであった。報告者は、両者の関係についていくつかの類型を挙げて、その位置づけについて分析した。

合宿研修:2015年3月29日(日)~31日(火)

社会科学研究所チーム「平和学の再構築」との合同合宿研修で各研究員の現在の研究状況と報告書作成に向けてのテーマについて研究員全員に報告してもらった。

「政治的空間における有権者」

研究チーム「政治的空間における有権者」では、有権者の選挙行動、政治意識に関する理論研究、実証研究を多角的なアプローチから行うことを目的としている。2014年度は、各研究員がそれぞれの研究テーマに即して,理論的、実証的研究を遂行する予定であった。だが、11月上旬に俄かに衆議院解散が論じられるようになり、11月21日の解散を受けて、急遽研究チームとして有権者の選挙行動調査を行うこととした。解散から選挙まで時間的余裕が無いことから、インターネット調査で全国の有権者を対象とした調査を行った。調査項目は宮野、安野、三船が担当して作成した。調査は12月15日から18日までとして1500サンプルを回収した。研究会は2015年2月15日に行い、3本の報告がなされた。

【研究活動】

第1回研究会:2015年2月25日(水)

報告者:宮野勝(中央大学文学部教授)

テーマ:「Questionaire Equivalence in Comparative Surveys」

要約 :社会調査の質問に対して回答者が抱く考え方は多様である。したがって、ある質問に対して、AさんとBさんが同じ回答をしても、その内実をはかり知ることは困難である。近年、欧米の研究ではこのような回答者の認識のズレを計測する方法が確立されつつある。本報告は、これまでは英語の質問文で行われていたこのズレの計測を、日本語にも適用可能に再設計した調査のデータを分析し、日本語の調査にも適用可能であることを検証した。

テーマ:「内閣支持率の測定について」

要約 :内閣支持率の測定は、選択肢の数より微妙に変動することが経験的に知られていた。本報告では2014年衆議院選挙を受けて行ったインターネット調査のデータをもとに、第2次安倍政権の支持率を3選択肢と5選択肢で測定したデータを分析し、結果報告がなされた。

報告者:安野智子(中央大学文学部教授)

テーマ:「2103年度参議院選挙における政治意識」

要約 :2013年に行われた参議院選挙に際して、報告者が行った有権者の選挙行動調査のデータを精緻に分析した報告がなされた。報告者は近年、有権者の政治的信頼感、ナショナリズムなど社会心理学的側面から政治意識の構造を分析しており、本報告はここ数年の研究蓄積を踏まえた総合的な研究成果が報告された。

「情報化社会その成長の記録」

情報技術(IT)および情報産業の進展において、現在のITを支えるオープンソースソフトウェア(OSS)関連技術は1980年代後半から2000年代にかけて大きく発展した。2000年代以降は各種の記録がまだ残されているが、大きく発展した80年から90年代の記録があまり残されていないという点が問題となっている。そこで本プロジェクトでは当時各方面において活躍していたキーマンを訪問し、インタビュー調査を行うことで当時の状況の記録を作成することを目的とする。本年度は、主要な人物、訪問対象のリストを作成し7~8名の対象者を訪問して当時の状況に関する事情徴収を実施した。その結果、現在のところ当時の大きな失敗とされていた国家プロジェクトにも光の当たっていない効果的な面があったこと、重要な技術の日本における普及のパターンとしては学界を通じての経路と草の根的な経路があったことなど、いままであまり明らかにされていなかつたことを記録に留めることができた。

【研究活動】

第1回研究会:2014年6月20日(金)

テーマ:Linux とBSDの普及の違いについて

要約 :産業界の好事家により草の根的に普及してきたLinuxに対して、学術的な人的ネットワークを中心として普及したBSDという違いが明らかになった。その違いが生じたのはなぜかについて議論を進めた。

【調査研究】

調査機関:2014年8月2日(土)~8月3日(日)

調査地域:京都

出張者 :飯尾淳、風穴江、八田真行

要約  :80年代後期のOSS関連技術は、京都大学を中心とした京都自由大学KABAというグループによって大きく発展した。本調査ではそのグループの一員だったメンバーにインタビューを行い、当時の状況を詳しく確認した。

「信頼感」の国際比較研究(2)

今年度は、1)「信頼感」についての尺度構成を行い、その結果は、中央大学社会科学研究所の今年度の年報に掲載されることになった(下記参照)。チェコ科学アカデミー付属社会学研究所にて「信頼感」に関して全国調査(2009年9月実施)の調査結果を踏まえ、チェコ国内での更なる意識調査の可能性について協議し、東欧における「信頼感」についての研究の動向と最近のチェコ共和国の統計資料収集をおこなった。2)多次元コレスポンデンス分析を主に8カ国(日本、米国、ロシア、フィンランド、ドイツ、チェコ、トルコ、台湾)間で行い、「信頼感」と「価値観」の関連性について総合的分析を行った。3)ロシアの調査結果を解釈するうえでロシアの文献の調査が必要となったため、研究成果についてロシア語の翻訳を行った。4)「信頼感」に関連する国内外の諸機関(NHK、内閣府政府広報室、読売新聞、朝日新聞、毎日新聞、博報堂、ミシガン大学のICPSRやRoperCenter等)で1978年以降実施された世論調査結果をまとめた資料集を刊行した。

【研究活動】

第1回公開講演会:2014年6月25日(水)

報告者:スカフ・ローレンス(ウェーン州立大学教授)

テーマ:「マックス・ウェーバーの合理性の理論とその意義」

要約 :合理性の概念と理論はウェーバーの見解の中核をなし、それらは多様な現象を説明するために用いられてきた。それでは、我々の合理性のプロセスをどのように理解できるのであろうか。合理性の理論の重要性は何でうろうか。簡潔にいって合理性は二つの傾向を助長する経験を知的に解釈(思考)することを意味する。それらは、①秩序だった生活様式についての実践的合理性と②考え方に応用する理論的合理性である。ウェーバーが理解するに実践的合理性と理論的合理性の結合は西洋文化の特有の合理性を説明する。合理性はまた二つの異なるセンスに用いられる。(1)発展の長期の社会的プロセスを特徴づける用語としての歴史的発展と(2)信念体系または理念体系の発展的論理を説明する語法としての論理である。両方のセンスはより内的に整合性をもち、理路整然となり、体系的、目的志向的となる行為、プロセス、または信念に関連する合理性の根源的概念を共有する。しかし、合理性は、同時に誘発的である。我々はウェーバーの著作を通じて,彼のカリスマ的支配の理論の中に、また、科学、知性、知識の追求の領域を含む価値、そして生活の秩序の異なる領域の構成の中に魔力からの解放と魔力の束縛のパラドックスを読み取ることができる。

第2回公開講演会:2014年7月2日(水)

報告者:スティーブン・メスナー(ニューヨーク州立大学教授)

テーマ:「犯罪とアメリカンドリームの影」

要約 :講演は、アメリカ社会において社会組織の中心となる特色、特にその文化と制度的構造がいかに絡み合って犯罪を誘発する社会的状況が生まれるのかについてである。アメリカ文化に関しては、アメリカンドリームが金銭的成功の追求が強調され、目標を達成するためには規範的に規定された手段が規範的であるかどうかに拘わらず、どのような手段を使っても有利でさえあれば文化的支持が得られる。そのような文化的志向がアノミーを生む結果となり、社会的行為の手段は文字通り非道徳的なものとなる。社会組織の他の中核となる要素ー制度的構造ーは、同じくアメリカ社会の特徴である。経済が他の制度を支配するとみなされている。それは、3つの原則的方法において顕在化している。①非経済的制度の役割に比べあまり価値を置かれていない。②人々はコンフリクトが生起した場所の他の制度の役割を経済的役割に適応させるプレッシャーを感じる。そして、③市場の論理は、他の社会生活の領域までも浸透する傾向がみられる。経済的支配はある程度他の制度を弱体化させることを意味し、他の制度の役割が魅力のないものとなり、人々の強力なアタッチメントを涵養することは難しくなる。したがつて制度的コントロールは弱いものとなる。弱体化した非経済的制度は人々の規範にしたがった行動に対しては、わずかな支持を与えるだけである。端的にいって、アメリカ合衆国の犯罪率の高さは、社会組織の根本的特色を反映しているといえる。文化におけるアメリカンドリームのエートスはアノミーを促し、規範的手段に比べ成功目標を過度に強調する。これらの文化的状況は制度的構造における経済的支配の支持を得、強化される。そのような社会組織は弱い文化的コントロール、弱い制度的コントロール、そして制度からのわずかな支持を得ることによって、高い重大犯罪率を生む肥沃な土壌となる。もし高い犯罪率がアメリカ社会の者ヵい組織に由来するとするならば、その犯罪率を減少させるためには、社会の再組織化が求められる。つまり、構造レベルで非経済制度を補強し、アメリカンドリームを根本的に再考することである。

第3回公開講演会(人文科学研究所と共催):2014年7月15日(火)

報告者:ミッシェル・ヴィヴィオルカ(フランス社会人間科学高等研究院教授)フランス人間科学館 院長

テーマ:「外国人労働者、統合か排除か、多文化主義の限界?」

要約 :移民大陸であるヨーロッパでは、外国人の受け入れ政策をめぐり統合か排除かが議論されてきた。アングロサクソン琉の多文化主義がヨーロッパは破綻したと宣言する政治指導者もいるのが実態はどうかについて説明した。

第4回公開講演会・研究会:2014年7月17日(木)

報告者:アダム・セリグマン(ボストン大学教授)

テーマ:「市民社会における信頼とその問題について」

要約 :講演は、(1)まず1980年代後半の東欧社会主義諸国で「市民社会論」が提起され90年代初頭に展開した政治・社会的背景とその論点が紹介され、(2)市民社会と信頼の関連に関する哲学的・社会学的な古典的命題が検討され、(3)異文化に対する旧帝国(オスマン・トルコ、パプスブルグ、オーストリア)の寛容性と近代国民国家の不寛容性が論じられた。このうち講演の中心をなしたのは(3)をめぐる問題で,質疑応答においてもこの点が大きく取り上げられた。講演者は(3)に関して特にフランス革命で唱えられた啓蒙主義的国家概念を問題とした。この国家概念によれば、社会の中間レベルで形成されていた諸集団(エスニシティ、等々)を文化的に解体し、ミクロレベルで個人を自由な独立とした主体とし、マクロレベルでその個人が国家につながる、というモデルが提起され、たとえばユダヤ人はユダヤ教などを媒介として成り立つ共同体を否定されて、抽象的個人として指定され、それが具体的個人としてフランス国民を編成する、というモデルが布かれた。講演者はこのモデルが現代の社会的・文化的葛藤の根源をなすとしているのではないかと問題提起した。

第5回公開講演会・研究会:2014年7月22日(火)

報告者:セルゲイ・クプレイチェンコ(ロシア国立研究大学院経済大学准教授)
ナタリア・アントノーバ(ロシア国立研究大学院経済大学准教授)

テーマ:「ロシアにおける社会的信頼研究」

要約 :ロシアで広告がビジネスとして発達しだしたのは、社会主義体制崩壊後の1990年代である。いろいろ試行錯誤を経た後、1998年頃から信頼という要素が広告活動で注目されるようになった。講演はまず、「信頼」の概念、要素、機能などの理論的整理が行われ、それらを踏まえて信頼と広告に関するロシアにおける社会心理学的先行研究の要点が示され、本題が提起された。本題は、広告の受け手が広告の内容規定に参加することによって、広告の心理的効果がどのように変わってくるか、という点に絞られた。まずはこれを実証的に明らかにするために実施された実験的研究の仮説、サンプル、方法が説明され、そこから得られた実証的知見が列挙された。そして総括的結論として、(1)受け手が広告内容に参加するかどうかは信頼という点では差はない、(2)熟慮するという能動的生活態度の天下は差がある、(3)参加することによって広告をよりオリジナルなものと評価する傾向がある、という点が打ち出された。質疑応答の中では、受け手が広告に参加する経路としてどんなものがあるかという質問に対して、現在ではネットを通じての参加にほぼ限られている旨の回答があった。俣、測定方法として用いられた尺度はアメリカの学界で開発されたものをそのままロシアで使って、ロシアの首魁的現実をどれだけリアルに分析できるか、という質問に対してハ、ロシアにおける社会心理学の研究が主としてアメリカの理論や方法に依存している現状が指摘された。

【調査研究】

(1)2014年12月にアメリカ(スタンフォード大学グリーン図書館)で「信頼感」と「価値観」についての文献検索を行った(科学研究費)

(2)2015年3月に佐々木がチェコ科学アカデミー付属社会学研究所にて世論調査部門主任のMartin Buchtik教授並びにPaulina Tabery研究員、そしてチェコ共和国における信頼感についての研究を行い最近『民主主義と信頼感』の著書を刊行したカレル大学Marketa Sedlackova教授に会い、同研究所に委託して2009年9月に実施した「信頼感」に関する全国調査結果について総括を行った。また、これを踏まえ、チェコ国内での更なる調査実施の可能性について協議すること、と東欧における「信頼感」についての研究動向と最近のチェコ共和国の統計資料収集を行った。(基礎研究費)

「ヨーロッパ研究ネットワーク」

研究活動としては、「3.11以降の『惑星社会』チームとして、活動を実施した。」

「フォーラム『科学論』」

2014年度は、諸般の事情により研究活動は実施しなかった。