社会科学研究所

活動報告(2011年度研究チーム)

2011年度研究チーム

「日本政治の構想と実践」

本チームは、幕末から現代までの日本政治の史的展開を対象とする。開国から150年、日露戦争から100年、そして敗戦から60年が経過し、日本の近現代をめぐっては、その史実をいかに現実の諸問題と関わり合わせて考えていくかが、今日の課題となっている。
 そこで、本チームでは、それぞれの時代状況において、人びとがいかなる問題意識を起点に、どういった構想を抱き、どう実践したのかという「日本政治の構想と実践」のプロセスを、改めて問い直していきたい。その際、背景となる社会の変化を総体として把握しない限り、政治事象の本質的な意義をつかむことはできない。そのため、政治を基軸に据えつつも、法律・経済・軍事・思想・教育・文化・地域・国際関係といった複眼的な視角も積極的に採りいれながら、検討を進めていく。こうした分析の積み重ねが、これまでの歴史像をとらえ直すとともに、日本政治の未来を切り拓く指針を手にすることにつながるといえよう。
 2011年度は、研究期間の最終年度であったが前年度と同様、各研究員が研究成果発表のための研究叢書原稿執筆のための準備期間とした。

「グローバル化と社会科学」

今年度は最終の研究期間を迎え、研究成果の公表に向けた取り組みの段階に入ったが、2011年3月の東日本大震災の発生に伴い、グローバルなリスク社会という視点から、災害に関する研究会を他の研究チームと共催で開催した。またグローバル化の研究に関しては、中国の経済発展との関連させたことも今年度の特徴となっている。年度末には研究合宿を実施し、研究成果の公表に関して、タイトルや全体的な構成、個々の執筆者のテーマに関して、検討して、公表の具体的な方法や内容を確認した。

第1回  公開研究会:2011年6月4日(土)(経済研究所「ネットワークと社会資本研究会」、政策文化総合研究所「21世紀世界秩序の展望」との共催)
講師 安部誠治氏(関西大学社会安全学部教授)
テーマ 東日本大震災による被害・影響と日本の課題
講師 舘野淳氏(元中央大学商学部教授)
テーマ 福島原発問題と今後の課題
   
第2回  公開研究会:2011年7月6日(水)(中央大学日中関係発展研究センターとの共催)
講師 福川伸次氏(元通産相事務次官、大平首相秘書官)
テーマ 私が体験した日中関係―日中関係の過去、現在、未来―
   
第3回  公開研究会:2011年7月30日(土)(経済研「ネットワークと社会資本研究会」、政文研「21世紀世界秩序の展望」との共催)
講師 十市勉氏(日本エネルギー経済研究所顧問)
テーマ 3・11災害と日本のエネルギー政策
   
第4回 公開研究会:2011年10月8日(土)(経済研「ネットワークと社会資本研究会」、政文研「21世紀世界秩序の展望」との共催)
講師 青山貞一氏(東京都市大学環境情報学部教授)
テーマ 環境と安全に配慮した持続可能社会のグランドデザイン
―岩手・宮城・福島被災地の現地調査を通じて―
   
第5回 公開研究会:2011年11月18日(金)
講師 毛利聡子氏(明星大学人文学部教授)
テーマ オルタ・グローバリゼーション運動の実践
―気候正義運動を事例として―
   
第6回 公開講演会:2011年11月19日(土)(経済研「ネットワークと社会資本研究会」、政文研「21世紀世界秩序の展望」との共催)
講師 杉田弘毅氏(共同通信社編集委員・論説委員、元ワシントン支局長)
テーマ 3・11を世界はどう見たか 
―世界の政治家・知識人とのインタヴュー―
   
第7回 公開研究会:2011年12月6日(火)(日中関係発展センターとの共催)
講師 文徳盛氏(中国大使館参事官)
テーマ 現代中国の政治と日中関係
   
第8回 叢書執筆のための報告会:2012年3月26~27日(月・火)

「多摩キャンパスの自然Ⅱ」

“多摩キャンパスの自然”のタイトルで、2度に渡ってキャンパスの自然を観察した。1度目の結果は、“多摩キャンパスの日常的生物環境”として生息・生育する生き物を、その場所と共に四季を追って纏めた。大切な絶滅危惧種や希少種については、それらの保全や増殖を試みた。ゲンジボタルやトウキョウサンショウウオは人工飼育で育て、放流して増殖を図った。2度目もそれらを継続し、生態系の保存に努めた。重点をおいたのは、当初からの懸案であった生息する昆虫の目録を作成したことで、その結果は“多摩キャンパスの日常的生物環境II. 昆虫相”に纏めた。また、キャンパスに鳴く虫の四季を辿り、また、シデムシ類の社会性にも言及した。その他、生態系については、“ホタル水路周辺における生態系の保全”に纏めた。トウキョウサンショウオやゲンジボタルは順調に増え、特にゲンジボタルは、中央大学が引越してくる以前のような、自然発生で見られるレベルにまで仕上げることが出来た。何時までもこの環境を、ホタルが飛翔できるよう保全したいものである。

研究活動

1.キャンパスにおける昆虫相の調査

2.ヤマアカガエルの生息環境への定着(継続)

3.トウキョウサンショウオの保全(継続)

4.ホタル水路における生態系の保全とゲンジボタルの自然発生の定着(継続)

5.発光器の研究

6.生物相リスト(オリジナル)への追加種(記載漏れの種)

調査研究

1.調査地 :出雲地方一帯

2.調査目的:出雲王朝の存在が注目される中、「出雲」地域一帯、取分け古事記や日本書紀の神話の世界に展開される歴史ドラマを踏まえ、神社等における貴重な植栽、御神木(巨樹)等の長い年月を経ての実態及び管理状況を、周辺生態系における植生や生き物の様相を通して理解する。また、古代文明、取分け“神話”を発祥させるに至った環境を、実際の遺跡や文化財を見聞して学び取ること。

3.調査期間:2012年2月20日(月)~2月23日(木)

「『満州』移民と地域社会の研究」

全国随一の満州移民、3万8000人を送出した長野県の中でも、南部の飯田伊那地域はその4分の1に当たる8,379人を送出した。その満州移民の調査研究をしている「満蒙開拓を語りつぐ会」の研究者との情報交換をしながら、国家的政策と、その政策を受入れ「村分移民」を受け入れた地域社会の実情を研究テーマとした。その具体的研究としては、宮下功(下伊那小学校長)の「満州紀行」について資料調査するとともに、「満蒙開拓を語りつぐ会」の研究成果を受け、昭和18年から終戦までの下伊那の現状分析研究をおこなった。
 また、朝鮮からの逆移民と地域社会ということでは、「松代大本営の保存をすすめる会」との交流と研究会を開催し、現地調査をしながら、戦時下における松代地域住民と朝鮮人労働者の諸問題について研究を深めた。

研究活動

(1)「宮下功 満州紀行」資料のコピー一部を、「満蒙開拓を語りつぐ会」のメンバーであり飯田市歴史研究所調査研究員である、研究院本島和人氏・斎藤俊江氏より提供され、その資料分析研究をした。今後も継続して、中央官庁政策との関係において研究協力を進める。

(2)合同研究会:2012年1月7日(土)~9日(月)

出張者:吉見義明、佐藤元英、菅原彬州、武山眞行、土田哲夫
講師:北原高子氏(松代大本営の保存をすすめる会会長)
講題:「松代大本営施行工事と地域社会問題」
討論会:保存運動と研究協力について
現地調査:松代の「象山地下壕」、「大本営御座所」(現地震研究センター)見学と「松代大本営の保存をすすめる会」収集資料閲覧を行った。

(3)「偽満州国政府広報」を購入し、満州移民に関する法的、行政的諸問題の研究を部分的に行ったが、次年度にも引き継がれる。

(4)寄贈資料の目録作成(朝鮮・満州に関する法規、行政等に関する文献)

「東京の社会変動」

今年度は来年度に予定しているチームとしての叢書刊行のためにさまざまな情報やデータを集めることに集中した。そのひとつは外国では東京についてどのようなイメージを抱いているかであり、研究会や講演会を通して知見をえた。もうひとつはどんどん数が少なくなっている「東京の銭湯」の最近の経営動向である。この点については川崎ゼミの学生の協力により、インタビュー調査からデータを得た。

研究活動

第1回 合宿研究会:2011年7月7日~8日(湯河原健康保険組合)
報告者:北芳、センヤチ
テーマ:「アジアからみた東京」
第1回 講演会:2011年9月27日(火)
講師:Francesco CERASE
テーマ:「東京とローマの社会生活(比較研究)」

調査研究

調査期間:2011年12月の数日
調査地域:東京の銭湯
出張者:文学部社会学川崎ゼミの履修生
東京の銭湯5つを選び、学生の協力のもとにインタビュー調査を行い、それを『調査資料集』としてまとめ、社研から刊行した。

「選挙と政治」

今年度は、選挙関連のデータを収集したり、そのデータの基礎的な分析をしたりに終始し、成果として形あるものにまとめられなかった。国政選挙のデータ、政治意識に関するデータ、また住民投票の資料、そして国際的なデータベースの個票単位での比較データなど、さまざまなデータに関して、分析している途中である。選挙と政治をめぐっては2009年以降に大きな変化があり、刻々と変化が続いている。2009年の民主党の政権奪取、その後の非常に速い民主党支持率の上昇と下降、2010年参院選での民主党への十分でない支持、繰り返される内閣支持率の上下と首相の交代、東日本大震災の復興と原子力発電所をめぐる諸問題、欧州債務危機を受けての円高と日本の膨大な政府債務への懸念、消費税増税を巡る議論の錯綜など、2012~2013年の衆議院選挙・2013年の参議院選挙、にむけて、大きな論点が次々に浮上している。これら(少なくともその一部)も絡めつつ、分析を進めようとしている。

研究活動

 研究員が全員参加する形での研究会を年度末に予定していたが、日程調整が難しく、今年度は開催できず、来年度の実施予定となっている。

「『信頼感』の国際比較研究」

我々の研究チームは、社会学の根幹をなす研究テーマの一つとして、長い間研究の対象となり議論されてきた「信頼感」について、比較研究を行ってきた。1953年から継続して実施されてきた「信頼感」を含む国民性に関する価値観調査や種々の国際比較調査、並びに既にわれわれが実施した7カ国(日本・米国・ロシア・ドイツ・チェコ・台湾・トルコ)の全国調査結果を踏まえて研究を遂行した。研究は社会科学の実証的研究の基礎となる理論モデルを構築する上で、多次元的尺度の確立が不可欠となるため、「信頼感」の国際比較が可能な尺度を確立することと、対人関係における「信頼感」の構造の解明である。
 この成果について佐々木は、「国際社会学機構(IIS)世界大会」(2012年2月、インド/ニュ―デリー)で論文“Social Trust among Seven Nations”を発表した。佐々木は、同年3月には「信頼感」についての最近の著書・論文・資料などの収集をスタンフォード大学グリーンライブラリーで行い、同大学社会学部の研究者と研究について協議を行った。また、 同年3月にはBrill出版社からTrust: Comparative Perspectivesを刊行した。現在「信頼感」に関する論文集を佐々木が中心になって準備を進めており、2012年度中に刊行する予定である。

研究活動

講演会:2011年6月1日(水)15:00~16:30
講師:ニー・ビクター、コーネル大学(アメリカ)教授
テーマ:「経済成長のボトムアップと国家の役割」

海外調査研究

2012年3月4日(日)~3月9日(金) 
調査地域:アメリカ・スタンフォード大学
出張者:佐々木正道
出張目的:「信頼感」についての新たな資料収集と、我々が2010年にアメリカで実施した調査の結果について同大学社会学部の研究者と討議を行った。

叢書執筆打ち合わせ(多摩キャンパス):2012年2月10日(金)~2月11日(土)
出張者:斉藤理(客員研究員)

「モバイル社会と若者」

本研究は、若者の携帯電話利用の実態を、そのパーソナル・ネットワークに焦点をあてながら分析することで、成熟期に向かうモバイル・メディア社会の将来像を具体的に構想することを目的としている。初年度の今年は、首都圏と地方都市の若者を比較調査することを予定していたが、震災後、研究会を開催することが難しかったため、首都圏を中心とした若者のモバイル・メディア利用の把握を中心とすることとした。そこで、電子メールで意見を交換しながら調査票を作成して首都圏の大学生を対象とした質問紙調査を実施し、次に、首都圏の大学生や高校生を対象としたグループ・インタビュー調査を実施した。3月には関西圏と首都圏の若者のモバイル・メディア利用状況の違いをテーマとした研究会を開催した。

研究活動

チーム研究会:2012年3月21日(水)
報告者:林真広(大坂大学人間科学研究科博士後期課程在籍)・辻大介(客員研究員)
テーマ:「若者のモバイル・メディア利用状況--首都圏と関西圏の比較」

調査研究

第1回:2011年11月(中央大学文学部・法政大学社会学部)大学生を対象とした質問紙調査を実施
第2回:2012年1月18日~27日(中央大学・法政大学・中央大学附属高等学校・法政大学中学高等学校)大学生・高校生を対象としたグループ・インタビューを計10回実施

「ヨーロッパ研究ネットワーク」

本プロジェクトは、ヨーロッパの研究機関・研究者と日本の研究機関・研究者との交流促進計画として独立した。すでに発足当時からイギリスのシェフィールド大学、フランスのエクス・マルセイユ第三大学とは研究交流があったが、2000年度にイタリアのナポリ大学“フェデリコⅡ世”社会学部、ローマ大学“ラ・サピエンツア”社会学部社会学科およびベルギーのブリュッセル自由大学ヨーロッパ研究所および社会学研究所と研究交流協定を結び、2001年度からさまざまな研究交流が始まった。また2001年から2004年にかけてはミラノ・ビコッカ大学社会学・社会調査学部との間で共同研究プロジェクトを実施した(これらの大学のうち、ブリュッセル自由大学およびミラノ・ビコッカ大学とは2003年度に全学協定を締結し、したがって前者と当研究所との研究交流協定は自動的に解消された。またナポリ大学との協定は、2008年度をもって終了した)。2009年度から、サッサリ大学との協定にむけての協議・研究交流を行っている。サッサリ大学との研究交流の一環として、「世界の島嶼地域の大学間ネットワーク(R.E.T.I.=Rete di eccellenza dei Territoriali Insulari)」 との交流を開始した。

「フォーラム『科学論』」

2011年度については、講演会等の実施は見送りとした。