保健体育研究所

スポーツ健康政策研究班

研究班概要

現代社会におけるスポーツは、個人が責任を負うべき「私的なもの」としての側面だけでなく、政府や社会が促進すべき「公的なもの」としても定位し、「スポーツ政策」として社会的に推進されてきている。そこで期待されているのは、教育や経済、健康、地域社会、国際関係、公正・平等といった多様な観点から顕現する社会問題の解決にスポーツが貢献することであり、政策的な「ツール」としてのスポーツが世界中で大きく注目されている。スポーツ健康政策研究班は、政策手段としてのスポーツに焦点化し、主にフィールドワークを用いて政策が展開される現地の目線から実態を理解し、スポーツによる社会問題解決の可能性に関して批判的に研究する。

2023年度研究計画概要

本共同研究班では、2023年度においては、下記の研究課題(3つの継続課題と2つの新規課題)に取り組む。

<継続課題>
  • 高齢社会におけるスポーツの活用可能性に関する研究(秋田市)
  • メガスポーツイベントをめぐるレガシーの実態調査(釜石市)
  • 山間部におけるスノースポーツの現状と課題(山形市等)
<新規の課題>
  • 人口減少地域におけるスポーツを通じたまちづくりの課題分析(佐久穂町)
  • 東南アジア地域におけるスポーツ開発の実態調査

過年度研究活動報告

2022年度

■研究会

①第1回共同研究班ミーティング
日時:2022年6月20日
テーマ:スポーツによる国際貢献事業の最新動向

②第2回共同研究班ミーティング
日時:2022年11月1日
テーマ:スポーツメガイベントによるレガシーの実態について

■現地調査

①地方都市におけるスポーツまちづくりの実態調査
日時:2023年3月9日〜3月10日
調査地:栃木県宇都宮市

2021年度

研究活動報告

■研究会
5月2日 信州におけるスノースポーツ(スノーバレーボール)振興の現状と課題について
6月27日 メガ・スポーツイベントにおけるレガシーについて
7月3日 保健体育研究所公開講演会に向けた事前打ち合わせ
9月12日 青少年のスポーツ環境のあり方について

■現地調査
10月1日~3日 地方都市におけるプロスポーツを通じた地域活性化プロジェクト調査(調査地:秋田県秋田市) 調査地:秋田県秋田市
2022 年3月11日~12日 地方都市におけるスポーツの普及・推進に関する調査(調査地:静岡県沼津市) 調査地:静岡県沼津市

■公開講演会
7月5日 「公開講演会」テーマ:メガイベントは開催都市に何を残すのか〜2019年ラグビーワールドカップを開催した岩手県釜石市のケースから〜 講師:向山昌利先生(流通経済大学准教授)
12月11日 「FLP期末報告会:共催」テーマ:スポーツの力で誰1人残さない「スポーツ×SDGs」の現在 講師:岸 卓巨 氏(一般社団法人A-GOAL代表)

2020年度

本年度においてスポーツ健康政策研究班では、下記の2つの観点から研究を実施した。以下、その活動の概要と成果を簡潔にまとめる。

①地方都市におけるスポーツの社会的インパクトに関する実証的研究
日本で最も高齢率が高い秋田を事例に、現地を拠点とするJリーグクラブ「ブラウブリッツ秋田」と連携し、アクションリサーチ形式で研究を進めた。コロナ禍という状況を踏まえ、スタジアムに足を運ぶことができないファンや、大学に通うことができていない大学1年生を対象に、オンラインイベントを実際に企画・運営した。イベントでは、オンライン会議システムを用いて顔をあわせながら一緒にサッカーを観戦し、参加者同士のコミュニケーションを促すことをねらいとした。参加者に対しては質問紙調査を実施し、サッカー観戦会というコミュニケーションの場がもたらす心理的な影響について測定することができた。なお、この研究課題に関しては、本共同研究班における継続的な研究テーマとして推進してきたものであり、次年度以降にも発展的な活動を展開することを計画している。翌年度に向けた事前打ち合わせに関しては、2021年3月に現地の協働者と対面で実施し、今後の協力関係や研究計画に関して意見交換ができたことは、今後の研究活動を円滑に進める上で重要な機会であった。

②メガイベントによるレガシーに関する調査研究
コロナ禍によって延期された東京2020オリンピック・パラリンピックの開催意義が問われる中で、本共同研究班では、「メガイベントとレガシー」という視点から研究を進めた。本年度は、既に実施された2019年ラグビーW杯にフォーカスをあて、当該大会で震災復興のシンボルとされた開催地である岩手県釜石市を事例に、大会を通じて開催都市には何が残ったのかという問いに関して検討を進めた。実際2021年3月には、2011年の東日本大震災で甚大な被害を受けた鵜住居地区でフィールド調査を実施し、当該事例に精通する研究班員の現地ガイドによって、現地住民が復興を前進させるために大会誘致に向けて動き出した経緯について情報を得ることができた。今後は、ラグビーW杯の釜石開催による成果と限界性に関して分析を深め、研究成果を共同研究班として社会に向けて発信していく方向性を確認した。

なお、本年度における主要な活動は以下の一覧の通りである。

日程 研究会内容
2020 年
9月26日
12月17日
12月28日
2021 年
1月24日
2月21日
3月8日
3月15日
3月17日〜19日
3月21日〜23日

ブラウブリッツ秋田×中央大学 オンラインイベント
ソーシャルキャピタル研究会(主催:日本大学稲葉研究室)での講演(出席者:小林)
研究会(テーマ:メガイベントと震災復興:先行研究の検討)

研究会(テーマ:五輪とレガシーをめぐるポリティクスについて)
研究会(テーマ:秋田出張に関する調査計画の検討)
研究会(テーマ:釜石出張に関する調査計画の検討)
研究会(テーマ:調査フィールドに関する事前情報の共有)
メガイベントと震災復興に関する実態調査(於:釜石市)
スポーツによる社会的インパクトに関する実態調査(於:秋田市)

2019年度

本研究班では、「①プロスポーツをプラットフォームとした社会的課題の解決」、「②農山間部における生涯スポーツ振興の現状と課題」、「③東京2020を契機としたスポーツ国際貢献戦略の推進プロセス」を本年の中心的な研究テーマに据えた。①に関しては、日本で最も高齢化が進む秋田を事例として、「元気な街あきた」の実現に向けたスポーツの活用可能性について検討を重ねた。Jリーグクラブ「ブラウブリッツ秋田」との連携によって各種の地域貢献事業を実際に遂行し、アクションリサーチという形でその取り組みの実態に関する基礎データを収集することができた。②については、農山間部の産業として重要視され続けている「スノースポーツ」を題材にしながら、その現状と課題についてのデータを収集した。これまでの本研究班の活動で蓄積してきたデータに対して、本年度の調査では、施設・設備の新設を通じてスキー場経営の改革に挑む石打丸山スキー場(新潟県)をケーススタディの対象とした。石内丸山スキー場では、ゴンドラとチェアリフトが一本のラインで運行できるコンビリフトを新たに導入しており、そうした高いホスピタリティを実現する最新鋭ハードを広報素材として積極的に活用し、観光誘客に臨むスキー場経営に関する現地情報を収集した。③は、東京2020オリンピック・パラリンピック競技会を契機に、日本のスポーツ政策として大きく動き出した「スポーツ国際貢献戦略」の実施プロセスについて検討するものである。この政策では、スポーツ・フォー・トゥモロー・コンソーシアム(SFTC)という官民連携プラットフォームを構築し、世界中に日本のスポーツ援助を届けることを目指しているが、本年においては、そうしたコンソーシアムにおける会合への参与観察を行い、その政策推進プロセスに関する一次データを収集することができた。
このように、これら3つの研究テーマについて、調査を積み重ねながらデータを蓄積できたことは、本年における本研究班の着実な活動成果といえる。なお、本年に実施した主な研究会や調査については、下記の一覧の通りである。

日程 研究会内容
2月14日
2月21〜22日
5月6日
9月6日
9月27日
9月29日
12月16日
 SFTC地域分科会in関西の視察
スノースポーツ実態調査(於:石打丸山スキー場)【調査出張】
研究会(年間の研究計画の検討)
ブラウブリッツ秋田共同プロジェクトの実施(講演会)
ブラウブリッツ秋田共同プロジェクトの実施(バレーボール大会)
ブラウブリッツ秋田共同プロジェクトの実施(各種ホームゲームイベント)
SFTC会員カンファレンス(於:青山TEPIAイベントホール)の視察