経済研究所

2018年11月28日開催 公開研究会開催報告 (非線形経済理論研究会)

2018年11月28日

2018年11月28日(水) 公開研究会を開催しました。

【テーマ】A Stylized model for the distribution of wealth

【報告者】Enrico Scalas (University of Sussex) 

【日   時】2018年11月28日(水)16:00~18:00

【場   所】多摩キャンパス2号館4階 研究所会議室3

【要   旨】報告者は数学専門であるが、従来から、経済理論への応用面で、統計力学の立場からinatary modelingによる富の分配モデルを作成している。本報告はこの脈絡で過去モデルを改良、一般化したものである。統計力学では、均質なエージェント(分子)が1個ずつコインを保有している状況から始めて、可換可能性により、分子の分布の組み合わせの数を無限に考えることができる。これはふつう分「割ベクトル」で表される。このような分子の分布でどれがもっともありそうな状態かを考えるのが、統計力学的な平衡分析であり、同じequilibriumという用語を使用しても、経済学の均衡分析とは意味内容が異なる。Finatary modelで定式化するので、エントロピー最大法は使わない。ここで、Bennati-Dragulescu-Yakovenko (BDY)モデルで、各分子をエージェントとみなすゲームを考え、それぞれは初期に同一のコインを保有しているが、ゲームにより勝者と敗者が生じ、コインの保有量の個人間分布が変化する。
 報告者は、このゲームが最終的にどのような平衡分布になるかをすでに2006年に議論している。今回は、coagulationとfragmentationの対照的な二つの力学を導入し、平衡状態に至るプロセスを研究した。Coagulationは2人以上のエージェントを吸収併合しストックを統合するプロセスであり、一方、fragmentationは1人のエージェントの持つストックを二つ以上に分解するプロセスである。これによって、エージェント数やストックが離散集合する力学モデルが、coagulation-fragmentationマルコフチェインモデルとして完成する。この平衡状態の解析はかなりむずかしいが、報告者は着実にモデル一般化に成功しつつある。この脈絡のモデリングは、故青木正直UCLA教授によって有名となっているが、報告者とUbaldo Garibaldi教授は独立的にこのモデリングを進めていたことが知られている。