日本比較法研究所

2018年度 講演会・スタッフセミナー 概要

テーマ:中国法における無権限会社保証契約について:比較法的視点から

近時、中国で問題となっている取締役の無権限担保提供に関する判例を詳細に分析し、とくに会社法上の問題を中心に、日本法との比較を行った。銀行が第三者に融資を行う場合に、ある会社の取締役が当該会社財産を無権限で担保提供する事例を取り上げて、会社法・銀行法・担保法が交錯する論点を整理し、それぞれの論点に関する学説と実務の見解を詳細に紹介した。中国の特徴として、中小の金融機関が融資する例が多く、銀行監督の視点だけでは帰省の実効性が担保されないこと、かりに「違法または貸付自体を無効とする」という結論を採用すると、実務に対する影響が大きいことが指摘された。

 

テーマ:国際法規範としての持続可能な開発の機能:解釈から手段の義務へ

本報告は、持続可能な開発の国際法規範としての性質を考察するものだった。この概念について多くの書物・論文が著されてきたが、その法的性質は依然として不明確である。持続可能な開発は法か? 法だとした場合、それはハードローかソフトローか? 慣習法か一般原則か? 隙間を埋める規範(interstitial norm)か? 新しい国際法分野を構成するものか? 本報告は、これらの具体的な問いへの回答を通じて、持続可能な開発の法的性質およびそれが国際法秩序のなかで果している機能を考察し、報告後、参加者との間に活発な質疑応答がなされ、有意義だった。

 

テーマ:性暴力事件における映像録画物の証拠能力

本講演は,韓国における性暴力犯罪の被害者に対する取調べ過程の映像録画物の証拠能力について,法律上の制度を概観しつつ,現職の裁判官である自身の経験に基づき実務の状況を紹介するものである。その概要は次のとおりである。
(1)刑事訴訟法では,被疑者及び参考人に対する取調べ過程の映像録画物については,本証または弾劾証拠として使用することが認められていない。一方,性暴力事件に関する特別法(性暴力犯罪の処罰等に関する特例法,児童・青少年の性保護に関する法律)では,同法に規定する被害者に対する取調べの過程は,原則として録音録画することが義務付けられ,この録音録画物は,被害者または取調べに同席した信頼関係者(両親,カウンセラー等)の公判手続における供述によって真正成立が認定された場合には,本証として使用することが認められている。
(2)以上のような特別法による特則に対しては,①被害者の一方的な供述によって有罪認定されることから被告人の反対尋問権が侵害される恐れがあるとの指摘や,②公判が捜査機関が作成したビデオの再生場になり公判中心主義に反するとの指摘がなされてきた。①の指摘については,被害者の二次被害の防止の必要性があるだけでなく,事件発生初期の被害者の供述を証拠とすることは必ずしも被告人にとって不利となるとは限らないとの反論があり,憲法裁判所も同制度を合憲であると解している。②の指摘については,映像録画物は調書に比べより細かい判断根拠が裁判所に提供されることから,むしろ公判中心主義や直接主義に資するとの反論がある。
(3)最後に,実務の状況として,まず,被害者が障害者または児童・青少年である場合はほとんど,映像録画物が証拠として取り調べられていること,映像録画物の再生より証人尋問のほうが時間がかかることから裁判遅延は大きな問題となっていないこと,映像録画物の取調べは非公開で行われる場合が多いことなどの点が挙げられる。また,裁判所としては,取調べの全過程を鮮明に観察することができ,信憑性判断の資料が増えること,法廷ではきちんと供述することができない場合が少なくないなかで,証人尋問より映像録画物のほうが時により具体的で豊富な供述を得ることができることなどの点で映像録画物の長所が実感される。そして,映像録画物が取り調べられたあとは,被害者に対する証人尋問を認めない実務例もあるが,映像録画物のみでは心証が形成されない場合などには,被害者を改めて証人尋問する場合もある。 

 

テーマ:国際環境法および持続可能な開発への手引き

英文のパワーポイントを用いてフランス語で行われた本講義は、「国際環境法の発達」「国際環境法の特徴」「国際環境法の鍵概念としての持続可能な開発」の3つの柱から構成された。第1の柱では、国際環境法を急速に発達させた諸要因、分野別・個別のアプローチ、国際環境法の全体論的性質が語られた。第2の柱では、国際環境法の法源、アクター、執行手段が語られた。第3の柱では、持続可能な開発の起源、内容、意義が語られた。講義後、出席学生との間で活発な質疑応答がなされ、有意義だった。

 

テーマ:憲法裁判所≠憲法裁判所―フランス憲法院とドイツ連邦憲法裁判所の比較的な観察―

 

 

テーマ:フランスの事後的違憲審査制―その特異な”先決”問題解決のあり方

フランスの事後的違憲審査制の導入後の実態、特色、課題について細かく説明。

 

テーマ:憲法における比例原則

29日午後2時から、中央大学法科大学院市ヶ谷キャンパス2号館9階模擬法廷において、「憲法における比例原則」と題する講演会が開催された。当日は、多数の大学(早稲田大学、新潟大学、埼玉大学、専修大学、一橋大学、慶應義塾大学、明治学院大学、法政大学、日本大学、学芸大学、拓殖大学、亜細亜大学、青山学院大学、大東文化大学、駒澤大学、桐蔭横浜大学他)から教員、大学院生ら約40名の参加者をえた。
比例制の原理(Verhältnismäßigkeitsprinzip)は、ドイツ基本権解釈論の最も重要なものであると同時に、世界中の多くの憲法裁判所ないし上級裁判所が、基本権が問題となる事案においてさまざまな比例性の原理を用いている。何がこの比例性の原理の成果をもたらしたのか。本講演では、これを二つの段階で検証する。第一の段階では、比例性の内容と、これに対する批判論が検討されている。第二の段階では、比例性の原理を採用したとされる連邦憲法裁判所の判例が具体的かつ詳細に分析されている。
当日の講演の前半では、従来ドイツの基本権解釈論には見られなかったペーターゼン先生の比例性の原理に関する連邦憲法裁判所の判例の数量的な分析が注目された。また後半の1時間30分に及ぶ質疑応答では、各大学のドイツ憲法の研究者から詳細かつ具体的な質問があり、ペーターゼン教授に、日本におけるドイツ憲法、連邦憲法裁判所の判例、あるいは基本権解釈論研究の水準の高さを示すことになった。

 

テーマ:行政法における比例原則

10月2日午後1時20分から、中央大学多摩キャンパス8号館8307号教室において、「行政法における比例原則」と題する講義が行われた。当日は、行政救済法を受講している学部学生のほか、大学院生および教員ら併せて約80名の参加者をえた。
比例性の原理(Verhältnismäßigkeitsprinzip)は、ドイツの警察法から生じた原則であるが、もともとは啓蒙主義に由来する考え方であることや、今日では、警察法領域における規制的な行政処分だけでなく、社会保障法領域などの給付行政における処分の統制のためにも用いられていることが明快に説明された。
1時間程度の講演の終了後、質疑においては大学院生だけでなく、学部の学生からも多くの質問がなされ、これに対してペーターゼン教授からは明快かつ丁寧な回答がなされた。質疑を通して、ドイツの行政裁判所が①目的適合性、②必要性、③相当性という比例原則の部分原則を厳密に適用することにより、行政処分の審査密度を高めていることなどについて、参加者は理解を深めることができたと思われる。

 

テーマ:家族関係事件に対するヨーロッパ人権条約第8条の意義

本講義は、10月1日(月)に実施予定だったが、台風の影響で、10月3日(水)に延期して実施した。
この講義の内容は、ドイツ法におけるヨーロッパ人権条約の位置づけおよび民事裁判所にとっての意義を明らかにする部分と、ヨーロッパ人権条約がドイツの家族法領域の問題について、どのような影響を与えているかを講じる部分に二分できる。前半部分では、ヨーロッパ人権裁判所とドイツ国内裁判所との関係についても説明が行われた。前半の基本構造理解を踏まえて、後半では、婚外子の法的地位、父母が共同生活を行っていないときの実子に対する父母の法的地位、代理母をめぐる法的問題、同性パートナー関係および性同一性障害者のパートナー関係の4つのテーマについて、ヨーロッパ人権裁判所の判断が概観された。
講義内容を踏まえて、講義を聴講した参加者(主に大学院生)からの質問に対するペーターゼン教授からの解説が行われ、講義内容の一層の理解に寄与するものになった。

 

テーマ:日仏共同セミナー・環境訴訟における日仏国内法と国際法「国際司法裁判所における環境訴訟」

日仏共同セミナー「環境訴訟における日仏国内法と国際法」において、マルジャン-デュボア氏を含め、4本の報告があった。
トュルーレ・マランゴ報告は、環境訴訟における原告適格、証明、因果関係の認定、判決の実効性確保の手法について網羅的に検討し、環境訴訟の実効的運用にむけた課題を提示した。
マルジャン-デュボア報告は、3つの国際司法裁判所の判決を取り上げ、環境保護の正当化、環境保護に課する国際慣習ルールの明確化、予防原則への対応、生物学的損害の論点を検討し、国際司法裁判所の判決が向かうべき報告を示唆した。
西海報告は、水俣病に係わる自らの体験から説き起こし、国際法及び日本法における予防原則の認知、適用のあり方を網羅的に検討し、予防原則の具体的な適用を実現する戦略、また、予防原則の規範内容の明確化の必要性などを主張した。岸本報告は、日本の実定行政訴訟制度を踏まえ、消費者保護領域及び環境保護領域における裁判例を検討して、利益の保護の必要がありながら、原告がいないという現象が生じている事態を指摘し(原告の不在)、その状況を改善するために、ドイツあるいはフランスの団体訴訟制度の導入が必要であることを主張した。

 

テーマ:オーストラリアのコーポレートガバナンス:法規制が忘れたもの

2017年12月に設立された王立銀行委員会は、オーストラリアのコーポレート・ガバナンス改革について提言しているが、そこで取り上げられなかった、株主の会社経営に対する意見を反映させるための制度(助言的提案)を紹介し、その拡大を検討した。出席者からは、日本における株主提案権との比較において、その範囲・拘束力についての質問がなされ、熱心な議論が展開された。

 

テーマ:アジア・ビジネス法と香港法

Say H. Goo教授は、本講演に先立つ11月23日に、日本比較法研究所創立70周年記念シンポジウム第2セッション「Corporate Governance Reform(コーポレート・ガバナンスの多様性)」の基調報告者として登壇され、基調報告を行っているが、本講義はそれを基礎として、主たる聴衆たる学生及び実務家に向けて、よりかみ砕いた議論を展開したものである。
Goo教授の講義は、これまでの株式会社のガバナンスにおいては、株主利益の最大化が追求され、そのために株主を代表する取締役が支配的地位を占めてきたことに対して疑問を提示し、他の選択肢を提案するものであった。すなわち、会社には株主(stockholder)以外にも多くの利害関係者(staleholder)が存在し、それらの人々の利益を代表する取締役の存在が必要であるとする提案である。同教授の提案に類似する既存の制度としては、ドイツ会社法における従業員代表の経営参加があるが、同教授は、利害関係者をより広く捉え、たとえば消費者の代表者、環境の代表者等々に取締役としての地位を与えることを提案する。
この提案の根拠となっているのは、会社が活動をするに際して、そのコストを「外部化」すること(たとえば、製造に伴う廃棄物処理コストを社会や政府に負担させること)で利益を上げるという経営が現にあり、これらを「内部化」している企業よりも競争有利であるという問題意識である。そこで、株主代表取締役は、外部化を積極的に進めることになるが、このことは、結果的に社会コストを増大させ、不均衡な競争を誘導するのであるから、たとえば環境を代表する者等を取締役会に加える多様性の確保が重要であるとされるのである。
本講義では、誰がそのような多様性をもった取締役となり得るのかという点についても議論が展開され、たとえば大学教員、法実務家、ビジネス人等を本人の同意を得て「人材データベース」に登録しておき、各企業がそこから適切な人材を選択するといったモデルの可能性が提示された。

 

テーマ:フランスにおける憲法優先問題(QPC)の動向

 

 

テーマ:審判所 : 形式、機能及び絶え間なき改革?

英国の審判所は通常の裁判所の代替物を提供すると考えられており、迅速かつ費用対効果の高い形態の苦情解決を提供するために、多様な個別法令のもとで形成された。審判所が引き続き上記機能を担いつつも、人権法の制定により、統一国家審判所サービス(NTS)が設けられ、審判所の制度的位置づけは変化し、大陸様式の行政裁判所に類似することとなった。審判所はルールに縛られた正式裁判所のようになったが、別個の専門室の保持によって、審判所が特定の政策分野における専門家の専門知識を維持することができた。審判所はまた、法的援助の削減や公聴会費の増加をもたらしたため、代替策として代替紛争解決(ADR)方法が奨励されている。さらにオンラインでの紛争解決(ODR)が最近導入され、これにより最終的には、多くの事例がオンライン手続を使用して処理されている。こうした発展は、口頭審理に基づく以前の標準的な当事者対抗主義モデルから離れることを意味し、法的文化の根本的な変化を示すものである。

 

テーマ:米中貿易紛争とサプライチェーンのベトナム・マレーシアへの傾斜

当日は、アジア地域においてクロスボーダー法務の最前線で活動すると同時に、複数の大学で法学教育に従事しているJeff Jeong弁護士から、まず、トランプ政権後のアメリカと中国の間の紛争の多様な側面について紹介がなされた上で、それがトランプ大統領の個人的な資質に起因するかという議論とは別に、こうした経済・貿易紛争は過去においても何度も生じており、その際には、係争当事国の企業が域外に活動を移転するという現象が見られたことに着目して、今回の紛争を検討するという作業がなされた。 Leong弁護士によれば、今回も同様の現象が生じており、具体的にはベトナムとマレーシアへのサプライチェーンの移動が顕著であることが示された。
質疑においては、アジアの他法域(インド、フィリピン等)に比してなぜベトナムとマレーシアに当該現象が生じるのかといった点や、マレーシアにおける近時の動向としてのイスラム宗教国家化を主張し、シャリーア裁判所を導入しようとする政党が引き起こしうる法的不安定性等について議論がなされ、地政学的要素が法システムと不可分に結合していることが、具体的事例をもってよく理解された。

 

テーマ:治療中止における作為と不作為の区別

刑法上の解釈における作為と不作為の区別については、日本においても、また、ヨーロッパの諸国においても問題となるところ、医療の場における人工呼吸器の取り外しは作為なのか、不作為であるのか。この点について、わが国と異なる解釈をとるスイスの立法状況ならびに現状に関しての報告がなされ、報告への質疑応答をもとに、報告者・参加者において活発な議論が交わされた。

 

テーマ:組織的臨死介助と刑法

ドイツのディグニタスは自死を援助する臨死介助協会として多くの会員を集めているところ、日本からも会員となって自死した例が報告されているという状況があるなか、報告では、同機関の成り立ち文化的・社会的背景や法的問題と対応、そして今後の問題点等が紹介されたが、この問題は日本の終末医療の今後を考えるうえでも非常に有意義であることから、報告への質疑応答をもとに、報告者・参加者において活発な議論が交わされた。

 

テーマ:スイスにおける臨死介助

ディグニタス、イグジット等、近年、安楽死を望む患者の自死を援助する臨死介助協会の活動が社会的な問題として取り上げられ、注目を集めているところ、本授業では、これらの問題も取り上げながら、スイスにおける臨死介助の状況とその問題点、課題について紹介がなされ、わが国における生命倫理と法の議論を考えるためのひとつの材料が提示された。これに対して、受講生からも質問が出て応答がなされるなど双方向的授業となった。

 

テーマ:正当化緊急避難と連帯原則

台湾、ドイツ、日本において、緊急避難の要件はそれぞれに異なっているが、その具体的な相違点はなにか、また、その背景はどのようなものか。講演では、この刑法解釈学上の相違をテーマに、また、緊急避難の同一法益主体についても取り上げながら、比較法的な見地から検討が加えられた。

 

テーマ:中国刑法的正当防卫中的法益衡量问题

台湾、ドイツ、日本における正当防衛の概念は必ずしも同じではなく、したがって、刑罰法規の適用の場面もまた異なっているが、そもそも、その相違はどのような考え方の相違に導かれて生じているものであるのか、根本的な正当防衛権のあり方はどのようにあるべきか。講演では、そのような問題について、広く比較法的な見地から検討が加えられ、翻って台湾における同問題の今後について報告が行われた。

 

テーマ:研究不正とその結果 実務の経験と判例の要請

ドイツにおける研究不正への対応について、統計データが整備されていないことを指摘した上で、次のような論点を広範に分析する講演であった。すなわち、研究不正の審査機関の分散構造と集中化の可能性、研究不正の判断基準の一元性と多元化の必要性、研究不正の原因および対策対象として個人的要素と組織上の要素を考慮する必要性、そして研究不正の判断および対応における法的手続と学問のプロセスとの関係等である。

 

テーマ:スポーツ法専門弁護士に求められる資質ープレーヤーの視点も併せて

 

 

テーマ:ドイツおよびEUにおける弁護士社団法の動向

 

 

テーマ:ダ-クネットにおける犯罪捜査

インターネットの下層サイトであるダークネット空間においては、合法的な取引が行われることがあるが、ダークネットにおいては、犯罪が発覚しづらい特性を利用して、犯罪者は、ダークネット空間において種々の違法な取引を行っていること、アメリカ合衆国、ドイツにおいてダークネットにおける取引によって犯罪が遂行された一例が紹介された。その後、ドイツの捜査・訴追機関は、現行法の規定の枠内で対処してきたこと、ドイツでは新たな法改正によりこのような犯罪に対する捜査・訴追の可能性が広がったものの、実務上は必ずしも効果的ではないといった点も明らかとなった。

 

テーマ:EU及びドイツにおけるサイバー犯罪捜査

EU、とりわけ、ドイツにおける組織犯罪の現状を明らかにしたあと、組織的背景で行われる犯罪現象はサイバー犯罪とオーバーラップすることから、サイバー犯罪、とりわけ、国境を越えて行われたサーバー犯罪に対する捜査・訴追の在り方についても議論が及び、EU及びドイツにおける組織犯罪・サイバー犯罪対策の対象には児童ポルノに対する対応が重要になってきたことが明らかとなり、その後の質疑応答・議論においては、英米法とドイツ法におけるこれらの犯罪対策の比較検討が行われた。