研究

令和元年度 中央大学学術研究奨励賞受賞者一覧

(順不同・敬称略)

氏名
(ふりがな)
所属身分
研究業績等の内容(要旨) 他機関からの受賞
○受賞名
○授賞機関
○受賞日
奨励賞推薦理由(要旨)
赤羽 淳
(あかばね じゅん)
経済学部・教授
本書は、アジアローカル2次サプライヤーを対象として、それらの企業群の能力構築と進化経路、およびイノベーションプロセスについて論じた学術書である。これまでの日本における自動車関連サプライヤー(部品企業)の研究に関しては、日系の1次サプライヤーが主に研究対象とされてきた。その理由は、1次サプライヤーが自動車の製品開発に大きなインパクトを与えており、また日系サプライヤーの情報が比較的得やすいためである。
しかし、2000年以降、日本の自動車メーカーのグローバル化が進展し、とくにアジアにおいては、効率的なサプライチェーン構築のために、現地サプライヤーを活用した「深層の現地化」が求められるようになっている。本書は、これまで注目されてこなかったアジアローカル2次サプライヤーの能力構築に焦点を当てたという点において、貴重な学術研究といえる。
本書の学術上の意義は、以下の四点にある。第一に、1次サプライヤーに関する先行研究の蓄積をもとに、2次サプライヤーの能力構築に適する独自の評価枠組み(製品設計・工程設計・ドメイン設計という3軸の評価枠組み)を開発した点である(序章、第1章)。第二に、自動車産業の発展段階、市場特性、サプライチェーンの構造が異なる日本、タイ、中国のローカル2次サプライヤーを訪問調査し、上記の評価枠組みによって彼らの能力構築を定量的、定性的に評価した点である(第2章)。第三に、訪問調査したサプライヤーのなかで、とくに評価の高いサプライヤー(エクセレントサプライヤー)をとりあげ、ケーススタディを行い、その能力構築や進化経路を詳細に明らかにした点である(第3章、第4章、第5章)。第四に、日本、タイ、中国の2次サプライヤーのイノベーションの特性を比較分析するとともに、本書の分析結果にもとづいて、日本の自動車メーカー、1次サプライヤーの調達戦略に対して、実務的な提言を行った点である(第6章、終章)。
○中小企業研究奨励賞
○商工総合研究所
○2019年2月21日
中小企業研究奨励賞は、商工中金の創立40周年を記念して、昭和51年に創設された歴史と権威のある賞であり、日本国内の中小企業に関する図書または定期刊行物に発表された論文を対象としている。これまで数々の国内の著名な研究者が受賞者に名を連ねており、同賞は中小企業研究における名誉ある賞である。
2018年度は合計96点にものぼる応募があったが、本学経済学部の赤羽淳教授(受賞時は准教授)らの著作『アジアローカル企業のイノベーション能力』は、アジアローカル企業に注目したユニークな視点および足掛け6年に渡る実態調査が評価され、受賞に至った。
同著において、赤羽淳教授は、序章、第1章、第2章、第6章(共同執筆)、終章を執筆するとともに、全体を編集するという中心的な役割を担っている。なお、同年度において同賞を受賞した著作は、赤羽教授らの著書を含めて4点のみ(経済部門からは2点)であった。
同著は、産業学会の『産業学会研究年報』、アジア政経学会の『アジア研究』、ジェトロ・アジア経済研究所の『アジア経済』において書評が掲載される予定となっており、同書は中小企業研究という枠組みにとどまらず、産業研究やアジアの企業研究において学術的に大きな注目を集めている著作である。
中川 康弘
(なかがわ やすひろ)
経済学部・准教授
日本の大学に在籍する学部留学生は、学内において、「留学生」という集団的カテゴリーのイメージに基づく周囲からの「まなざし」をどう捉え、自らの存在を示そうとしているのか。本研究は、この関心に基づき、アジア圏出身の学部留学生3名(ミャンマー、中国、ベトナム出身者)を対象に、先行研究を踏まえながら学内での人間関係、および授業での立場等について聞きとりを行ったものである。
調査の結果、学内での人間関係について、3名はそれぞれのやり方で「まなざし」を捉え、自己の存在を示そうとしていた。だが日本人が主流となっている授業での立場については、日本語能力に加えて、「留学生」というカテゴリーから抜け出せず、自己の承認欲求と「まなざし」との間で葛藤を抱えていることがわかった。
○2018年度優秀論文賞
○留学生教育学会
○2019年8月23日
本論文は、留学生が周囲からの「まなざし」をどのように捉え、自らの存在を示そうとしているかを、留学生自身の語りを通して明らかにしたものです。
留学生が増加する一方,大学によっては留学生が周縁化される傾向も見られる中、留学生が周囲のまなざしをどう受け止め、対応しようとしているかを留学生自身の語りを通して明らかにした本論文は、留学生を受け入れている大学教育の関係者にとってきわめて興味深い論考です。本論文では、出身国および人的ネットワークが異なる3名の留学生が、留学生同士の関係性の中で、どのように自己の存在を示そうとしているかだけでなく、日本人学生とともにある「授業」という集団の中では「まなざし」から逃れることが難しいことも明らかにしています。このことは、日本の大学におけるこれからの留学生教育のあり方を考える上で極めて重要であり、調査によってそれを指摘した本論文の意義は大きいと言えます。
学会誌編集委員会の講評では、上記の理由に加え、論旨が明快で新規性も高く、今後の研究の発展が期待できる優れたものだとして全会一致で優秀論文賞に選出しています。
以上のことから、学術研究奨励賞候補者として中川康弘氏を推薦するものです。

村上 弘毅
(むらかみ ひろき)
経済学部・准教授
受賞対象は、以下の2編の論文(いずれも単著)である。(1) “Existence and Uniqueness of Growth Cycles in Post Keynesian Systems”, Economic Modelling 75, pp. 293 – 304, November 2018.  (2) “A Two-sector Keynesian Model of Business Cycles”, Metroeconomica 69 (2), pp. 444 – 472, April 2018. いずれも、高度な数学を用いたケインジアン(ケインズ派)のマクロ経済動学を発展させた理論的研究であり、海外で発行されたレフェリー制の理論経済学の英文ジャーナルに掲載されている。 ○第10回経済理論学会奨励賞
○経済理論学会
○2019年10月19日
村上弘毅氏が本年10月に受賞した「経済理論学会奨励賞」は、「経済学の基礎理論の研究において優れた成果をあげた新進研究者の顕彰のために」経済理論学会によって設けられた賞であり、「募集締め切り時を基準に過去3年以内に公表された著作で、公表時点でその著者が経済理論学会の40歳以下の会員であるもの(論文、著書)」を対象としています。受賞対象になった2本の英文論文はいずれも、2018年に国際的に評価が高いレフェリー制の理論経済学の専門ジャーナルに掲載された、高度な数学を駆使したケインジアンのマクロ経済動学理論に関するオリジナリティの高い研究成果であり、国際的にも高く評価されています。
以上の理由により、本学経済学部准教授の村上弘毅氏は今年度の中央大学学術研究奨励賞候補者としてふさわしい学術的業績をあげた人物と考え、推薦致します。
阿部 雪子
(あべ ゆきこ)
商学部・教授
納税義務がいつ発生するかという所得の課税時期の問題は、租税法にも実務においても重要な問題である。所得の課税時期を先送りにするいわゆる「課税繰延べ」は、わが国では土地税制における交換・買換えや合併・分割等の組織再編成税制において、一定の要件をみたす場合に認められるが、特に土地税制においては課税繰延べの技術を単に政策的手段とのみ考える傾向が強かったという経緯もあって課税繰延べの法的根拠という観点からはほとんど議論されてこなかった。しかしながら、課税繰延べの規定は、租税負担軽減として濫用され得る余地があることに鑑みれば、常に、その理論的根拠を意識すべきである。
このような問題提起の下で、候補者は、今回受賞対象となった『資産の交換・買換えの課税理論』(中央経済社、2017)において、まず土地税制における課税繰延べの意義を所得概念の議論の中で捉え、所得の実現と実現した所得の課税繰延べという法理論から明らかにする。その上で、わが国の企業組織再編税制や土地税制にも大きな影響を及ぼしているアメリカ連邦所得税制の課税繰延べ規定との比較法的研究に基づいて、わが国の土地税制の課税理論を中心に考察し、課税繰延べの濫用や混乱の生じる可能性のある規定については、租税回避防止の立場からその適用要件の再検討を試みたものであり、本書の分析は、わが国の土地税制の議論に寄与するところが大きい。本書は、特に交換・買換えの場合の土地税制における課税繰延べ規定に焦点をあて、制度論及び解釈論上の問題について「同種要件」、「保有目的要件」、「交換要件」の3要件の観点から詳細に分析しているが、このような角度からの検討は初めての試みであり、今後のわが国の土地税制の議論の展開において重要な意義がある。
○日本不動産学会学会賞・著作賞(学術部門)
○日本不動産学会
○2019年12月7日
日本不動産学会は、不動産に関する総合的かつ学際的な研究・教育の促進を図り、その成果を社会に提供する事業を行うことをもって、学術の振興と国民生活の向上に寄与することを目的とする組織である。今般、候補者が受賞した日本不動産学会学会賞・著作賞(学術部門)は、不動産学の発展に対して著しい貢献をしたと認められる学術的な著作の著者を対象に授与される賞である。資産を移転するか否かを決定する場合に、租税負担の影響は重要なファクターであり、とりわけ事業承継のための事業用資産の交換や個人の居住用資産の買換えは、その取引事例が多いことやその取引価額が高額となる事例が多いことから、本書の交換・買換えにおける課税繰延べ理論の研究は、不動産学の分野において理論的にも実務的にも極めて重要な意義がある。その意味で、本書は、不動産取引に対する課税のあり方についての大きな研究成果として評価できるのである。
最近の土地の高度利用や空き家の解消等の不動産をめぐる諸問題の検討にも課税繰延べの理論が重要な意味をなすのであり、このことから、本書が日本不動産学会において租税法分野のみならず不動産学の分野においても大きく貢献し、発展性が高いものとして評価された。以上の理由から、候補者の研究業績は本学学術研究奨励賞に相応しいものとしてここに推薦する。
鯉渕 賢
(こいぶち さとし)
商学部・教授
『Managing Currency Risk』(Edward Elgar)は、鯉渕賢教授が、伊藤隆敏コロンビア大学教授、佐藤清隆横浜国立大学教授、清水順子学習院大学教授との共著として、RIETIの研究プロジェクト「為替レートのパススルーに関する研究」(2011〜2013、2013〜2015)の研究成果をまとめた書籍である。本書では、「これまで『円の国際化』が試みられてきたにもかかわらず、なぜ日本企業には円建て取引が広がらないのか」という謎について検証している。本書の特色は、日本の本社企業と海外現地法人の貿易建値通貨選択と為替リスク管理、特に近年注目されているサプライチェーンや企業内貿易における建値通貨の選択に関する情報を、独自のインタビュー調査やアンケート調査に基づいて収集し、実証分析を行った点である。この調査は2007年から継続的に行っているもので、企業の実態を示す情報として希少性が高く、また実証分析においても丁寧で適切なデータの取り扱いや分析を行っている。
分析の結果、日本企業は、先進国向け輸出では、競争の厳しい現地市場の販売価格を安定させるため、現地通貨を建値通貨として選択する一方で、アジア向け輸出では、建値通貨は現地法人(生産拠点)からの輸出先に影響されており、最終輸出先が米国であれば米ドルに統一される傾向があることが明らかとなった。また、企業規模が大きくなるほど、海外現地法人との取引を米ドル建てで統一し、企業グループ全体における為替リスクを本社に集約して効率的に管理する傾向を確認した。
本書では、こうした分析結果をもとに円の国際化の意義を改めて論じるとともに、人民元の国際化への教訓も示している。Edward Elgar社から出版されており、日本企業の為替管理に関する他に例のない研究を世界に提供するものとして、学術的にも政策的にも重要な貢献をしている。
○第62回(2019年度)日経・経済図書文化賞
○日本経済研究センター・日本経済新聞社
○2019年11月7日
日経・経済図書文化賞は、経済および経営・会計分野の学問、知識の向上に貢献すると共に、その一般普及・応用に寄与することを目的として、昭和33年に設立された伝統あるものである。経済および経営・会計分野では、すべての学会に関連する、その対象期間を代表する図書に対する表彰として、非常に高く評価されている(今回の対象は、2018年7月1日から2019年6月30日までに刊行された日本語の経済・経営図書、または2018年1月1日から同年末までに刊行の日本人著者による外国語図書)。
第62回日経・経済図書文化賞を受賞した『Managing Currency Risk』(Edward Elgar)は、鯉渕賢教授が、伊藤隆敏コロンビア大学教授、佐藤清隆横浜国立大学教授、清水順子学習院大学教授と共著で発表した。これはRIETIの研究プロジェクト「為替レートのパススルーに関する研究」(2011〜2013、2013〜2015)の研究成果をまとめた全7章からなる労作であるが、最初の調査が実施された2007年から12年間にわたり、継続的に行われた4名による共同研究の結果である。
本書を著すにあたり、鯉渕賢教授は、中心的な役割を担っている。すなわち、イントロにあたる第1章(Introduction)、本社企業に対するインタビュー調査とアンケート調査の結果を基にした、本書の主要な分析結果である第3章(Findings from interviews with globally operating Japanese Firms)及び第4章(Analysis of questionnaire surveys on head offices)について執筆をしている。全7章のうち3章を執筆しており、鯉渕賢教授が大きな貢献をしていることは明らかである。また本書の一部について、日本金融学会2014年度秋季大会で報告を行うなど、主要な分析及び執筆を行っていることは、学会でも広く認知されている。
またEdward Elgar社との窓口役として、とりまとめを行ったのも鯉渕賢教授である。日本企業の為替管理に関する他に例のない研究成果が、英国の出版社から刊行されたことも、鯉渕賢教授が調整に尽力した結果である。
日経・図書文化賞は学会を超えて高く評価されており、それを受賞した『Managing Currency Risk』(Edward Elgar)で鯉渕賢教授は、調査・研究においても、執筆においても、中心的な役割を果たしている。その功績は高く表彰されるべきものであり、中央大学学術研究奨励賞候補者として推薦をする。
高見澤 秀幸
(たかみざわ ひでゆき)
商学部・教授
高見澤氏は、パネル状になっている金利データの時系列と横断面を統合的に記述できる無裁定金利期間構造モデルを提案、従来金利水準に関する説明力とボラティリティに関する説明力についてトレードオフ関係にあった既存モデルの記述力よりも高いことを実証し、この成果を学術的評価の高い海外学術誌『Quantitative Finance』に掲載した。 ○第7回丸淳子研究奨励賞
○日本ファイナンス学会
○2019年6月22日
丸淳子研究奨励賞は、選考時点から過去3年程度においてInternational Review of Finance、「現代ファイナンス」、および海外において発行された学術誌等に優れた論文・著作を公刊した、概ね45歳以下の日本ファイナンス学会正会員に贈られる。高見澤氏の受賞は、以下の点から特筆すべきものである。(1)丸淳子研究奨励賞の過去の受賞者には、日本を代表するファイナンス分野の研究者が名を連ねている、(2)今回の受賞に関する審査員のコメントを見ても非常に評価が高い、(3)日本金融学会や日本ファイナンス学会などの日本の主要な金融系の学会の賞は非常に希少である。
以上により、高見澤氏の業績は本学学術研究奨励賞にふさわしいものであり,奨励賞候補者として推薦する次第である。
西村 陽一郎
(にしむら よういちろう)
商学部・准教授
本研究では、日本において、特許化や営業秘密化という2つの保護手段が、研究開発集約的な中小企業のパフォーマンスに正の影響を与えるかどうかを分析した。分析結果によれば、特許化は、企業の実質売上高に有意にプラスの影響を与えていることが明らかとなった。一方で、営業秘密化は、実質売上高に有意にマイナスに作用している結果を得た。最後に、特許審査請求料・特許料減免制度は、制度利用の適用条件付近で観察した場合、企業の特許化をより促進させる一方で、営業秘密化を減少させるという役割を果たしていることが明らかとなった。 ○優秀論文賞
○日本知財学会
○2019年12月7日
【受賞した賞の概要】
日本知財学会は知財を生み出す研究者やそれを利用する企業の経営者が中心になって、ニーズ指向の知財学を振興するために設立された学会である。本学会では、知的財産に関する学術研究の奨励を目的とし、前年度に発刊された日本知財学会誌に掲載された投稿論文のうち優れた研究論文の表彰を行っており、日本知財学会誌編集委員による推薦に基づき、編集委員会において合議により選考を行っている。
【貢献】
本候補者は、本推薦研究論文において、イノベーションを保護する2つの手段(特許化・営業秘密化)の効果を分析しており、本分析は企業の持続的な競争優位性という極めて重要なテーマに示唆をもたらす点で大変意義がある。また、本推薦研究論文では、中小企業を対象とする特許料減免制度の効果といった特許政策の効果分析をも実施している点でも大変意義がある。最後に、リサーチデザインにおいても①内生性の問題を緩和し、②特許化可能な発明のみを分析対象とすることで理論モデルの想定と乖離しないようにし、③中小企業のみを分析対象にすることで企業パフォーマンスに影響を及ぼしそうな他の要素をできるだけ除くことで、より純粋に各保護戦略の効果を検証できる様な工夫を候補者は行っている点でも評価できる。
【候補者の研究での役割】
本推薦研究論文は、西村(2010)のリサーチアイデアに基づいて分析がなされている点で、本推薦者は本研究において必要不可欠な役割を担っていると認められる。
以上より、知的財産に関する学術研究の発展に寄与したと認められるため、本候補者を中央大学学術研究奨励賞に推薦する。
村上 研一
(むらかみ けんいち)
商学部・准教授
受賞対象は論文「「輸出大国」の行き詰まりと地域循環経済への課題」(『政經研究』第108号、2017年6月刊、所収)である。本論文では、資源輸入を前提に輸出依存的成長を続けてきた日本産業の成長が限界を迎えている今日、各産業の特性を踏まえつつエネルギーや食料などを中心に地域循環経済へと転換をはかることで、より安定的な産業・経済のあり方が展望されている。論文の概要は下記の通りである。
戦後日本経済は、資源輸入に便利な臨海部に建設された重化学工業を軸に、高度成長期には設備投資を主軸に「投資が投資をよぶ」急速な経済成長を遂げた。一方、輸出を拡大させた重化学工業分野において欧米諸国との貿易摩擦が深刻化する中で、農業市場開放が進み、食料輸入が増加した。このような成長を通じて、日本の貿易は、電機・自動車を中心にした重化学工業製品の輸出が、資源・エネルギー・食料の輸入とともに増加した。
高度成長が終焉を迎えた1970年代から80年代にかけて、石油価格上昇や変動相場制移行に伴う円高など、日本の輸出産業にとって不利な条件下にありながら、自動車・電機産業を中心に輸出依存的成長を遂げることができた。こうした成長を可能としたのは、「減量経営」を通じたコストダウン、生産の拡大に比して雇用や下請け単価の抑制を通じた国際競争力強化であった。こうしたコストダウンは賃金停滞を通じて内需の抑制を招いたため、日本経済は国内消費に比して過剰な国内生産を輸出によって処理する輸出依存的性格が深化した。さらにバブル崩壊を経た1990年代、とりわけ米国がドル高転換を遂げた95年以降、経団連が「新時代の「日本的経営」」を提起し非正規雇用が拡大したが、2000年代にかけて日本の輸出産業は、こうした非正規雇用の利用を通じたコストダウンを推進力に、再び輸出依存的成長を遂げた。このように日本経済が輸出依存的成長を遂げてきた一方、エネルギー・食料輸入は拡大しており、重化学工業品輸出を通じて獲得した外貨によって資源・エネルギー・食料輸入を可能とする貿易構造が定着した。本論文では、こうした産業・貿易構造について「輸出大国」と捉えられている。
2010年代、こうした「輸出大国」は限界を迎えている。複数の大手電機メーカーの経営破綻に象徴されているように、日本の電子・電機産業の国際競争力は急速に低下している。さらに、日本メーカーがなお国際競争力を保持している自動車産業についても、サプライチェーンごとの海外移転を通じて、完成車のみならず自動車部品分野でも貿易収支の黒字が減退している。円安下での貿易赤字拡大に象徴されているように、資源・エネルギー・食料輸入額が増大する一方、電機・自動車など輸出産業、とりわけ量産分野での貿易数量の伸びが停滞している。すなわち、産業競争力低下・産業空洞化によって、輸出産業の稼ぐ外貨が資源・エネルギー・食料輸入額を賄いきれない状況に陥っており、本論文では「「輸出大国」の行き詰まり」と評されている。
こうした状況からの打開策として、地域循環経済への転換が提起されている。上記のように戦後日本の重化学工業は、資源・エネルギー輸入を前提とし、さらに食料輸入も増大してきたが、こうした輸入を支えてきた重化学工業の国際競争力が失われつつある。そこで、高度成長期以降の成長の中で切り捨てられてきた国内のエネルギー・食料生産の回復、地産地消をはかり、これを軸とした地域循環経済への転換によって輸出に代わる内需の充実と産業発展の新しい展開の方向性が提示されている。とりわけ近年の産業技術発展の中で再生可能エネルギーの利用拡大・低廉化が可能になっており、再エネ・省エネ投資が地域循環経済において果たす役割の高まりが展望できる。さらに、東北地域産業連関表を利用して、同地域がエネルギー・食料の生産拠点としての役割を高めることによって、域内経済循環が可能であることが明らかにされている。
○第3回『政經研究』奨励賞
○政治経済研究所
○2019年11月13日
公益財団法人 政治経済研究所(以下、政治経済研究所と略記)は、1938年9月1日に企画院の外郭団体として設立された財団法人 東亜研究所(総裁・近衛文麿)の資産を受け継ぎ、財団法人 政治経済研究所として1946年8月14日に設立登記がなされ、11月1日の開所式をもって創立した。所長の末弘巌太郎を中心として大内兵衛、平野義太郎、近藤康男、森戸辰男、小林義雄、金森徳次郎といった錚々たる方々が所属し、以来、日本の未来を見据えて、政治・経済領域を中心に研究活動を続けてきた。政治経済研究所は1951年に文部科学省指定の民間学術研究機関となり、さらに2011年10月11日の設立登記をもって公益財団法人 政治経済研究所へと名称を変更し、移行認定設立となった。現在の事業内容(公益目的事業Ⅰ)は、学術研究の推進と研究者養成、プロジェクト研究の強化、研究成果の公表と刊行物の配布、調査研究委託の強化、調査研究の社会的還元事業である。政治経済研究所は学術研究成果の発表の場として、政治経済を中心とする諸問題について、理論的研究、現状分析、政策分析などの諸論稿を掲載する学術刊行物として『政經研究』を毎年2号発刊している。なお、投稿原稿の採否は編集委員会が審査員の協力をえて決定する査読付き学術誌であり、本年6月発刊号で第112号となる。このような事業を展開してきた公益財団法人政治経済研究所は、「学会」に準じる学術研究団体である。
『政經研究』奨励賞は、公益財団法人政治経済研究所が、政治・経済・社会・文化の向上発展に寄与することを目的に学術の発展にとくに貢献すると認められる研究論文・図書を顕彰するもので、選考委員会は学識経験者 10 名以内、選考委員長は理事会で理事のなかから選任し、選考委員は理事会で選任される。『政経研究』奨励賞の第1回(2017年度)受賞者は小倉将志郎氏、受賞対象は小倉氏の著書『ファイナンシャリゼーション―金融化と金融機関行動』桜井書店、2016年4月刊であった。第2回(2018年度)受賞者は選考委員会での選考の結果、該当者なしとなった。第3回(2019年度)受賞者が村上研一氏、受賞対象は村上氏の論文「「輸出大国」の行き詰まりと地域循環経済への課題」(『政經研究』第108号、2017年6月刊、所収)となった。
本論文が第3回『政經研究』奨励賞に選考された理由は下記の通りである。
本論文は、戦後日本の高度成長期や安定成長期の特徴をおさえ、1970年代から2000年代の初頭まで続く輸出依存的「経済大国」の行き詰まりと、その克服策として地域循環型経済への転換の必要性を明示した。
輸出依存的「経済大国」は、機械・金属産業の貿易黒字により獲得される外貨で大量のエネルギー、資源、食糧を輸入することにより成長する大国である。輸出依存的大国化を分析した先行研究は多くあるが、村上氏は、この構造を、すでに自らの著書である『現代日本再生産構造分析』(日本評論社、2013年)で取り入れた産業連関分析を使用し、産業ごとの動向追跡の総括として示した。そのうえで、1960年から2011年の日本経済の部門構成と部門別輸出額の長期推移を算出し、90年代から正規労働者の非正規労働者への置き換えを梃子に、グローバルな競争と海外生産がすすみ、とくに電気機械産業の衰退が生じる結果、機械・金属部門の黒字貿易がGDP比で減少し始め、2010年代には、エネルギー、資源、食糧部門の赤字をカバーできなくなったことを示した。
この輸出依存的「経済大国」の行き詰まりが産業ごとに分析されたので、その打開の道もまた産業ごとに示される。それは、エネルギー、資源、食糧部門の再構築の道である。村上氏は、地域レベルの産業連関表から、エネルギー、資源、食糧部門の国内市場に基づく発展の重要性を指摘し、論理必然的に地域循環型経済を展望した。この地域循環型経済は、現代社会の課題である環境問題の解決、輸出部門競争で強化された長労働時間の解消と人間らしい生活の実現とも関連している。
この派生的成果として、学問分類において戦後日本経済論と地域経済論が併存する中で、両分野の橋渡しに成功したことも付言してよい。
地域循環型経済の展望から見れば、検討地域を東北地方以外にも広げるべきであること、また、対象部門を上記部門以外に介護、文化・芸術などのサービス部門などにもひろげるべきことと思われる。さらに、グローバルな輸出産業部門をどのようにするかなどの点の究明に不十分なところがみられるが、それは、村上氏の論文の背骨をなす、国レベル、地域レベルの産業連関表を駆使して行われるであろう。
第3回奨励賞選考委員会は、村上氏の論文が、課題が明確であり、論旨一貫しており、課題にふさわしい方法論と資料に基づき立論していること、不十分な点が克服されれば、社会的にも大きな意義を持つ論文になることから、奨励賞にふさわしいものと判断した。
渡辺 岳夫
(わたなべ たけお)
商学部・教授
本論文は、アメーバ経営システム(以下、AMS)を導入した企業の中でも、それを継続して運用し続ける企業ばかりではなく、一定期間後にその運用を中止してしまう企業が一定数存在することに着目し、その両者の間で、AMSの会計情報上の特性が組織成員に対する心理的影響を経てアメーバのパフォーマンスに及ぼす影響のメカニズムに相違があるかどうかを実証しようとしている。この相違の有無の確認は、AMSの組織成員に対する心理的な影響の普遍性の解明に資するだけではなく、AMSの導入研究の発展にも非常に大きな影響を及ぼすことになる。
すなわち、もし運用継続企業と運用中止企業との間に、その影響メカニズムに相違があり、例えば運用継続企業についてはAMSの会計情報上の特性とアメーバのパフォーマンスの間に正の因果関係が看取され、運用中止企業については両者の間に因果関係が看取されなかったとすると、その関係を何らかの要因が阻害しているということであり、その阻害要因の特定が後続の研究における重要な課題となるであろう。
しかし、もし運用を継続している企業と後に中止してしまう企業との間で、AMSのパフォーマンスに対する影響のメカニズムに相違がない場合、すなわち、AMSの会計情報の諸特性に対して組織成員がポジティブに認知すればするほど、望ましい心理的な影響が促され、もってアメーバのパフォーマンスが高まるというメカニズム自体には相違がないとされた場合は、別の研究課題を措定することが必要となる。例えば、運用継続企業と中止企業の間と比べると、AMSの諸特性に対するポジティブな認知の水準や促進されるパフォーマンスの水準が、前者の方が高いのかもしれず、その場合、そういった認知の水準やパフォーマンスを抑制している要因を解明することが必要となるであろう。
以上のように、本論文で明らかにしようとしていることは、後続のAMSの導入研究において、AMSの諸特性とアメーバのパフォーマンスの関係を阻害している調整要因の解明に重点を置くべきなのか、それともAMS諸特性とパフォーマンスそのものに影響を及ぼす要因を解明すべきなのかといった方向性に大きな影響を及ぼすのである。その意味で、本研究はAMS研究史のなかでも非常に重要な位置付けを占めることになるであろう。
○日本管理会計学会賞(論文賞)
○日本管理会計学会
○2019年8月28日
日本管理会計学会は、管理会計の研究、教育および経営管理実務に関心をもつ研究者や実務家から構成される組織である。学会員数は700名を超え、管理会計系の学会の中では最大規模を誇る。当該学会の学会賞(論文賞)は、管理会計学およびその隣接諸学に関する理論または応用の発展に貢献するところが顕著であると認めた論文の執筆者に対して授与され、受賞の対象となる論文は、日本管理会計学会誌「管理会計学」に掲載された論文である。以下では具体的に本論文について評価できる点を述べていきたい。
第一に、運用中止企業から一定のサンプルサイズを得ることに成功していることである。本論文では、AMS運用継続企業として2社をとりあげ、その社員250名からデータを収集するとともに、運用中止企業として1社から協力を得て、その社員114名からデータを得ている。管理会計に限らず、経営管理の仕組みに関する失敗ケースの研究は難しく、実証研究におけるデータ収集の難易度は頗る高いと言わざるを得ないなか、本論文はその障壁を乗り越え、実証研究に耐えうるサンプルサイズを確保することに成功している点については、高く評価することができよう。
第二に、実証研究の方法ならびに手続きの適切性を指摘することができる。本論文では、AMS運用継続企業から得られたサンプル(以下、継続企業群)と中止企業から得られたサンプル(以下、中止企業群)を用い、多母集団同時分析により、両群における影響メカニズムの相違の有無を確認している。いわゆる共分散構造分析については、マーケティング領域においてはかなり活用されているが、管理会計分野では特にその応用型である多母集団同時分析の活用はあまりなされておらず、分析手法についても当該論文は先進性があると言える。また、尺度の妥当性や信頼性の確認も適切になされており、その点が本論文の分析結果に対する信頼性を高めている。
第三に、分析結果の新規性を挙げることができる。継続企業群と中止企業群を比較した結果、両群において、AMSの会計情報特性上の特徴すなわち努力実感性がアメーバ内とアメーバ間のインタラクションを促進し、ついでインタラクションが集約的効力感、そして集約的効力感がアメーバのパフォーマンスを促進するというメカニズムが成立することが明らかにされ、さらにそのメカニズム自体にも両群間で相違がないことが明らかにされた。このことは、AMSの運用を取り巻く状況が良好であり継続されるような状況であっても、後に中止につながるほどの不満が高まっている状況であっても、AMSは一定の効果をもたらすということであり、AMSには運用状況の良否に関わらず普遍的な効果があることが示唆されている。このことはAMSの心理的効果に関する研究上、非常に大きな発見事項であるといえよう。
以上、本研究は、その研究目的の独自性と当該領域における貢献性、ならびにサンプルの希少性、実証研究の方法論の妥当性・適切性、そして分析結果の新規性に鑑み、中央大学学術奨励賞として推薦する水準に十分に達していると思料する。
今堀 慎治
(いまほり しんじ)
理工学部・教授
本論文は、ビットマップ形式のオブジェクトに対する2次元ストリップパッキング問題(図形配置問題)を扱っている。ビットマップ形式のオブジェクトは構成要素が多く、素朴な方法では効率的な配置が困難になるため、本論文ではオブジェクトの効率的な表現方法および重なり判定アルゴリズムを開発した。本研究で提案されたアルゴリズムを用いると、10種類の図形1500個程度を1分以内で配置することができる。実際の画像データはビットマップで表現されることが多く、実用へのインパクトも大きい。 ○論文賞
○日本オペレーションズ・リサーチ学会
○2019年9月12日
日本オペレーションズ・リサーチ学会論文賞は、過去1年間(2018年)に当該学会論文誌に掲載された論文のうち、特に優れたもの1編に授与されるものである。受賞対象論文は、重要な最適化問題の一つである図形配置問題を解決するため、オブジェクトの効率的な表現方法および重なり判定アルゴリズムを開発し、10種類の図形1500個程度を1分以内で配置するなど、計算機実験によってその高い有用性を示した。この中で候補者は、課題発掘・問題設定、アルゴリズム設計、ならびに計算機実験結果の解析を担当した。
庄司 裕子
(しょうじ ひろこ)
理工学部・教授

浜田 百合(はまだ ゆり)
理工学部・助教
候補者らは、従来の合理的なコミュニケーション支援研究では対象としてこなかった、参加者の多様な価値観とその顕在化プロセスに焦点を当て、日常的な合意形成について、コミュニケーションによる価値創造プロセスの類型化及びモデル化のための方法論を提案した。この知見は、ファシリテータやコーチなどの定量的評価や、合意形成マネジメント技術の発展に応用できると期待される。 ○2019年日本感性工学会論文賞
○日本感性工学会
○2019年9月12日
日本感性工学会は、人間の感性を工学的な手法で取り扱い、新しいサービスや技術の実現に寄与することを目指す研究者の学術会議認定団体である。論文賞は、1年間に発表された有審査論文(英文・和文)の中から優れたと認められる1~2編が表彰される。候補者らの提案する合意形成プロセスモデルは、あいまいさを含む人間同士のコミュニケーションの定量的可視化に対するアプロ―チでもあり、オリジナリティが認められた。庄司は主に研究総括と論文指導、浜田は研究遂行と論文執筆を担当した。
白井 宏
(しらい ひろし)
理工学部・教授
候補者である白井教授が研究してきた高周波光線理論を適用した電磁界解析に関する研究は、近年「幾何光学的回折理論(コロナ社)」としてまとめられたが、この著作を含め、候補者の研究は、電磁界解析手法の基礎研究に大きな影響を与えただけでなく、無線通信応用技術の発展に広く貢献しているとして、本年9月に電子情報通信学会エレクトロニクスソサイエティからエレクトロニクス賞を受賞した。 ○電子情報通信学会 第22回エレクトロニクスソサイエティ賞
○電子情報通信学会 エレクトロニクスソサイエティ
○2019年9月11日
候補者の研究は、電磁界解析手法の基礎研究に大きな影響を与えただけでなく、無線通信応用技術の発展に広く貢献しているとして、「高周波光線理論を適用した電磁界解析に関する先駆的な研究」に対して電子情報通信学会 エレクトロニクスソサイエティから第22回エレクトロニクスソサイエティ賞が与えられた。
本賞は、電子情報通信学会 エレクトロニクスソサイエティが毎年、同ソサイエティが扱う3分野(第1分野:電磁界理論およびマイクロ波、第2分野:光半導体およびフォトニクス、第3分野:回路およびエレクトロニクス)において顕著な貢献があった研究者に授与する賞であり、今回の受賞は、第1分野における候補者単名に対するものである。
こうした成果は本学の名声を高めるものであり、中央大学学術研究奨励賞を受賞するに十分値するものとして同賞に推薦する。
白髪 丈晴
(しらが たけはる)
理工学部・助教
過去三年間の代表的な論文三編を対象としている。
第一の論文では、古典的な相互作用確率系列の一つであり、合意、多数決、誤り訂正など重要な諸問題に応用を持つ投票者モデルに対し研究を行っている。ごく限られたグラフ・ネットワークを対象とする解析に終始していた既存研究に対し、白髪氏は任意のグラフ構造上で確率行列の第二固有値を介した収束時間の上界を与えることに成功している。
第二の論文では、並列処理系における負荷分散を応用に持つdispersion processに対し、完全グラフ上において停止時間が対数時間から指数時間へ変化する相転移の発見・理論保証を行っている。一般のグラフに対する今後の展開が大きく注目される結果となっている。
第三の論文では、マルコフ連鎖をエルゴード性の観点から模倣するdeterministic random walkと呼ばれる決定性過程を扱っている。既存研究が特殊なランダムウォークしか扱えなかったのに対し、本論文では無理数の遷移確率をも模倣する手法を考案すると同時に、マルコフ連鎖の収束性を活用し、漸近特性に関する汎用的な解析を与えている。
○第9回 研究賞奨励賞
○日本オペレーションズ・リサーチ学会
○2019年9月12日
研究賞奨励賞は若手研究者個人を対象とする賞であり、独創性と将来性に富み、オペレーションズ・リサーチの発展に寄与する研究業績を挙げている研究者に贈られる。授賞対象とする業績は過去三年以内のものとされている。白髪丈晴氏の専門とする確率過程はオペレーションズ・リサーチの主要な基盤数理の一つであるが、その過渡解析の理論は未発達であり、漸近の速さに代表される多くの興味深い課題が未解明の状態にある。白髪丈晴氏は確率過程の過渡解析を中心として確率モデルの基礎数理の発展とその応用に、上記三編を代表とした顕著な業績を挙げている。それらの業績より、オペレーションズ・リサーチ学会から研究賞奨励賞を受賞した。よって中央大学学術研究奨励賞の候補者として推薦する。
長塚 豪己
(ながつか ひでき)
理工学部・教授
劣化現象の確率モデルにおいては、これまでLevy過程を中心に研究がなされてきた。候補者らは、Levy過程には属さない、Birnbaum-Saunders 分布に基づくある確率過程モデルとその推定法を提案し、さらにその数理的妥当性について議論とデータセットによる既存法に対する優位性を示した。本研究の成果は、製品や建造物の劣化度合いや寿命の予測、更には最適なメンテナンススケジュールを精度よく構築するのに役立てられることが期待される。 ○17th The Asian Network for Quality (ANQ2019)
Best Paper Award
○17th The Asian Network for Quality
○2019年10月24日
Asian Network for Quality (ANQ)は、2003年に発足した、アジア諸国により構成される品質組織であり、毎年国際会議を開催している。Best Paper Awardは、提出されたフルペーパー(8ページ)の中から優れていると認められる上位約10%の研究に与えられる賞である。
受賞論文は、修士2年生(藤田賢治)との共著であり、長塚は研究総括と論文指導、藤田は研究遂行と論文執筆を担当した。
松本 浩二
(まつもと こうじ)
理工学部・教授
走査型プローブ顕微鏡(SPM)を用いたナノスケールでの氷の付着力の測定方法を開発し、従来のマクロスケールの方法では必ず起こる氷の破壊を伴わない正確な氷の付着力の測定方法を開発し、様々な金属表面での正確な氷の付着力の値を明らかにした。この測定方法の開発により、氷の付着メカニズムの本質的解明の一助になることが強く期待されている。また、氷の付着力に及ぼす様々な支配因子を付着力測定や表面分析により明らかにし、さらに、シランカップリング剤から簡易に生成できる超薄膜の表面に存在する有機感応基の種類による氷の付着力制御も実現した。さらに、氷/氷スラリー生成時の阻害因子としての過冷却に関して、従来の研究では、過冷却解消の促進が主眼であったが、界面活性剤分子の吸着により過冷度を能動的に制御することを可能にした。同様の発想で、生成阻害因子である氷の付着力の制御のために、界面活性剤の添加により氷の付着力を能動的に制御することを可能にした。また、流通革命の実現に資する機能性氷・氷スラリーの開発に関連して、従来のオゾン氷の生成に不可欠であった高コストな圧力容器を必要とせず、マイクロバブルに着目することで、オゾンマイクロバブル含有氷の効率的生成方法の開発と生成された氷の特性を明らかにした。その他にも、氷/氷スラリーに関する様々な先進的な研究を行い、現在も多くの斬新で先進的な研究成果を発信し続け、それらの成果を基に、International Journal of Refrigeration や日本冷凍空調学会論文集等の学術誌への多数の論文掲載を果たしている。上記の様な研究業績によって、冷蔵・冷凍分野の柱の一つである氷/氷スラリーの科学を様々な観点から解明することに大きな貢献を果たしてきた。 ○Asian Academic Award
○JSRAE(日本冷凍空調学会)、SAREK(大韓設備工学会)、CAR(中国制冷学会)
○2019年9月12日
Asian Academic Award(アジア学術賞)は、独創性と学術的水準を基準とし、冷凍・空気調和・ヒートポンプ・食品冷凍およびその応用分野における評価と国際的な貢献度、将来への発展性などを選考の基準とし、応募年度から過去10年程度遡った一連の顕著な研究業績を上げた研究者を表彰する。JSRAE(日本冷凍空調学会)、SAREK(大韓設備工学会)とCAR(中国制冷学会)の各学会でアジア賞への応募者の中から各々1名が選出され、選出者を3学会合同委員会に推薦し、審議の上3学会連名で顕彰する。
固体表面の不均一性のために、従来のマクロスケールでの測定では固体表面、特に金属表面への氷の付着力を正しく測定することができない。そこで、著者らの一人は、走査型プローブ顕微鏡(SPM)を使用して、ナノサイズの氷を銅表面上に作ることによってその氷に対する表面の十分な相対的平坦度を実現した後、様々な銅表面温度での正確な氷の付着力を測定してきた。さらに、界面活性剤の添加により、-5℃での銅表面への氷の付着力の著しい低減を実現した。本研究では、銅以外の4種類の金属表面上で、界面活性剤を添加した純水を凍結させた場合の氷の付着力をSPMで測定し、界面活性剤を添加しない場合の結果と比較した。そして、界面活性剤分子の各々の金属表面への吸着量、界面活性剤を添加した場合としない場合の氷の表面エネルギーと4種類の金属の表面エネルギーの結果から、測定された4種類の金属表面への氷の付着力の妥当性を明らかにした。 ○日本冷凍空調学会 学術賞
○日本冷凍空調学会
○2019年5月22日
本賞は、2018年中に発行された日本冷凍空調学会論文集に掲載された論文と国際会議ACRA2018に投稿された250件以上の論文の中から組織委員会が推薦した論文を日本冷凍空調学会論文編集委員会で再査読し掲載可となった論文を対象に、論文編集委員会が特に優れた原著論文に与える賞である。当該年は掲載論文の中から4件の論文が選出された。なお、本論文は、奨励賞候補が筆頭著者として、研究の総括と最終的な論文の執筆を行った。
小林 勉
(こばやし つとむ)
総合政策学部・教授
論文のタイトル「社会開発とスポーツ」(『計画行政』41巻第3号掲載)において、これまで小林が取り組んできた「スポーツの力」を地域社会、国際社会を場に論じ、啓発性・先駆発展性・政策的貢献が総合的に優れていると評価された。 ○日本計画行政学会・学術賞(論説賞)
○日本計画行政学会
○2019年9月12日
当該論説は、スポーツ政策の捉え方として、国民の福祉・健康さらには基本的な権利という根本に立ち、スポーツそのものの振興に関わる計画行政とスポーツを政策手段として産業・健康および社会開発・国際協力など他分野の課題に活用する多面的な捉え方があるという問題提起の論説である。これまでの研究成果を集約して、まさに「スポーツの力」による地域社会から国際社会までの公共空間における当事者・地域住民の組織化と計画行政に関してその効用とまた限界とに深い洞察を加えたものであり、その知見は、計画行政学会・学会賞に相応しいと高く評価された。