研究

2025(令和7)年度 中央大学学術研究奨励賞受賞者

(順不同・敬称略)

氏名
(ふりがな)
所属身分
研究業績等の内容(要旨) 他機関からの受賞
○受賞名
○授賞機関
○受賞日
奨励賞推薦理由(要旨)
平松 裕子
(ひらまつ ゆうこ)
経済学部 特任教授
 地域住民とインバウンド観光客の相互理解を促す観光アプリの設計を行った。 〇14th ICAEIC-2025 Best Paper Award(優秀論文賞)
〇ICT-Advanced Engineering Society
〇2025年2月13日
 正確に迅速に大量に情報を伝えることをよしとする情報化社会にあって、実は人はそれぞれ主観的に情景を捉えているという点を実証結果に基づき指摘し、正確に表現しきれない文化的相違を見つけ、観光客が立ち止まる要素に着目したアプリ作成を目指すという点が学会発表(CAEIC-2025)において評価されました。
 情報の標準化が進み効率的な運用が促進されることは人々の生活に役立ちますが、その弊害もあります。「文化」というのがその地域特有のものであるなら、標準化の過程で、地域にも、あるいはそこを訪問する者にも自覚されないまま埋もれていく独自要素があります。
 そこで、多数の外国人観光客が来訪する日光の言語景観の事例から、翻訳しきれない情報が多くあることがわかりました。その原因は、不可視の習慣や一見気づかれないような地域的な表現にあることがわかりました。そのような隠れた文化的差異に関する気づきを促すことで、観光客も、地域の人も、地域文化を尊重するきっかけとなるのではないかと考え、文化認識を醸成するアプリを作成しました。
 これは、言語景観を地元民と観光客の接点としてとらえ、地域協力を得つつ、スマホ上に展開可能なBLE Beaconを使用したアプリケーションを構築するというもので、文学修士の平松特任教授が言語景観の分析を担当し、工学博士である経済学部の伊藤篤教授が、アプリ設計を担当した、文理融合研究の成果の一端です。
 昨今このような異分野融合型研究は世界的にも注目を集めています。国立研究開発法人 科学技術振興機構“Beyond Disciplines”で指摘されるように、多様化・複雑化する社会にあって問題とされる事象の多くは、歴史的な学問・学術の体系にもとづく深く専門・細分化された単一分野では面的に向き合うことが難しくなっています。科学技術が現代の様々な問題と向き合うには、分野連携により新たな融合領域を生み出して取り組むことで既存分野において新たな発見・進歩が誘発されることも期待できると言われています。このような先進的な研究分野の一環として本研究成果を認めることができます。
 なお、CAEIC-2025の主催者であるICT-AESは、韓国政府のMSICT(科学技術情報通信部)に登録されている非営利学術団体であり、年2回の国際会議開催、論文誌発行を行うなど、学術・研究交流の場として積極的な活動を行っている団体です。
中野 暁
(なかの さとし)
商学部 准教授
 マーケティング分野の国内の代表的な学会である日本消費者行動研究学会(日本学術会議協力学術研究団体に該当)における2025年度特集論文において、その論文成果 (口頭発表を含む)が最も優れた者に与えられる賞を受賞している。当該成果の査読付論文は2025年末にオンラインで早期公開、2026年3月末までに公刊予定である。
【査読付学術論文】
中野暁、 竹内真登、 長崎貴裕 (2025)
トラップ質問に接した回答者は、その後の回答行動を変えるのか?―不注意・努力不足回答識別法による注意喚起効果―
消費者行動研究、 採択済(12月末オンライン先行公開)

 本研究は、IMC (Instructional Manipulation Check)やDQS (Directed Question Scales)に代表されるトラップ質問の波及効果について検討したものである。従来トラップ質問は、不注意・努力不足回答者の識別に対して使用されてきた。しかしながら、本研究の結果に基づけば、IMCについては、調査の冒頭で回答者がIMCに触れると、その後回答精度が高まる波及効果があることが示された。一方、DQSにはその効果があるとはいえなかった。本研究は、行動ログに基づく独自的なデータを使い、回答精度の検証を行う新たな枠組みを提示し、従来の研究で捉えられなかった精緻な議論を行っている。この結果は、マーケティング研究のみならず、心理学や社会学、政治学など多くの分野に影響を与えるものである。
〇日本消費者行動研究学会 特集論文賞(口頭発表)
〇日本消費者行動研究学会
〇2025年7月1日
 本研究は、昨今、様々な学術分野で問題になっている、調査における不注意・努力不足回答者の課題に対して、トラップ質問の新たな効果に焦点をあてたものである。近年、安価に調査ができるサーベイプラットフォームやクラウドソーシング・サービスの普及に伴い、研究者や実務家は調査を行いやすくなったが、その反面、回答者の不注意・努力不足傾向から、調査回答の精度が問題になることが多くなってきた。そうした中で調査品質を担保するために、トラップ質問の配置は、多くの研究分野で半ば作法的に行われることが多い。本研究はそうした無造作な研究慣習に対して警鐘を鳴らし、特にIMCのトラップ質問の配置順序に対して注意を促すものである。独自的な視点や検証に基づいた示唆が提示されており、他の学術分野や実務の社会的課題にも影響力のある研究であることが推薦理由である。
 また、本賞の授賞団体である日本消費者行動研究学会は、会員数も多く、我が国のマーケティング・消費者行動研究の中心的な学術団体である。口頭審査と論文査読を経て受賞された本学会の特集論文賞には十分な価値があると考えられる。
 なお、候補者は本論文の筆頭著者・責任著者として、研究の設計、データ収集、分析、執筆等、本研究全般で中心的役割を果たしている。
中村 太郎
(なかむら たろう)
理工学部 教授 
 カタパルト機構を伴う人間のジャンプを機械要素モデルとしてとらえて、そのリスキリング効果の有効性を示した。 〇日本機械学会 分野融合研究優秀表彰
〇日本機械学会
〇2025年6月5日
 本業績は、超伸長型人工筋肉を用いたカタパルト機構を人間のジャンプ動作に適用することで、ジャンプのリスキリング効果をSLIPモデルという機械要素モデルを用いて検証したものである。本研究はロボティクス・メカトロニクスおよび計測制御・機械力学の分野にまたがった分野融合研究として特に優れているとして、日本機械学会より分野融合研究優秀表彰が授与された。被推薦者は、研究テーマのキーデバイスとなる超伸長型人工筋肉を用いたカタパルト機構の開発に寄与した。
原田 芳樹
(はらだ よしき)
理工学部 准教授 
 近年整備された都市公園の視覚的印象を定量化する心理尺度の開発。 〇日本感性工学会 事例研究賞
〇日本感性工学会
〇2025年9月17日
 候補者が受賞した日本感性工学会の事例研究賞は、実社会の具体的事例を応用と分析の対象とする研究の中でも、高い価値と創意が認められる原著論文に対する賞である。
 応募者は責任著者として、実験デザインから論文執筆に至る全ての取り組みを、筆頭著者と共同で進めた。
 この論文の研究は、官民連携を通して近年整備された都市公園を対象とし、一般のステークホルダーが認識する視覚的特徴と評価を定量化するための心理尺度を提案している。一般住民の評価を取り入れ、公募を通して都市公園の整備を進める枠組みが急速に拡大する現代の都市計画において、非常に重要な研究である。環境心理学と環境デザイン、および都市計画分野を横断する研究を展開し、社会課題の解決に挑んでいる点も高く評価できることから、候補者を学術研究奨励賞に推薦する。
阿部 誠
(あべ まこと)
戦略経営研究科 教授
 受賞した論文のタイトルは「消費者研究における実験室実験:マニピュレーション・チェック変数の効果推定」。本論文では、未観測な交絡因子が存在していても、介入に対する心理状態を測定するマニピュレーション・チェック変数の効果を正しく推定できる手法を提案し、その手法がRandomized Controlled Trialよりも有意な結果になることをシミュレーション分析で確認した。
 消費者研究の焦点は介入自体の効果ではなく心理状態の効果であること、この状態を測定した変数がマニピュレーション・チェック以外に利用されずに脇役となっていること、因果効果がより有意に出ること、過去の消費者研究において行われていなかったこと、を鑑みると提案手法が消費者実験の代替的な分析枠組みとなる可能性を秘めている。
〇日本マーケティング学会 ベストオーラルペーパー賞
〇日本マーケティング学会
〇2025 年10月12日
 日本で最大のマーケティング関連の学会(会員数、約3,300名)が開催する年1度の大会、マーケティングカンファレンス2025、において、57のオーラルセッション報告の中からベストオーラルペーパー賞(理事会メンバーにより、ダブル・ブラインド査読の上、投票にて審査)を受賞。受賞論文は、学会誌「マーケティングレビュー」への掲載権利と連動している。
 マニピュレーション・チェックに対して、研究・実務とも見過ごされていたことについて、疑問をもたれるだけでなく、未開拓の研究として探求されたプロセスを高く評価できる。さらに、消費者調査におけるより精密な手続きを可能にさせる具体的な指針をしめされ、今後、多くの研究に影響を与えるインパクトを与える可能性を感じる発展的な研究である。