社会科学研究所

公開研究会「被災地岩手の現状と課題-原発放射線影響対策に焦点をあてつつ-」開催報告(社会科学研究所)

2017年03月02日

2017年2月23日(木)、多摩キャンパス研究所会議室2にて、下記の公開研究会を開催しました。

【テーマ】 被災地岩手の現状と課題―原発放射線影響対策に焦点をあてつつ―

【講 師】 齋藤 俊明(岩手県立大学総合政策学部教授)

【日 時】 2017年2月23日(木)15:00~17:00

【場 所】 中央大学多摩キャンパス研究所会議室2

【主 催】 研究チーム「グローバル・エコロジー」(社会科学研究所)

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【要 旨】

 東日本大震災と東京電力福島第一原子力発電所事故から今年で6年目を迎え、被災地は依然として震災からの復興と放射能汚染対策という課題を抱えている。今報告は、とりわけ被災地である岩手県の現状と復興計画、放射能汚染対策を対象としたものであった。
 まず、岩手県の陸前高田市の復興の現状と問題点については、震災による津波で大きな被害を受けた同市では、巨大ベルトコンベアーによって土砂を大量に投入して地盤のかさ上げ工事が実施されているが、土地の所有権や区画の問題が未解決のところが多く残っている点が指摘された。とりわけ土地の所有権が不確定という問題は、具体的には、被害を受けた土地そのものの所有権が元々明確でなかったことが明らかになったり、被災された所有者が現れなかったりという問題であり、これらのことが復興の大きな妨げになっている。また海岸線には高い堤防が築かれ、陸地から海が見えない状況になっていることも復興の現状であるという。
 つぎに、平成23年度から平成30年度までの岩手県の復興実施計画の内容についての報告があり、そのなかで岩手県の代表的な産物である原木椎茸の風評被害がある点が指摘された。原木椎茸の放射能の汚染については、基準値を超えていないにもかかわらず、販売状況が良くない事態が続いているという。その反面、放射能を含む農林業系廃棄物に関しては問題があるという。報告者は、『河北新報』の新聞記事を紹介しながら、岩手県内でもっとも発生量が多い一関市の事例を挙げて、国の基準(1キロ当たり8000ベクレル)以下の汚染牧草と一般ごみを一緒に焼却する混焼が進んでいる点に言及した。
 また原発放射線影響対策については、国による放射性物質汚染対策措置法や除染関係の地域指定について触れ、岩手県の原発放射線影響対策については、基本方針、放射線量低減に向けた取組方針、放射性物質による汚染された廃棄物等の焼却・処分等に係るガイドラインについて紹介した。

 しかし、問題なのは、牧草や間伐材など放射性を含んだ物質の焼却によっても焼却灰の管理や最終処分場をどうするのかという課題が残っていることである。今回の報告のなかでは、被災地岩手の状況と課題について活発な質疑応答がなされ、震災に関連する問題が風化している現状において重要な問題が投げかけられた。

(主催チーム記)