社会科学研究所活動報告(2016年度研究チーム)

2016年度研究チーム

「グローバル・エコロジー」

研究チーム「グローバル・エコロジー」は、地球環境問題を多分野・多次元の視点から取り上げることをめざして活動してきた。本年度は、廃棄物問題、生物多様性問題、震災と復興の問題、そして中国の環境問題について研究を進めた。

【研究活動】

第1回 公開研究会 2016年10月28日(金)16:00~18:00 (中央大学多摩キャンパス2号館4階研究所会議室)

報告者:松波淳也(法政大学経済学部教授)

テーマ:わが国におけるごみ問題の現状と展望

要約 :ごみ問題の基本構造が、まず廃棄物「量」の増大と「質」の多様化にあるとして、一つに適正処理コストの高騰と、もうひとつは社会的費用の上昇問題があるとしている。つぎに最終処分場の枯渇については効率的利用の問題があり、そして最後に不適正管理(空間的・時間的管理可能性の有無、すなわち外部不経済の問題と廃棄物の量の増大があるとしている。
こうしたごみ問題の基本構造を前提にして、自治体における循環型社会形成政策の基本軸として、①3R+適正処理の優先順位に即した政策展開すなわち「上流」からのごみ削減、②短期的政策,中長期的政策の位置づけ、③地域特性に即したきめ細かい政策、とりわけ繁華街,住宅地,小規模事業者、オフィス街、観光地等を考慮にいれた自治体の特性に即した対応、④環境政策の3手法、すなわち社会的手法,法的手法,経済的手法を指摘した。

第2回 公開研究会 2017年1月27日(金)15:00~16:30 (中央大学多摩キャンパス2号館4階研究所会議室)

報告者:若尾慶子(TRAFFICジャパンオフィス代表)

テーマ:ワシントン条約とTRAFFIC

要約 :報告者は第1に、生物多様性保全に力を入れているという観点から、現在、生物多様性が減少し、2万種を超える動植物が深刻な絶滅の危機に瀕している点を指摘し、その主要な原因として、生物資源としての利用、農業・養殖業、住居や商業的開発、汚染、気候変動などを挙げた。第2に、野生生物取引の現状について触れ、日本は野生生物の一大輸入国であり、たとえば、生きた哺乳類と爬虫類の輸入において、生きた哺乳類の輸入について日本は第2位、生きた爬虫類の輸入については第5位となっていると指摘した。また野生生物の違法取引については、日本から海外に流出した事例として、未加工象牙やタイマイが中国の青島で押収されたことを紹介した。

第3回 公開研究会 2017年2月23日(木)15:00~16:30 (中央大学多摩キャンパス2号館4階研究所会議室)

報告者:齋藤 俊明 氏(岩手県立大学 総合政策学部教授)

テーマ:被災地岩手の現状と課題―原発放射線影響対策に焦点をあてつつ―

要約 :東日本大震災と東京電力福島第一原子力発電所事故から今年で6年目を迎え、被災地は依然として震災からの復興と放射能汚染対策という課題を抱えている。今報告は、とりわけ被災地である岩手県の現状と復興計画、放射能汚染対策を対象としたものであった。岩手県の陸前高田市の復興の現状と問題点については、震災による津波で大きな被害を受けた同市では、巨大ベルトコンベアーによって土砂を大量に投入して地盤のかさ上げ工事が実施されているが、土地の所有権や区画の問題が未解決のところが多く残っている点が指摘された。

第4回 公開研究会 2017年3月3日(金)16:00~18:00 (中央大学多摩キャンパス2号館4階研究所会議室)

報告者:シャオ・スアンレイ(台湾師範大学助教授)

テーマ:被災地岩手の現状と課題―原発放射線影響対策に焦点をあてつつ―

要約 :近年中国ではPM2.5に代表される公害以外にも、砂漠化や水問題など社会に重大な影響を及ぼす環境問題が深刻化しており、この分野の研究に関する論文の発表数も大幅な増加傾向にある。環境問題の研究は、生物学のような自然科学からガバナンスや法律に至るまで幅広い分野で扱われているが、こうした幅広い「環境問題研究」を総合的に扱った研究が必要ではないかとシャオ氏は見解を述べた。今回の講演のテーマは、テキストマイニングの手法を用いて中国本土および台湾における「環境問題研究」のトピックス(主題)の傾向について分析することである。テキストマイニングを用いることで、環境問題に関する論文を領域毎に整理し、どのような傾向が近年主流になっているか、あるいは各領域において多く論文を発表しているリーダー的な研究者は誰か、といったデータを分析することができる。今回の研究会では、データ数が豊富な中国本土における論文を主な対象にしているが、補論として台湾についても同様のデータを紹介した。

「政治的空間における有権者」

「政治的空間における有権者」チームは,政治過程における有権者の意識,行動を理論的かつ実証的に研究することを目的としている.政治過程を分析するためには,政治学のみならず近隣諸科学の方法論も必要となっている.本研究チームは社会学,社会心理学,政治学,経済学などの研究者から構成されている.2015年度に引き続き,現代日本の政治意識の諸相とその動態を中心に研究し,また分析のための方法の精緻化も研究してきた.

【研究活動】

第1回 公開研究会 2016年6月1日(水)11:00~12:30(中央大学多摩キャンパス2号館4階研究所会議室)

報告者:Sean richey(ジョージア州立大学准教授,外国人訪問研究者)

テーマ:Anti-Immigrant Rhetric in the 2016Presidential Election and Attitudes Toward Assimilation

要約 :2016年アメリカ大統領選挙共和党候補者であるトランプ氏は,「反移民」「移民への敵意」を主張してきた.しかし,アメリカは移民国家であり,移民2世,3世も多くいる.彼らがトランプ氏の主張をいかに受け止いるのかをWebによる実験データから分析した.分析結果は,排外的政治家による「反移民」キャンペーンは,移民の愛国心を低下させ,一種の自己成就現象が生起していることを示唆するものとなっている.

第2回 公開研究会 2017年2月27日(月)13:00~15:00(中央大学多摩キャンパス2号館4階研究所会議室)

報告者:寺村絵里子

テーマ:「女性の政治意識と投票行動」

要約 :寺村氏の報告は,現代日本における女性の政治意識,政治行動のジェンダーギャップの状況を,最新の学術調査データから分析したのが骨子となっている.
日本におけるジェンダー研究は,理論的,歴史的分析は比較的蓄積はあるが,データによる実証研究は欧米と比較すると少ないのが現状であろう.
分析から得られた知見は次の4点である
(1)日本の女性の政治意識と投票行動について,女性の属性別に分析.
(2)仕事をもつ女性が,専業主婦,無業女性よりも政治活動が多いという結果は得られなかった.
(3)女性の政治参加を高める要因は,年齢,学歴,世帯年収,専業主婦である.
(4)女性活躍推進に関する主観的変数の政治参加に対する効果は無い.
これらの分析結果は,最新の学術データから得られた知見であるから,現状を理解するには大いに役立つであろう.

第3回 公開研究会 2017年3月27日(月)15:00~17:00(中央大学多摩キャンパス2号館4階研究所会議室)

報告者1:塩沢健一(島根大学准教授)

テーマ :「大阪都構想」を巡る有権者の関心と賛否の拮抗をもたらした要因(24行政区レベルのデータ等を基にした基礎的分析)

要約  :2015年5月に実施された「大阪都構想」をめぐる住民投票について、大阪市内24行政区レベルの投票率の集計データを主として用い、基礎的な分析を試みた。明らかにしたことは次の3点である(1)投票率にみられる,住民投票に対しての大阪市民の関心の分布構造(2)住民投票における賛成票の得票率と各種選挙における橋下および維新候補の得票率との相関(3)高齢化率と得票率との相関,およびそれらと橋下支持率の時系列推移の関係性,である.

報告者2:種村 剛(北海道大学高等委教育推進機構)

テーマ :科学技術基本計画から見る日本の科学技術政策

要約  :戦後日本の科学技術政策は1995年の「科学技術基本法」から転換し,さらに政権内部からイノベーションという言葉が頻繁に聞こえるようになってきた.さらに第2次,第3次安倍政権になり軍事研究をどうするかが政府,大学で大きな問題となっている.本報告では,日本の科学技術政策とその根底を支えてきた学問のあり方を考察した.

【そのほか】

今年度はシンポジウム関連の研究報告も2016年2月27日,3月27日に同時に開催した.

「情報化社会その成長の記録」

情報技術(IT)および情報産業の進展において,現在のITを支えるオープンソース・ソフトウェア(OSS)関連技術は1980年代後半から2000年代にかけて大きく発展した.2000年代以降は各種の記録がまだ残されているが,大きく発展した80年〜90年代の記録があまり残されていない点が問題となっている.そこで,本プロジェクトは,当時各方面において活躍していたキーマンを訪問し,インタビュー調査を行うことで当時の状況の記録を作成し,発展の状況を明文化することを目的とする.本年度は,主要プレーヤーに対するインタビュー調査に加えて,研究会やイベントでの情報収集,アンケート調査なども実施することで,関連する情報の収集・整理および分析を実施した.

【研究活動】

第1回 公開研究会 2016年7月22日(金)(サイボウズ(株) 日本橋オフィス27階会議室)

報告者:八田真行

テーマ:OSS歴史年表作成に関するワークショップ

概要 :本研究では,1990年代から2000年代にかけてOSSの日本導入に尽力した主要プレーヤーからの情報を集めている.本報告では,それらに関連する情報を年表形式でまとめることを想定し,実際に年表を作成してみようというワークショップ形式の研究会を実施した.具体的には,八田研究員が用意したシステムに情報を入力することによって年表が自動的に作成されることを確認し,参加者それぞれが情報源を年表に入れてみることにより作成作業自体を体験,操作方法を取得した.

【調査研究】

調査期間:2016年11月5日(土)〜6日(日)

出張先 :明星大学(東京都日野市)

出張者 :飯尾淳,風穴江,八田真行,塚越健司

概要  :2016年11月5日,6日に東京都日野市の明星大学を会場として開催されたOpen Source Conference 2016 Tokyo/Fall にプロジェクトとしてブース出展し,本チームの研究成果を展示するとともに,会場でアンケート調査を実施した.アンケートは106通の有効回答を収集することができ,現在,その内容を分析中である.

「『信頼感』の国際比較研究(2)」

2016年度は、前年度までに社研において開催された講演会などを経て個々の研究者による発表と刊行が主となった。信頼感研究に関しては、国際比較の視点に基づくものや今後の信頼感に関する意識調査に役立つ方法論(ウェブ調査におけるパラデータの活用方法)などである。また、平成23年度から今年度まで継続して実施してきた「信頼感」プロジェクトの研究成果について発表する国際会議の開催準備を行った。この国際会議では、研究成果の発表ならびに海外の代表する研究者の研究発表の後ディスカッションを行い、相互の資料・情報交換を通して、今後の「信頼」に関する研究の推進を図る。特徴的な点は、心理学、社会学、政治学、経済学、組織研究など諸分野の研究者が一堂に会して「信頼」研究について学際的見地から議論することである。この会議は中央大学社会科学研究所による学術シンジウム「地球社会の複合的諸問題への応答」の一環として中央大学駿河台記念館において開催され、開催期間は、平成28年11月18日(土)から20日(月)までで、国内外から多くの参加者を予定している。
 なお、石川晃弘客員研究員(本学名誉教授)は、本学社会科学研究所研究チームとチェコの研究チームとの共同研究(研究叢書13『体制移行期チェコの雇用と労働』2004年刊行)、並びにチェコ社会科学アカデミーの協力を得て実施した「信頼感」の全国調査結果の研究業績(研究叢書26、佐々木正道編『信頼感の国際比較研究』の第6章「チェコにおける社会的信頼感とその関連要因」に収録)などにより、チェコ共和国上院において2016年9月24日に「長年にわたるチェコ社会学者の研究活動の日本への紹介と彼らとの国際共同研究の遂行を通してチェコの国際的声価を高めることに寄与した」として表彰された。

【研究活動】

 2016年度は、個々の研究者による発表と刊行が主となった。

「暴力・国家・ジェンダー」

「暴力・国家・ジェンダー」チームは、研究初年度にあたる本年度は、研究会の開催による 研究活動と、チームメンバーによる合宿研究会を実施した。研究会においては、本チームのテーマ(フェミニズム、コミュニタリアニズム、ナショナリズム)にかかわる研究を精力的に進めている外部の研究者の研究成果を共有した。また、合宿研究会では、メイン報告のほか、参加者が各自の研究課題・研究計画を報告し、次年度は、研究チームメンバーによる研究成果の報告を中心として研究活動を進めていくことを確認した。

【研究活動】

第1回 公開研究会 2016年5月10日(火)16:40 ~19 :00(共催:経済学研究所「思想史研究会」)(中央大学多摩キャンパス2号館4階研究所会議室2)

報告者:棚沢直子氏(東洋大学名誉教授・フランス研究者)

テーマ:私の思想の軌跡・その方法・その展望―『母であることをどう考えるか』から出発して―

要旨 :「母であること」の思想は、フランスで男女平等思想を意味するフェミニズムでもなく、「母について」言及するノンフェミニズムでもなく、母を主体に据える思想である。子に対して強弱、上下関係の、強・上に位置する母は、父の下に置かれるが、西欧とアジアの関係における近代日本は、このような母の二重の関係と似通っている。フランス・フェミニズムが見落とした世代関係概念の構築が目指される。男女に二分化されない「親不分化像」たる天皇に焦点が当てられ、アマテラス-天皇、天皇-臣民という2つの親子関係が分析される。これまで確立されてこなかった日欧(仏)比較の方法は、翻訳の推敲から始まる。今後は、日仏の家族のあり方の違いを研究することが中心になるが、現代世界の理解にとってISへの理解は不可欠である。特攻精神が連合赤軍を介してアラブ世界に輸出された日本においてこそ、現代の世界的な暴力のあり方は探究できる。以上のように多岐にわたる重要な論点が示され、活発な議論が繰り広げられた。

第2回 公開研究会 2016年7月27日(水)16:40~19:00(中央大学多摩キャンパス 21061号室)

報告者:河上睦子氏(相模女子大学名誉教授)

テーマ:共生社会への模索――共食論をめぐって――

要旨 :「異質なもの」「他者たち」とのよりよい共存・共生を模索するために、集団で営まれる食活動である「共食」を軸に、問題の整理と考察が進められた。共食共同体は解体の危機に瀕しており、その危機の諸相が明らかにされた。次いで、フォイエルバッハ研究・社会倫理思想研究の立場から、共生、共食といっても、協同性を追求するあまり、個々人の個別性が失われてはならず、個人と共同性、協同性をともに尊重する必要性が強調される。さらに、ジェンダー視点から、第二波フェミニズムの家族批判、コミュニタリアニズム批判を整理し、続いて、ポストフェミニズムのケア論など、グローバル時代に対応する男女共生社会の模索に考察は及んだ。

第3回 公開研究会 2016年9月24日(土)15:00~18:30(中央大学多摩キャンパス第一共同研究室(21061))

報告者:棚沢直子(東洋大学名誉教授・フランス研究者)

テーマ:フランスの女性思想――ボーヴォワール、クリステヴァ、イリガライを中心に――

要旨 :1970年代のフランス・ウーマン・リブ運動MLFの誕生からその二大分裂まで、ボーヴォワール、クリステヴァ、イリガライの思想の特質とその後継者たちの布置、女性思想と男性思想家たちとの関係、フランスの女性思想がアメリカ経由で日本に紹介されたことによる問題、弊害の指摘、西欧の普遍主義を批判する視点の重要性、最後に日本からの発信の可能性など広範かつ深遠な報告をもとに活発な議論が行われた。

第4回 公開研究会 2016年11月25日(金)15:00~17:30(共催:第27回中央大学学術シンポジウム「理論研究」チーム)(中央大学多摩キャンパス研究所共同会議室2)

報告者:菊池理夫氏(南山大学法学部教授)

テーマ:コミュニタリアニズムとコスモポリタニズムをつなぐ「住民」

要旨 :現代のコミュニタリアニズムは、特定のコミュニティの価値を「共通善」として絶対化する抑圧的なコミュニティを主張しない。それは、同質的な人々ではなく、対立する生き方を持った普通の人々による合理的な討論、水平的な熟議によって、「公共善」と区別される「共通善」が得られ、この共通善を追求することが善き社会をつくると考える。現代のコミュニタリアニズムは、普遍的な価値に開かれ、グローバル・コミュニティにまで開かれコスモポリタニズムへと向かう可能性を持っていることが強調される。

第5回 公開研究会 2017年1月21日(土)15:00~17:30(共催:第27回中央大学学術シンポジウム「理論研究」チーム)(多摩キャンパス2号館4階 研究所会議室1)

報告者:山本健三氏(島根県立大学北東アジア地域研究センター研究員)

討論者:大矢温氏(札幌大学地域創生学群教授)

テーマ:近代ロシアの言論とナショナリズム―著書『帝国・〈陰謀〉・ナショナリズム』について―

要旨 :1860年代以降のロシア社会におけるナショナリズムについて、スラブ派ナショナリストのサマーリンとシレンの言論を軸に考察がなされる。サマーリンは、バルト・ドイツ人の特権と彼らの支配に苦しむ農奴たちの実態を炙り出す。そこでは帝国の原理とロシア・ナショナリズムとが対立していることが確認される。「出版戦争」において、サマーリンはバルト・ドイツ人によってロシアの国家意思が反故にされ、ドイツ民族が拡大する〈陰謀〉が存在すると主張する。バルト・ドイツ人をロシアの敵とする言論の激化は、バルト・ドイツ人の論客カール・シレンの「危険な」対抗言説を生む。ロシア政府はこの「対決」がロシアを不安定化するとして問題を先送りしたことが明らかにされる。討論者は、理論的前提、ロシアにおける西欧派とスラブ派の対抗、ソ連史学がスラブ派をどう捉えていたか、報告者の研究の新しさの4点にわたり解説・コメントを加えた。

合宿研究会 2017年3月22日~3月23日

場所 :箱根対岳荘

報告者:栗林大客員研究員

テーマ:新自由主義的世界における多文化主義の再構成のための試論―ガッサン・ハージ「社会的希望」概念を手がかりに―

参加者:中島 康予、鳴子博子、麻尾陽子、北原零未、中村勝己、前原直子、山田博雄

要旨 :キムリッカやヨプケの議論を参照しつつ、リベラリズムと多文化主義の理念的なアポリアを確認し、リベラル多文化主義が陥りつつある隘路にふれる。次にオーストラリアの人類学者ガッサン・ハージの議論を軸に、国民国家/福祉国家の新自由主義的な転回とともに多文化主義のもつ統治的な側面や、排外主義的なナショナリズムが顕わになるメカニズムについて考察される。最後に「ケア」概念を起点として、オルタナティブな多文化主義を再構築する道筋が試論的に示された。なお、参加者の研究課題等の共有・意見交換を行った。

「惑星社会と臨場・臨床の智」

本研究チームは、「ヨーロッパ研究ネットワーク」の活動を基盤に、"惑星社会の諸問題を引き受け/応答する(responding for/to the multiple problems in the planetary society)"ことを目的として発足した。イタリアの社会学者A.メルッチの惑星社会論とA.メルレルの社会文化的な島嶼社会論に基づき、個々人のレベルにおける〈"惑星社会の諸問題"への"知覚"と"生存の在り方"の見直し〉について、社会運動論・臨床社会学・歴史社会学などによる複合的アプローチである"リフレクシヴな調査研究"を行う。日本とイタリアの研究者の協力体制により、1980年代以降の日本とイタリアの地域社会と社会運動の動態、その構造とメカニズムに焦点を合わせ、「可視的な社会運動」の"深層/深淵"で萌芽する"臨場・臨床の智(living knowledge )"の把握を試みることによって、「3.11以降」の"生存の場としての地域社会"形成の指針を提示する。

【研究活動】

第1回 公開研究会 2016年7月16日(土)(中央大学多摩キャンパス2号館4階研究所会議室4)

報告者:広田康生・藤原法子(専修大学)、阪口毅・鈴木鉄忠(中央大学)

テーマ:トランスナショナル・コミュニティ――場所形成とアイデンティティの都市社会学 /「都市コミュニティ」の移動性と領域性

概要 :グローバリゼーションのもとでの都市コミュニティについてのインテンシブな調査研究をすすめてこられた専修大学の広田康生・藤原法子の両氏をお呼びして、両氏の近著についてのレビューとそれに対するリプライを行った。つづいて、阪口毅から、移動性と領域性の問題を中心に、鈴木鉄忠からトリエステ研究(国境地域の諸問題への領域横断的アプローチ)の観点からのレビューと議論を行った。

第2回 公開研究会 2016年11月9日(水)(中央大学多摩キャンパス2号館4階研究所会議室4)(共催:第27回中央大学学術シンポジウム「臨場・臨床の智」チーム)

報告者:マイケル・クーン(元ブレーメン大学教授)、矢澤修次郎(一橋大学・成城大学名誉教授)

テーマ:科学的思考に対する社会科学的アプローチ

概要 :国民国家の枠組みに捉えられた社会科学から、グローバル時代に相応しいGlobal Social Thoughtへの転換をテーマに、グローバル・ソーシアルとは何か、disciplinary thinkingの特徴とその問題点、とその問題点の議論を踏まえて、目的論の特徴、社会科学的認識様式、社会科学的理論化、自然科学のスティグマ、科学的知識の短命な知識への対抗を如何にするかといった点についての報告と議論がなされた。

合宿研究会 2016年8月29日(月)~8月30日(火)

場所 :伊東市

報告者:新原道信・阪口毅・大谷晃(中央大学)、栗原美紀(上智大学)

テーマ:"うごきの場"および"未発の状態"について

概要 :前年度に刊行した『うごきの場に居合わせる』(新原道信編著、2016)を踏まえた今年度の研究テーマである、"うごきの場"および"未発の状態"に関する個別研究報告と集中的な議論を行った。

研究成果報告 2016年9月3日(土)~9月4日(日)

場所 :京都市

報告者:阪口毅(中央大学)

テーマ:「都市コミュニティ」の移動性と領域性

概要 :広田康生教授(専修大学)の要請により、「惑星社会と臨場・臨床の智」チームの研究成果報告の一環として、「集合的な出来事」のなかで生起する"臨場・臨床の智"の動態把握の認識論と方法論についての報告を都市社会研究者に対して行った。

研究成果報告 2016年10月7日(土)~10月9日(日)

場所 :福岡市

報告者:鈴木鉄忠(中央大学)

テーマ:惑星社会論と社会運動の動態把握について

概要 :鵜飼孝造教授(同志社大学)の要請により、「惑星社会と臨場・臨床の智」チームの研究成果報告の一環として、チームの現代社会理論のベースとなるアルベルト・メルッチの惑星社会論のさらなる検討、そして、法制度化される以前および以後の社会運動の動態把握の認識論と方法論についてついての報告を社会運動研究者に対して行った。

国際シンポジウム 2016年12月9日(金)・10日(土)(中央大学後楽園キャンパス3号館31112号室・3300号室)(共催:第27回中央大学学術シンポジウム「臨場・臨床の智」チーム)

報告者:Chang Dukjin, Kim Seokho, Kwon Hyunji, Zhang Haidong, Zhng Wenhong, Yazawa Shujiro, Katano Yohei, Nomiya Daishiro, Yao Yelin, Yu Yimin, Hong Lian,Lu Chen, Jin Bomi, Murase Risa, Ban Mihee, Sakaguchi Takeshi, Wang Tiji, Tao Qiurog, Kim Suna, Bi Jingqian.

テーマ:East Asia in Agonies: Multi-Layered Tasks in Urbanization, Globalization and Social Transformation (悩める東アジア:都市化・グローバル化に伴う社会変容と複合的課題)

概要 :日本・韓国・中国の三カ国から若手の社会科学者が参集し、それぞれの観察から、東アジアにおける社会発展にともなって噴出しする多様な社会問題を確認し、あわせて今後の持続的発展のための示唆を引き出すことを狙いとした。都市化とグローバル化の受容のタイミングと経験は、東アジア三カ国で異なる。これらの社会変動は、我々の社会に何をもたらしたのか。三つの国は、それぞれに異なる問題を抱え込む。このような問題とはどのようなものであるのか、また我々はこれらの諸問題に対応できているのだろうか。こうした課題を多角的に捉え、応答し、持続可能な社会の構築に向けて議論することが本シンポジウムの目的であった。

【その他】

「惑星社会と臨場・臨床の智」では、主要な研究活動として、公開研究会・シンポジウムを開催すると同時に、非公開の研究会を行ってきた。この研究会は、"うごきの比較学"研究会として定例化され、公開研究会・シンポジウムに向けての打ち合わせのみならず、インテンシブな討論による概念の錬磨、研究計画の策定などにおける進展が見られた。

「フォーラム『科学論』」

2016年度については,諸般の事情により研究活動は実施しなかった.