社会科学研究所活動報告(2010年度研究チーム)

2010年度研究チーム

「日本政治の構想と実践」

本チームは、幕末から現代までの日本政治の史的展開を対象とする。開国から150年、日露戦争から100年、そして敗戦から60年が経過し、日本の近現代をめぐっては、その史実をいかに現実の諸問題と関わり合わせて考えていくかが、今日の課題となっている。
 そこで、本チームでは、それぞれの時代状況において、人びとがいかなる問題意識を起点に、どういった構想を抱き、どう実践したのかという「日本政治の構想と実践」のプロセスを、改めて問い直していきたい。その際、背景となる社会の変化を総体として把握しない限り、政治事象の本質的な意義をつかむことはできない。そのため、政治を基軸に据えつつも、法律・経済・軍事・思想・教育・文化・地域・国際関係といった複眼的な視角も積極的に採りいれながら、検討を進めていく。こうした分析の積み重ねが、これまでの歴史像をとらえ直すとともに、日本政治の未来を切り拓く指針を手にすることにつながるといえよう。
 2010年度は、研究活動を2年延長し、各研究員が研究成果発表のための研究叢書原稿執筆にかかる準備期間とした。

「現代企業文化の国際比較研究」

われわれの研究チームは、社会経済の秩序の要となるべき新たな企業文化が、グローバル化した環境下でどのようなパターンをとって現れているかという問題関心から国際比較研究を進めてきた。そして2007年度~2008年度には日本、中国、ロシア、ドイツ、フィンランド、チェコ、スロヴァキア、エストニアの研究者との共同で、それぞれの国における企業文化の現状把握のための従業員意識調査を実施し、その結果の中間報告会を2008年6月に東京で行った。その成果の一部はすでに「中央大学社会科学研究所年報」第12号、「労働調査」誌2009年3月号、「国際社会学協会(IIS)世界大会」(2008年6月、ブダペシュト)、「台湾社会学会大会」(2008年12月、台北)で発表されている。
 これをふまえて2010年度は、企業文化の社会的背景情報を得るために「社会的信頼」に関する考察と調査研究へと、作業を展開した。そして当研究チーム幹事の佐々木正道が別途主宰している「社会的信頼」国際比較調査からえられた諸外国のデータと関連付けて、2009年1月に「企業文化と社会的責任」と題するシンポジウム形式の研究会を持ち、ロシア人、中国人、台湾人研究者の参加のもとに知見を深めた。この調査は既に日本(N=924)のほかに、米国(N=1,008)、ロシア(N=1,600)、ドイツ(N=1,007)、チェコ(N=981)、台湾(N=981)、 トルコ(N=1,007)でも実施し、あわせて7カ国での調査を2011年1月に終えている。現在それらの調査結果についてデータ分析を行っており、既にチェコ(石川)、ドイツ(森)、台湾(首藤)、そして7カ国全体の総合的分析(佐々木)の原稿が完成しており、残り日本、米国、ロシアについては年度末を目途に執筆が進められている。

「グローバル化と社会科学」

グローバル化と地球規模の問題群についてはさまざまな領域について膨大な研究があるが、それらと社会科学との関係については、あまり先行研究、調査は存在しない。初年度は、本学社会科学研究所設立30周年を記念して、国際シンポジウムを開催し、環境、開発、貧困、紛争、グローバル・ガバナンスなどに関する社会科学の関与と貢献、そして今後の課題について討議し、その成果を広く世界に発信する。2年目以降も、グローバル化と社会科学の各領域との関連性を研究課題として設定し、社会科学がグローバル化によって引き起こされた諸問題にどのように取り組んでいるのかという点に焦点を当てて、研究を進めていきたい。

研究活動 
第1回公開研究会:2010年5月20日(木)(政策文化総合研究所共催) 
講師:イアン・クラーク氏(ウェールズ大学アベリストウィス校国際政治学部教授) 
テーマ:単一の大国が国際秩序を維持する責任を負いうるか? 
(Can a Single Great Power Bear Responsibility for International Order?) 
第2回公開研究会:2010年5月28日(金)(政策文化総合研究所共催) 
講師:イアン・クラーク氏(同上) 
テーマ: 金融危機後のグローバリゼーション(globalization after Finacial Crisis) 
第3回公開研究会:2010年6月3日(金)(政策文化総合研究所共催) 
講師:イアン・クラーク氏(同上) 
テーマ: 台頭する中国に対するEUのイメージ(EU Images of a Rising China) 
第4回公開研究会:2011年3月29日(火) 
講師:西原 和久 氏(名古屋大学大学院教授) 
テーマ:「グローバル化への社会学的問いと日本における外国人労働者の問題-長野県K村の農業研修生を事例として-」

「多摩キャンパスの自然Ⅱ」

昨年に引き続き、多摩キャンパスの自然、取り分け多様性に富む生物相が見られる環境の保全を図った。懸案のヤマアカガエルの保全は、一昨年の秋に造成した池に、目論見通りの産卵が見られたことから、生存に関わる大きな危機を脱し、新たな段階に入っている。トウキョウサンショウウオは、産卵は7対余の卵嚢に及ぶと共に、産卵にきた雌雄の成体も、初めて見届けることが出来た。ゲンジボタルの人工飼育では、餌となるカワニナの調達で問題があるものの、ホタル水路への放流も予定通り進み、自然発生の個体も加え、多くの飛翔を確認した。その他、絶滅危惧の植物は、適宜実習園に植えて増殖を模索した。生き物の環境とは別に、キャンパスのスポーツ環境の保全の立場からは、人工芝の表面温度の問題について検討を深めた。

研究活動 
①スポーツグラウンドにおける人工芝の問題点  
スポーツグラウンドに普及している人工芝の問題点として、夏季における表面温度の高温化の問題を取り上げた。 
②希少種、ヤマアカガエルの生息環境の保全(継続) 
③トウキョウサンショウウオの保全(継続) 
④ゲンジボタルの飼育と放流(継続) 
⑤生物相リストへの追加種の記載

調査研究 
①調査地:高千穂郷一帯 
②調査目的:天孫降臨の地で、日本文化発祥の地とされている「高千穂郷」地域一帯、取り分け、神社等における御神木(巨樹)の様相や管理状況、並びに周辺生態系における植生や生き物の実態を見聞すること。併せて、そこに日本古代文化を発祥せしめた環境を、遺跡や"夜神楽"等を通して把握すること。 
③調査期間2011年2月27日(日)~ 3月2日(水)

「『満州』移民と地域社会の研究」

1930年代から終戦までに実施された満州移民政策と、移民を送出した側及び受容させられた側の地域社会との関係を調査・分析することを目的とする。残留孤児・残留婦人という重大な問題を残しながらも、なぜ、かつどのように満州移民が送出されたのか、解明されていない部分が多い。満州移民体験者の高齢化のため、聞き取り調査のタイムリミットが迫っており、緊急性を要する研究である。

研究活動 
第1回合宿研究会:2010年11月3日(土)~11月6日(月) 
出張先:長野県飯田市 飯田市歴史研究所 他講師:本島 和人 氏(飯田市歴史研究所調査研究員) 
テーマ:「長野県と飯田・下伊那地域の満州移民」講師:齊藤 俊江 氏(飯田市歴史研究所客員研究員) 
テーマ:「満州教学奉仕隊の記録を読む-宮下功『満州紀行』を中心に-」 
資料調査・収集:2010年11月6日(月) 
第1回公開研究会:2011年1月28日(金) 
講師:塚瀬 進 氏(長野大学環境ツーリズム学部教授) 
テーマ:「満州国の統治政策とその現実」 
講師:花井 みわ 氏(早稲田大学社会科学部総合学術院准教授) 
テーマ:「満州国間島省の明と暗」

「東京の社会変動」

①2010年7月に、東京と比較するために、アジアの大都市、北京、天津、台北の3都市の社会構造にかんする研究報告会を開催した。 
②2010年10月に、世田谷区役所と練馬区役所の協力を得て、また川崎ゼミの学生の協力により、両区に残存する農家6戸にインタビュー調査を行った。そのインタビュー記録を中心にした『資料集:東京の農業と農家』を2011年3月に刊行した。 
③2011年2月25日から3月2日まで、幹事の川崎と準研究員の北芳およびセンヤチの3名がイタリアを訪問し、ナポリ大学教授フランコ・チェラゼ教授による協力を得て、ナポリ大学のスタッフおよび院生とのワークショップに参加し、ナポリ市の中小企業一社の訪問調査を行った。 
第1回合宿研究会:2010年7月22日(木)~23日(金) 
報告者:北 芳(準研究員)、セン ヤチ(準研究員)他 
テーマ:「アジアの大都市」  
調査研究: 
①調査期間:2010年10月 
世田谷、練馬両区に残存する合計6軒の農家へのインタビュー調査 
②調査期間:2010年2月28日(月) 
イタリア・ナポリ市の中小企業「Isaia and Isaia」(繊維産業)の訪問調査

「選挙と政治」

昨年度の衆議院選挙において政権交代があり、本年度は政権交代下での参議院選挙があり、日本の選挙と政治は大きな揺らぎの時期にある。本年度はこれらの大きな変化について基礎的な検討を進めており、研究会での報告も、この政権交代と政策変化の地方選挙への影響を捉えたものである。ただし、これらについては分析可能な基礎資料がまだ十分には出ておらず、利用可能な資料についても分析の途中である。 
第1回 研究会 2010年11月24日(水) 
報告者:塩沢健一 客員研究員 
テーマ:名護市長選挙における「民意」の動態―投票行動の変化と普天間問題をめぐる態度変化-

「ヨーロッパ研究ネットワーク」

本プロジェクトは、ヨーロッパの研究機関・研究者と日本の研究機関・研究者との交流促進計画として独立した。すでに発足当時からイギリスのシェフィールド大学、フランスのエクス・マルセイユ第三大学とは研究交流があったが、2000年度にイタリアのナポリ大学"フェデリコⅡ世"社会学部、ローマ大学"ラ・サピエンツア"社会学部社会学科およびベルギーのブリュッセル自由大学ヨーロッパ研究所および社会学研究所と研究交流協定を結び、2001年度からさまざまな研究交流が始まった。また2001年から2004年にかけてはミラノ・ビコッカ大学社会学・社会調査学部との間で共同研究プロジェクトを実施した(これらの大学のうち、ブリュッセル自由大学およびミラノ・ビコッカ大学とは2003年度に全学協定を締結し、したがって前者と当研究所との研究交流協定は自動的に解消された。またナポリ大学との協定は、2008年度をもって終了した)。2009年度から、サッサリ大学との協定にむけての協議・研究交流を行ったが、条文の整備・調整にともなう諸困難に直面し、年度内の実現にはいたらなかった。また、2010年度においても進展がみられなかった。

「フォーラム『科学論』(再編)」

2010年度は、2008年12月に開催した公開講演会:テーマ「日本の現実と未来―ジャーナリズムとアカデミズム―」に続く第2回目の公開講演会を開催する予定でいたが、諸般の事情により今年度の実施は見送りとした。