経済研究所

【経済研】『ディスカッションペーパー』No.418 (佐久間 貴大準研究員『「通常の事業の賃金支払能力」からみた最低賃金への試論―賃上げの余力はどこにあるのか―』)を発行しました

2026年1月28日に発行された『ディスカッションペーパー』No. 418 を学術リポジトリで全文公開いたしました。

論文名:「通常の事業の賃金支払能力」からみた最低賃金への試論―賃上げの余力はどこにあるのか―

執筆者:佐久間 貴大準研究員中央大学大学院経済学研究科博士後期課程

キーワード:最低賃金、賃金支払能力、中小企業、賃上げ、法人企業統計調査、通常の事業の賃金支払能力、Minimum Wage、ability to pay the wages、Small and Medium sized Enterprises、SMEs、the ordinary enterprises' ability to pay the wages

要 旨: 

 本論文の目的は、賃金の最低基準たる最低賃金及び最低賃金を超える賃金の引き上げ(以下「賃上げ」という。)に対する企業の賃金支払能力を分析し、賃上げに向けた課題を明らかにするとともに、事業者が行う持続的賃上げに資する方策への一考察を論じることである。

 既存研究では、例えば、最低賃金の歴史に関する研究、他国の最低賃金に関する国際研究、最低賃金が企業経営に与える影響に関する研究、労働者の必要生計費(最低生活費)に関する研究といった研究が行われているものの、鹿住倫世(2025)が指摘するように、「通常の事業の賃金支払能力」に関して研究の蓄積が不足していた。そこで、本論文では、「最低賃金の決定基準の三要素」の一つであり、労使間の議論における争点ともなっている「通常の事業の賃金支払能力」に注目することとして研究を行うこととした。

 本論文において賃金支払能力を求める分析手法では、財務省「法人企業統計調査」を用いて、3つの分析手法(①付加価値労働生産性及び労働分配率を用いた分析(生産性と分配率からみた賃金支払能力)、②損益分岐点及び危険点を用いた分析(当年度主義からみた賃金支払能力)、③安全性指標を用いた分析(決算時点の財務体質からみた賃金支払能力))を併用し、業種別資本金階層別企業規模に分けた「賃金支払能力」を測ることとしている。それゆえ、本研究の意義は、付加価値労働生産性と労働分配率の組み合わせ、損益分岐点分析と危険点分析による評価、安全性分析による評価といった実証的に論証したことにある。

 本論文の章ごとの内容は次の通りである。第1章では最低賃金を取り巻く状況や既存研究を整理し、本論文の問題意識に基づく研究課題を設定している。第2章では分析手法及び用語の定義についてまとめている。第3章では付加価値労働生産性と労働分配率による分析、損益分岐点及び危険点による分析、安全性指標による分析という結果を提示している。第4章では分析結果を通じた賃金支払能力と余地領域について検討し、賃金決定に与える影響の要因について考察を行っている。第5章では賃金の引き上げに向けた示唆を検討している。第6章では本研究で得られた知見と結論を総括している。

本論文は最低賃金における「通常の事業の賃金支払能力」という観点から学問的新たな知見の蓄積に貢献することに加えて、最低賃金をはじめとする賃金交渉に対する今後の労使議論だけでなく、実務面や政策面への示唆も期待できる。

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