経済研究所

【経済研】『ディスカッションペーパー』No.417 (中村 俊紀準研究員『「家計調査」を用いたコーホート分析による移転資産の推計 ―引退期の勤労世帯における資産蓄積と相続・贈与への影響について―』)を発行しました

2025年12月16日に発行された『ディスカッションペーパー』No.417を学術リポジトリで全文公開いたしました。

論文名:「家計調査」を用いたコーホート分析による移転資産の推計―引退期の勤労世帯における資産蓄積と相続・贈与への影響について―

執筆者:中村 俊紀準研究員(中央大学大学院経済学研究科博士後期課程

キーワード:ライフサイクル資産、移転資産、世代間資産移転、相続・贈与、コーホート分析、家計調査、引退期の資産蓄積、社会保障給付、資産移転税制、ライフサイクル仮説

要 旨:

 本稿は、「家計調査」を用いたコーホート分析により、世代間移転(相続・贈与)が日本の家計資産に及ぼす影響を実証的に検証することを目的としている。退職時期の延長と社会保障給付を反映させたライフサイクルモデルに基づき、現役期および引退期のライフサイクル資産(LW)と移転資産の比率を推計した。分析の結果、60歳時点の移転資産比率は23.0〜34.4%と推計され、従来の知見を支持する結果が得られた。また、1980年世代では金利低下の影響下でも、所得の増加と計画的な貯蓄により、LWの重要性が相対的に高まり、移転資産の影響は弱まった。引退期には就業継続と社会保障給付によりLWが持続的に増加する可能性が示された。平均的な家計の相続財産は約4,200万円〜5,500万円と推計され、現行の相続税基礎控除額と概ね一致しており、制度的合理性が示唆される。今後は、資産格差拡大を見据え、基礎控除額の見直しや相続税・贈与税の一体的な資産移転税制の構築が課題である。

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