研究

2014年度

外国人研究者受入一覧と講演会等の記録

※氏名をクリックすると講演会等の記録がご覧になれます。

2014年度
フリガナ・漢字
氏名
所属 国名 受入区分 受入期間 講演日 講演タイトル
Michael Ashby(マイケル アシュビー) Honorary Senior Lecturer University College London 大学名誉教授 イギリス 訪問 2014.4.30 2014.4.30 Models and goals in English pronunciation(英語音声学におけるモデルと目標)
Roberto Caldara(ロベルト カルダラ) フライブルク大学教授 スイス 訪問 2014.5.8 2014.5.8 Mapping the impact of culture and race in face processing
朱玉麒 (シュギョクキ) 中国北京大学教授 中国 訪問 2014.5.14 2014.5.14 紀功碑と西域における戦争
高兵兵 (ガオピンピン) 中国西北大学教授 中国 訪問 2014.5.21 2014.5.21 平安京における園林宴集活動と唐代の長安・洛陽――『本朝文粋』の詩序を手がかりに
Lion Brigitte(リオン ブリジット) リール第三大学教授 フランス 訪問 2014.5.26 2014.5.26 Woman and Real Estate Property in Nuzi(ヌジにおける女性と不動産
セリーヌ・スペクトール ボルドー・モンテーニュ大学 哲学科教授 フランス 訪問 2014.6.18 2014.6.18 ルソーからチャールズ・テイラーへ:自律・本当の自己・承認
モントルール シルヴィーナ リノイ大学アバナ・シャンペイン校教授 アメリカ 訪問 2014.7.2 2014.7.2 The ups and down of the monolingual native speaker and the bilingual turn in SLA
張 栄強(ジャン ロンチャン) 北京師範大学歴史学院教授 中国 第2群 2014.11.12~11.27 2014.11.19 新出文献と漢唐間の戸籍制度研究
ガブリエル・ラディカ ピカルディー・ジュール・ヴェルヌ大学准教授 フランス 訪問 2015.1.15 2015.1.15 ジュリーは完璧主義者か?『新エロイーズ』における道徳
陳登武(チン トウブ) 国立台湾師範大学歴史学系教授 台湾 訪問 2015.3.19 2015.3.19 唐代判詞的世界:以白居易〈百道判〉為中心(唐代判詞の世界:白居易の「百道判」を中心に)

Michael Ashby氏の講演会

開催日:2014年4月30日(水)
場 所:多摩キャンパス 2号館1F 2104号室
講 師:Michael Ashby(マイケル アシュビー) 氏 ( Honorary Senior Lecturer University College London大 名誉教授)
テーマ:「Models and goals in English pronunciation(英語音声学におけるモデルと目標)」
企 画:共同研究チーム「文法記述の諸相」
大学のグローバル化が進む中で、英語音声学は、学生の英語力の基礎と言語能力の向上に不可欠なものである。しかし英語音声学は、外国語学部や一部の特別な文学部に限定されるべき分野と、誤解されている面もある。そのような状況の中で、今回の交流の成果は、以下のようにまとめることができよう。
①2013年度から始まったロンドン大学夏期短期留学の受け入れ先プログラムの責任者であり、英語音声学の分野で著名なMichael Ashby先生の講演を通して、英語音声学の重要性や有益性と、その具体的特長について、参加教職員や参加学生に強くアピールできたこと。
②英語音声学に関する講演を持ったことで、人文科学研究所の研究チームの中に、多様な言語研究をおこなっているチームがあることを、学内外に示すことができたこと。
③Michael Ashby先生に、実際に中央大学を訪問し、講演をおこない、さらに一部の先生方と交流していただいたことで、中央大学を実体験し、中央大学についての理解と認識を深めていただいたこと。
④2014年度のロンドン大学夏期短期留学のプログラムのうちで、中央大学に個別に関わるプログラムの意見交換、および今後のプログラムの持続性について相互理解を深めることができたこと。

Roberto Caldara 氏の講演会

開催日:2014年5月8日(木)
場 所:駿河台記念館620号室
講 師:Roberto Caldara(ロベルト カルダラ) 氏(フライブルク大学教授)
テーマ:「Mapping the impact of culture and race in face processing)」
企 画:研究会チーム「視覚と認知の発達」
Human beings living in different geographical locations can be categorized by culture and race. The term culture is typically used to describe the particular behaviors and beliefs that characterize a social or ethnic group. Historically, it has long been presumed that across cultures, all humans perceive the world essentially in a comparable manner, viewing objects and attending to salient information in similar ways. Recently, however, our work and a growing body of literature have disputed this notion by highlighting fundamental differences in perception between people from Western and Eastern (China, Korea and Japan) cultures. Such perceptual biases occur even for the biologically relevant face recognition and the decoding of facial expressions of emotion tasks. This marked contrast obligated us to reconsider the very nature of perception and the forces that are responsible for shaping the way we see the world. However, much of the evidence has been so far provided by behavioral measures. Cultural neuroscience introduces a novel biological perspective to cross-cultural research by examining cultural variation in the brain, and its multilevel interactions between genes, behavior and the cultural environment. Isolating the precise contribution of biology and culture in forging different aspects of (neural) cognition represents a major challenge for scientists today, aiming ultimately to precisely assess the contribution of nature and nurture in human behavior.
Race is a universal, socially constructed concept used to categorize humans originating from different geographical locations by salient physiognomic variations (i.e., skin tone, eye shape, etc.). I will then present a series of studies showing a very early extraction of race information from faces and the impact of this visual categorization on face processing.
I will discuss in turn the role of those two factors shaping visual cognition, as well as integrate data from other experiments that feed these debated fields.

朱玉麒 氏の講演会

開催日:2014年5月14日(水)
場 所:多摩キャンパス 2号館4F研究所会議室2
講 師:朱玉麒 (シュギョクキ)氏(中国北京大学教授)
テーマ:「紀功碑と西域における戦争」
企 画:研究会チーム「アフロ・ユーラシア大陸における都市と国家の歴史」
北京大学教授の朱玉麒教授は、唐代文学や西域史の研究で国内外に知られる壮年の学者である。中央アジア史研究や西域史研究、東西交渉史研究の国際学術誌『西域文史』(2007年創刊、北京・科学出版社から現在第7輯まで刊行)の主編者でもある。今回の講演は、文献に関する該博な知識と広域における実地調査をふまえ、戦勝を石に刻んで慶祝する紀功碑の変遷を中国の歴史を通して分析する内容だった。周知のように紀功碑自体は、世界各地で広く見ることができる。中国でも、紀功碑は紀元前からの長い歴史と伝統をもっている。本講演は、中国大陸における紀功碑の変遷を、永元五年(93)「任尚碑」や貞観二十二年(648)「阿史那社爾紀功碑」、清・乾隆帝の平定西北邊疆紀功碑などにもとづき系統的に分析し、中国西域(現在の新疆)における紀功碑の特色を明らかにした。とくに、以下の点を明らかにした点は重要である。                                             
(1)漢代の紀功碑と唐代の紀功碑の違いは、漢唐間における天下秩序の概念の変化を表している。
(2)清代の紀功碑は、従来の紀功碑と異なり、中国内部にも広く複製品が立碑された。この原因は、清朝が満族の征服王朝であり、紀功碑を通して中国の支配を浸透させようとした結果である。
講演会には、学内外から約20名の参加者があり、上記の論題をめぐって6時過ぎまで活発な討論が行われ懇親会の時間に食い込むほどであった。本研究チームの共同研究のテーマに密接に関わる今回の講演は、学術交流の深化という点においても大きな成果をあげたといえよう。

高兵兵 氏の講演会

開催日:2014年5月21日(水)
場 所:多摩キャンパス 2号館4F研究所会議室2
講 師:高兵兵 (ガオピンピン)氏(中国西北大学教授)
テーマ:「平安京における園林宴集活動と唐代の長安・洛陽――『本朝文粋』の詩序を手がかりに」
企 画:研究会チーム「アフロ・ユーラシア大陸における都市と国家の歴史」
高兵兵教授は、日中比較文学研究を代表する研究者の一人であり、西安の西北大学で教鞭をとり、数多くの論著で知られる。日本の大阪大学で和漢比較文学の分野で博士号を取得し、中国で出版された博士論文は、高い評価を受けている。
今回の高教授の講演は、「平安京における園林宴集活動と唐代の長安・洛陽-『本朝文粋』の詩序を手がかりに-」と題し、平安京の園林文学と中国唐の両京の園林文学を比較するものだった。論点の中核にあるのは、日本の平安京の園林で催された宴会文化は、唐代の長安や洛陽の園林における宴会文化と、どこが類似しどこが異なるのか、という問題である。結論として、唐代都城の都市文化の影響を受けた日本都城の貴族たちは、日本列島の自然と文化を背景に、唐風かつ和風の新たな文化活動を編み出していくと論じる。藤原明衡が11世紀に編纂した『本朝文粋』の詩序をてがかりに明らかにする今回の講演は、日中比較文学史の新たな局面をきりひらく重要性をもっていた。
参加者は学内外から15名ほどにおよび、質疑応答では、日中文化交流史に詳しい國學院大学教授の金子修一氏から、東アジアの外交史の中で本公演の内容を位置づけることの重要性が指摘され、また、中国の天子-皇帝制制度と日本の天皇制の違いが園林文学にどのように反映するのか、という興味深い問題についてもさまざなま意見がだされ議論は盛り上がった。懇親会でも、引き続き熱い議論が継続された。今回の講演は、日中比較文学という、本研究チームの課題にふさわしい講演題目であり、学術交流でも大きな成果をあげることができた。

Lion Brigitte 氏の講演会

開催日:2014年5月26日(月)
場 所:多摩キャンパス 2号館4F研究所会議室2
講 師:Lion Brigitte(リオン ブリジット)氏(リール第三大学教授)
テーマ:「Woman and Real Estate Property in Nuzi(ヌジにおける女性と不動産)」
企 画:研究会チーム「英雄詩とは何か」
今回のリオン教授の講演は、「古代オリエント世界における女性の経済的な役割」を明らかにするという本学を中心とする日仏共同プロジェクトの、研究成果の発表でもあった。講演の後、女性の不動産の権利について活発な議論が行われた。

セリーヌ・スペクトール氏の講演会

開催日:2014年6月18日(水)
場 所:多摩キャンパス 2号館4F研究所会議室2
講 師:セリーヌ・スペクトール氏(ボルドー・モンテーニュ大学 哲学科教授)
テーマ:「ルソーからチャールズ・テイラーへ:自律・本当の自己・承認」
企 画:共同研究チーム「ルソー研究」
本学文学部仏文専攻と英文専攻の院生と専任教員を中心として、他学部の専任教員、人文研の「ルソー研究」チームメンバー、更に学外の18世紀とルソー研究の専門家たちが集まって、ルソーと現代政治哲学との関係についての講演(フランス語・通訳付き)を開き、講演後は主としてフランス語による質疑応答が活発に行われた。

モントルール シルヴィーナ氏の講演会

開催日:2014年7月2日(水)
場 所:多摩キャンパス 2号館4F研究所会議室2
講 師:モントルール シルヴィーナ氏(イリノイ大学アバナ・シャンペイン校教授)
テーマ:「The ups and down of the monolingual native speaker and the bilingual turn in SLA」
企 画:研究会チーム「言語の理解と算出」
Cognitive/linguistic approaches to second language acquisition are mainly concerned with establishing whether, how, and why non-native speakers differ from (monolingual) native speakers in their linguistic knowledge and processing, and their ultimate attainment. Emphasizing that these approaches have had a dominant role in the theoretical landscape in the last fifty years, Firth and Wagner (1997) called for a “social turn” that would place more emphasis on social dimensions of SLA, qualitative methods, and focus on individuals and inherent variation in language acquisition. Ortega (2010, 2013) has recently call for a “bilingual turn” in SLA research. Central to Ortega’s concern is the traditional emphasis on the monolingual norm and the view of second language acquisition as deficient to the degree that it diverges from that norm. In her view, SLA is consequently cast in a negative light and is thereby prevented from making further progress. In her talk at Chuo, Professor Montrul extended this line of reasoning and established what specifically a “bilingual turn” exactly means for SLA. She then demonstrated rather compellingly that SLA research, at least work conducted within the rigorously theoretical context of generative grammar, has in fact a long history of recognizing the distinct character of second language learners and emerging interlanguage grammars as independent types worthy of investigation in an of their own right.

張 栄強氏の講演会

開催日:2014年11月19日(水)
場 所:多摩キャンパス 2号館4F研究所会議室2
講 師:張 栄強(ジャン ロンチャン)氏(北京師範大学歴史学院教授)
テーマ:「新出文献と漢唐間の戸籍制度研究」
企 画:共同研究チーム「世界史における「政治的なもの」」
11月19日の公開講演会は、中国史以外の分野からの来聴者も得て、近年本学で開かれた中国史学関係の講演会の中でもとりわけ活況を呈したものの1つとなった。本講演中でも多くの時間を割いて論じられていた魏晋南北朝期の時代性というテーマについては、この数年、中国各地でこれを主題とした学術会議やシンポジウムが続々と開催されており、本報告はそうした学界全体のムーヴメントの中においても重要な成果として位置づけうるものである。中央大学でこのような水準の高い報告がなされ、多くの教員・学生がそれにじかに接することができたことは、本学の研究・教育にとってきわめて大きな意義を有する。
11月20日の講義は、昨秋浙江省の杭州市で開かれた中国社会科学院主催の国際シンポジウムでなされた報告を基礎とするものであった。受入教員もこのシンポジウムに参加して当該報告に立ち会っており、従来は風俗史や社会史の角度からしか考えられてこなかった年齢加算の問題について、王権による時間支配(=暦の頒布)や民衆把握(=戸籍の作成)といったより幅広い視野からアプローチした好論として、フロアから非常な好感をもって受け入れられたことを鮮烈に記憶している。本講義はそれをさらに大幅に加筆修正した論文(未公表)に基づいており、説得力が一段と増したのみならず、扱われる問題もいっそう広くなり、単に内容だけでなく研究手法の面においても、学生諸君に大きな示唆を与えるものであった。

ガブリエル・ラディカ氏の講演会

開催日:2015年1月15日(木)
場 所:多摩キャンパス 2号館4F研究所会議室2
講 師:ガブリエル・ラディカ氏 (ピカルディー・ジュール・ヴェルヌ大学准教授)
テーマ:「ジュリーは完璧主義者か?『新エロイーズ』における道徳」
企 画:共同研究チーム「ルソー研究」
中大文学部・同大学院の院生・専任教員の他、他学部の専任教員、また学外からも18世紀やルソーの研究者たちが参加して2時間近い講演を通訳付きで開き、その後30分ほど活発な質疑応答が主としてフランス語で直接行われた。
ジュリ(『新エロイーズの主人公』)の変容を肯定的に捉えるかそれとも不定的に捉えるか、サン=ブルー(ジュリーの恋人)の変容は問題とするに足らないのか、更にアメリカのソローやエマソンいった思想家たちをジュリーの理解に供する必然性が果たしてあるのか否かといったところが、主な論点となった。参加人数は決して多くはなかったが、実り多い学術的交流が実在できた。今後、ラディカ女史と持続的に交流することが十分期待できる。

陳 登武氏の講演会

開催日:2015年3月19日(木)
場 所:多摩キャンパス 2号館4F研究所会議室1
講 師:陳登武(ちん とうぶ) 氏 (国立台湾師範大学歴史学系教授)

テーマ:「唐代判詞的世界:以白居易〈百道判〉為中心(唐代判詞の世界:白居易の「百道判」を中心に)」
企 画:研究会チーム「アフロ・ユーラシア大陸における都市と国家の歴史」
今回、講演にお招きした陳登武教授(国立台湾師範大学博士・同大学文学院院長)は、台湾における唐代法制史研究の第一人者として知られる。今回の来日を機に、本学で、最新の研究成果を講演していただき、本学との研究交流をはかることにした。
講演題目は、「唐代判詞的世界:以白居易〈百道判〉為中心(唐代判詞の世界:白居易の「百道判」を中心に)」であり、唐代(618-907)における裁判の判決文(判詞)の特色を、白居易(772-846)が書き残した百種の判決文(百道判)を事例に明らかにするものである。
現存する唐代(618-907)の判詞(判決文)の多くは、宋代以後のような実際の訴訟案件の判決文ではなく、任官や昇進の際の試験問題として課せられた判決文であり、試験の答案ないし受験対策用の習作である。本講演は、このような唐代の判詞の特色を、唐代を代表する文人である白居易が書き残した百種の判(百道判)を事例に新たな視角から分析する。白居易の判文の内容は、多岐に及んでおり、その判文の一つ一つから、当時の社会の実態をうかがうことができる。
春休み中の3月中旬の平日という時期もあって、予想した人数よりも出席者は多くなかったが、講演会には専門家が集まったために、少数ゆえに深い議論が可能となった。中央大学の講演会の翌日は、財団法人東洋文庫で、研究者のみならず一般市民を対象とした関連するテーマによる公開講演会が開催され、多くの市民の参加者を得た。その際の講演内容は、中央大学人文科学研究所での講演会の議論をふまえた内容になっており、中央大学での議論が、講演者の陳登武先生に多くの示唆を与えたことを知ることができた。
講演会後の隣室での懇親会では、陳登武先生の研究の経歴や今後の研究計画、台湾における研究情況について、ざっくばらんに多くのことをお話いただき、その誠実な人柄と厳格な研究態度に、出席者はみな感銘を受けた。陳登武先生が、現在、文学院の院長をつとめる台湾師範大学は、台湾大学とならぶ台湾における人文科学研究の中心機関であり、多くの優れた研究者や大学院生が学ぶ場所である。陳登武先生は、中央大学との今後の研究交流の進展を希望しつつ講演会を終えた。