物理学科・専攻

理工学部教授 米満賢治:光による磁気スイッチの新たな原理を発見

2022年08月25日

東北大学大学院理学研究科の岩井伸一郎教授、天野辰哉特任研究員、中央大学理工学部 米満賢治教授ほか東北大理、名大工のグループとともに、光による磁気スイッチの新たな原理を発見しました。超低消費電力・超高速光磁気メモリなどの実現に期待されます。

【発表のポイント】

  • 量子揺らぎで各原子の電子スピンの向きが定まらない“量子スピン液体”物質において、スピンが交互に向いたまま凍結した“スピンの固体”である反強磁性体や弱強磁性体と同様に、光照射による逆ファラデー効果で磁化が生じることを発見した。
  • 量子スピン液体の光照射による逆ファラデー効果の大きさは典型的な反強磁性体(酸化ニッケル)の20倍にも達した。
  • 光磁化の発生機構は、従来の反強磁性体(電子スピンの配列によって磁化が発生)とは異なり、d電子の軌道角運動量が重要な役割を果たすと考えられる。この機構ではスピンを反転する必要がないため、より高速な応答が室温近傍でも期待される。


【概要】
逆ファラデー効果は、光による磁化の発生や高速制御の原理として知られています。この効果は、次世代の光磁気メモリなどに応用できると期待され、各国で研究が進められています。しかし、その対象物質は、おもにスピンの方向が固定された反強磁性体や弱強磁性体などに限られおり、スピンの向きを変えるために比較的高いエネルギーが必要で、スピンの向きが変わる速度が低いことが問題でした。

当研究グループは、磁気秩序を持たないキタエフ量子スピン液体物質(α-RuCl3)に光(円偏光)パルスを照射した瞬間、磁化が発生することを発見しました。発生した磁化の大きさは、典型的な反強磁性体の20倍にも達します。また、これまで反強磁性体などで提案されてきた機構よりも約一桁高速な磁化の制御が期待できます。

この成果は米国物理学会の学術誌「Phys. Rev. Research (Letter)」に2022年8月19日にオンライン掲載されました。