理工学部

生命科学科

1.生命科学科における教育上の目的

理工学部に共通の教育研究上の目的に加え、生命科学科では、次の項目を満たす人材の育成を目標にし、さまざまな課題に対して適切な解決法を導くことのできる教養人、技術者、および研究者の育成を目指します。

  • 生命現象の基礎的な原理や原則を理解し、生物を生命システムとして理解できること
  • 多様な生物界や地球環境の現状を科学的に理解し、将来を予測できること
  • 高い社会倫理とコミュニケーション能力を備えていること
  • 最新のバイオ技術に習熟し、生物機能の産業利用に関する知識をひろくもつこと

学生の皆さんには、学修の過程で遭遇する各課題に対して、努力を惜しまずに一つ一つ達成していくことを求めます。また、自らの知力を社会のさまざまな場面において活用するには、何をすべきか、何ができるか、ということを常に自分に問いかける姿勢を求めます。これらは、自らの将来像を明確にしていくプロセスにほかなりません。

2.生命科学科における卒業の認定に関する方針(ディプロマ・ポリシー)

(1)生命科学科において養成する人材像
我が国では、科学技術・イノベーション基本計画のもと、「直面する脅威や先の見えない不確実な状況に対し、持続可能性と強靭性を備え、国民の安全と安心を確保するとともに、一人ひとりが多様な幸せ(well-being)を実現できる社会」の実現に向け、歩みを進めています(文部科学白書2023)。そのためには、気候変動問題への対応、カーボンニュートラルの実現、環境負荷の少ない持続可能なエネルギー・資源の安定的な確保と循環的な利用、次世代バイオ医薬品や革新的な医療機器の創出、再生医療等の推進、次世代医療に向けた大規模ゲノムデータ基盤の構築、認知症等の脳神経疾患への画期的な診断・治療・創薬シーズの研究開発、ワクチン開発を含む感染症研究等の推進がきわめて重要であり、いずれも生命科学と強く関連しています。「ポストゲノム時代」にある最新の生命科学研究と、そこから生み出される新しい技術は、こうした地球規模の諸問題の解決に大きく貢献すると期待されています。
このような社会的な要請に応えるべく、生命科学科では、博物学を含めた基礎生物学の知識から遺伝子工学、先端医療などの最新技術までを網羅した幅広い教育と、国際的にも評価される研究活動を展開しています。学生の皆さんがこれらに参画することにより、高度な専門性をもつ職業人、すなわち、人類が直面している諸問題の解決に、生命科学の観点から貢献できる有能な人材として育つことをねらいとしています。

(2)生命科学科を卒業するために身に付けるべき知識・能力・態度
理工学部を卒業するために身に付けるべき知識・能力・態度に加え、生命科学科での学修を通して、以下に挙げる専門性を獲得することを期待します。これらの専門知識をもち、食品や医薬品等の開発、環境浄化・自然再生技術、環境や生物多様性の保全にかかわる産業で活躍できる人材として巣立っていくことを希望します。
社会においては、柔軟な発想で生命現象を探求する能力だけでなく、新たな知見や技術をすみやかに理解して社会に還元する能力や、環境と安全に考慮しつつ生産に生かす応用力を備えた人材が求められます。

a. 遺伝子から機能性タンパク質までのセントラルドグマが生命現象の基盤です。この原理を正しく理解し、応用生命科学、遺伝子工学に関わる幅広い分野での提言や、応用展開ができること。

b. すべての生命は、40 億年もの永きにわたり試行錯誤を繰り返してきた進化史の上に成立したものです。これが、共通性と多様性という生命現象独特の特性を支配していることや、生命現象を応用するうえでの長所にも制約にもなっていることを、正しく理解できていること。

c. かつて人類が、自然を大きく攪乱してきたという歴史があったとしても、現在の地球環境が生命によってつくり上げられてきたものであるということは、まぎれもない事実です。また、現在人類が直面している環境問題は、人類の生命活動がもたらした結果です。このことを正しく理解し、地球規模で起こっている多様性の変貌、気候変動、エネルギー問題に対して、正しい判断と提言ができること。

d. 医療技術においては、ゲノム分析、遺伝子診断、幹細胞創出、さらに遺伝子改変や遺伝子編集の技術が、重要な位置を占めつつあります。それらの原理を正しく理解し、斬新な提案ができ、さらに予測される問題点を指摘できる基礎能力をもつこと。

e. 科学分野の進展における世界的な競争のなかで、もっとも重要で新しい生命科学分野の情報は、常に英語で世界中に発信されています。グローバルな国際人として、英語を用いた表現や会話の基礎能力を身につけるだけでなく、専門性の高い論文や報告書を読み、理解し、国内外へと再発信できる能力をもつこと。

f. 数学、物理、化学、地球科学、情報工学,社会科学,経済学,法学など、どのような科学分野であっても、現在の生命科学との接点をもたないものは存在しません。他分野と生命科学との接点を把握し、それぞれの専門性と、生命科学に向けた多くの応用的な側面とを正しく理解でき、専門的な立場から、共通課題の提案や問題解決に貢献できること。

3.教育課程の編成及び実施に関する生命科学科の方針(カリキュラム・ポリシー)

生命科学科では、その教育上の目的に基づき、高度な専門能力と創造性、豊かな教養を兼ね備えた人材を育成するため、卒業の認定に関する方針に従って、以下のようにカリキュラム(教育課程)を編成し、これを実施します。

a. 遺伝子から機能性タンパク質までのセントラルドグマが生命現象の基盤であることを理解するために、「基礎生化学」・「基礎分子生物学」・「分子遺伝学」・「分子細胞生物学」の専門教育と、基礎実験技術を習得するための「遺伝情報学実験」・「代謝生物学実験」・「遺伝子工学実験」の実験科目を設置します。

b. すべての生命が、永い進化史の上に成立したものであり、これが共通性と多様性という生命現象の特性を支配しているということを正しく理解するために、「基礎生物学」・「植物分子生理学」・「進化多様性生物学」・「進化学」・「分子発生学」、および、実験科目として、「自然史野外実習」を設置します。

c. 人類が直面している環境問題や、これからも地球規模で起こることが危惧される生物多様性の変貌・環境汚染・エネルギー問題に対して正しい理解ができるように、「環境応用微生物学」・「地球環境・生態学」・「環境工学」・「生産応用微生物学」・「生物環境情報学」・「生物資源経済学」、および、実験科目として、「環境生物学実験」・「生理・生化学実験」を設置します。

d. 医療技術への応用展開を目指して、その原理を理解するために、「生体物質機能学」・「代謝生物学」・「応用生物学」・「エイジング生物学」・「ヒトと病気の生物学」・「ヒューマンバイオロジー」・「脳・神経科学」・「免疫学」を設置します。

e. グローバルな国際人として英語を用いた表現や会話の基礎能力を身につけ、また、専門性の高い論文や報告書を読み、国内外へと再発信できる能力を得るために、生命科学系の英文に早くから接することのできる科目、「生命科学英語初級」・「生命科学英語中級」・「生命科学英語上級1,2」を設置します。

f. 他分野との接点を把握し、それぞれの専門性と、生命科学に向けた多くの応用的な側面を正しく理解するために、「バイオインフォマティクス」・「タンパク質デザイン」・「生体エネルギー論」・「動物分子生理学」・「バイオテクノロジー概論」、および、実験科目として「動物生理学実験」を設置します。

g. これらの講義と実験科目をとおして身につけた生命科学の基礎知識と技術を応用し、実際の生物試料を使った新しい研究テーマに挑戦するために、さらにその成果から学問的価値を見いだし、展開させる能力を育成するために、「卒業研究Ⅰ,Ⅱ」を必修科目として設置します。指導教員によるきめ細かな個別指導だけでなく、大学院生や研究員など、研究室の仲間との専門性の高いディスカッションにより、また学内外でその研究成果を披露する機会をもつことにより、科学的かつ論理的な考え方に基づいた問題認識と提言を行う能力を培います。