都市環境学科・都市人間環境学専攻

都市環境学科,水環境系の学生10名が,国際会議に参加しました.

2023年08月23日

2023年8月にシンガポールで開催されたAOGS(Asia Oceania Geosciences Society)が主催する国際会議(Asia Oceania Geosciences Society (AOGS) 20th Annual Meeting (AOGS2023)にて,都市環境学科,有川研究室所属の学生6名,手計研究室所属の学生4名が発表しました.

 

この国際会議は,地球科学とその応用を人類の利益のために,特にアジア・オセアニアにおいて,また地球規模の問題に包括的なアプローチで推進することを目的としています.AOGSは,学術界,研究機関,一般市民の間で重要な地球科学的問題に取り組むために,科学的知識を交換し,議論するユニークな機会を提供する年次大会を開催しており,今年もアジア・オセアニア地域の研究者が集まりました.国際会議に参加した学生は,口頭発表やポスター発表を通して積極的な意見交換を行い,今後の自身の研究の糧となる知識や情報を得ることができました.また,普段の研究生活では触れないような幅広い分野の研究発表を聴講し,刺激を得る良い機会となりました.

 

参加学生と,発表内容は以下のとおりです.

 

・有川研究室

D1】白井知輝(口頭発表)

発表タイトル:Global Tropical Cyclone Prediction Using Non-Hydrostatic AGCM at Various Spatiotemporal Scales and Applicability to Storm Surge Simulation

和訳:非静力学AGCMを用いた様々な時空間スケールでの全球熱帯低気圧予測と高潮シミュレーションへの適用性

著者:Tomoki SHIRAI, Taro ARIKAWA

概要:台風や高潮は、沿岸地域に甚大な被害をもたらす災害であり、被害軽減のためには、正確で信頼性の高い予測が重要となります。台風予測には数値シミュレーション手法であるAGCM(全球大気循環モデル)を用います。AGCMにはさまざまな種類がありますが、全ての点において完璧なモデルは存在しないことから、複数モデルの結果を統合的に利用することが重要です。そこで本研究では、従来海岸工学分野で広く用いられてきた気象モデルWRFに加え、非構造格子を適用した気象モデルMPASを台風・高潮予測計算に適用し、従来手法(WRF)との比較からその有用性を示しました。

 

M2】德田達彦(口頭発表)

発表タイトル:Sensitivity analysis of tsunami generation by eruption around Hunga Tonga-Hunga Ha’api.

和訳:Hunga Tonga-Hunga Ha’api周辺の噴火による津波発生の感度解析

著者:Tatsuhiko TOKUTA, Taro ARIKAWA

概要:

2022年、トンガの火山噴火により、世界中で1メートルを超える津波が観測され、トンガの島々では10メートルを超える津波が発生しました。世界中で発生した津波は、噴火時に発生したラム波と呼ばれる圧力波と、大気重力波によって伝播された海洋波によるプルードマン共鳴によって増幅されたと分析されています。そこで,トンガ周辺の噴火による津波発生の感度解析を行いました.津波の計算には、先行研究と同様に噴火による水変位源を用いて津波計算を行いました。 また、噴火の3次元計算も行いました. 三次元計算により運動量が考慮され、津波高さの再現性が向上しました.

 

M1】内藤礼菜(ポスター発表)

発表タイトル:Construction of Tsunami Experience System

to Improve Evacuation Awareness Using Photogrammetry with VR

和訳:VRを用いたフォトグラメトリによる避難意識向上のための津波体験システムの構築

著者:Rena NAITO, Taro ARIKAWA

概要:2011年に発生した東北地方太平洋沖地震において、巨大津波が発生下にもかかわらず避難しなかった人は、正常性バイアスにかかったとされています。この被害を教訓として、普段から避難訓練を行うなどの災害を想定した教育を施していくことが必要です。近年では、特定の災害状況で適切な行動をするためにXR(Extended Reality)技術を用いた研究が注目されています。そこで、VR(Virtual Reality)を用いた津波体験システムの検討を行いました。本検討では、都市部以外の地域や海外でもVR空間が作成できるよう、被写体を様々な角度から撮影し、3Dモデルを作成するフォトグラメトリという手法を用いました。ガイドラインを作成し、現地に適用した結果と課題を示しました。住民の方々が津波を疑似体験することで、災害時の早期避難につながることが期待されます。

 

M1】高倉 陸(口頭発表)

発表タイトル:Effect of Density on Wave Forces Under Sediment Laden Tsunamis Based on Three-dimensional Numerical Simulation

和訳:三次元数値シミュレーションに基づく土砂混じりの津波における波力に対する密度の影響

著者:Riku TAKAKURA, Naoki TANIGUCHI, Yota ENOMOTO, Taro ARIKAWA

概要:東日本大震災時には、黒く濁り、土砂を含んだ津波が確認されています。津波来襲後に採取されたサンプルの密度は通常の海水より高いことが確認されています。他方、津波が土砂を含むことによる波力への影響は正確にはわかっていないのが現状です。そこで本研究では、水理模型実験と数値シミュレーションを用いた実験の再現計算を行い、津波が土砂を含むことによる波力への影響を衝撃波圧に注目して検証しました。結果として数値計算は実験値と比較して波高は再現性が高く、波力は過小評価になったものの、数値計算においても衝撃波圧を再現することが可能であることを示しました。さらに、数値計算の結果から、粘性による影響で土砂を含んだ津波は密度の増加率以上に波力が大きくなる可能性を示しました。

 

M2】吉田福人(口頭発表)

発表タイトル:Proposing Evacuation Route Selection Method Using Tsunami Arrival Time Probability as Advance Information Evacuation Route Selection Method

著者:Fukuto YOSHIDA, Masaki ISHIMYAMA, Taro Arikawa

和訳:事前情報として時系列津波到達時間確率を用いた避難経路選択手法の提案

概要:東日本大震災以降、日本では堤防等のハード対策に加え、避難などのソフト対策が重要視されています。近年、津波の浸水評価にはその不確実性を考慮した確率論的なアプローチの有効性が指摘されていますが、数多くの津波シナリオを考慮して、経路を探索する研究は未だ行われていません。そこで本研究では、複数津波シナリオから時系列津波到達時間確率を生成し、それらを事前情報として用いた、津波遭遇リスクの低い避難経路探索手法を提案し、有効性を示しました。

M2】芳賀 渓介(ポスター発表)

発表タイトル:Influence of Urban Buildings on Tsunami Inundation Behavior Using Numerical Simulation

和訳:数値シミュレーションによる津波浸水挙動への都市建物の影響

著者:Keisuke Haga, Taro Arikawa

概要:今後数十年以内に南海トラフ地震が発生すると予想されており、特に建物が集中する都市部で被害が拡大する可能性が指摘されています。数値計算においては、建物の影響を考慮する際、土地利用に応じて粗度係数を変化させる方法が一般的でした。しかし、津波の到達時刻や流速の時間変化を正確に把握するためには、建物の形状を考慮する必要があります。そこで本研究では、国土交通省が開発した3次元都市モデルPLATEAUを用いて、建物形状を考慮した大阪府の都市域高解像度津波浸水計算を行いました。結果として、建物を陽に考慮すると、津波浸水範囲は減少する一方で、一部地域において建物形状を考慮したほうが流速や津波浸水深の増大がみられました。今後、水理模型実験の実施により、これらの物理量を実測に合わせてゆくことが課題となります。

 

・手計研究室

【D1】髙良圭(口頭発表)

発表タイトル:Examining the Method of Pre-discharge from Dam Reservoirs for Flood Damage Mitigation in Central Vietnam

和訳:中部ベトナムにおける洪水被害軽減に向けたダム貯水池での事前放流手法の検討

著者:Kei KOURA,Naoki KOYAMA,Tadashi YAMADA

概要:

ベトナムではほぼ毎年洪水が発生し、沿岸部の低平地が浸水します。また、年間の洪水数は増加しており、将来の気候変動に伴い降水量は増加すると推定され、洪水に対する脆弱性が高まります。その一方で、ベトナム中部の河川流域には、治水目的だけでなく利水目的のダム貯水池があり、これらを活用することで洪水被害を軽減できる可能性があります。本研究は、ベトナム中部の河川流域における洪水被害の軽減を目的として、ダム貯水池からの放流が河川の水位や浸水深に及ぼす影響を数値的に解析しました。その結果、ダム貯水池上流での観測雨量情報を活用した事前放流手法を適用することで、発電や農業用水の貯水能力を維持しながら、下流での河川水位と浸水深を低減することができました。また、ダム貯水池の上流の降雨を全てダム貯水池に貯留できれば、より大きな効果が得られることを示しました。

 

 

【D1】並河奎伍 (ポスター発表)

発表タイトル:Estimation of the Spatial Distribution of the Internal Density of

River Embankment by Exploration Technology Using Cosmic Ray Muon

和訳:宇宙線ミュー粒子を用いた探査技術による河川堤防内部の空間密度分布の推定

著者:Keigo NAMIKAWA,Naoki KOYAMA,Taro KUSAGAYA,Keiichi SUZUKI,Tadashi YAMADA

概要:堤防決壊のリスクを適切に評価するために、堤防内部や脆弱部の状態を知ることは重要です。しかし従来の物理探査手法では空間解像度や実施地点に制約があります。そこで本研究では、それら弱点を克服した宇宙線ミュー粒子による探査技術を河川堤防に適用しました。また制御工学で用いられる逆解析手法を新たに導入することで、内部密度の推定精度を向上できたことを示しました。

 

 

【M2】藤本寛生(ポスター発表)

発表タイトル:Algorithm Development for Precipitation Estimation by Image Segmentation Model Using Meteorological Satellite Images

和訳:画像セグメンテーションモデルを用いた気象衛星画像による降水量推定アルゴリズムの提案

著者:Kansei FUJIMOTO,Taichi TEBAKARI

概要:途上国をはじめとする多くの地域では地上雨量計や気象レーダなどの気象観測網が十分に発達しておらず、既存の衛星雨量もその定量的な精度の低さから流出・氾濫解析や水資源管理などに用いることができません。新たな衛星雨量データの開発は既往の研究や技術の適用範囲を大幅に拡大できる期待があります。そこで本研究では、静止気象衛星ひまわり8号の観測データ、地理情報データと深層学習を用いることにより、新たな衛星雨量推定アルゴリズムを提案しました。また、既往研究であるJAXAによって配信されているGSMaPとの比較を行い、その有用性を示しました。日本域での精度評価を行いましたが、今後は正解データの存在しない途上国域での試験が課題となります。

 

 

【M2】大橋史帆里(ポスター発表)

発表タイトル:Applicability of Excess Probable Rainfall Using Radar Rainfall for Watershed Management

和訳:レーダ雨量を利用した超過確率雨量の河川計画への適用可能性

著者:Shihori OHASHI,Taichi TEBAKARI

概要:日本の気象レーダはこれまで観測技術が飛躍的に向上しておりますが、その長期間蓄積されたデータは統計解析へ利用されることが少ないです。将来的にレーダ雨量が地上雨量観測に替わる可能性を考え、レーダ雨量を統計解析へ利用できるか否か検討する必要があると考えました。そこで本研究の目的は、レーダ雨量と地上雨量のデータの確率雨量の比較解析からレーダ雨量の河川計画への適用可能性について検討した。その結果、一部流域を除きレーダ雨量を河川計画へ適用できる可能性があることを示した。今後はレーダ雨量を河川計画へ適用する具体的な方法を検討していきます。