ビジネススクール

優秀賞

CBSでは学生たちの学びに対する意欲を高め、かつ、学生たちの模範とするため、優れたプロジェクト研究のアウトプットを選び、優秀賞として表彰をしています。ご自身の業界や問題意識に近いアウトプットを見つけてみてください。

<2022年3月修了生 優秀賞 8名>

[論文A]

「日本版ブランド経験尺度の開発〜日用品のブランド経験概念の検討とその効果分析を通じて〜」(マーケティング分野)國田 圭作
(キーワード:ブランド経験、ブランドロイヤルティ、ブランドリレーションシップ、日用品、グラウンデッド・セオリー・アプローチ(GTA)(Brand Experience, Brand Loyalty, Brand Relationship, Daily Necessities, Grounded Theory Approach))

学位授与会場での学長、研究科長との記念撮影(本人中央)
学位授与会場での学長、研究科長との記念撮影(本人中央)

論文要旨

 本研究の目的は、一般に低関与とされる日用品にも適応可能なブランド経験尺度(日本版)の開発である。高いブランド経験はブランドとの関係性(リレーションシップ)を強化し、ブランドロイヤルティを生み出すことが知られている。しかし、機能便益型カテゴリーである日用品のブランド経験に関する知見は乏しい。これに対し、本研究はブランド経験およびブランドリレーションシップ概念の先行研究を踏まえ、GTA(グラウンデッド・セオリー・アプローチ)法による質的調査と複数の量的調査に基づき、日用品のブランド経験を測定する13項目の尺度を開発した。また、これらの尺度を測定に用いて、ブランド経験がブランドロイヤルティを形成する構造を確認したところ、ブランド経験はブランドトラストおよびブランドラブという2つの構成概念を媒介変数としてロイヤルティに影響を与えていることがわかった。これは先行研究の知見を裏付けるものである。このように、本研究はブランド経験研究に対する学術的な貢献を有するが、同時に、日用品企業のブランドマネジメントに経験価値視点で示唆を提供するという点で実務的な貢献も有している。

優秀論文としての推薦理由

 マーケティング研究において近年、「エクスペリエンス」や「ブランド経験」について議論が活発になされ、尺度開発や他の尺度との関連が議論されてきた。しかしなじみの深い日用品での研究はほとんど見ることができなかった。著者はこうした研究の陥穽に着目した。
著者は尺度開発にあたり、周到に準備を行っている。まず、網羅的に先行研究をレビューし、そこから問題意識を絞り込み、リサーチクエスチョンと仮説を設定した。次に質的なインタビューを実行して、GTA(グラウンデッド・セオリー・アプローチ)分析を手間をかけて実施してまとめた。第二のステップとして、尺度項目の候補となる言明を選び出し、それらを消費者テストによって評定した。第三ステップとして候補として選ばれた項目を第一次、第二次のふたつの消費者調査にかけて、最終的にはSEM(共分散構造分析)によって最終的な項目を確定させた。尺度の信頼性と妥当性の検討もなされている。
総じていえば、著者は決められた尺度づくりのステップを踏みながら、多くのデータを扱い、それらを丹念により分け、信頼性と妥当性を有した尺度づくりに成功している。また、このブランド経験尺度の日本語版では、ブランドロイヤルティなど他の尺度との関連性も検証している。こうして完成した尺度は、研究上の大きな前進となっているだけでなく、実務の上でも役立つ尺度となっている。

CBSの成果として後輩の模範となる部分

1)尺度形成の論文という点で後輩が見習うことのできる模範的な研究スタイルを示したこと。

2)調査手法や理論についての記述が明快であり、論文のスタイルとして後輩が見習うべき論文である。

3)学術的な研究論文の在り方を示すだけにとどまらず、実務への応用の仕方も示したこと。

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「ミドルによる環境認識パラダイムの再構築―資源動員の創造的正当性の獲得による創発戦略―」(戦略分野)柴本 祥之
(キーワード:ミドル、イノベーション、資源動員の創造的正当化、環境認識パラダイム、創発的戦略)

学位授与会場での研究科長との記念撮影(本人左)
学位授与会場での研究科長との記念撮影(本人左)

論文要旨

 本研究では、豊かな経験をもつミドルの推進者が業界の定説を乗り越え、イノベーションを起こした製品開発事例を時間展開に沿って紐解いた。事例の分析に基づき、ミドルの推進者が資源動員の創造的正当化を実現し、事業化後のコンフリクトを軽減させ、創発的戦略を生み出すメカニズムを明らかにした。
イノベーションの推進者は変革へのグランドデザイン、すなわち理想のゴールと手段を判断の軸にして、補完関係にある理由・技術と支持者・資源のバランスをとり続けていた。その過程で、開発された技術が次なる正当化の題材となり、さらに資源動員が進む「資源動員の正当化スパイラル」を実現していた。本研究では、こうしたミドルによるイノベーション実現への企てを「理由と支持者のファインチューニング」として概念化し、その理論モデルを提示している。事例で示したミドルの取り組みは、社内外から広く支持者を獲得し、企業がもつ定説を変え、企業の環境認識パラダイムを再構築する可能性すら有している。
本研究の貢献は、現代におけるイノベーションを起こすミドルの役割についてあらためて論証した点にある。これは研究者と実務家の双方にとって意義があると考えられる。

優秀論文としての推薦理由

 柴本氏は、ミドル・マネージャーが開発活動を主導してイノベーションと創発的な戦略形成を実現する可能性があるのではないか、という問題意識を立て、実証研究に取り組んだ。戦略形成や組織変革にミドル・マネージャーが重要な役割を果たすことは、これまでの研究でも示されてきた。だが、それを事例研究によって実証的に検証した問題意識が、まず評価に値する。
つぎに、この問題意識に答えるために関連文献を検討した上で、自社の事例を調査し、記述した。対象事例の調査の綿密さ、記述の詳細さは特筆に値する。問題意識に答える上で相応しい事例を選定し、それを魅力的かつ丁寧な事例の記述にまとめた点も評価に値する。
さらに、事例の解釈を通じ、新規性が高いプロジェクトの実現にミドル・マネージャーが果たした役割を明らかにし、問題意識に答えた。考察の結果、ミドル・マネージャーの役割を検証し、イノベーションにおける資源動員に関して新しい主張をしている。実務経験が長く、豊富な知識を持ち、社内外の人的ネットワークを活用できるミドル・マネージャーは、イノベーションに必要な資源の動員に成功する。加えて、こうしたミドル・マネージャーによる取り組みは資源動員に伴うコンフリクトの発生を抑え、開発活動に続く事業化局面へとスムーズに導く可能性を持っている。その際、ミドル・マネージャーに求められるのは「理由と支持者のファインチューニング」であるとする。ミドル・マネージャーの役割、イノベーションのための資源動員の議論を補完し、イノベーションの実現において鍵となる魅力的な概念を提示していることも、評価に値する。
以上のように、明確な問題意識、詳細で丁寧な事例記述、事例解釈に基づく学術的に新規な主張と言った点で、論文Aの評価基準を高い水準で満たしている。これらを総合的に判断し、柴本氏の論文を優秀論文として推薦する。

CBSの成果として後輩の模範となる部分

 ミドル・マネージャーの役割をあらためて検討することは多くの企業に示唆を与えるであろう。その検討のために、自社事例を丁寧に調査し、詳細な事例記述を行い、丁寧な解釈を行って、魅力的な概念を提示した。事例研究の進め方と、実践的かつ学術的な貢献において、CBSの後輩の模範となる論文であると言える。

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[論文B]

「管理職にならなくても意欲的に働き続けられる要因」(人的資源管理分野)池田 裕昭
(キーワード:昇進、非管理職、キャリア・プラトー、ワーク・モチベーション、マネジメント)

学位授与会場での研究科長との記念撮影(本人左)
学位授与会場での研究科長との記念撮影(本人左)

論文要旨

 バブル経済崩壊後の企業には管理職昇進の機会が限られるという構造的な課題がある一方、定年延長などにより企業での就業期間は長期化している。管理職にならなくても、長期間意欲的に働き続けられる組織的な要因を明らかにすることが本研究の目的である。
管理職昇進(垂直方向へのキャリアの移動)の可能性が低下した後も組織に留まる場合の社員の意識・行動について、先行研究を参考に①価値軸(昇進を目指し続けるか否か)、②アスピレーション軸(意欲的に働き続けるか否か)の2軸を組み合わせ、3つの類型を設定した。①「初志貫徹型(昇進を諦めずに意欲的に働く)」、②「目標転換型(昇進とは別の目標をもって意欲的に働く)」、③「意欲喪失型(社内に留まるが仕事の意欲は失った)」である。仮説を設定し、45歳~55歳の民間企業に勤務する男性正社員を対象にした調査を実施し、得られた186件のデータを多変量分析した。その結果、昇進を諦めた場合でも社員の希望や適性に配慮し、上司が仕事の意味や社員の活躍の場を一緒に考えるマネジメントを行うなどすれば、社員は意欲的に働き続けることができること、かつその職務満足や主観的幸福感は昇進を目指し続ける者に劣らないこと、企業は社員を放置せず、緊密なコミュニケーションと個々人に寄り添うマネジメントに取り組むことが重要であること、が明らかになった。

優秀論文としての推薦理由

 中高年に達した男性社員には昇進期待を抱いている者が多い。しかし管理職を希望する者ほどには管理職ポストはなく、近年、昇進が頭打ちとなるキャリアの停滞(階層プラトー)が生じている。そのことによる働く意欲の低下は、組織の不活性化などの課題をもたらす。
本研究は、「過去管理職になることを希望した」が「これまで管理職になったことがない」かつ「現在40代後半から50代前半の大学以上卒業の民間企業勤務の男性正社員」などの要件を満たすサンプルを抽出し計量的分析を行っている。このようにプーリングされたサンプル自体、研究対象として興味深い(現在の出現率は3%弱)。分析により、今後の昇進の可能性が低くても管理職を目指し続ける者(「初志貫徹型」)が5割以上、昇進以外の目的を見出しているもの(「目標転換型」)が4割程度いること、これら2類型間で意欲や幸福感に差はなく、後者のカテゴリーには一定の特徴があることなどが多項ロジット分析により示された。内容プラトー(職務の広がりや挑戦の停滞などキャリア発達の停滞)が、目標転換型であることに有意であるとの仮説が支持されなかったことは意外であったが、日本企業の構造的課題であり、今後深刻化が予想されるキャリア・プラトー問題に対し、企業がとりうる施策を多方面から学問的手法で検討し、実務的な効果が期待される施策を見出すなど明るい材料をもたらしたことは、本論文の大きな貢献である。

CBSの成果として後輩の模範となる部分

 長年の実務経験を踏まえた課題を、理論的フレームワークを用いて学術的な問いとして捉え直し、さらに丁寧な先行研究レビューによって操作的な仮説の設定を行っている。課題に沿って慎重に調査対象者を絞り込んで分析を行い、学問的にも実務的にも新たな知見を提供した。こうした一連の研究プロセスおよび、今後長期化する高齢期の就業をいかに充実させうるかという社会全体の重要な問いに対し、取りうる施策を示したことは、理論と実務の架橋を目指すCBSにおいて、他の模範となるものである。

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「質的調査法としてのコグニティブ・インタビュー手法の開発 ―カスタマージャーニーへの応用―」(マーケティング分野)石躍 有美
(キーワード:コグニティブ・インタビュー、質的調査法、カスタマージャーニー、半構造化インタビュー、顧客経験情報の網羅性)

学位授与会場での研究科長との記念撮影(本人左)
学位授与会場での研究科長との記念撮影(本人左)

論文要旨

 本論文の目的は、コグニティブ・インタビュー(CI)という質的調査の開発を行うことである。
カスタマージャーニーというテーマを用いて、CIの方が、従来の質的調査手法である半構造化インタビューよりも優れていることを示すことを目指している。
CIとは、自由な語り(フリーレポート)を前提とし、特徴となる悉皆報告と逆向再生を含む4つのアプローチをもとに被験者の記憶をより正確するにすることを目指す手法である。
本研究では、すでにCIを用いている企業へのインタビューを実施。次に、デプス・インタビューの形式において、半構造化インタビューとCIの手法2つを用いて、インタビューを行い、得られたデータを比較、分析した。その上で、カスタマージャーニーを描き出すには、半構造化インタビューよりも、CIの方が、顧客経験情報の網羅性という点で、より明確に描くことに適していることがわかった。
本研究の結果から、実務においてコグニティブ・インタビューを用いることによってカスタマージャーニーのような顧客行動の全体的構造(行動・思考・感情・タッチポイント)を把握して、より有効なマーケティングアクションにつなげていける可能性が見いだされた。

優秀論文としての推薦理由

 市場調査における質的調査は、長年グループインタビューなど特定の技法は用いられてきたものの、新しい技法への挑戦はまれであった。著者(石躍さん)は長年質的調査を手掛けてきたが、こうした現状に飽き足らず、新しい質的調査技法を開発することにした。
著者が注目したのは、欧州において開発されたコグニティブ・インタビュー(CI)という手法である。これはもともと犯罪捜査に用いられてきた技法を市場調査に転用したものである。日本でもこの技法に着目した研究者がいなかったわけではないが、従来の手法と比較したうえでのCIの優位性を明らかにすることはなされてこなかった。
本論文を推薦する理由は以下のように要約できる:
1)新しい質的調査技法の具体的な手順や考え方を自ら開発して実地に応用できる技法として提示したこと。
2)「カスタマージャーニー」という現在多く応用されている調査テーマに応用可能であり、また従来の半構造化インタビューよりも有用なデータが得られることを示した点。
3)特に、CIが情報量や内容の詳細さ、感情表現の違いなどの点で、市場調査上より有用なデータをもたらすことを発見した点。

CBSの成果として後輩の模範となる部分

 1)実務に使え、応用できるような新しい技法開発にチャレンジすることも論文の役割であることを示したこと。
2)幅広く市場調査の現状を踏まえて、何が実務にとって必要な新しい知識かを探求したこと。
3)実証的に従来技法と比較して、新技法の優位性を実証的に示したこと。

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「経営戦略と人事評価制度の関係性の研究」(戦略分野)小俵 猛嗣
(戦略的人的資源管理、人事評価制度、信頼関係構築、求める人材像、フランチャイズビジネス)

「学位授与会場で研究科長との記念撮影(本人左)」
「学位授与会場で研究科長との記念撮影(本人左)」

論文要旨

 本研究はフランチャイズビジネスA社における、人事評価制度改定が及ぼした意図せざる負の影響について、戦略的人的資源管理論の先行研究を踏まえ、分析・考察した。
 A社の経営戦略上、加盟店との信頼関係は最も重要な要素である。その為、従来、経営相談員の人事評価制度は、加盟店との信頼構築のプロセス、及びその結果の加盟店業績により評価付けするものであった。新たな人事評価制度は、より強固に信頼関係を構築できる経営相談員を育成する為、「求める人材像」の実現度を測る上長評価と、加盟店業績による評価付けに変更した。
 しかしこの改定が経営相談員には、加盟店との信頼関係の構築プロセスは評価対象外であり、かつ業績結果が人事評価であると誤解された為、状況により加盟店との信頼関係に対し負の行動に出る可能性があると調査で解明された。そしてこの行動変化が、加盟店との信頼関係を低下させる一因であることが確認された。
 人事評価制度は経営戦略との一貫性だけでなく、評価される側の受け止め方や行動変化も踏まえることが必要であると明らかにしたことが、本研究の貢献と考える。

優秀論文としての推薦理由

 「失敗」事例からは、成功事例と同様、あるいはそれ以上に学べることがある。しかし企業における失敗事例の研究は、企業が失敗を認めない、失敗の真因が特定できるようなデータを出したがらないなどの理由で困難であることが多い。研究対象となった人事評価制度により評価される側へのアンケート調査、評価する側の上長へのインタビュー、フランチャイズ加盟店の満足度調査など、実際に制度改定にかかわった筆者であるからこそ入手可能な豊富な1次資料および2次資料により、制度改定の「失敗」の原因を明らかにした本研究は、ユニークであり、資料的価値も高い。仮説やモデルの導出過程も妥当であり、論旨も明確である。また、人事評価制度改定においては、戦略の根本にある考え方(A社の場合は加盟店からの信頼の構築が戦略の根幹であるということ)の理解と、制度が「評価される側」からどう見えるかを想像する力がなければ、人事評価制度は戦略との間に齟齬を生じるという本論文の発見事項は、実務的インプリケーションとしても価値が高い。よって本論文を優秀論文として推薦する。

CBSの成果として後輩の模範となる部分

 「失敗」事例について、その失敗にかかわった者であるからこそ得られるデータと視点により、失敗の本質的な理由を丁寧に解き明かしたところに本論文の価値がある。

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「医療用医薬品のイノベーションの普及に関する研究」(マーケティング分野)平良 典靖
(キーワード:イノベーション、普及研究、製薬会社、新薬マーケティング)

学位授与会場での研究科長との記念撮影(本人左)
学位授与会場での研究科長との記念撮影(本人左)

論文要旨

 本論文の目的は、医師のカテゴリの違いが、新薬発売初期における採用速度に与える影響について解明することである。
新薬が実臨床で普及するまでに長い期間を要することがある。この期間を短縮し、新薬をいち早く患者へ届けることは、製薬会社の重要な責務である。本研究により新薬マーケティングの適正化に繋がることが期待される。
本研究では、新薬の採用時期と医師の特徴の相関ついて解析を行った。また、得られた結果に関して、製品を開発した製薬会社の社員に対しインタビュー調査を行い、結果の考察を行った。海外で多くの先行研究が行われている一方で、日本では同様の先行研究の報告はなく、大変貴重な解析研究である。
従来、製薬会社のマーケティングの基本戦略は「経験年数の長く」「大学病院に所属する」「専門性の高い」医師を重点ターゲットとしており、イノベーションの普及の起点として設定することが常識とされていた。しかし、本結果からそれらは適切ではない可能性が示唆された。疾患の背景および製品の特性を正しく理解し、医師の診療行動を想定した上で、マーケティング戦略を立てる必要がある。

優秀論文としての推薦理由

 イノベーションの普及という分野ではE.ロジャースの業績がよく知られているものの、果たしてロジャースが定式化した普及のパターンが他の分野に当てはまるかどうかについて様々な議論があった。本論文の著者は高度な医療についてロジャースの理論があてはまるかどうかを検証しようとした。
著者が分析に用いたデータは、ある疾患の治療薬に関するドクターが採用した時期を特定したデータである。このようなデータが入手できることはまれであるので、こうしたデータを研究に活用することができたこと自体が貴重であった。
著者はまずロジャースに従って、より医師の経験年数が長いほど、また、専門性が高いドクターほど、さらに、より専門的な病院に勤務するドクターほど、採用が早いのではないかと仮説を立てた。その結果は非常に興味深いものであった。著者が立てた仮説はことごとく退けられ、むしろ専門性が低く、経験年数が短い医師ほど採用が早かったのである。 製薬会社に勤務する著者にとってもこれは意外な結果であった。著者はこうした結果を得るだけに満足せず、その理由を探るために質的な調査を実行して、その理由を突き止めようとした。総じていえば、本論文は医学・薬学の常識に挑戦した研究であり、重要な研究上また実務的なインプリケーションを秘めている論文であると言える。

CBSの成果として後輩の模範となる部分

 研究上も実務上も、「常識」に捉われず、現実を見ることが求められている。本論文はデータを丹念に分析することによって、これまで常識と考えられてきた事柄に対して疑義を呈する結果となった。このような研究の姿勢が後輩にとっては大きな学びの機会となる。また、さまざまな薬学界で用いられている分析ツールの活用の現状を見ることも、後輩にとっては役立つ。

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「「コト医療」に向けた場づくりの研究と実践-アクションリサーチによる関係性の変化を考察する 医療法人尚寿会の事例-」(戦略分野)中村 香
(キーワード:現象学、心理的安全性、関係性、場づくり、組織文化改革)

学位授与会場での研究科長との記念撮影(本人左)
学位授与会場での研究科長との記念撮影(本人左)

論文要旨

 本研究の目的は、現象学、場の理論モデル、心理的安全性の概念を通して介護現場で「場づくり」を行い、「関係性」の改善を試みることによって、法人の価値観である「コト医療」に向けた組織文化改革のプロセスを明らかにすることを目指した。職員満足度調査のアンケート(定量調査)によっても明らかにならなかった職員の不満足の真因を紐解くため、介護現場にてアクションリサーチ(定性調査)をおこなった。
「場づくり」による関係性は、対話、共同、実践、内省によって変化(改善)し、共感、本質直感、判断停止によって促進された。「場」になるためには、生活世界の認識、心理的安全な場、組織のよい文化を活かす、共通善の追求を前提としていることが理論を紐づけることにより明らかになった。
本研究の実務上の貢献は、組織の問題の背景に関係性不全がみられることを明らかにし、関係性不全の改善後にみられる「コト医療」に向けた「場づくり」のプロセス(組織文化改革)を示したことにある。「場づくり」は、リーダーのみならず誰もが実践でき、組織の問題解決だけでなく組織の創造性を高め、イノベーションの促進に貢献できると考える。

優秀論文としての推薦理由

 本研究は、筆者が勤務する医療法人における「コト医療」と同団体がよぶビジョンの浸透に向けての現状と課題について検討した論文である。複数の職場における参与観察と協働を組み合わせたアクションリサーチの手法を用いて、詳細かつ丁寧な一次データの収集を行った意欲的な論文である。本研究では、すでに実施された従業員満足度調査などのアンケートや、職員にたいする個別面談によって明らかになった具体的な課題について、筆者が現場に入り込み、その真因を探索するという仮説導出型の研究である。
筆者は、さまざまな人事制度の変更等の施策を打っても改善しなかった職場に対する不満(それに伴う退職者の増加)の原因は、患者と職員、職員同士、職員と組織における信頼関係の欠如にあり、その背景には、患者も職員も「大切にされていない、守られていない」という潜在的な不安、すなわち職場における「関係性不全」があったと結論づける。 本研究は、限定された一組織の事例ではあるが、多くの組織における共通の課題と通底する現象をあぶりだしている。所属する組織が対象であるからこそ実現可能なアクションリサーチの手法を用いた丁寧かつ厚みのある事例記述により、現場の実態と、その背後に潜む顕在していない不満や不安に深く切り込むものであり、自身の設定した仮説に対しても妥当な結論を導いている。実務的な含意(提言)とともに、実務家ならではの優れた事例研究であると評価できる。

CBSの成果として後輩の模範となる部分

 本論文の特徴は、アクションリサーチとして、参与観察とインタビューと並行して、複数の職場での協働を実践しているところにある。社会人大学院生の研究では、自社データへのアクセスやインタビュー、アンケート調査などを実施することは比較的一般的であるが、他部署への参与観察や複数の職場での協働は簡単ではなく、後輩の模範となる研究手法の実践であると考えられる。

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「ブランドのエシカル属性が価格プレミアムに与える影響~SDGs時代における新製品開発マーケティングの活用に向けて~」」(マーケティング分野)松尾 大佑
(エシカル、価格プレミアム、フェアトレード、エコラベル、ヘドニック・アプローチ)

学位授与会場での研究科長との記念撮影(本人左)
学位授与会場での研究科長との記念撮影(本人左)

論文要旨

 近年、環境や社会に配慮して製造・販売されるエシカル属性を付与した商品が増えている。しかし、エシカル属性が実際の小売店頭でどのように評価されているのか、価格との関係を調査した研究事例はほとんど見られない。そこで本研究では、ブランドのエシカル属性が商品の価格プレミアムに与える影響を定量的に明らかにすることを目的とした。論文では、チョコレートのエコラベルに注目してフェアトレードやオーガニックなど認証団体別に分類したエシカル属性と、その他合計21属性を特定してヘドニック・アプローチを用いて分析した。その結果、エシカル属性に高い価格プレミアムが生じていることを属性別に定量的に推定することができた。本研究の実務への貢献は、これまで調査が煩雑で難しかったエシカル属性の価格プレミアムを推定したことで、新製品開発マーケティングの活用へ示唆を与えることができた点である。商品の各属性に対する購入意思や使用意向など選好度合を調査するコンジョイントやWTPなどの知覚選好分析と本調査を併用することで、今後発展するエシカル市場に向けた製品開発プロセスにおいて消費者に最適な組み合わせを提案することができると考える。

優秀論文としての推薦理由

 SDGsへの関心の高まりは企業の商品開発に影響を及ぼしている.本論文の目的はSDGsのなかのエシカル商品の属性の価格プレミアムを明らかにすることを目的としておりSDGs時代の商品開発の重要な論点を扱っている.エシカル属性の価格プレミアムの高低をレビュー論文等から仮説として設定し、量販店のチョコレート(エシカル属性が多い)のPOSデータから単品の価格データとエシカル属性のデータを作成しユニークなデータベースを作成した.そして、ヘドニックアプローチを用いてエシカル属性の価格プレミアムを推定した.フェアトレードなどの国際認証や有機などのエシカル属性の価格プレミアムが高く推定された。一方では価格プレミアムがつかないレインフォレストのような属性もあり、すべてのエシカル属性に価格プレミアムがついたわけではなかった.しかし、エシカル属性の価格プレミアムが推定されたことで、今後、エシカル商品の商品開発に役立つ貴重な分析となっている.

CBSの成果として後輩の模範となる部分

 エシカル商品の単品の販売データを収集して、単品にエシカル属性を振り、エシカル商品のデータベースを自ら作成した。そのデータベースとPOSデータを結合してエシカル属性の価格プレミアムを推定した.商品のエシカル属性に注目したこと(視点のユニーク性)、ユニークなデータベースを作成したこと(データのユニーク性)、分析方法としてヘドニック・アプローチを採用したこと(分析のユニーク性)の3つのユニーク性を追求することは学生が研究論文を作成するうえで参考になると思われる.

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<2021年9月修了生 優秀賞 2名>

[論文A]

「中層域のイノベーション不全―ソフトウェア開発企業の実態調査に基づく考察―」(戦略分野) 真野 謙一
(キーワード:ソフトウェア開発業、製品開発マネジメント、重層的な産業構造、組織の知識吸収ルーティン、探索と活用)

学位授与会場での研究科長との記念撮影(本人右)

学位授与会場での研究科長との記念撮影(本人右)

論文要旨

 本研究では、重層的な階層構造を持つソウトウェア産業の主に中間層に当たる企業群を対象に、それらの企業がイノベーションを実現する為の変革のマネジメントを探求した。課題を乗り越えるために必要なマネジメントは既存研究や先行文献だけで見出す事が難しく、経営者及び経営トップチームを対象としたアンケート調査と、その結果から見出した経営課題を基に、その対応策を考察する為の事例研究を組み合わせた実証研究に取り組んだ。結果、調査対象の企業が製品・サービス開発を成功させるための要点は、「知識吸収を促す為の制度・ルール・仕組みの整備」、「整備された組織の知識吸収のルーティンの定着」、「ルール・仕組みと既存事業の技術や知識との連動」「経営者や組織長の理念や組織の共通価値」であることを発見した。
 今まで研究対象になりにくかった中間層の企業の実証研究を行った事、知識吸収能力の先行研究の仮説を実証研究で確認した事、探索と活用を両立させるマネジメントの要点を明らかにした事が本研究の学術的貢献であると貢献である。更に実務でのチェックに活用できる組織メカニズムの枠組みを提示した実践的な意義があると考える。

優秀論文としての推薦理由

 現在、多くの企業が情報技術を活用して、業務の効率化のみならず、業務の革新を目指している。この状況下で、長らく企業の情報システム構築を支えてきた企業の役割は重要である。しかしながら、ソフトウェアを受託開発する企業、とくに受託開発を行いつつ、自らも独自の製品やサービスを展開する「中層域企業」の実態はこれまで明らかにされてこなかった。ここに研究課題を定め、探索的な実証研究を進めた問題意識の明確さが、まず評価に値する。
 つぎに、多くの文献を批判的に検討し、ゲートキーパー、知識吸収能力、知識創造などの概念を選び取っている。その上で、これらに基づいて緻密な調査票を設計し、アンケート調査を実施している。さらに、アンケート調査で捉えた中層域企業の課題を、優れた仕組みを有する2社の事例研究を通じて深め、解決策を見出している。学問的な手法の妥当性も評価に値する。
 第3に、実証研究の結果を検討し、知識吸収能力と、探索と活用の両立に関し、独自の主張を展開している。その結果、中層域企業に対する実践的含意はもちろん、学術的な知見においても、価値がある実証研究に仕上がっている。
 以上のように、問題意識の意義と明確さ、研究方法の妥当性、実証研究から得た知見において、論文Aの審査基準を極めて高い水準で満たしている。したがって、真野氏の論文を優秀論文として推薦する。

CBSの成果として後輩の模範となる部分

 経営実務に立脚しつつ、学術的に価値のある研究課題を立てている。その問いに答えるために、多くの研究を批判的に検討し、学術的に妥当な手法で実証研究を進めている。さらに、組織としての知識吸収能力や、両利きの経営といった重要な研究領域で、実践的かつ学術的に独自の主張を展開している。実務と理論の架橋教育であるCBSにおいて、課題設定、研究アプローチ、論文の主張と構成の全てにおいて、模範となる研究である。

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[事例分析(ケーススタディ)]

「地方企業の知識経営によるビジネス・モデルイノベーションの研究」(戦略分野)國保 博之
(キーワード:ビジネスモデル・イノベーション、SECIプロセス、フロネティックリーダー、顧客提供価値、地方の魅力・独自性)

学位授与会場での研究科長との記念撮影(本人右)

学位授与会場での研究科長との記念撮影(本人右)

論文要旨

 本研究では、地方の厳しい経営環境においてビジネスモデル・イノベーションによって企業価値の向上に成功した地方企業3社(福岡・久原本家、新潟・八海醸造、新潟・スノーピーク)にフォーカスし、各社がビジネスモデル・イノベーションを成功させた要因について整理・分析、各社に共通する重要な取り組みを抽出し、知識創造理論に基づき考察することで、地方の中小企業が成長を遂げるための重要な要素に関する示唆を得ることを目的とした。
 調査・分析の結果、以下の要素が重要であることを明らかにした。
 ① 自社のありたい姿や高い理想をミッション・ビジョンとして掲げ、進むべき方向性を示し、社内外における対話とミッション・ビジョンを実現するための実践が繰り返される仕組みが構築できるフロネティックリーダーの存在
 ② 市場や顧客との対話を通じて顧客提供価値を人々の根源的な価値まで掘り下げて認識し、顧客から深い共感を得ること
 ③ 地方がもつ魅力を自社の独自性、他社との差別化要因であると認識し、地方だからこそ獲得できる経営資源を競争優位につなげること
これらの要素は、異なる経営環境にある他の地方企業であっても適用できるものと考える。

優秀論文としての推薦理由

 各企業への訪問やトップマネジメントへのインタビューを含む豊かな一次資料および丁寧に調査された二次資料によって書かれた3社の事例は、それ自体大変興味深い。また、3社の共通点の分析・考察では、各社のユニークな顧客提供価値を創造するための顧客との対話の場、各社が生まれ育った地域の独自資源の活用、変化する環境の中で自己革新を促しつつぶれない軸となるミッション・ビジョンの役割、そして高い理想を掲げて自社の進むべき方向性を明確に示し社内外における対話と実践を引っ張るリーダーシップの役割など、持続的な成長を目指す地方の中小企業にとって多くの具体的な示唆が得られる研究となっていることは評価に値する。
 特に、地域コミュニティとのつながりを含めその地域独自の経営資源を徹底的に活用していった3社の事例は、様々な経営資源が東京に集中しがちな中で、「地方でも」ではなく「地方だからこそ」獲得できる経営資源を有効に活用することが競争優位につながることを示しており、地方の中小企業の一つのあり方を示しているという点で大きな貢献と言える。

CBSの成果として後輩の模範となる部分

 本研究で取り上げた3社はどれもユニークな企業であり、丁寧な現地取材と二次資料調査によって書かれたケースは厚みがあり読み応えのあるものとなっている。これら3社のケースの共通点を知識創造理論のフレームワークを用いて分析した結果も、本研究の目的である「地方中小企業の活性化」に関して大変興味深い示唆を与えるものとなっている。

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<2021年3月修了生 優秀賞 8名>

[論文A]

「大学教員の内発的モチベーションと情緒的組織コミットメントを促進する要因に関する研究」(人的資源管理分野) 杉田 美調
(キーワード:モチベーション、組織コミットメント、大学教員、大学経営、高等教育)

学位授与会場での研究科長との記念撮影(本人左)

学位授与会場での研究科長との記念撮影(本人左)

論文要旨

 大学教員は大学経営にとって最重要の人的資源であるが、大学教員を人的資源管理の対象として捉え、そのモチベーションや組織コミットメントに着目した研究は、管見の限りではみられない。本研究は、これらの点について、大学教員を対象としたアンケート調査を実施し、それにより得られた167人のデータについて、Ryan & Deci(2000)や労働政策研究・研修機構(2012)の先行研究の理論を踏まえて分析し、明らかにすることを目的とした。その結果、大学教員の四つの活動(教育、研究、社会サービス、学内行政)の内発的モチベーションに対しては、先行研究とは異なり、いずれも当該活動の「有能さ」が共通の規定要因であること、また、情緒的組織コミットメントを促進する主要因が建学の理念やビジョンへの共感・浸透であること、研究に関する時間割合への不満が教育の内発的モチベーションを低下させること等が確認された。
 本研究の学術的貢献は、高度に専門的、かつ指揮命令下で実施される一般的な職務にあてはめることが困難な職業人である大学教員の内発的モチベーション及び情緒的組織コミットメントの規定要因を明らかにしたこと、加えて実務面への示唆を得たことである。

優秀論文としての推薦理由

 本論文は,先行研究が少ない大学教員を人的資源管理の対象と捉え、教員個々人の「内発的モチベーション」と「情緒的組織コミットメント」を規定する要因に関して、実証的に研究を行ったものである。
 大学教員の業務の特徴の1つは「教育活動」「研究活動」「社会サービス活動」「学内行政活動」に大別できる複数の、相互に独立する業務を自らの裁量で行っていることにある。このような特性を踏まえつつ、仮説を設定し、大学教員個人を対象としたアンケート調査 を実施して検証を行った。アンケート調査から得られた有効回答167人を分析することで実証した仮説は,つぎの5つである。
 仮説1:大学教員の「有能さ」、「自律性」、「関係性」が高まると、内発的モチベーションが高くなり、このうち「自律性」が大学教員の内発的モチベーションを高める主要因である。
 仮説2:大学教員の情緒的組織コミットメントを高める要因は,「意義」(仕事内容が組織に貢献する有意義なものであるといった個人の知覚)、「経営者への信頼」(経営陣の行いが倫理的に正しいことが成員に信望されている状態)、「教育・研修」(職務に必要な研修や個人のキャリアプランに役立つ教育が受けられる機会),さらに所属する大学の建学の理念やビジョンであり,これらのなかで情緒的組織コミットメントを高める主要因は活動の「意義」である。
 仮説3:大学教員の活動時間の配分割合やワークライフバランスへの不満が高まると、内発的モチベーションと情緒的組織コミットメントが低下する。
 仮説4,仮説5:内発的モチベーションと情緒的組織コミットメントは相互規定関係にある。
 研究成果は,人的資源管理研究としての観点からも、 大学経営における人材マネジメントの実務的な観点からも有益なものである。また,問題関心も明確で,先行研究のレビューや仮説設定,さらには個人調査の方法や分析方法なども手堅く,優秀論文に値すると判断した。

CBSの成果として後輩の模範となる部分

 筆者の大学における勤務経験を通じた教員のマネジメントに関する問題関心から研究課題を設定し,先行研究のレビューや仮説設定,さらには個人調査の方法やデータの分析方法なども手堅く,後輩が参照すべき論文といえることによる。

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「ビジネス・フォーマット型フランチャイズにおけるフランチャイズ本部と加盟店の信頼関係の構築について」(戦略分野)野村 真康
(キーワード:特定連鎖化事業(フランチャンズ・ビジネス)、信頼関係構築、収益性(経済的責任)、約束事に対する結果責任、倫理性(利他主義的行動))

学位授与会場での研究科長との記念撮影(本人左)

学位授与会場での研究科長との記念撮影(本人左)

論文要旨

 本研究は、特定連鎖事業(フランチャイズ)の持続的成長を図る上で重要なfranchiser(本部)とfranchisee(加盟店)との間の持続的関係について、コンビニエンスストア業界のA社の加盟店満足度調査のデータをもとに、信頼関係構築における決定要因及び信頼関係構築に至るプロセスについて分析・考察を行ったものである。
 分析の結果、信頼関係を構築する決定要因は「収益性(経済的責任)」「約束事に対する結果責任」「倫理性(利他主義的行動)」だと解明された。信頼関係構築に至るプロセスは、本部が加盟者に対して、ある一定水準の「収益性」を確保し、経済的責任を果たすことから始まる。その上で「個人では調達し切れない生産有用性を実現できるインフラの提供(約束事に対する結果責任)」という加盟者の期待に応え、本部は加盟店と共通認識(加盟者の暗黙知である経営ビジョンを理解)をもち、「利他主義的行動」による支援を行うことで、強固な信頼関係が構築される。そのことから、信頼関係構築における決定要因は「二層構造」であることが解明された。
 本研究はフランチャイズビジネスを通して「信頼」という無形価値を継続的に構築することの重要性を示し、本部と加盟店の信頼関係構築に寄与するものだと考える。

優秀論文としての推薦理由

 「信頼」は組織内及び組織間関係の基盤となり、組織の成果に大きな影響を与えるものであるが、特に本部と独立事業主である加盟者との間の持続的関係がビジネスの成否の鍵となるフランチャイズビジネスにおいては、本部と加盟者間の信頼は重要な経営資源ともいえる。なかでもコンビニエンスビジネスにとっては加盟者の本部に対する信頼のゆらぎが昨今大きく取りざたされ、本部の企業価値を大きく棄損する 事態にも至っている。その意味で、 本研究は大きな意義を持つものである。
 フランチャイズビジネスの本部と加盟者間の信頼関係構築における決定要因及び構築プロセスについての議論は、既存研究であまり語られてこなかった領域である。丁寧な先行研究レビューから信頼関係構築に影響を与える要因に関する仮説を導出し、それを豊かな一次データにより実証した点が本論文の第一の貢献である。
 さらに、「収益性」は信頼関係構築に影響はするが、その影響は一律ではなく、一定水準を超えると収益性は信頼関係構築にそれほど影響しないということを明らかにしたことが第二の貢献である。一定水準の収益性を確保したうえで、本部が加盟者に約束したことの実現と本部の加盟者に対する利他的行動を高めることが信頼関係構築につながるという本論文が提示したモデルは、学術的新規性のみならず、実務的貢献も大きい。
 また、実際に信頼関係を構築するために、加盟者との接点である経営指導担当が果たす役割について一次データから明らかにし、本部が加盟店からの信頼を得るためにどのようなアクションが必要であるかについての示唆を得たことが、第三の貢献である。

CBSの成果として後輩の模範となる部分

 「フランチャイズ本部と加盟者間の信頼関係構築」という、社会的にも大きな課題について、丁寧な先行研究レビューから仮説を導出し、豊かな一次データをもって様々な角度から検証を行い、また検証により信頼関係構築に関するモデルを提示したという学術的貢献、具体的に本部がどのような施策をとることが加盟者との信頼関係構築につながるのかという点を明らかにした実務的貢献など、論文Aとして模範となる研究である。

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「日系物流企業の海外拠点における独自の価値創造とその持続的発展について」(戦略分野) 由井 瑞穂
(キーワード:日系グローバル物流企業、SECI(価値創造プロセス)、探索と深化、出向社員とナショナルスタッフ、トランスナショナル戦略)

学位授与会場での研究科長との記念撮影(本人左)

学位授与会場での研究科長との記念撮影(本人左)

論文要旨

 本研究では、価値創造に適しているのはどのような組織か、どのような海外拠点で価値創造されるか、創造した価値の持続的発展のために海外拠点ではどのようなプロセスが必要かを研究した。グローバル経営や価値創造に関する先行研究から仮説を導出し、日系最大手の物流企業の海外事業において価値創造が持続した事例と持続しなかった事例の比較分析、同社従業員へのアンケート、実際に海外で価値創造した出向社員やナショナルスタッフ(以下NS)らへのインタビューなどより仮説を検証した。
 その結果、リーダーシップや熱意など人間ならではの要因の重要性、文化の異なる従業員同士の弁証法的対話といった海外拠点ならではの価値創造要因が明らかになった。同時に、価値創造プロセスであるSECIを停止させる海外拠点ならではの要因があることも明らかになった。さらに、探索と進化を両立して創造した価値を持続的に発展させるためには、NSが中心となって行う価値創造を日本人出向社員が支援する関係性や、日本人出向社員とNSの弁証法的対話が重要であることを明らかにした。

優秀論文としての推薦理由

 本研究の学術的な貢献は、第一にこれまで製造業中心に論じられてきたグローバル経営や価値創造に関する理論から導出された仮説が、サービス業である物流企業においても当てはまることを示したことである。第二に、海外拠点ならではの価値創造要因とSECI停止要因を豊富な一次データにより明らかにしたことである。特に、海外拠点における価値創造は、一度の成功では十分ではなく、持続的に行われることが重要であるという観点から、持続的価値創造プロセスであるSECIプロセスを停止してしまう海外拠点ならではの要因は何かを明らかにしたことは大きな貢献である。また、既存業務の深化を目的として設立された海外拠点が、どのようにローカル適応とグローバル統合を両立させながら新しい価値の探索を行っていくかについて明らかにしたことも大きな貢献である。
 日本企業には依然本国志向のグローバル戦略をとる企業も多い。それらの企業は「日系顧客に」「日本関連の」「日本流」の製品・サービスを提供する3N戦略を深化することで成長してきた。しかし、そのような成長戦略が限界を迎えると、企業は脱3Nのグローバル戦略を実践しなければならないという課題に直面する。3Nによる深化の成長戦略をこれまで実行してきた企業が、 海外拠点において深化と探索を両立することで持続的に価値を創造していく方法や課題を示したことが本論文の実務的貢献である。

CBSの成果として後輩の模範となる部分

 3Nを脱却しローカル適合とグローバル統合を両立するトランスナショナル企業となることは、グローバル環境の変化と国内市場の縮小の中、日本企業にとって大きな課題である。本論文は、筆者の勤務企業のみならず社会的にも大きな課題について、丁寧な先行研究レビューから仮説を導出し、豊かな一次データをもって様々な角度から検証を行い、深化を目的とした海外拠点が探索を行い持続的な価値創造を行うための促進要因と阻害要因を明らかにした。その学術的貢献と実務的貢献は、論文Aとして模範となる研究である。

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[論文B]

「企業ブランドの本物感によるブランド・エクイティ構築」(マーケティング分野) 荒木 貴絵
(キーワード:ブランド・マネジメント、コミュニケーション戦略、本物感、ブランド・パーソナリティ)

学位授与会場での研究科長との記念撮影(本人左)

学位授与会場での研究科長との記念撮影(本人左)

論文要旨

 本研究の目的は、企業が新たに個別ブランドを導入するとき、企業ブランドが備えている「本物感」を活用して、個別ブランドのブランド・エクイティを高める方法を明らかにすることである。新規ブランドの導入時によく使用される、企業ブランドの保証機能よりも、より積極的な企業ブランドの活用方法を提案することを目指した。
 本研究で注目したのは、企業ブランドと個別ブランドが誠実なブランド・パーソナリティをもつ場合、企業ブランドが備えている本物感は個別ブランドの本物感も高め、その結果個別ブランドの態度にも好ましい影響を与えることである。インターネット上において実施した3つの実験データの分析によって、仮説は検証され、支持された。
 本研究の実務上の貢献は、企業ブランドの保証機能とは異なる、ブランド・エクイティの構築を促進する方法を提案し、その存在を実証したことである。コミュニケーション戦略においても、企業ブランドの本物感を活かすことによって、新規の個別ブランドでも本物感を備えた浸透が可能になると考えられる。本研究によって、ブランド・マネジメントにおいて求められる、迅速なブランド構築に対して貢献ができると考える。

優秀論文としての推薦理由

 本研究が提案しているのは、個別ブランドに企業ブランドを冠する「二階建て構造」(たとえば、LIXIL ・リシェル、トヨタ・カローラなど)が、個別ブランドのエクイティを強化する積極的な役割を持ちうることである。この役割が、過去に提案されている企業ブランドの役割(消費者に安心感を与え購買を促す)ではなく、筆者オリジナルの着想であることは評価に値する。
 筆者はこの着想を、近年注目されている「本物感」(authenticity)(消費者がブランドに対して抱く真正性)概念を導入してモデル化し、堅実な方法で実証している。提案モデルによれば、企業ブランドと個別ブランドの両方が誠実なイメージを持つとき、個別ブランドのブランド・エクイティが高まるという。これは、①企業ブランドの誠実なイメージが本物感を生み、②その本物感が、両者が同一イメージであるときに個別ブランドに転移するからである。
 得られた知見から実務的な示唆を提示していることも評価できる。新規のブランドを導入しようと試みるブランド・マネジャーは、企業ブランドのイメージを用いて、ブランド・エクイティを高めることができることや、そのためのコミュニケーション方法などが提案されている。

CBSの成果として後輩の模範となる部分

 この研究が後輩の模範となるのは、①研究全般の水準の高さ、②実務上の貢献を含むためである。①ブランドの「本物感」という理論概念を用いて独自モデルを構築し、媒介変数と調整要因を3つの実験によってテストした手順は、多くの学生の手本にとなるはずである。また、②分析結果から、筆者が勤務する企業に限らず、ブランド・マネジメント全体へ有用な実務的示唆を導出したこと(広範囲な実務的貢献)も価値が高い。この2つの観点を含んだ本研究は、今後、論文(B)に取り組む学生が目標とすべき模範となるだろう。

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「新たな小売業への転換戦略提言」~CLTVの最大化と日本版ニューリテール(新小売)の在り方への考察~」(マーケティング分野)伊藤 宏徳
(キーワード:CLTV(カスタマーライフタイムバリュー)、マルチショッパー、購買履歴データ、オンライン・オフライン、小売業)

学位授与会場での研究科長との記念撮影(本人左)

学位授与会場での研究科長との記念撮影(本人左)

論文要旨

 研究目的として、我が国のスーパーマーケット業態における今後の在り方を提言するため、同一チェーンでのオフラインとオンライン双方のチャネルにおける顧客の利用実態、主にCLTV(カスタマーライフタイムバリュー:顧客の購買行動から得られる顧客生涯価値)の側面から分析・検証し、その企業に最大の価値をもたらす顧客類型を提示することとする。Kumarら(2006)による3つの測定モデルのうち、本稿では購買金額ベースと利益ベースのCLTVモデルを用いて、同一チェーンにおける購買行動類型をリアルショッパー(リアル店舗のみ)、ネットショッパー(ネットスーパーのみ)、マルチショッパー(併用)の3つに分けて分析した。分析データは、大手スーパーマーケットチェーンの首都圏店舗におけるリアル店舗およびネットスーパーでの購買実績(食料品のみ)となる。食料品購買において最大のCLTVを企業にもたらすのはマルチショッパーであることが明らかになった。また、顧客のマルチショッパー化には、生鮮食品への信頼が重要であり、それを支える品質管理体制や日本流のきめ細かなサービスの実現こそ、新たな食品小売業への転換の上で強みとすべき点であると考える。

優秀論文としての推薦理由

 従来、ネットスーパーは宅配のコストやピッキングなど経費がかかり、利益がでないと言われてきており、ネットスーパーを開始したが途中で頓挫する企業も多かった。今回の論文は、顧客をリアル店舗のみを利用するリアルショッパー、ネットスーパーのみを利用するネットショッパー、双方のチャネルを利用するマルチショッパーの3分類に分割し、それぞれの顧客生涯価値を測定した。そして、マルチショッパーの顧客生涯価値が最も高いことを購買履歴データおよび単品の仕入れ原価や宅配コストを考慮したLTVモデルから明らかにした。学術的貢献としては、測定が困難であった利益ベースの顧客生涯価値を測定した。また、実務的貢献として、生鮮食品を含むリアル店舗とネットスーパーの双方のチャネルを利用するマルチショッパーが利益に貢献することを明らかにし、マルチショッパーの人数を増やすための施策について提案し、小売経営に重要な問題提起をしていることが推薦理由です。

CBSの成果として後輩の模範となる部分

 この論文は、ネット通販単体で小売ビジネスを考えるのではなくリアルとネットの両方を使ってもらうことが小売の利益を増加させるというユニークな仮説を顧客生涯価値を測定することによって実証した。文献レビューおよび自分の経験からユニークな仮説を設定し、ID-POSデータによる丁寧なデータ分析による仮説検証が論文作成の参考になると思わる。

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「IPO後も成長を続ける企業の財務戦略の特徴-ものづくり企業を対象として-」(ファイナンス分野) 内田 一弘
(キーワード:ものづくり企業、資本構成、設備・研究開発投資、株主還元政策、回帰分析)

学位授与会場での研究科長との記念撮影(本人左)

学位授与会場での研究科長との記念撮影(本人左)

論文要旨

 本研究の目的は、2000~2014年に日本の証券市場にIPOしたものづくり企業のうち、IPO後も高成長した企業が採った財務戦略の特徴を明らかにし、ものづくり企業が採るべき財務戦略を提案することである。
 そこで財務戦略と企業価値向上の関係を明らかにするため、3つの仮説を設定し、財務指標を説明変数に、また企業価値向上を示す指標を目的変数として、重回帰分析およびロジスティック回帰分析をおこなった。これら仮説において、財務戦略として資本構成、設備・研究開発投資、株主還元政策を挙げ、企業価値向上の指標として総資産利益率、株式時価総額成長率、トービンのqを用いた。
 分析の結果、高成長企業ではIPO後に財務レバレッジを高めていること、積極的な設備・研究開発投資をおこなっていること、低い配当性向と積極的ではない自社株買いという抑制的な株主還元をおこなっていることが分かった。
 IPO後の財務戦略として最適資本構成を意識して負債による資金調達をおこなうこと、WACCを下げた状態で設備・研究開発投資をおこなうこと、成長段階においては抑制的な株主還元政策を採り、資金は成長投資に回すことを提案できたことが、本研究の貢献であると考える。

優秀論文としての推薦理由

 本論文は、日本のものづくり企業に焦点を当て、IPO後に相対的に高成長した企業としなかった企業の財務戦略の違いを明らかにすることを目的として執筆されたものである。長期間の企業データベースを整備し、丁寧な統計分析と考察を行った。併せて実務家へのインタビューも行い、データ分析だけでは見えてこない現実世界の姿を確認しようとした点も評価できる。統計分析では、目的変数と説明変数の設定期間を変えるなど部分的なロバストチェックも試みている。本論文で示されたものづくり企業がとるべき財務戦略の提言は、コーポレートファイナンス理論に沿った内容であり、かつ、実務的な貢献も大きいものである。

CBSの成果として後輩の模範となる部分

 実務的な問題意識、地道な企業データベースの整備、丁寧な統計分析と考察などは、ビジネススクールの研究論文として後輩の模範となると思われる。

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不確実性下における中期経営計画のあり方の探求」(戦略分野) 古川 兼嗣
(キーワード:中期経営計画、不確実性、VUCA、長期ビジョン、機関投資家)

学位授与会場での研究科長との記念撮影(本人左)

学位授与会場での研究科長との記念撮影(本人左)

論文要旨

 本研究の目的は、日本企業が策定している中期経営計画(以下、中計)をVUCA時代に意義のあるものにするために何が必要なのかを探求することである。この目的のために「中計に対する経営者の狙いと社内外の関係者の受け止め方との間にギャップが生じている」という仮説を設定した.この仮説を検証するために,本研究では機関投資家と従業員に対して聞き取り調査と質問紙調査を実施した.これらの調査による発見事実は次の通りであった.
① 機関投資家は、不確実性下において投資判断材料としての中計の重要度はむしろ高まっていると考えていること.
② 機関投資家は,中計の未達や変更について長期ビジョンに即した振り返りが必要であると考えていること.
③ 従業員満足度は,ただ中計が存在するだけではなく、その内容の理解度・浸透度が高まらなければ向上しないこと.
 これらの発見事実をもとに,本研究では,不確実性下の中計のあり方に関する理論モデルを提示した.この研究によって,『長期ビジョン×中計』の組み合わせによって自社が進む方向を周囲に腹落ちさせることが、経営者とステークホルダーの間にあるギャップを解消するための鍵になるという実務的含意が得られた。

優秀論文としての推薦理由

 この論文の推薦理由は,この論文が発見事実の面白さを適切に表現できているからである.著者の仮説の一つは不確実性が高まると機関投資家は中期経営計画を重視しなくなるというものであった.しかしながら,実際の聞き取り調査では機関投資家,とりわけ長期の機関投資家は中期経営計画を非常に重視しているという仮説に反する答えが返ってきた.その発見事実を素直に解釈して理論モデルに組み込んでいるところは,実証研究の面白さを見事に表現している.

CBSの成果として後輩の模範となる部分

 後輩の模範となる点は,使いこなせる定量分析ツールを用い,実証できなかった事実も含めて素直に記述している点である.今回の定量分析は,サンプル数が十分に取れなかったため信頼性はそれほど高くなかったし,差の検定では統計的な有意も出なかった.しかしながら,著者は自分の分析の意味を自覚的に理解しており,その結果が十分でないことも理解していた.仮説検証ができなかったことも素直に受け入れ,研究の限界を自覚的に記述することは後輩にとって非常に有益な修士論文の書き方の見本例であると思われる.

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「製薬開発組織のマネジメント- 開発資産の価値最大化 -」(戦略分野)向井 紘平
(キーワード:製品開発、開発活動のマネジメント、イノベーション、製薬、プロジェクトマネージャー)

学位授与会場での研究科長との記念撮影(本人左)

学位授与会場での研究科長との記念撮影(本人左)

論文要旨

 本研究の目的は、製薬の製品開発におけるマネジメントの最適解を見出すことにある。製品開発のパフォーマンス(開発リードタイム)を短くすることで収益力を高めるマネジメントを、プロジェクトのリーダー(プロジェクトマネージャー: PM)に焦点を当てて考えた。
 本研究では、製品開発におけるPMの権限や責任範囲は企業や産業を超えて個々の状況において様々であると考えた。すなわち、「マルチファンクションの製薬の開発組織においてPMの介入の度合いによってパフォーマンスが異なる」と想定し、中程度のPMの介入、すなわち中量級PMのときにパフォーマンスが高まるという実証仮説を立て、事例によって先行研究の再検証を行った。
 本研究の貢献は2点ある。第1に、パフォーマンスを高めるPMの役割を具体的に示した点で学術的な意義がある。第2に、製品開発のマネジメントにおける組織やリーダーシップの在り方について、学術的知見と実務の接合を図り、中量級PMの有効性を示した。第3に、コンティンジェンシー理論の立場で、開発生マネジメントの最適解は状況に応じて変わることが示されたので、いままでとは異なる最適解の一つを提案するという実務的な意義もある。

優秀論文としての推薦理由

 製薬会社にとって、新薬の開発は企業業績を大きく左右する重要な活動である。だが、1つの薬で大きな売上が見込めるブロックバスターは少なくなり、多くの薬を迅速に開発し、市場化する必要に迫られている。しかしながら、そうした変化に合致する開発プロジェクトのマネジメントが実践されているわけではない。実際に製薬会社が直面する課題を研究テーマに取り上げたことが、まず評価に値する。
 この課題に答えるために、向井氏はプロジェクトマネージャー(PM)の役割と権限に焦点を当てた。既存研究を踏まえ、権限が強すぎず、弱すぎもしない「中量級」が相応しいという仮説を立てた。この仮説を事例で検証し、中量級PMの具体的な役割を明らかにし、シェアードリーダーシップやスクラムマスターなどの概念と比較検討した。既存研究と事例に基づく、中量級PMの概念提唱と、その妥当性の検証も評価に値する。さらに、中量級を含むPMの役割と権限を認定する尺度を提唱した。実践的で、利用可能な尺度の提唱もまた、評価に値する。
 以上のように、対象企業の環境変化と既存研究を踏まえた明確な問題設定、妥当な仮説と事例による検討、実践上の意義がある中量級PM概念の提唱は、論文の評価基準を高い水準で満たしている。このことから、向井氏の論文を優秀論文として推薦する。

CBSの成果として後輩の模範となる部分

 実践上の有効性が期待できる概念(中量級PM)を提示し、それを現実のプロジェクト・マネジメントで実現するための指標や方針を明確にしている。既存研究に裏付けられた実践的な提言を行い、実務と学術の橋渡しを果たしている点で、後輩の模範になると考えられる。

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<2020年9月修了生 優秀賞 2名>

[論文A]

「多様性の高い職場で活躍する人材に関する研究〜「自己認識力」に着目して〜」(人的資源管理分野) 藤曲 亜樹子
(キーワード:自己認識力、ダイバーシティ経営、対話、変化対応特性、心理的安全な職場)

学位授与会場での研究科長との記念撮影(本人右)

学位授与会場での研究科長との記念撮影(本人右)

論文要旨

ダイバーシティ経営の取り組みは、メリットがある一方、個々人の考えが優先され、組織の求心力低下につながる可能性がある。ダイバーシティ経営で経営成果を実現するためには、相互の理解を深める「対話」が重要であり、そのベースとして「自己認識力」が重要なことが明らかにされている。そこで、「自己認識力」を高めるために、企業と個人として何に取り組むべきか、が本研究の問題意識である。
研究では、先行研究から、「自己認識」を高める行動を促進する個人の行動特性と職場環境に関して、仮説を設定し定量的調査にて検証した。 分析の結果、「個人の変化対応特性の具備や心理的安全な職場環境は、組織構成員の自己認識力を高める行動を促進する」ことが明らかになった。さらに、補足的分析として、「経営層や管理職層の多様な人材の配置は、組織構成員の自己認識力を高める」、「自己認識力が高い人が多い職場は、イノベーティブ度、パフォーマンス度を促進する」ことが明らかになった。
ダイバーシティ経営において、多様性が高い職場で活躍する人材に関する施策の一つとして、「自己認識力」を高めるための具体的な施策を示すことができたことは、本研究の貢献であると考える。

優秀論文としての推薦理由

藤曲氏は,勤務先企業で推進しているダイバーシティ経営を職場に定着させるための課題として,従業員の側の要因の関心を持ち,今回の研究テーマを設定している。その点で,問題関心が極めて明確であることが評価できる。
ダイバーシティ経営の取り組みは、新しい価値の創造につながる可能性など経営にメリットがある一方、職場で従業員間にコンフリクトを生じさ、職場での円滑なコミュニケーションを阻害するなどのデメリットが生じるとする先行研究を踏まえ,このデメリットを抑制する要因として,従業員個人の「自己認識力」に着目する。「自己認識力」を取り上げたのは,価値観の異なる多様な人材の間で、質の高い「対話」を実現するために不可欠なスキルであることによる。
調査研究では,「自己認識力」は開発できるスキルであるという先行研究に基づき,「自己認識力」を高めるために有効な施策に関して,企業(職場)と個人の視点から複数の仮説を設定し,個人を対象としたアンケート調査(有効回答312名)を実施し,調査データの多変量解析に基づいて仮説を検証し,それに基づいて企業と個人に対して「自己認識力」向上に貢献する施策を提示している。
実証された仮説と提示した施策の関係がやや曖昧であるが,今後この点は,精査することで改善できると考える。

先行研究のレビューや仮説立案,さらに調査分析の方法などが手堅く,優秀論文として評価できると考え,推薦する。

CBSの成果として後輩の模範となる部分

ダイバーシティ経営に取り組んでいる企業の中には,その職場への浸透に苦労しているものが多い。その点で藤曲氏が設定した研究課題は,多くの企業のダイバーシティ推進担当者にとって有益な研究テーマである。さらに,先行研究のレビュー,仮説の構築,調査実査,分析の手堅さなど,CBSの後輩の研究に大いに参考になると考える。

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[事例分析(ケーススタディ)]

「APIがもたらす新しい企業アライアンスの形」(マーケティング分野)林 佑威
(キーワールド:API、アライアンス、フィンテック、ブランド・アライアンス、非競争領域)

学位授与会場での研究科長との記念撮影(本人右)

学位授与会場での研究科長との記念撮影(本人右)

論文要旨

API(Application Programing Interface)を活用した。新しい形の企業アライアンスが生まれている。この「新しさ」を明らかにするために、POSレジアプリのトップ企業や生体認証サービスを提供するフィンテック企業など、ユニークな「APIアライアンス」を行う先進企業の事例を分析し、現場のキーマンにインタビュー調査を行い、先行研究で論じられている従来型のアライアンスと比較を行った。
本稿では、「競合とのブランド・アライアンス」や「APIによる新たな収益機会」など、従来のアライアンスでは想定しにくいものを含む、ユニークなアライアンスを確認している。この分析を通じて、APIによるアライアンスは、従来のアライアンスの形態を多面的に織り交ぜながら、パートナーとの補完関係を実現し、様々な状況の変化にしなやかに対応出来ていることが、その新しさであることを確認した。
APIによるアライアンスでは、「低減化された取引コスト」により、アライアンスのモジュール化そしてカジュアル化が実現され、従来以上にマーケティングの視点を加えたアライアンス戦略が求められることなどを提言する。

優秀論文としての推薦理由

本研究の結論では、従来の「重い」企業提携に代わってAPIはより「カジュアルな」企業提携を可能にし、水平的・補完型のアライアンスをより簡便なものにする可能性を指摘している。本論は、アライアンスという経営課題を新しい事象と捉え、その実体を解き明かしている点で大きな貢献がある。

CBSの成果として後輩の模範となる部分

現場のIT企業人ならではの視点を活かして、APIという新しい仕組みが伝統的な企業アライアンスをどう変えたかという新鮮な課題を提起している点が模範的である。

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<2020年3月修了生 優秀賞 8名>

[論文A]

「医薬品の普及形式の変化について-医薬品情報のデジタル化やMRの受入拒否が影響を与えているか-」(マーケティング分野) 田代 博士

学位授与会場での研究科長との記念撮影(本人左)

学位授与会場での研究科長との記念撮影(本人左)

論文要旨

現在、製薬企業の新規製品の普及戦略はMRという営業部員による、訪問周知活動を主としている。これは伝統的な普及学の理論にのっとり、医療従事者同士の人から人への伝播を期待し、イノベーターたる大学病院の教授クラスや、大病院の部長クラスに人的ないしは経済的な資本を集中化するものである。
 医療情報のデジタル化や医師間ネットワークの変化など環境が大きく変化する中で、この医薬品普及にも変化があるのかどうかを検討した。
 まず第一に、2017年発売の医薬品採用の実データを用いてBASSモデルに導入し、普及理論に載るか検証したが、模倣係数のほうが高い傾向があり、反症例を見出すに至った。
 次に、医薬品情報のデジタル化が本格化した2007年をメルクマールにし、その以前と以降に医薬品の施設での採用の意志決定をしていた医療関係者3名づつにグルーピングし半構造的なインタビューを行い、GTAの手法でまとめた。
 その結果、2007年以降のグループではMRを中心としたアナログチャネルはほとんど機能していないことが示唆された。
 本検証の貢献としては、冒頭の、医薬品普及形式の変化の中で資本集中化戦略が効果的でないこと示し、戦略の構造的な見直しを導くことにある。

優秀論文としての推薦理由

医薬品メーカーの新薬の普及と病院の新薬採用のプロセスを明らかにした論文である。著者は2007年前後から新薬の普及および採用プロセスが変化しているとの仮説に立ち、その普及および採用プロセスの変化について実証した。まず、Bassモデルによって、新薬の普及曲線を分析し、従来はイノベーターの値よりイミテーターの値が大きかったが、2007年以降の新薬については、少ない新薬の数ではあるが逆の現象であること実証した。次に、医療従事者にデプスインタビューを実施しグラウンデッド・セオリー・アプローチ(GTA)によって分析した。その結果、ICTの普及により、2007年以降に明らかに医療従事者の採用が医薬品メーカーの医薬情報担当者(MR)の情報ではなくて、インターネットからの情報を重視して、採用するようになったことを明らかにした。MRとしての役割を再構築する必要性があることを結論としている。
 仮説の生成のための論文が十分にレビューされていること、新薬のケースは少ないが、普及モデルによって定量的な実証をしていること、さらに、医療従事者のヒアリング・データをGTAをつかい適切に分析した。そして、アカデミックな視点と実務の視点から、適切な結論がえられている。

CBSの成果として後輩の模範となる部分

まず、アカデミックな論文ではレビューが重要であるが、この論文はテーマにそった文献のレビューが多くなされ、これまでの医薬品の普及に関する知見を整理しまとめている。そのうえで、適切な仮説を設定し、データによって実証している点は他の学生に参考になると思わわれる。

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「ダイバーシティ採用、その先に」~日本企業が行うべきグローバルダイバーシティ採用後に効果を発揮する施策は何だろうか~」(人的資源管理分野) 山口 恭子

学位授与会場での研究科長との記念撮影(本人左)

学位授与会場での研究科長との記念撮影(本人左)

論文要旨

外国籍社員を採用することで職場に新たな価値や発想をもたらし、組織活性化や新たな価値創造(本研究では「ダイバーシティの効果」という。)を目指す企業であっても、外国籍社員にも日本人社員と同様の人的資源管理を適用していることが多い。それがダイバーシティ効果の実現を阻害していないかが本研究の問題意識である。
 Shore et al.(2012)などを踏まえ、ダイバーシティの効果の実現には、社員の「自律的なキャリア意識」を尊重しつつ、「組織への帰属意識」を形成することが必要との前提に立ち、そのために有効な制度や施策は日本人と外国籍では異なるとの仮説を設定、日本人社員・外国籍社員の双方を対象に質問紙調査を実施した。
 分析の結果、外国籍には適切な労働時間や両立支援環境など「ワークライフバランス」に関連する施策、多様性のある社員の採用や平等な仕事機会の提供など「差別・区別がない環境」に関連する施策に帰属意識を高める効果がみられた。これは日本人にはない特徴であった。
 ダイバーシティ効果を実現するには、企業は、単一属性を想定したこれまでのマネジメントから脱却し、新たなメンバーである外国籍社員の視点から、施策やマネジメントを再考する必要があることを示す貢献ができたと考える。

優秀論文としての推薦理由

本論文は、ビジネスのグローバル化に比して低調な日本企業の(高度)外国人人材の活用に対する筆者の強い危機感を背景に、外国人人材の活躍により職場のダイバーシティ効果の実現を図るという観点から、現在の企業の人的資源管理施策の評価と、実現を促進する施策の探索とを行ったものである。
 海外で研究が蓄積され、日本でも注目される職場のダイバーシティとインクルージョンの概念を踏まえて分析モデルを構築し、日本人と外国籍それぞれに関して先行研究に沿った仮説を構築、検証のために日本語と英語によって質問票を作成して調査と分析を行った。丁寧に行われた一連のプロセスは学術論文の要件を充分に満たしており、評価できる。特に日本人と対比できる数の外国籍のサンプルの収集にこだわって調査を進め、統計分析によって両者の異同を指摘した点に、本研究の独自性と貢献とが認められる。
 また、日本人についての仮説が支持されず、日本人のキャリアに関する意識特性が変化して外国籍へ近接していることが明らかにされるなど実務面への貢献も大きい。

CBSの成果として後輩の模範となる部分

自身の実務経験を通じて醸成されてきた問題意識を、学術的フレームワークを用いて構造的・客観的に捉えた点、構築した仮説に対応する丁寧な質問票の作成とデータ収集とを行った点、計量分析により、実務へのインプリケーションを含む一定の結論を得た点が、今後の参考となる。

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「総報酬があたえるエンゲージメントへの影響~外的報酬が高まるとエンゲージメントは向上し 企業価値は向上するのか~」(人的資源管理分野) 割石 正紀

学位授与会場での研究科長との記念撮影(本人左)

学位授与会場での研究科長との記念撮影(本人左)

論文要旨

本研究の目的は,企業で働く従業員のエンゲージメント向上に貢献する要因を明らかにすることにある。研究では、分析対象企業のエンゲージメント調査のデータを基に,給与額(給料,賞与),昇格や人事評価等の各種社内データ,エンゲージメント調査への従業員の自由記述等の定性データを組み合わせて、4つの作業仮説を立て分析を行った。
 データ分析によると,総報酬の中でも外的報酬である年収が,エンゲージメントの高低に影響を与えていた。また,外的報酬の中でエンゲージメントに一番影響のある要因は年収であるが,一定水準の年収を超えると,年収の影響度が弱まり,人事評価の影響度が高まることが確認できた。人事評価では,評価制度の不理解や人事評価への納得感が低いと,エンゲージメントは低くなるが,評価制度を理解し正しく認知することでエンゲージメントは向上することが明らかとなった。
 さらに,内的報酬の中では、社員の相談行動や上司からのサポート等の環境整備を行う事が組織における心理的安全性の担保に繋がることも明らかになった。
 本研究は,日本企業が直面している人事マネジメント上の課題の解決の一助となり,企業の競争力を高め,持続的成長に繋がることに貢献できると考える。

優秀論文としての推薦理由

本論文は、海外を含めて人的資源管理分野で最近、注目を集めているエンゲージメントの概念を取り上げ、研究対象企業のエンゲージメント調査と他の人事データをリンクさせた統合データセットを作成し、それに基づいて社員のエンゲージメントを規定する要因を明らかにするものである。
 筆者の問題意識は明確で、研究対象企業のエンゲージメント調査を再分析し、エンゲージメントを規定する要因を明らかにし、社員のエンゲージメントを高めることにつながる施策を提示することで、実践的な研究である。同時に本論文は、エンゲージメントに関する先行研究だけでなく、行動科学のモチベーションに関する研究を丁寧にレビューしている点が評価できる。また、データ分析では、エンゲージメント調査に、賃金データやストレスチェツクの多様なデータなどを組み合わせ、エンゲージメントの規定要因を多元的に明らかにするなど、データ分析での工夫も高く評価できる。なお、分析方法には改善の余地もあるが,この点は今後に期待したい。

CBSの成果として後輩の模範となる部分

上記のように本論文は,研究対象企業の人事管理の課題を解決するという実践的なテーマを取り上げ、それに関して多様な社内データを丁寧に分析し、対応策を提示していることは、ビジネススクールの研究論文として他の参考となる。

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[論文B]

「医療現場にて重要視される医療機器の選択要因についての一考察」(戦略分野)  清水 幸宏

学位授与会場での研究科長との記念撮影(本人左)

学位授与会場での研究科長との記念撮影(本人左)

論文要旨

 本研究の目的は、広く使用されている医療機器において、 その認知に関わる要因、選択要因、そして医療機器を使用する手技の取得のために重要な項目を明らかにすること、医師と医療機器企業が重要と考えている項目の比較検証を行うこと、また、同じ医療の領域である医薬品企業との現場で求められていることの違いを検証し、医療機器企業の戦略を探索してくことである。
 医療機器・医療マーケティング・購買行動に関する先行研究レビューから仮設を設定し、医療機器を使用する医師および医療機器企業へのヒアリング・アンケート調査を実施、結果をt検定による検証を実施し、仮設は支持された。
 本研究の貢献は、企業の戦略への参考として、医療機器を認知、選択するうえでの重要項目の把握ができる点であり、また企業が考える重要項目と医師の考える重要項目との違いが明らかになることで、適格な戦略を立てることができる点である。
 手技に関しては、医師、企業とも重要項目が一致していること、この手技への関わりが医薬品と大きく異なる点であり、医療機器企業として手技へのサポートが重要と考えられた点である。

優秀論文としての推薦理由

清水論文は重要であるが従来あまり重要視されてこなかった医師の医療機器選択に対しての研究である。アンケート調査の例数は少ないもののインパクトのある結果である。最もインパクトがある点は下記である。
 「この手技への関わりといった点が、医薬品にはない医療機器の特徴といえる。医薬情報提供の効率を上げるために、インターネットやAIの使用がより増えることが予測される医薬品企業とは異なり、医療機器企業は、インターネット等での情報提供だけでなく、今後より低侵襲で複雑、そして高度な手技が広がっていくにしたがい手技の取得、上達の必要性はますます高まっていき、ハンズオントレーニング、シミュレーションが重要となり、現場、学会、トレーニングセンターでのサポートを強化していくという方向に進んでいくものと考えられる。医療機器を使用する手技へのサポートをこれまで以上に進めていくことが重要であると言える。」(論文要旨より) Nの数が少ないのでさらなる検証がいるが、この論考は医療機器のマーケティングに影響を与えると思われる。

CBSの成果として後輩の模範となる部分

新しい分野を切り開きまた自社の今後のマーケティングや営業戦略に大いに役立つ研究

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「百貨店個人営業顧客のコミットメントに関する研究」(マーケティング分野) 鈴木 一正

学位授与会場での研究科長との記念撮影(本人左)

学位授与会場での研究科長との記念撮影(本人左)

論文要旨

本研究の目的は、百貨店の個人営業顧客にとってカード特典拡充や専用ラウンジ整備といった制度環境的な施策がコミットメントを高め、業績向上に有効に機能しているのか否かを実証的に明らかにすることにある。
 デプス・インタビューの結果、関係継続や他者推奨には、「担当者との良好な関係」が重要な役割を果たしていることが明らかになった。この結果を踏まえ、リレーションシップ・マーケティングの概念モデルとして久保田進彦(2006)が示した「多次元コミットメントモデル」を基本とし、損得勘定に関わる変数を「制度環境的コミットメント」と「担当者による経済的コミットメント」に分割し、共感や一体感に関わる「感情的コミットメント」とともに中心的媒介変数として関係継続や他者推奨意向を結果要素とする共分散構造分析を実施した。アンケート対象は首都圏の個人営業顧客309名である。
 その結果、「制度環境的コミットメント」が結果要素に与える影響は相対的に小さく、人的サービス施策が重要であることが明らかになった。人件費圧縮を図り、人手を掛けないサービスに傾斜しようとする業界への警鐘とも言える。

優秀論文としての推薦理由

百貨店の外商が、百貨店の顧客のコミットメントにどのように影響するかについて実証分析を行った。著者は「計算的コミットメント」を「制度環境的コミットメント」と「担当者による経済的コミットメント」に分割し、それぞれが「関係継続意向」や「推奨意向」にどの程度影響するかについて実証した。その結果、担当者による経済的コミットメントがより、影響することを明らかにしている。実証分析のための適用モデルを決定し、さらに、仮説生成のためのデプスインタビューを行いGTAで分析した。さらに、仮説検証のためのアンケート調査を行い定量的な実証分析を行った。分析プロセスは適切であり、また、統計的な手法も適切であった。アカデミックな視点で従来のコミットメントモデルを修正できたこと、また、外商の値引きなどによって計算的コミットメントが顧客のロイヤルティを高めることが明らかになったことは百貨店のビジネスに一定の影響を与える点で評価に値する。

CBSの成果として後輩の模範となる部分

この論文で見習う点は、論文レビューとデプスインタビューによって仮説を生成したこと、その仮説を大規模なデータで収集し分析したこと、さらに、分析に使用した分析モデルが適切であったことである。このことによって意義のある実務的な結論が導きだされている。

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「医療機器業界においてなぜ軽微な差別化が成功するのか? 議題設定効果の導入による差別化政策の検討」(マーケティング分野) 友重 大輔

学位授与会場での研究科長との記念撮影(本人左)

学位授与会場での研究科長との記念撮影(本人左)

論文要旨

本研究の目的は、整形外科インプラントの医療機器業界において軽微な差別化がされた製品が、販売数量を伸ばすメカニズムを、「議題設定効果」というマス・コミュニケーション効果の理論枠組みによって説明することである。
 本研究で注目したのは、軽微な差別化がされた整形外科インプラント製品のほうが、革新的な製品よりも手術リスクは少ないため、学会発表を容易に行えることである。そして、学会というメディアにおける露出の増加は、軽微に差別化された新製品の特徴を「争点」とするため、結果として多くの医師の当該インプラント製品の選択を促すだろうと考えた。この一連のプロセスが、業界最大手メーカーの販売データを用いた分析によって検証され、支持された。
 本研究の貢献は2点ある。第1に、チャレンジャーのマーケティング戦略に対する示唆である。医療機器業界のチャレンジャーは、議題設定効果を意識したマーケティング戦略を採用することにより、新製品の販売を短期間で拡大できる可能性がある。第2に、リーダーの防御戦略についてである。チャレンジャーの新製品の導入戦略が有効に働くメカニズムが分かることで、的確な対抗戦略を行うことができる。

優秀論文としての推薦理由

本研究は、整形外科インプラント業界における「軽微な差別化がされた製品」(典型的には、インプラントの表面素材のみ変更)が、なぜ革新的製品よりも販売数量を伸ばすのかを、「議題設定効果」というマス・コミュニケーション効果の理論枠組みを導入し説明したものである。革新的な差別化より些細な差別化が販売数量を伸ばすという直感に反する現象を、適切な方法で説明し、業界企業のマーケティングへの示唆を提示したことは評価に値する。
 筆者が注目したのは、メディア媒体としての「学会発表」の役割である。学会での発表機会を多く望む医師(手術へ高関与の医師)は、軽微な差別化な製品のほうが、手術リスクは少なく、容易に学会発表を行うことができる。そのため、軽微な新製品が、高関与の医師の学会発表を増やし(:メディア露出の増加)、それが、整形外科業界の「争点」を作り出す。結果として、その争点が、多くの医師の当該インプラント製品の選択を促すのである。
 この知見を用いると、業界のチャレンジャー企業は、争点化を用いたリーダーへ対抗を適切に図ることができる。一方、リーダー企業は、軽微な差別化へ防衛策を採ることができる。

CBSの成果として後輩の模範となる部分

この研究が後輩の模範となるのは、本論文が論文(B)として①典型的な研究デザインと②研究の貢献を含むためである。① 議題設定効果という既知の理論の対象を、「異なるコンテクスト」と「データ」で拡張し、理論の有用性を示していること(広義の研究の再現性)は論文として価値がある。②分析結果から、筆者が勤務する企業に限らず、業界企業への有用な実務的示唆を導出したこと(広範囲な実務的貢献)も価値が高い。この2つの観点を含んだ研究は、今後、論文(B)に取り組む学生が目標とすべき模範となるこことは間違いない。

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「プライベート・ブランド階層の中のサブブランドがストアロイヤルティに与える影響について」(マーケティング分野) 羽石 奈緒

学位授与会場での研究科長との記念撮影(本人左)

学位授与会場での研究科長との記念撮影(本人左)

論文要旨

本研究の目的は、小売業界において差別化に向けプライベート・ブランドの取組みを強化する中、プライベート・ブランド階層の中のどうようなサブブランドがストアロイヤルティの向上につながるかについて明らかにすることである。
 本研究で注目したのは、スタンダードPBより品質を重視したプレミアムPBと、サブブランドとして社会環境や消費者意識の変化に対応したサステナブルPBである。ホームスキャンデータを活用し購買履歴データを用いたウォレットシェア分析から、「プレミアムPB購買者はストアロイヤルティが高い」については棄却され、「サステナブルPB購買者はストアロイヤルティが高い」については支持された。
 本研究の貢献は、プライベート・ブランド商品間のカニバリゼーションを制御しながら、独自のブランドイメージを創出し、PBプログラム全体を強化するプライベート・ポートフォリオ戦略を構築するためには、サステナブルPBの必要性が示唆されたことにある。この点は小売業にとって重要な課題である「PBロイヤルティの向上及びストアロイヤルティの向上」に対して、小売業のPBによる差別化戦略の意思決定に一定の示唆を与えた。

優秀論文としての推薦理由

プライベート・ブランドの階層はどうあるべきかについて実証分析を行った。具体的には、セブンプレミアムとトップバリュをとりあげ、各ブランドのサブブランド別に、購買者の違いやストアロイヤルティに与える影響についてホームスキャンデータを用いて分析した。セブンプレミアムについてはセブンプレミアムゴールド、トップバリュについては、トップバリュとグリーンアイとの購買者のデモグラフィック特性の違いおよび食パンを取り上げ時系列に各サブブランド別に売上数量の相関をみた。その結果、購買者属性に違いがみられ、また、売上数量の相関もみられず、カニバリゼーションは起きていなかった。また、トップバリュのサブブランド別のウォレットシェアとイオンの世帯別購買金額を分析した結果、トップバリュおよびグリーンアイのウォレットシェアが世帯別購買金額に影響しており、通常のPBであるトップバリュだけでなくグリーンアイもストアロイヤルティに影響していることが明らかになり、PBのサブブランドの展開の方法の示唆をえることができた。
 ホームスキャンデータを駆使して世帯の購買行動履歴を分析したこと、仮説設定が実務に直結している点が優れている。

CBSの成果として後輩の模範となる部分

この論文は、研究において仮説設定がいかに重要であるかを教えてくれている。「通常のPBではなくて、サステナブルなPBがこれからの小売業の商品戦略について重要である」という仮説設定が論文の内容を面白くしている。学生にとっては仮説設定のユニーク性が論文の面白さを決めるという点で参考になると思われる。

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[事例分析(ケーススタディ)]

「中途入社者の「組織再社会化」促進研究― 個人と企業、「雇用の流動化」時代を見据えて ―」(人的資源管理分野) 庄司 明弘

学位授与会場での研究科長との記念撮影(本人左)

学位授与会場での研究科長との記念撮影(本人左)

論文要旨

本研究の目的は、中途入社者が転職先企業へ早期に適応する要因を明らかにすることである。
 具体的には、離職から転職にいたる一連の過程のうち、中途入社者が新たに参入した組織(転職先企業)に適応する組織社会化のプロセスに着目した。新規学卒者の組織社会化に対し、「すでに、別の組織で仕事を行った経験のある中途入社者をいかに社会化するか」を扱う組織再社会化の特徴の一つは、これまで培ってきた業務のやり方や経験を「学習棄却(unlearn)する必要があるという点にある。
 本研究の貢献は、定量調査(質問紙によるアンケート調査)と定性調査(インタビュー調査)の結果から、学習棄却をしてよい知識・スキル・経験と、してはならないそれとがあることを示した点にある。職務遂行上のコアとなる知識・スキル・経験は、新しい職場での職務課題の達成と、周囲の評価の獲得にむすびつき、(早期の)組織適応を容易にする一方で、「ルーティン」「風土」「組織の文化」などの知識・経験・信念は、むしろ学習棄却することで、新しい組織への適応を容易にする。
 今後一層中途採用・中途入社が拡大するとの予測に立てば、この貢献の重要性は、ますます高まるものと考える。

優秀論文としての推薦理由

長期安定雇用が揺らぎ、個人が自らの責任でキャリアを構築していく時代にあって、筆者の問題関心は、組織の境界を超えながらキャリアを築くことの意味を、長期的趨勢の中に位置づけることと、そのようなキャリア構築を図る個人が、自らの能力を発揮し続けていくために見失うべきでない要素を明らかにすることにある。
 研究は、①先行研究レビューによって雇用を巡る企業と個人の関係性の変遷を理解して分析の視座を得ること、②一定の要件を満たす転職経験者をケースとして取り上げての量的・質的調査の実施、③転職後の組織への適応(組織再社会化)を円滑に進める要因の分析、から構成される。筆者の学術的関心の高さと幅広さ、定量・定性調査の併用(ミックス・メソッド)による手堅い分析、その視座の確かさが示されている。
 課題研究(事例分析)の要件を十分に満たすのみならず、学術的な新たな知見の獲得や、企業および個人に向けた実務面での提言を実施するなど、多くの意義をもたらした研究であることから、優秀論文として推薦する。

CBSの成果として後輩の模範となる部分

転職により、自律的にキャリア形成を行うことを選んだ分析対象者に対し、組織再社会化という概念を基準として、転職先への適応度とその要因を客観的に分析・記述した点が、今後の参考となる。

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戦略経営研究科 鈴木敏文賞

 戦略経営研究科の設立にご尽力いただいた鈴木敏文氏の篤志を尊重し、本研究科修了生の中のうち成績最優秀者を表彰する鈴木敏文賞を設定し、院生の学修に対する志気の高揚をはかることを目的として、総代として選出された方に鈴木敏文賞を授与しております。

戦略経営研究科 南甲倶楽部賞

 戦略経営研究科の運営に対し多大な支援体制をとる南甲倶楽部の篤志に基づき、南甲倶楽部賞を設定し、本研究科修了生の中から成績優秀者を表彰することにより、院生の学修に対する志気の高揚をはかり、本研究科の更なる発展を促すことを目的として、成績優秀者として選出された方に南甲倶楽部賞を授与しております。

  総代、鈴木敏文賞
4月入学生、9月入学生:各1名選出
南甲倶楽部賞
4月入学生  3名選出
9月入学生  1名選出
2022年3月修了生 國田 圭作 大橋 久美子
佐藤 正彦
山坂 麻優香
2021年9月修了生 真野 謙一 塚本 綾乃
2021年3月修了生 由井 瑞穂 鈴木 智之
古川 兼嗣
前田 洋
2020年9月修了生 中島 悠太 藤曲 亜樹子
2020年3月修了生 大森 道生 藤平 雅之
山口 恭子
鈴木 一正