研究

理工学部教授 福井 彰雅:ヒトの7倍の巨大ゲノムを解読 ―イベリアトゲイモリが示す発生・再生・進化・行動の謎―

※本プレスリリースは、基礎生物学研究所、広島大学、東京科学大学、琉球大学、国立遺伝学研究所、日本獣医生命科学大学、徳島大学、東邦大学、中央大学(理工学部教授 福井 彰雅)、玉川大学、鳥取大学との共同研究に関する、共同発表です。

 有尾両生類であるイモリは、古くから発生や再生の研究において重要な役割を果たしてきました。しかしイモリのゲノムは、反復配列によりヒトの数倍から十数倍と巨大であるため、長らく決定が困難でした。今回、主に国内の研究者からなる「イベリアトゲイモリ研究コンソーシアム」を中心として、日本で樹立された近交系統イベリアトゲイモリ#1) を対象に最新の高精度ロングリードシークエンス技術を用いてゲノム解読に成功しました。そのゲノムは約200億塩基対に達し、ヒトの約7倍もの大きさです。解析の結果、ゲノム巨大化に関わる反復配列、器官再生における遺伝子発現制御、両生類の進化やイモリ特有の生殖行動に関わる遺伝子の特徴などが明らかになりました。本研究の成果は、イモリが持つ様々でユニークな生命現象の謎に迫るための重要な情報として、生物学の分野において幅広い展開が期待されます。本研究成果は、2025年9月9日に米国学術雑誌 iScience のオンライン先行版に掲載されました。

#1) イベリアトゲイモリ:イベリア半島原産のイモリの一種で学名はPleurodeles waltl。飼育が容易で、一年以内に性成熟(卵や精子を作ることができる成体になること)し、ホルモン注射により一年中受精卵を得ることが可能な動物です。広島大学両生類研究センターのナショナルバイオリソースプロジェクトにて維持管理されています。今回のゲノム解読に用いたイベリアトゲイモリは、二つ番の親から始まって8世代(10年以上)もかけ合わせてできた近交系統です。ゲノム配列の大部分が共通するために個体差が少なく、生物学研究において大変有益なモデル動物です。

【本研究成果のポイント】

  1. 反復配列の多さからこれまで解読が困難であった200億塩基というヒトの7倍の大きさを持つイベリアトゲイモリ近交系統のゲノム配列の解読に成功しました。トランスポゾンなどの反復配列により巨大化したゲノムの構成を明らかにしました。
  2. 他の脊椎動物のゲノム配列と比較を行った結果、有尾両生類のユニークな発生、再生、進化、行動の謎を紐解く遺伝子の特徴を次々と発見しました。

   ・脊椎動物の体作りに重要な遺伝子のいくつかが失われていた
   ・イモリの繁殖行動に適したフェロモン関連遺伝子の進化
   ・遺伝子発現を調節するエンハンサー配列が遠く離されても機能している
   ・四肢再生能力に関わる可能性のあるゲノム配列の発見

 詳細は、大学ホームページの「プレスリリース」をご覧ください。

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