※本プレスリリースは、東京大学生産技術研究所、学校法人中央大学との共同発表です。

【発表のポイント】
◆陸面の物理過程を再現する「陸面モデル」において、斜面の水動態と植生分布を結びつけた新たなスキームを開発し、谷沿いに形成される森林といった現実世界の特徴的な景観を、モデル内でも詳細に再現できるようになった。
◆アフリカ全域のシミュレーションにおいて、斜面の水動態と植生分布を考慮することで、蒸発散・流出・土壌水分をより正確に再現し、観測データとの整合性が向上した。
◆斜面の水動態と植生分布を精緻にモデル化することで、アフリカ全体での蒸発散・流出量の増加と土壌水分の減少という顕著な傾向を発見した。

【概 要】
東京大学 生産技術研究所の李 庶平 特任研究員、山崎 大 准教授、芳村 圭 教授と中央大学の新田 友子 准教授による研究グループは、陸面モデル(注1)において、斜面の水動態(注2)と植生分布をこれまでより精緻に表現する手法を開発しました。新しいモデルを用いてアフリカ大陸で陸面の水・熱循環シミュレーションを行ったところ、広い範囲で既存モデルと比べて蒸発散・流出量の増加と土壌水分の減少が見られ、斜面の水動態が水とエネルギーの循環に大きな影響を与えることを明らかにしました。
地球では、雨や雪、日射、蒸発散といったプロセスによる大気と陸面の間での水とエネルギーの交換により、各地域の気候や環境が作られています。この水とエネルギーの移動は、鉛直方向だけでなく斜面に沿った水平方向でも起こります。例えば、斜面の水は谷へ流れ、谷は丘よりも湿りやすくなります。その結果、乾いた地域では、谷沿いに河岸林(注3)ができ、湿った地域では、湛水により斜面下部で植生が疎になるなど、斜面内の場所によって植生の分布が変わります。植生は、蒸発散や光合成を通して大気と陸面の水とエネルギー交換に影響するため、斜面での水の動きと植生分布を気候モデルでも考慮することが求められています。
本研究では、斜面における水動態と植物分布をより、詳細に陸面モデルで表現し、アフリカ大陸を対象とした数値シミュレーションによって、斜面の水動態が水とエネルギーの循環にどのような影響を及ぼすかを調べました。その結果、植生分布を正確に表現するほど、流出や蒸発量の変化が大きくなり、特に赤道付近の河岸林や湛水型湿地のある地域で顕著に現れることが分かりました。また、広い地域で蒸発や流出量が増え、土壌水分が減る傾向も確認され、水とエネルギー循環の予測精度も向上しました。
この研究を継続することにより、今後、気候変動が生態系や人間社会に与える影響や、陸地から気候へのフィードバックをより正確に評価することを目指します。
(注1)陸面モデル:大気と陸面の間での水とエネルギーの交換を予測するため、陸面での物理過程を再現するツール
(注2)斜面の水動態:斜面における地下水流れや土壌水分移動などの水の動き
(注3)河岸林:乾燥〜半乾燥域の谷筋に植生が生える景観
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