研究

理工学部助教 李 恒・教授 河野 行雄:リモート制御可能な非破壊検査イメージセンサを創出

【要 点】

〇 高純度に半導体質へ分離されたカーボンナノチューブ(CNT)により、透視なイメージセンサを設計。
〇 半導体CNT(s-CNT)材料特性の増幅、イメージセンサとしての高品質材料化に向けて、空気にさらされた状態にピペットで液体を垂らすだけで完結する“ケミカルキャリアドーピング”アプローチを導入。
〇 これにより、ドーピング前後におけるs-CNTのイメージセンサ感度を4,000倍超に底上げ。
〇 加えて、掌サイズの小型無線回路で遠隔制御可能な検査イメージセンサに最適なドーピングに昇華。
〇 検体環境を問わない“その場(オンサイト)”操作可能な高信頼非破壊検査デバイスの創出を示唆。

 中央大学 理工学部 電気電子情報通信工学科の李 恒 助教、河野 行雄 教授、高橋 典華 技術支援員(研究当時)らを中心とする研究チームは、新しいデバイス機能が備わった独自の光イメージセンサを創出し、モノつくりにおける非破壊検査技術としての有用性を強く示唆する実験/理論的実証へと展開していきました(図1)。モノづくりを支える基幹技術としてMMW–IRイメージセンサが注目を集める中で、CNTによる素子設計は優しい操作性・高い検査性から先導的な役割を担います。検査の観点では観察物が存在する“その場”におけるセンサ操作(オンサイト)が求められており、センサ自体が小型・軽量・柔軟である必要性に加えて、読み出し回路注)の小型化も必須となります。言い換えると、空間的な操作範囲において制約のない小型無線回路が必要となり、従来のCNTイメージセンサを操作するうえで、電気信号の取り扱いが高精度な一方、高重量かつ巨躯である有線回路が併用されてきました。小型無線回路では有線回路と比較して読み出し可能な電圧信号レンジが大きいため、CNTセンサにおける微小な電気信号は回路側では検出できません。従来のCNTセンサは、受光感度、すなわち光を照射されることにより発される応答信号が検査信頼性の妨げとなる雑音信号(ノイズ)に対してどのくらい大きいかの値に秀でる一方で、受光応答信号強度自体は数十µV–一桁mV程度と小さく、最低でも約1 mV以上の電気信号が対象となる小型無線回路との併用には不十分な特性となっていました。
 そこで本研究グループは、多様な電子状態を振る舞い得るCNTの中でも、s-CNTに着目しました。s-CNTはMMW–IR照射に対する受光応答信号を高強度に保つ一方で、デバイス信号に含まれるノイズ成分が多く、イメージセンサとしての材料利用においては取得画像の信頼性が低いことが懸念されていました。ノイズ成分とは、例えば、壊れたテレビの画面に本来の投影とは無関係な砂嵐模様が散見するようなものです。そこで本研究では、空気にさらされた状態(大気暴露下)においてピペットで液体を垂らすだけの簡便な方法により完結する、ケミカルキャリアドーピングが有効な打開策であると発想しました。具体的には材料特性を最大限に引き出す最適化条件のドーピングs-CNTにより、受光信号応答強度・受光感度をそれぞれに高い水準で発揮するイメージセンサを開発し、オンサイトだけでなく、小型無線回路によりリモート制御可能な非破壊MMW–IR検査デバイスとしての展開と、その基礎実証に成功しました。
 本研究成果は、2025年7月11日付で国際科学誌『Communications Materials』にオンライン公開されました。

注)読み出し回路:センサの電気信号を制御し、MMW–IR応答を検査画像データへと変換するうえで補助的な役割を担うもの。

 詳細は、大学ホームページの「プレスリリース」をご覧ください。
 また、ご興味をお持ちの方は下記もご覧ください。

写真左:李 恒    中央大学理工学部 助教(電気電子情報通信工学科)
写真右:河野 行雄 中央大学理工学部 教授(電気電子情報通信工学科)