中央大学の白石 広美研究員らは、国内の小売店で流通しているウナギ加工品には、ニホンウナギに次いで、アメリカウナギが多く含まれることを調査研究により明らかにしました。日本国内では東アジアに生息するニホンウナギが主に養殖されていますが、日本のウナギ消費量の3分の2は輸入に依存しており、輸入を通じてさまざまな種のウナギ種を消費しています。ウナギの世界最大の輸入国であり、消費国である日本には、ウナギ属全体の持続的な利用の実現への貢献が期待されます1) 。
*1) なお、この研究内容の一部はWWFジャパンと共同で発表したファクトシート(2025年6月4日公開)で紹介されています(https://www.wwf.or.jp/press/5981.html)。
<本研究のポイント>
・ヨーロッパウナギのワシントン条約掲載や、ニホンウナギの採捕量の低迷により、養殖のための稚魚(シラスウナギ)の需要は、ウナギ属の他の種に移行しつつある。東南アジアが一時的にウナギの供給源として注目されたが、近年はアメリカウナギの需要が大きく増加している。
・2024年に国内7都市(函館、仙台、東京、大阪、岡山、福岡、鹿児島)の小売店で、合計134点のウナギの蒲焼を購入して種の同定を行った。
・種が同定された133点のうち、ニホンウナギが82点(61.7%)と最も多く、次いでアメリカウナギが49点(36.8%)を占めた。また、ヨーロッパウナギも2点確認されたが、その他のウナギ種は検出されなかった。
・国産品と輸入品では種の構成に明確な違いが見られた。国産品はすべてニホンウナギであり、輸入品(今回はすべて中国産)ではアメリカウナギが最も多かった。
・今回の調査ではヨーロッパウナギの検出はわずかであり、この種の違法取引への日本の直接的な関与は限られていることが示唆された。
・この研究成果は、日本国内のウナギ加工品の種同定に関する論文として、査読を経て、2025年6月13日に国際学術誌「Fisheries Science」に掲載された。
1. 研究の背景
世界にはニホンウナギを含む19種・亜種のウナギ属魚類が存在します。ウナギ属は海流の変化、気候変動、回遊ルート上の障害、生息地の減少や劣化、病気、過剰な利用や取引などのさまざまな脅威にさらされています。北半球に生息する温帯種の資源状態は特に悪化しており、ヨーロッパウナギはIUCNレッドリストで「深刻な危機(CR)」、ニホンウナギとアメリカウナギは「危機(EN)」に分類されています。
ウナギの完全養殖はまだ商業化されておらず、市場で流通しているウナギはすべて天然由来の稚魚(シラスウナギ)を採捕し、養殖(蓄養)によって育てられたものです。ウナギの養殖に欠かせないシラスウナギは、多くの国で採捕されています。養殖は主に東アジアで盛んに行われており、香港はシラスウナギ取引の中継地となっています。
2007年にはヨーロッパウナギがワシントン条約附属書IIに掲載され(2009年施行)、さらに2010年代前半にはニホンウナギの不漁が続いたことで、これら2種以外のウナギ種の稚魚の採捕や取引が増加しました。一時は東南アジアがウナギの供給源として注目されましたが、近年はアメリカウナギの需要が急増しています。一方で、ヨーロッパウナギ、特にシラスウナギの違法取引は依然として続いています。これらのシラスウナギはヨーロッパ域外への密輸後、養殖に利用され、種を偽って再度、国際取引の対象になっている可能性があります。
ウナギは加工されると外見から種の判別ができません。また、日本で消費されているウナギの約3分の2は輸入品ですが、輸入統計では種別の分類はされていません。そのため、国内で実際にどの種がどの程度消費されているのかはこれまで明確には分かっていませんでした。
2. 研究の内容
本研究では、2024年1月〜2月および7月に、国内7都市(函館、仙台、東京、大阪、岡山、福岡、鹿児島)の小売店で、合計134点のウナギの蒲焼を購入し、種の同定を行いました。対象店舗には、大手・中小を問わず、スーパー、コンビニ、百貨店などを含めました。水産庁委託業務の報告書によると、日本で消費されるウナギの約88%は、小売業者を通じて販売されていると推定されています(販売額ベース)。入手した蒲焼サンプルから抽出したDNAをPCRにより増幅し、シトクロムb遺伝子の塩基配列から種を同定しました。
さらに、種同定の結果と比較するために、日本と中国のシラスウナギの池入れ量、養殖生産データ、ウナギ(活鰻、加工品)の輸入統計、ヨーロッパウナギの輸入データを分析しました。

図1 ウナギ加工品の例(上)と採取した肉片サンプルの保存容器(右)

種が同定された133点のうち、ニホンウナギが82点(61.7%)と最も多く、次いでアメリカウナギが49点(36.8%)でした。ヨーロッパウナギも2点確認されましたが、東南アジアに生息する熱帯種を含め、その他のウナギ種は検出されませんでした。なお、国産品と輸入品では種構成に大きな違いが見られました。国産品はすべてニホンウナギだったのに対し、輸入品(今回の調査ではすべて中国産)ではアメリカウナギが最も多く確認されました(49点、59.8%)。
「ウナギの国際的資源保護・管理に係る第16回非公式協議」に関する共同プレスリリースのデータ等によると、日本では、近年のシラスウナギの池入れ量のほぼ100%近くがニホンウナギとなっており、日本で養殖ウナギのほとんどはニホンウナギです。一方、中国では、2021年までの池入れ量のデータでは、アメリカウナギが6割以上を占めています。今回の調査結果は、こうした池入れの傾向と一致するものでした。

図2 日本国内で入手したウナギ製品の種構成:濃い灰色の円は国内産、薄い灰色の円は海外産のウナギ製品
日本はヨーロッパウナギの最終消費国の一つであったと考えられていますが、現在の消費量はごくわずかであることが示唆されました。本調査ではヨーロッパウナギは2点のみが確認され、消費がアメリカウナギへと移行していることが明らかになりました。近年、欧米やシンガポールで実施されたウナギの種同定でもアメリカウナギが中心になっており、日本でも同様の傾向が示されました。ただし、アメリカウナギの稚魚の需要は、生息国でIUU(違法・無報告・無規制)漁業や違法取引、社会的混乱・紛争を引き起こしています2) 。
今回の調査結果から、密輸の摘発が続くヨーロッパウナギについては、日本が主要な最終消費地となっている可能性は低いということも示されました。税関統計とワシントン条約のデータをもとにした分析では、日本に輸入されるウナギ加工品のうち、ヨーロッパウナギの推定割合は2014年の72%から、2022年には3.9%まで低下しています。今回の調査でも、ヨーロッパウナギの割合は1.5%にとどまり、統計データと有意な差は見られませんでした。
*2) カナダでは違法行為が多発したことを受け、2024年にはシラスウナギ漁が許可されなかった(https://gazette.gc.ca/rp-pr/p1/2024/2024-06-29/html/reg6-eng.html)。また、2025年1月の国連安全保障理事会では、ハイチにおけるウナギの密売と麻薬・マネーロンダリングとの関連が指摘された(https://www.unodc.org/unodc/en/speeches/2025/220125-un-security-council-briefing-haiti.html)。

図3 日本へのウナギの加工品の輸入量推移:紫色は、ワシントン条約事務局に報告されている、日本のヨーロッパウナギ推定輸入量。灰色はその他のウナギ属魚類の輸入量を示している
一方で、ヨーロッパウナギの稚魚に関わる違法行為の摘発は続いており、密漁と密輸は依然として深刻な問題です。その需要の背景には東アジアでの養殖や需要の存在があり、現在も密輸された稚魚が養殖されていると考えられます。ただし、密輸の規模や養殖後のヨーロッパウナギがどこで消費されているのかは明らかになっていません。日本だけでなく、中国、韓国などウナギの消費が多い国々でも、実際に流通している種やその消費実態について、さらなる調査が必要です。
3. 研究の成果、今後の展開
今回の研究から、日本の小売市場で販売されているウナギ製品には、ニホンウナギだけでなくアメリカウナギも多く含まれていることが明らかになりました。種構成は養殖に使われる稚魚の好・不漁、規制の導入等によって今後も変化すると考えられ、継続的な調査が必要です。さらに、ウナギの世界最大の輸入国であり、消費国である日本には、ウナギ属全体の持続的な利用の実現への貢献が期待されます。
4. 謝辞
これらの研究は、中央大学共同研究費、科学研究費補助金 基盤研究(A)(研究代表者:海部 健三、JP22H00371)、台湾国家科学及技術委員会NSTC 111-2313-B-002-016-MY3によって進められました。
5. 論文情報
・タイトル: Eel consumption in Japan: insights from genetic species identification and trade data.(和訳:日本におけるウナギの消費:遺伝的種同定と取引データからの知見)
・著者:白石 広美(中央大学 研究員)・韓玉山(国立台湾大学 教授)・海部 健三 (中央大学 法学部 教授)
・掲載誌:Fisheries Science(フィッシャリーズ・サイエンス)
・掲載日: 2025年6月13日
・リンク: https://link.springer.com/article/10.1007/s12562-025-01894-2
6. 問い合わせ先 ※「★」を「@」に置き換えて送信してください。
<研究内容に関するお問い合わせ>
■中央大学 研究員 白石 広美(しらいし ひろみ)
TEL: 042-674-3243 E-mail: hshiraishi734★g.chuo-u.ac.jp
<取材に関するお問い合わせ>
■中央大学研究支援室
TEL: 03-3817-7423または1675 FAX: 03-3817-1677
E-mail: kkouhou-grp★g.chuo-u.ac.jp
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