研究

文学部教授 髙瀨 堅吉:大阪大学准教授 野尻 英一との共同研究で、自閉スペクトラム症における多様な症状に関与する中間表現型を理論研究から予測

写真左:髙瀨 堅吉 中央大学文学部 教授(人文社会学科心理学専攻)
写真右:野尻 英一 大阪大学大学院人間科学研究科 准教授(基礎人間科学講座)

 中央大学文学部心理学専攻の髙瀨堅吉教授は、大阪大学大学院人間科学研究科の野尻英一准教授との共同研究により、自閉スペクトラム症の多岐にわたる症状を包括的に説明しうる中間表現型注1)として「硬直性自律位相連鎖(Rigid-Autonomous Phase Sequence, RAPS)」の存在を理論的に予測しました。「中間表現型」とは、遺伝子と遺伝子が関与して起こる症状とのあいだに現れる状態などのことで、遺伝性がある、量的に測定可能である、精神障がいの弧発例において精神障がいや症状と関連する、などの条件を満たすものです。
 現在、自閉スペクトラム症の病因として、遺伝子、神経系、内分泌系のさまざまな異常が報告されていますが、発症に至る明確な要因は特定されていません。
 本研究グループは今回、神経可塑性注2)の基礎理論とされる「ヘッブの理論」を拡張し、単一の知覚・記憶対象の表現に関わる神経細胞の集団(細胞集成体)同士の連絡(位相連鎖)に注目しました。その結果、精神疾患研究における中間表現型であるRAPSを自閉スペクトラム症の中間表現型として新たに提唱し、同疾患において起こる多様な症状はRAPSの存在を仮定すると包括的に説明することが可能であることを示しました。具体的な理論検証のひとつとして、同疾患の患者では、一度知覚された対象と類似の対象を知覚する際に、位相連鎖ではなくRAPSが生じて同じ細胞集成体が活動しなくなるために、本来ならば類似の対象として認識されるものが「異なる対象」として認識されることを例証しました。
 理論的な検証をさらに進め、RAPSが自閉スペクトラム症における記憶、注意、認知、運動の異常に関与しうることを論証しました。本研究成果を元に、今後、RAPSの存在と発症のメカニズムが証明されることによって、自閉スペクトラム症の新たな治療法の開発につながることが期待されます。
 

注1)中間表現型: ①遺伝性がある、②量的に測定可能である、③精神障がいの弧発例において精神障がいや症状と関連する、④長期にわたり安定である、⑤精神障がいの家系内で精神障がいを持たないものにおいても発現が認められる、⑥精神障がいの家系内では精神障がいを持つものでは持たないものより関連が強い、といった条件を満たすもの。

注2)神経可塑性: 外界から入ってきた刺激に対して、神経系が構造的あるいは機能的に変化する性質のこと。

 本研究成果は、2023年11月1日(米国東部時間)付で米国科学的心理学会(Association for Psychological Science)の機関誌『Perspectives on Psychological Science』のオンライン版で公開されました。

 詳細は、大学ホームページの「プレスリリース」をご覧ください。

 また、ご興味をお持ちの方は下記もご覧ください。

  中央大学 髙瀨研究室のホームページ
  大阪大学 野尻研究室のホームページ