日本比較法研究所

2012年度 講演会・スタッフセミナー 概要

テーマ:オーストリア民法典200年―古い立法との共生

オーストリア民法(ABGB)は、1811年6月1日に公布され、1812年1月1日に施行されたので、200周年を迎えたことになる。本講演は、その記念すべき年に我が国において開催されたものであり、極めて重要である。講演は、まず同民法の歴史を振り返り、ローマ法やカントの自然法理論の影響、全体の構成や法形式などの特徴を分析し、現代に至るまでの発展を概観する。そのうえで、今日の法適用における長所として、その柔軟性を指摘しつつ、その短所として、とりわけ現代的な問題への対応が不十分であり、そのため裁判所が条文に規定のない問題について、独自に判例法を発展させている現状を分析する。最後に、まとめとして、現在進行中の改正計画が同民法を根本的に作り直すのではなく、漸進的に改訂するものであり、それによって、同民法を今後も使い続けることの意義を強調する。
講演終了後、法科大学院学生から多数の質問があり、活発な議論がなされた。講演および質疑の通訳は、奥田が務めた。


テーマ:フランスにおける刑事裁判への市民参加

2011年8月10日付で(loi no2011-939 du 10 aout 2011)は、参審制の拡大と、重罪判決への理由付記の義務づけを定める法律(以下単に法という)が制定された。 
このうち、参審制の拡大は、①裁判と国民の距離を縮めること、②犯罪は厳しく処罰されるべきであるとの国民感情を裁判に反映させることを求めたことを受けたものであり、法の立法趣旨は、「もって、国民の名のもとに行われる裁判を実現すること」にあるとされ、現在試行されているところである。参審員制度を通じて国民の司法への信頼を確保するとするこの法律の立法趣旨は、日本の裁判員法の第1条に定められた目的ときわめて近いように思われるが、フランスの制度改革の具体的な内容は、民主的な裁判の実現という趣旨を実現する手段として適切なものかどうか疑問があるうえ、膨大な予算や訴訟の遅延といった理由から、本格施行に至るかは予断を許さない。 
これに対して、同時に定められた、重罪裁判所の判決に理由を付すことを義務付ける改正は、おそらく順調に推移するものと思われる。


テーマ:フランスにおける刑事共助

フランスは一つの主権国家として、刑事法の国際化に参画している。2000年には、日本が2007年にしたように、国際刑事裁判所の設立に関するローマ条約を批准し、刑訴法が改正された。一方で、フランスはヨーロッパ人権条約をはじめとした人権規定を遵守する義務を負う欧州評議会47カ国の一員であり、さらに、域内の経済協力を目的としたEUの一員でもある。ヨーロッパのこの二重制は、刑事司法共助の分野で、域外との協力、域内での協力という2面性をもたらす。域内では、逃亡犯罪人引き渡し条約に代わるヨーロッパ逮捕状という制度が用いられており、迅速・効率的な引き渡しが実現されている。また、域外との関係では、特にテロ対策の分野で、航空機の搭乗者情報の共有や金融取引情報の共有がすすめられている。
しかし、こうした効果的で効率的な共助は、一方で、個人の基本権を犠牲にする虞もあり、フランスであれヨーロッパであれ、あるいは世界のどの国であれ、効果的な犯罪対策のための協力と個人の権利保障の間に適切なバランスと調整を図ることは、刑事共助にかかわる分野の核となる問いである。


テーマ:中国法治国家建設の実績と今後の課題

  1. 中国法治建設の実績
  2. .現段階における中国法治建設の問題点
  3. 中国法治建設に向けた今後の改革

*詳細は、中央ロー・ジャーナル9(2)pp.75-79に掲載


テーマ:保険会社役員に対する保険監督法上の規制

保険会社の経営に従事する者(取締役他)に対してどのような法規制が行われているか。この主題に関するドイツ国内法の歴史的展開と、ヨーロッパ統一法の歴史的展開、これらについての概観を提示するとともに、現在はまだ施行されていない2009年の第二次財務健全性指令とこれを国内法化したドイツ保険事業者監督法(未施行)の概要と問題点を紹介する。 
検討に際しては、「経営に従事する者」という主体の確定に関する解釈論がまず展開され、次に「経営に従事する者」に求められる「専門的適性及び信頼性」という資格要件をめぐる解釈論が示された。 
参加者5名はいずれもドイツ語能力を有するものであり、冒頭の講師紹介から講演、質疑等、すべてドイツ語で行われた。多くの質問が寄せられ、また丁寧な解答が行われたところから、有意義な機会であった。


テーマ:民事訴訟における法律要件事実の経済学的解釈

経済学の知識を法律学でどのように活用することができるか。国際経済の実情把握を前提に、グローバルな法律問題を取り扱う「国際企業関係法学科」の基幹科目「国際取引法」のために選ばれた上記の主題は、20分間の問題提起、それに続く正味2時間の討論すべてが英語で行われた。なお、講義に先立ち、ドイツ語原稿の全訳が法学部事務室窓口を通じて履修者全員に配布されていた。 
冒頭に垂直的統合、すなわち、原稿料市場と完成品市場の双方に関与する事業者が、両市場の価格差を任意に操作することによって、完成品市場における競争事業者を排除できることが示され、そこでの価格差というカルテル法上の概念を、経済学分野での成果を考慮して、民事訴訟上、いかに解釈すべきかという事例が紹介された。 
次に、経済学分野における動向として、「狭義の経済学」「法の経済的分析」「法廷経済学」これら三者の概要が紹介された。 
さらに、ヨーロッパ裁判所のテリア・ソネラ社事件に関する判決(2011年2月)を含むヨーロッパ法の動向が紹介された。 
最後に、実定法解釈に際して、経済の実情を正確に反映させる必要があるところから、法律要件事実の解釈上、どのように経済学分野の成果を取り入れることができるかという点に関する種々の可能性が提案された。 
出席した学生からは、多数の質問が出され、適切な解答と相俟って、充実した時間を過ごすことができた。


テーマ:中国会社法の現状

  1. I.中国会社法の発展
  2. II.立法の動向
    • 一 会社法の改正の必法性
    • 二 ①「効率、公平、公益」 
           ②組織形態の多様化 
           ③会社法の統一性の問題 
           ④会社法の国際化と中国会社法の特殊性問題 
           ⑤株主権の設計 
           ⑥会社の内部関係 
           ⑦会社法16条の問題 
           ⑧コーポレート・ガバナンスの問題 
           ⑨企業の社会的責任の問題 
           ⑩企業買収の問題 
           ⑪疵庇の救済

ヘンスラーフォーラム


テーマ:労働法の今日的課題


ヘンスラーセミナー


テーマ:中国不法行為法における環境損害の問題と課題

昨今の環境問題を背景とし、人民の権利を適正に救済するためには、環境破壊行為を人民の環境権の侵害として構成し、この行為を不法行為と認定することが必要であるとの公園署の見解が示された。当日は本学の民法、行政法、ローマ法などの各領域の教員が参加し、各分野の視点から講演者の見解を批判・検討することができた。


テーマ:中国土地制度が移設

中国の土地制度を日本との比較を意識しつつ、中華人民共和国の成立期より説き起こした。周知の通り、中国は土地に対する私的所有権を認めていない。なぜこうした制度がとられているか、また現状はどのように状況にあるか、さらに今後の課題はなんであるかにつき、講演者は本学の学生に理解可能な形で平易にかつ詳細に説明した。


テーマ:アクィリア法の伝統と現行ドイツ不法行為法;とくに、「その他の権利」

はじめに、不法行為法について、一般不法行為規定を持つ法制(一般規定主義)と、それを持たない法制とがあり、ドイツ法は、後者に属することが指摘され、かつ、ドイツ法は、統一的構造に従った三つの基本規範を有することが確認された。そしてこの体系は、ローマ法の影響を受けたパンデクテン法学に由来することが述べられ、講演は、ローマ法のアクィリア法の紹介に及ぶ。 
当初アクィリア法は、狭隘な要件主義に従っていたが、時代が下るにつれ、類推適用や個別要件類型への依拠により補完を受け、19世紀パンデクテン法学では、アクィリア法への逆戻りは主張されておらず、むしろ、問題は、違法法と因果関係を決めることであり、その問題における基本課題は、違法性の判断を裁判官に委ねるか、法律自身がその判断のためのより正確な手掛かりを与えるべきかのどちらの方針を採用するべきかにあった。立法者は、当初、一般規定主義を採用して他人の権利の侵害を要件に挙げたが、その後この方針は変更され、最終的には、違法性を示すために害される利益を列挙し、最後に「その権利」を規定するという形式が採用された。 
この「その他の権利」について補充を行ったことの意義を、講演者は、企業に対する権利に即して論じることを試みる。講演者によれば、ドイツ法で一般規定主義が採用されなかった理由は、それが採用されると市民の自由が害されかねないということと、裁判所に過大な自由が与えられてしまうことにある。この目的にてらせば、単なる利益だ、不法行為による保護を与えるためだけに権利と称されている利益なのではないか、という疑念が生じる。しかし、このような捉え方をしただけでは問題は解決しないということを、偕称知的財産権者が他人に権利主張をする例は示している。この例では、被害を受けた法益は、競争自由の享受ではなく、特別に認められた利益であって、例外的に「その他の権利」と同視する必要がある利益である。ここで、知的財産法の目的を考えなければならない。知的財産法の目的は、発明等知的財産に独占権を与えることで、技術的・経済的発展に対する動機付けを与えることにある。そうであれば、すでに物が生産されてしまったときに、この目的は満たされてしまっている。 
この考察を基礎にして、講演者は、偕称知的財産権者が他人に権利を主張するケースでは、その他人(被害者)は、一般的な自由競争の侵害を理由に保護を受けるのではなくて、すでに自由な生産を実行したことを理由に保護を受けるのである、とする。仮に知的財産権が有効に成立している場合であれば、この保護は、強制ライセンス・法定ライセンスによって行われるが、偕称知的財産者による主張のときには、この仕組みは機能しない。そこで、この被害者が受けた被害が、類推の手法によって権利と同様に保護されうる経済的利益であることが明らかにされなければならない、とする。講演者は、ここで、比例性としての正義に由来する武器平等を主張し、っこの理論により、被害者は、例外的に権利と同様に保護される利益を侵害されたことを根拠づける。すなわち、実際は存しない権利を相手方に主張した者は、その相手方に、その相手方が存すると主張する権利が存することを受け入れなければならない、とする理論である。 
講演者は、つぎのように考察を総括する。立法者が意図したのは、アクィリア法の狭隘さへの回帰ではなく、裁判官に権利のカタログの拡張の余地を与えることである。すなわち、拡張的解釈や類推による法形成は排除されないのである。しかし、不法行為要件類型の拡張は、今日では、裁判官の権威による判断だけでは不十分であり、議論による正当化がこれにとってかわらなければならない。ただ、この議論において出発点とされなければならないのは、立法者は、財産の一般的保護・経済的活動自由の一般的保護は否定した、ということである。この出発点に立ったうえで、正義がなぜ拡張を要求するのか、が詰められなければならないのである。


テーマ:1801年以前のグルジア私法の歴史

  1. グルジアの地理的位置と歴史的概観
  2. グルジアの法源一般
  3. 欧州におけるグルジア旧法の研究
  4. 立法権
  5. 行政権
  6. 司法権
  7. 物権法
  8. 債権法
  9. 団体法
  10. 家族法・相続法

テーマ:中日憲政の道程と困難の比較

中国の憲法学の現状と課題が主たる話題であった。中国は、現在、各種の法規の憲法適合性を判断する枠組みが存在しない。しかし、そうした中にあっても、法規や行政の憲法適合性を問題にすることは可能であり、現実に憲法学はこの課題に取り組んでいる。従来、憲法学はこうした課題を担えていなかったが、ここ10数年の間、著しい発展がある。また、中国憲法学においては、外国の制度の紹介などを行うことはタブー視されていたが、近年は建設的な議論にむけ、比較法的研究が受け入れられるようになっている現状についても詳しい説明があった。


テーマ:ドイツ連邦憲法擁護庁の現状と課題

  • Anschlagsversuche islamistischer Terroristen
  • Offene und geheime Beschaffung
  • Kontrolle des Nachrichtendienstes
  • Aufbau des Bundesamtes fur Verfassungsschutz
  • Entwicklung des Rechtsextremismuspotenzials
  • Entwicklung des Linksextremismuspotenzials
  • Entwicklung des islamistrischen Personenpotenzials
  • Entwicklung des Mitgliederpotenzials extremistischer Auslanderorganisationen (Ohne Islamismun)
  • Hauptakteure und Aufklarungsziele
  • Rechtsextremismuspotenzial im Vergleich 1991 und 2011
  • Rechtsextremistische Gewalttaten
  • Linksextremistische Gewalttaten
  • Gewalttaten im Bereich des Auslanderextremismus
  • Agitation im russischen sozialen Netzwerk,,vk.com"
  • Nasheed eines Abu Azzam Al-Almani
  • Elektronische Angriffe
  • Nachrichtendienstliche Methoden

テーマ:労働契約における期間設定の許容性

日本の労働契約法改正における有期契約規制との対比での今後の法的規制の在り方をめぐる意見交換を行った。


テーマ:労働法における約款規制

ドイツ債権法改正により約款に関する法的規整がドイツ民法典に整備される(BGB303条乃至310条)とともに労働契約にも約款規整法理が適用されることが明記され(310条4項2文)、労働法上の問題にとって重要な役割を果たしている状況が紹介された。講演では、約款を用いて契約を締結した場合、契約化体審査、内容審査、透明性審査によって不適正な契約条項が排除されることが説明された後、給付の任意性留保や撤回留保、医薬罰、除斥期間、教育訓練費用の返還条項、時間外労働手当の定額制、特別給付の支給日条項等合理的解釈に関して有意義な役割を果たしているドイツ法理の現状が詳細に報告された。また、質疑応答では労働者と消費者概念、約款審査の内容審査と透明性審査の相違点、就業規則法理の支配する日本法理との相違点、民法と労働契約法との関係など活発な意見交換と議論があった。


テーマ:ドイツからみた日本法

講演では、ドイツと日本の法文化の違いについて、多角的視点から論じられた。総論的にはドイツと日本の法曹人口や訴訟件数の違いなどに端を発し、我が国の市民が有する、法に対する特有の意識などについての分析がなされた。また、各論的には、たとえば、不法行為訴訟において、ドイツでは精神的損害(例えば、ペットを殺傷された場合における悲しみ)を損害賠償の中に計上しない傾向にあることなどが挙げられ、損害賠償に対する我が国との認識の違いを浮き彫りにされた。講演後の質疑応答では、ドイツの政策、行政法、労働法、民法など、さまざまな観点からの話題に及んだ。


テーマ:マスメディアにおける一般的人格権

この講演は総論と各論とから成る。総論においては、人格権のドイツ法の位置づけが述べられた。そこでは、民法というよりも、基本法(憲法)について深く検討された。 
各論においては、人格権侵害に対する救済としての損害賠償法理が詳細に検討された。そこでは多数の判例が引用され、ドイツ民法の精緻な解釈論が展開された。 
総論、各論に続いて比較法上の検討がなされた。とりわけアメリカ法上のpublic figureの考え方がドイツではそのまま受容されていない背景などに関するハーガー教授の見解が開陳され、日本法への応用の妥当性について参加者が議論した。


テーマ:アメリカにおける家族信託の活用について


テーマ:アメリカにおける後見人の医療決定権


テーマ:近時のオーストラリアにおける刑法上の諸問題

近時のオーストラリアにおける刑法上の諸問題、とりわけ1995年の連邦刑法典制定の背景、その後の運用上の問題等について講演が行われた。刑法典制定の必要性はあったものの、コモンロー的な思考方法をとる法曹たちにとって、大陸法的な刑法典は必ずしもその狙い通りの運用がなされているわけではないなど、オーストラリアでの刑法典運用の実情、課題が理論的な説明を踏まえたうえで紹介・・検討され、きわめて興味深い内容であった。