日本比較法研究所

2011年度 講演会・スタッフセミナー 概要

テーマ:合衆国統一信託法典について

English教授により「統一信託法典」についてと題する学部学生向けの講演がおこなわれた。この講演は、もともと合衆国の各州の間で違いがみられる法分野について制定法のレベルで統一を図ろうとする「統一州法」の試みの中で、大筋は合意しながらも、若干の点で各州間で違いが出てくる理由について解説を行おうとするものであった。そのための題材として、講演者が起草の任に当たった「統一信託法典」が例として取り上げられたが、内側からみる統一法典作りの困難さがわかり、たいへん貴重な講演であった。また解説自体がわかりやすくおこなわれたので、学部学生にも信託法を理解し、学ぶ契機になったと考えている。受講生は、60名であった。この講演の後、English教授は、杉浦教授のゼミとヘッセ教授のFLPのゼミの合同ゼミに出席し、アメリカ合衆国のLaw Schoolでの学生の勉強の仕方について話をされた。その後質疑応答の時間となり、学生達は活発な発言をおこなった。この時間は、可能な限り英語で議論をすることになっていたので、学生にとっては、native speakerと話す貴重な機会ともなり、有意義な時間であった。参加者は、30名であった。


テーマ:日独の学術交流の今後とフンボルト財団の役割について

フンボルト財団の関係者が日本の個別大学を訪問するのはきわめて稀であり、財団側も大変好意的であったので、今後の財団との交流が期待される。フンボルト財団の活動の概要が説明された。中央大学の実績は12位であり、今後フンボルト財団の奨学生が増加することが重要である旨、財団からも指摘があった。他大学からの参加者もあった。


テーマ:Academic exchange program of the DAAD


テーマ:リスボン条約後の欧州連合―より効率的でより民主的な連合

リスボン条約後のEUの実態を提示するのが本報告の目的。リスボン条約は、EU憲法条約の延長である。ただ、体裁のみが異なっている。実質は憲法条約と変わらない。このリスボン条約の下で、EUはより効率的、より民主的なものとなっている。


テーマ:欧州連合の民主主義的諸原則―新たな議会間システムの出現

EUは、しばしば地域的経済統合の性質をもった国際組織として説明される。それはそのとおりであるが、実は、EUはそれだけにとどまるものではない。EUはまた政治プロジェクトでもある。リスボン条約によって、EUは、民主的諸原則に依拠するだけでなく、欧州における新しいタイプの議会政治システムにも依拠することになった。


テーマ:欧州連合における基本権保護システム―独自の欧州基本権法秩序の漸進的実現

基本権の分野でEUは大きな進歩を遂げた。基本権は、EUの初期(1951~1957)には存在しなかったが、その後EU裁判所は基本権保護の判例を形成していった。さらにEUは基本権憲を制定した。その影響力は大きい。EUがヨーロッパ人権条約に加入することにより、独自の基本権秩序が作りだされることになろう。


テーマ:「大規模災害」訴訟と手続きの併合による処理

学内外の民事訴訟法の研究者および裁判官が参加してなされた講演会である。現代のアメリカに特徴的なこととして、大規模な災害がおこると、すぐに膨大な数の訴訟が裁判所に提起されるという現象があげられる。これには、日本と違って行政に頼らず、何事も訴訟で自力解決しようとするアメリカ社会の風土や、保険の発達による加害企業の賠償能力の高さ、片や被害者(個人個人や企業)はすぐに生活や経営が立ちゆかなくなるという切実な事情が背景にある。このような大規模災害訴訟のうち、シャーマン教授は、ルイジアナ州との関連という観点から、ハリケーン・カトリーナの被害から生じた多数の訴訟およびメキシコ湾で発生した海底原油漏出事故に関連して提起された膨大な訴訟を取り上げ、それらの責任原因や被害額の審理において、裁判所がいかにして効率性を追求するか、という問題を取り上げた。カトリーナ訴訟では、主な原因は自然災害であるけれども、洪水・浸水の対策の遅れは公共事業の失敗として自治体や政府の責任が問われ、また多数の保険会社の賠償責任も問題となった。原油流出事故では、ブリティッシュ・ペトロリアム社や保険会社がやはり被告となり、湾岸周辺の居住者、漁民、企業が原告となった。これらの関連事件は別々に審理すると、訴訟制度としては無駄が多いため、併合審理が試みられた。しかし、大元の原因は共通でも、被害の具体的な状況や因果関係、被害額などは、各原告によってかなり異なる。それらの事件の移送を受けて担当したルイジアナ州の裁判官が実際にどのように審理したかという紹介がなされ、これに対して、わが国でも類似のやり方で訴訟を併合して審理したケースがあることが紹介され、日米の類似点について興味深い討議がなされた。また、東日本大震災の被害、とりわけ、東京電力に対する損害賠償請求の今後についても、若干の展望が議論され、参加者に有益な示唆が互いになされた。


テーマ:アメリカのクラスアクションについて

院生を対象とするセミナーである。アメリカのクラスアクションは、多数の被害者がいる紛争において、一定の要件を満たした被害者が代表原告となり、企業等を被告として訴訟を行うことを可能にする制度である。これには、理論的・実際的観点から賛否両論あり、特に企業側からは批判(非難)が多い。この制度の持つ問題点を回避しつつ、日本でも我が国に適合的な消費者集合訴訟制度を導入しようとする立法が消費者庁を中心に進行中である。このような立法動向を踏まえ、主として法科大学院生を対象として、アメリカのクラスアクション制度の概要や実際の運用について講演をしてもらった。院生たちからは、そのような多数の被害者を代表する者や代理人弁護士が被害者クラスとの間で利益相反を生じないか、生じた場合にどのように対処するのか、また、勝訴した時に、実際にどのように賠償額を分配するのか、など、重要ポイントを突いた質問が多数出された。今後、わが国の立法が実現した場合に、その運用面、あるいは将来のさらなる法改革に向けて、有益な視点が提供された。


テーマ:アメリカの法科大学院教育と学生生活

法学部生を対象とするセミナーである。アメリカのロースクールにおいては、どのような教育がなされるか、具体的な例を挙げつつ、解説がなされた。比較法的な観点から、世界におけるアメリカ法の体系的位置づけ、アメリカ国内でもルイジアナ州ではフランス法を通じて大陸法の伝統が生きていることの説明から始まり、大学を出でいったん就職した人々が法曹を目指してロースクールを受験し、ロースクールの2~3年生のリーガルクリニック、エクスターンシップ、そして、3年生では法律事務所や公的機関、企業などの面接を受け、卒業後、バー・イグザミネーションを受けて直ちに弁護士となるまでの過程について、説明がなされた。説明のあと、学部生からは、日米の司法試験の違い、新人弁護士の境遇などについて活発に質問がなされた。参加した学部生からは、日ごろの学習とは異なる観点から、視野を広げるよいきっかけになったとの感想が聞かれた。近年、わが国の学生が留学をしなくなる傾向が顕著であるが、目を外国に向けて謙虚に学ぶ姿勢をもたせる意味でも、有益な効果があったと思われる。


テーマ:中国の政治と学術―辛亥革命を中心に


テーマ:中国憲法における「一国二制度」およびその発展

法科大学院の「アジア・ビジネス法」の時間を用い、標記タイトルで講演が行われた。 その中で、香港の中国への返還にあたって実施された一国二制度について解説した上で、現状の問題点が説明された。また、これとあわせて、香港のビジネスを支える国家制度についての概観もおこなわれた。


テーマ:中国における社会管理モデルの転換―「暴力団取り締まり型」から「法治型」

法学部の畑尻教授担当「憲法」の授業時間を用いて、標記タイトルの下で講演を実施した。 この中で、重慶における暴力団取り締まりを例にとり、中国地方政府の社会管理方式としては一罰百戒式・重罰方式(講演者の用語では「暴力団取り締まり型」)よりも、司法制度の適正運用による「法治型が適切であるとの主張が行われた。その中で、司法権の独立の実現性も強調された。全体として、学部学生にもわかりやすい内容となっており、受講した学生たちの反応も大変よかった。


テーマ:中国憲法制度の現状と展開

21日には、比較法研究所ミニ・シンポの第1報告という形で上記の講演を実施した。 このミニ・シンポでは、童先生の他、郭延軍(上海交通大学)、通山昭治(九州国際大学)、江利紅(中央大学)の報告も行われた。このミニ・シンポは、「中国現行憲法の30年」を共通タイトルとし、この憲法の原点から将来の展望について検討する内容であった。童先生の講演は、中国の憲法学が今後取り組まねばならない課題について詳細な紹介が行われた。


テーマ:韓国のGPSによる監視制度

以下について報告された。

『特定犯罪者電子足輸法』の制定と改正
電子足輸の装着者の監視システム
装着対象犯罪(特定犯罪)
装着対象者(特定犯罪者)
電子足輸の装着命令の手続き
電子足輸の被装着者の義務
仮釈放・仮終了、執行猶予野場合
罰則規定
遡及適用野問題
施行3年の成果


テーマ:国民参与裁判及び被告人の手続き保障

以下について報告された。

1.はじめに
2.参与法の規定
3.国民参与裁判の運用の現況
4.大法院の判例
5.おわりに


テーマ:事業所レベルの共同決定の費用と便益~従業員代表制度は危機の時代のモデルたりうるか?

講演のテーマは、「事業所レベルの共同決定の費用と便益―経営協議会(BR)は危機の時代のモデルでもありうるか?」である。まず、ドイツの経営協議会の「情報提供権」「協議権」「異議申立権」などについて基本的な説明を行い、次に、経営協議会による共同決定の経済的効果を生産性・賃金及び収入・収益性・雇用・労働時間・等の観点から分析した調査結果を紹介した。 ここでは、経営協議会の情報提供、協議、共同決定はポジティブに事業所の生産性に影響を及ぼし、生産イノベーションや労働時間貯蓄口座制の利用にも影響していること、また、経営協議会は、人事変動の減少にも関係があること、さらに、(これまで研究であまり明確ではないが)、賃金や収入額の領域や、事業所の収益の領域でも経営協議会の影響が実証されているとした。さらに、経済危機の下では、経営協議会と経営者が雇用保障というテーマで運命を共にしており(例えば、労働時間貯蓄口座に預けた労働時間を切り下げることによって、ポストの喪失を妨げようとしていることなど、)事業所内のパートナーの協力が強化されていると報告された。この点は、日本にとって非常に興味深いものであった。 同氏の講演記録については、中央大学大学院法学研究科博士後期課程3年松井良和氏が翻訳をし、比較法研究雑誌第46巻2号(通号162号)に掲載予定である。


テーマ:1.台湾刑法における立法・解釈の新しい動向

    2.台湾刑法における犯罪論の修正および解釈

中国刑法を母法とし、ドイツ法によって立つわが国の刑法とは成立の過程を異にする台湾刑法においては、近代、社会情勢の変化に伴い、ドイツ法の影響のもと新たな動向が認められるところである。本講演では、このような状況を受けた立法・解釈における新しい流れ、また犯罪論における修正の動きについて紹介し考察しつつ、講演者である余教授の見解が提示された。 これについて参加者からも多く発言が得られ、活発な議論が展開された。台湾改正刑法についてはわが国では未だ紹介が少なく、その意味においても、講演は興味深いものであった。