研究

令和5年度 中央大学学術研究奨励賞受賞者一覧

(順不同・敬称略)

氏名
(ふりがな)
所属身分
研究業績等の内容(要旨) 他機関からの受賞
○受賞名
○授賞機関
○受賞日
奨励賞推薦理由(要旨)
阿部 雪子
(あべ ゆきこ)
商学部 教授
「日米の空中権(開発権・敷地併合)取引と租税法₋ 東京地判平成29年9月14日を検討して‐」中央大学経理研究62号113-128(中央大学経理研究所、2022年12月)
本論文は、今後、わが国において直面することが予想される空中権取引に係る課税上の問題を想定し、空中権取引に係る租税法上の解釈のあり方を解明したものである。特に、都市計画を遂行する上で重要な機能を有する空中権取引について、その先導的な役割を果たしているアメリカの譲渡可能な開発権(Transfer Development Rights:TDR)の法的性質の研究を通じて、わが国の余剰容積利用権の設定時、保有時及び移転時の課税関係を明らかにした。

〇2023年度資産評価政策学会論説賞
〇資産評価政策学会
〇2023年7月15日

本論文は、わが国の租税法において、これまで明確にされてこなかった空中権の法的性質に着目し、空中権取引をめぐる課税理論の基礎的枠組みを示すことを目的として考察を行ったものである。もともと、空中権は米国に起源があり、そこでは開発権(TDR)の課税問題について先駆的研究の蓄積はあるが、わが国では空中権の機能を有する私法上の権利及び公法上の制度があるものの課税上の取扱いが問われた事例は僅かであり、これまで重要な問題として顕在化してこなかった。近時、余剰容積率の移転が、当該土地における固定資産税の課税標準に影響を及ぼすか否かが問われた注目すべき裁判例として東京地判平成29年9月14日(判タ1448号164頁)がある。そこで、本論文は、日米の裁判例等を通じて、米国の開発権、空中権(Air Rights)とわが国の余剰容積率(余剰容積利用権)を比較法的見地から考察し、それぞれの法的性質を解明した上で、余剰容積率の移転に係る課税問題を明らかにした点で新規性のある優れた論文である。また、開発権や余剰容積率の保有時の権利について資産評価の観点から検討したものであり、学術的貢献度が高いものとして評価される。以上から、中央大学学術研究奨励賞に相応しいものとしてここに推薦する。
羽田 尚子
(はねだ しょうこ)
商学部 教授

小野 有人
(おの ありと)
商学部 教授
独自のサーベイ調査『研究開発マネジメントに関する実態調査』を実施。調査結果を用いて,企業文化とプロダクト・イノベーションの関連を検証している。推定結果から,創造志向の企業文化は探索型イノベーションと正の相関があることが判明した。一方,協働志向の企業文化は,その価値観を表す言葉によって統計的な有意性は異なるが,深化型イノベーションと正の相関があった。推定結果は必ずしも因果関係を意味するものではないが,どのような企業文化がイノベーションを促すかは,企業の追求するイノベーションのタイプ(探索型か深化型か)によって異なることを示唆している。

〇ベストペーパー賞
〇 研究・イノベーション学会
〇2023年11月22日

ベストペーパー賞は,研究イノベーション学会年次学術大会予稿集に掲載される予稿のうち,学術的に新規性・独創性あるいは実務的に実用性・発展性に富むと認められるものに与えられる。本論文は独自のサーベイ調査を実施し,調査結果の統計分析から新規性ある発見を得ている。
研究分担:定量分析および統括を羽田が担当。執筆を小野が担当
羽田 尚子
(はねだ しょうこ)
商学部 教授
『第4回全国イノベーション調査』と財務・企業情報を接合したデータベースから,研究プロジェクトを中止・遅延した企業の特性がイノベーションに成功(失敗)しやすい企業の特性と一致しているか,中止・遅延を経験した企業のプロダクト・イノベーションの実現頻度が類似の特性を持つ未経験の企業と比べて高い(低い)かを明らかにしている。実証分析の結果,中止・遅延を経験する企業の特性はイノベーション活動の生産性が高い企業の特性と一致すること,中止・遅延を経験した企業はプロダクト・イノベーション,市場にとって新しいプロダクト・イノベーションの実現確率がそれぞれ10%程度高いことが明らかになった。プロジェクトの中止・遅延がイノベーション活動の資金や高学歴人材の不足から生じたものではなく,活発なイノベーション活動の過程で生じた試行錯誤の結果であること,中止・遅延という「失敗」から組織が学習し,企業のイノベーション活動全体の生産性が改善したことが示唆される。

〇論文賞
〇研究・イノベーション学会
〇2023年11月22日

 学会誌所載の査読論文を対象とし,実務的学際研究の将来的発展に寄与することが期待できるものを対象にして選考された。本研究は日本企業のイノベーション活動で生じた中止や遅延はイノベーション活動におけるインプットの不足から生じたものではなく,活動の過程で生じた試行錯誤に起因することを,大規模データを用いた精緻な分析から明らかにしている。データの制約のため,研究開発ラグが考慮されていない等の課題はあるが,分析結果は日本企業のイノベーション活動の現状に対する新たな知見を提供している。特に,日本企業の研究開発活動に対する実務的な示唆を提供している点を評価した。
寺本 高
(てらもと たかし)
商学部 教授
候補者らは、多くの小売業者や飲食業者が行っている目標指向動機付け型プロモーションの仕様と参加する消費者数の関係を解明した。具体的には、報酬ポイント数の上限が小さく、各段階のゴールは、顧客の対象ブランドの実際の購入間隔に近すぎず遠すぎない範囲に設定されているプロモーションへの参加が多いことが明らかになった。

〇Best Conference Track Paper Award at 2023 Global Marketing Conference at Seoul
〇Global Alliance of Marketing & Management Association
〇2023年7月22日

 本賞は、日本商業学会のほか、欧米の主要マーケティング学会が共催する2023 Global Marketing Conferenceでの発表論文の内、各発表トラックで推薦された論文の中からBest Paperとして選出された論文に贈られるものである。候補者は、受賞論文の筆頭著者として、研究テーマ設定、文献レビュー、仮説構築、論文執筆を担当した。実験データを中心に消費者の目標達成条件に焦点が当てられた研究が多い中、本研究は、企業の実施実績による観察データを用いて目標達成以前の根本的な参加条件の解明に着目した点に大きな学術的貢献があるうえ、消費者向けプロモーションを展開する多くの産業の活動にも大きく資する含意がある。以上より、学術研究奨励賞候補者として相応しいと考え、ここに推薦する。
堀内 恵
(ほりうち さとし)
商学部 教授
 本論文は、REAモデルとBC技術を駆使して、企業がオープンなValue Network(VN)に自律的に参加と退出を行えるビジネスプロセス構築の有力なフレームワークとして、とくに組織サイバネティックスの論理のもとに、「三階層構造」モデルの有効性を提案したものである。REA(Resource Event Agent)モデルは、規模、業種・業態、拠点に関わらず、ビジネスプロセス(企業間および各企業内の交換プロセス)の標準モデルとして機能することが期待できる。また、BC(Blockchain)技術とくにコンソーシアム型は、大企業でなくても、企業間の取引データの微視的・多元的な属性認識によって記録・管理する技術として大いに期待できる。これらのREAモデルとBC技術を駆使する「三階層構造」モデルは、各種データの分析・予測・決定・評価等々の機能を担う「分析モデル層」、随時,効率的に関連データを結びつけて保管する機能を担う「中間データベース層」、およびこの層へのデータ抽出を担う微視的・多元的な「データ源の層」によって構成され、実行容易な接近方法であることをモデリングによって明らかにした研究実績である。

〇2022年度日本情報経営学会論文賞
〇日本情報経営学会
〇2023年6月24日

 日本情報経営学会は、同学会が発行する『日本情報経営学会誌』に掲載された論文の中から、特に優れた論文に対して論文賞を授与している。2022年度の受賞論文が、堀内恵「ブロックチェーン技術を用いる情報化実践における課題」『日本情報経営学会誌』第41巻1号である。本論文は、企業が自らの価値基準のもとで企業規模、国内外、業種を問わず俊敏かつ状況適応的にValue Network(VN)としてのビジネスプロセスの構築やそのプロセスへの主体的参加によって自らの維持発展させることを可能にするデータ基盤(「三階層構造」モデル)の有効性を明らかにしたものである。ブロックチェーン技術を用いるこれまでの研究がトレーサビリティを高めてそれよって説明責任の強化、透明性の強化および業務効率に焦点を当てた研究と実践しか進んでおらず、オープンなVNによるビジネスプロセスを構成する情報化実践研究は端緒についたばかりであって一般に受容されるものは生まれていない。本稿では、REAモデルとBC技術を駆使しつつ企業が生存システムとして自律的にVNへの参加と退出を可能とする考えを「三階層構造」モデルとして明らかにした優れた研究実績として高く評価できる。また、社会的な意義としては、「三階層構造」モデルによって、参加企業間で相互に信頼できるデータ基盤を持っていない中小企業にとっても、主体的な参可を可能にする新たなデータ基盤のフレームワークになり得る(現在このモデルは、特許申請中である)。したがって、中央大学学術研究奨励賞を授与するに十分値するものと考え、ここに推薦する。
印南 洋
(いんなみ よう)
理工学部 教授
本研究では、英語教育での特にスピーキング力のより適切な測定と評価を行うことを目的とした。従来のスピーキング力を測る際のテストは、言語的正確さ(文法など)を重視することが多かった。本研究はより広い概念であるfunctional adequacy(その場面で必ず言及すべき情報を適切に述べているか)に焦点を当て、学習者から得られたデータを分析し、4段階の評価基準を用いて評価が可能であることなどを示した。その結果、functional adequacyはスピーキングテストで実用化できる概念であることが分かった。本論文"Assessing Functional Adequacy Using Picture Description Tasks in Classroom-Based L2 Speaking Assessment"では、これらテスト設問の作成・実施・分析過程について詳細に報告している。

〇2022年度日本言語テスト学会最優秀論文賞
〇日本言語テスト学会
〇2023年3月24日

 「日本言語テスト学会最優秀論文賞」は、「日本言語テスト学会学会誌に採用された論文の中から、創造的で学術的及び教育的な貢献が認められるもの」を表彰する制度である。受賞作は小泉利恵氏(筑波大学教授)との共著であり、英語教育での特にスピーキング力の測定と評価を対象とし、そのようなデータに特化した手法を用い分析している。研究内容は、文部科学省が定める評価の一観点である「思考・判断・表現」と関連し、教育現場での将来的な使用も考慮している。論文は20頁の長さであり、データ分析を印南氏が担当した。また、オープンサイエンスの一環として、研究内容についてのより詳細な情報の整備及び公開も印南氏が担当した。これらの内容を含む本論文は、著作賞の規定を満たし、当該分野に多大なる貢献をしている。以上から、印南氏の業績は「中央大学学術研究奨励賞」にふさわしいと考え、候補者として推薦する次第である。
中村 太郎
(なかむら たろう)
理工学部 教授
最近、ロボット工学の分野では、ソフトロボットに関する研究が世界的に行われている。候補者は、人工筋肉を活用した可変剛性制御や可変粘弾性制御等,ソフトアクチュエーションにおける生物型ロボットの研究開発において,先駆的な数多くの研究成果を上げている。さらに、大学発のスタートアップ企業を通じたソフトロボットの開発においても、社会への実装に向けた重要な貢献が高く評価された。

〇日本機械学会ロボティクスメカトロニクス部門学術業績賞
〇日本機械学会
〇2023年6月29日

 本賞は、日本機械学会の最大の部門であるロボティクス・メカトロニクス部門において、当該分野での萌芽的あるいは発展性のある学術業績を挙げた個人または団体に贈られる賞である。部門の賞ではあるが、歴代の受賞者は高名な研究者が多く、非常に価値の高い賞である。
候補者は、人工筋肉を活用した可変剛性制御や可変粘弾性制御等,ソフトアクチュエーションにおける生物型ロボットの研究開発において,高い成果を上げており,ミミズロボットやシャコロボットをはじめとする生物型ロボットに加え,人の運動支援や蠕動型ポンプなど社会実装を見据えた研究においても成果を上げてられており、中央大学の研究力や技術力の水準の高さを国内外にアピールすることができることから本賞に推薦する。
長塚 豪己
(ながつか ひでき)
理工学部 教授
Tweedie分布は, 正規分布等、統計学上重要な再生性を持つ分布の一般化モデルである。しかし、特定の条件を除き、一般的に確率密度関数が解析的に表せないことから、統計的推測における理論構築、並びに実用上用いることができる手法が確立されていない。本研究では、Tweedie分布の推定において、確率密度関数の代わりに、積率母関数を用いた新たな統計的推測手法を提案した。さらに、シミュレーションと実データにおいて評価が行われ、提案法により、従来法では解決されなかった問題が解決されることが確認されている。

〇The 21st ANQ Congress 2023 Best Paper Award
〇21st Asian Network for Quality
〇2023年10月19日

 Asian Network for Quality (ANQ)は、2003年に発足した、アジア諸国により構成される品質組織であり、毎年国際会議 (ANQ Congress) を開催している。
ANQには、日本からは日本学術会議協力学術研究団体である「日本品質管理学会(JSQC)」が加盟している。
対象業績としているBest Paper Awardは、各国の品質管理学会が、各国の受賞者を選定しており、提出されたフルペーパーの中から優れていると認められる上位約10%の研究に与えられる賞となっている。今回の受賞論文は、修士1年生(藤井康平)との共著であり、長塚は研究総括と論文指導、藤井は研究遂行と論文執筆を担当した。
庄司 克宏
(しょうじ かつひろ)
総合政策学部 教授
 庄司克宏氏はわが国におけるEU法研究の第一人者として優れた研究業績を残している。
1.学会誌掲載論文(査読付)の一部として次のものがある。
1996年1月 「欧州審議会の拡大とその意義-ロシア加盟を中心に」国際法外交雑誌第95巻4号、1~27頁
2005年8月 「EUにおける立憲主義と欧州憲法条約の課題」国際政治第142号、18~32頁
2011年7月 「リスボン条約とEUの課題-非対称性問題をめぐるEU条約とEU機能条約の可能性」 日本EU学会年報第31号、13~34頁
2012年11月 「EUの経済ガバナンスに関する法制度的考察-非対称性問題と欧州債務危機」日本国際経済法学会年報第21号、147~166頁
2014年6月「欧州銀行同盟における権限配分とMeroni原則」日本EU学会年報第34号 79~98号
2.単行本の代表例は次のとおりである。
(1)単著
『新EU法 基礎篇』岩波書店、2013年6月
『新EU法 政策篇』岩波書店、2014年10月
『ブレグジット・パラドクス-欧州統合のゆくえ』岩波書店、2019年3月
(2)編著(共編著を含む)
『EUと市民』慶應義塾大学出版会(共編著)、2005年3月(「第6章「自由・安全・司法領域」とEU市民-欧州逮捕状と相互承認原則」143~166頁執筆)
『EU統合の軌跡とべクトル』慶應義塾大学出版会 (共編著)、2006年11月(「第5章EU域内市場政策-相互承認と規制権限の配分」111~137頁執筆)
『EU法実務篇』岩波書店(編著)、2008年4月(「序章EU域内市場法の仕組み」1~21頁、「第1章EUサービス指令」25~49頁、「終章 リスボン条約と域内市場法」347~370 頁執 
筆)
『EU環境法』慶應義塾大学出版会(編著)、2009年11月(「序章 EUにおける環境保 護と欧州司法裁判所」1~44頁執筆)
『トランスナショナル・ガバナンス-地政学的思考を越えて』岩波書店(共編著)、2021 年5月(「序章 トランスナショナル・ガバナンスとは何か」1~23頁、「第1章 トランスナショナル・ガバナンスと相互承認原則」24~51頁執筆)
『国際機構 新版』岩波書店(編著)、2021年7月(「終章 国際機構の正当性と民主主義-国際機構の役割と限界」233~249頁執筆)

〇現代法律学会賞
〇日本政治法律学会
〇2023年5月27日

現代法律学会賞は、学会員のみならず広く研究者を対象として、優れた研究業績を有する者に授与されている。庄司氏は日本政治法律学会の会員ではないが、授与式において紹介された授賞理由は、庄司氏が我が国におけるEU研究の第一人者であり、EU研究に関する数多くの著書・論文等を発表されてきたこと、また、EU法研究の権威として、2 0 0 3 年1月には、欧州委員会からヨーロッパ統合の父と称されるジャン・モネにちなんだジャン・モネ・チェアの称号を授与され、2 0 0 4年4月には、より上位のジャン・モネ・チェア・アドペルソナムの称号を欧州委員会から授与されていることである。このように 庄司氏は、EU法研究者として大きな業績を残されており、学術研究への功績が大であることは研究者の間では周知のことであり、また、若手研究者の育成や学会活動等、学術振興においての功績は大である。以上のことから、日本現代法律学会から現代法律学会賞が庄司氏に授与された次第である。
井田 良
(いだ まこと)
大学院法務研究科 教授
代表的著作である『講義刑法学・総論』『講義刑法学・各論』は、我が国の刑法学における最高水準の理論的体系書である。その他にも多数の著書・論文を発表されており、その研究対象は、犯罪論・刑罰論・量刑論・刑事立法論・医事刑法など広範囲に及び、いずれの分野においてもオピニオンリーダーとして学界を牽引されてきた。アジア・ヨーロッパ諸国において翻訳されている著作も多く、国際的にも高名であり、とりわけ日独間の学術交流を飛躍的に発展させた。

〇紫綬褒章
〇日本国(内閣府)
〇2023年4月29日

井田氏は、刑事法学の分野において、犯罪論、刑罰論・量刑論をはじめ刑事法学全般にわたる研究により、我が国の刑事法学研究の水準の向上に大きく貢献し、我が国の裁判実務並びに刑事立法に重要な寄与を果たし、かつ、学術的な国際交流を飛躍的に促進し、日本の刑事法学の重要性を諸外国において認識させるなど、刑事法学の発展に多大な貢献をしたことにより、紫綬褒章を授与された。その功績概要は、「刑事法学研究功績」とされている。
我が国の刑法学は「井田以前」と「井田以後」に分けられる、とまで言われるほど、井田氏が学界に与えた影響力は大きい。研究対象が広大なものとなった現代の刑事法学において、その全体に通暁することは至難の業であり、おそらく井田氏は、我が国の刑事法学における最後のオールラウンドプレーヤーである。
井田氏は、学界のみならず、実務にも多大な貢献をされた。その研究成果は、裁判実務に広く参照されている。特に、従来、研究者が等閑視していた量刑の問題に意欲的に取り組み、量刑理論のパイオニアとして、現在の量刑実務の理論的基礎を築いた。また、井田氏は、法務省の諮問機関である法制審議会の委員として長年にわたり活動され、近年の刑事立法のほとんどに実践的に関与している重要な研究者である。なお、井田氏は、令和5年2月まで法制審議会(総会)の会長を務められた。
井田氏は、国際的な学術交流の面でも多大な貢献をされた。とりわけ、ドイツ語での多数の著作の発表並びに講演・シンポジウムでの報告などを通じ、ドイツ語圏諸国では、重要な理論刑法学者として尊敬を集めている。そのことは、ドイツ・フンボルト財団からフリッツ・フランツ・フォン・シーボルト賞(平成18年)、ドイツ研究振興協会からオイゲン・ウント・イルゼ・ザイボルト賞等を受賞していることからも知ることができる。井田氏の著作は、ドイツ語以外の言語にも翻訳され、スイス、ポーランド、トルコ、韓国、中国等でも高名である。井田氏は、個人の名において、日本の刑法学を代表し、国際的なレベルでその学問水準を引き上げる営みを実践し続けている、誠に稀有な存在である。
以上の通り、井田氏の研究業績等には誠に顕著なものがあり、中央大学学術研究奨励賞を受けるに相応しいものと思料する。