社会科学研究所

公開研究会開催報告(研究チーム「有権者と政治」、社会科学研究所)

2019年05月22日

2019年3月26日(火)、多摩キャンパス2号館4階研究所会議室3にて、下記の公開研究会を開催しました。

【日 時】 2019年3月26日(火) 13:00~17:00

【場 所】 中央大学 多摩キャンパス2号館4階研究所会議室3

【主   催】 中央大学社会科学研究所 研究チーム「有権者と政治」(幹事:宮野勝)

 

【報告者・報告要旨】    

■報告者1:三船 毅 氏(中央大学経済学部教授)

  テーマ:有権者の政策空間の変容と参加

  要 旨:現在の日本で顕在化している排外主義的な政治行動に参加する人々が,諸種の政策を如何に関連
      付けて政策空間を構成しているのか、グラフィカルモデリングという統計モデルから分析された.
      中心的な知見は,「ネットで意見」に参加し,極度に保守イデオロギーが強い有権者は、有権者
      全体と比較して,諸種の政策を連関させて政策空間を形成しているのではなく,安全保障イデオ
      ロギーに関わる政策「防衛力増強」「日米安保強化」「憲法9条改正」を他の政策から切り離し
      て独立させているという点である.それは限りなく民主主義体制維持からの逃避となりうるとさ
      れた.
      全ての有権者がその内容を理解でき,超保守,極右的イデオロギーを有する者の間でも意見が分
      かれるような政策争点が存在すれば,一部の超保守,極右的イデオロギーを有する有権者も,そ
      の単純化された政策の関連性をより複雑にして民主主義体制を維持する政策空間をもつことが可
      能になるのではないかと論じられた.

■報告者2:塩沢 健一 氏(鳥取大学地域学部准教授)

  テーマ:「平成の大合併」をめぐる住民投票の再検証~合併特例法の規定に基づく住民投票の分析~

  要 旨:2000年代前半に急加速した「平成の大合併」をめぐっては、わずか数年の短い期間に400件以上の
      住民投票が行われた。合併を争点とする住民投票は、住民投票条例に基づくものと、合併特例法
      に規定された住民投票制度に基づくものの、主に2種類がある。条例に基づく住民投票では合併の
      是非や枠組みが問われるのに対し、特例法に基づく投票では公式な合併協議の場となる「法定合
      併協議会(法定協)」の設置の是非が争点となる。本報告では、砂原(2018)による分析の追試
      ・改善を行いつつ、塩沢(2008)の分析モデルも援用しながら、住民投票制度が当初予定してい
      たことと実態との乖離を明らかにすることを目的として、計量分析を試みた。法定協が併存しか
      ねない状況自体が、投票率や得票率に影響を及ぼし、実質的に2つの案から一方を選択する形の
      住民投票となったことで、有権者の関心を喚起し、また既定の合併方針の追認という意味合いか
      ら「反対多数」の結果が多く見られ、こうした活用例は当初の制度化の意図に沿ったものとは言
      えず、各事例における投票後の帰結を踏まえても、制度化の趣旨どおりに機能したとは言い難い
      と論じられた。

■報告者3:種村 剛 氏(北海道大学高等教育推進機構特任講師)

  テーマ:先端科学技術の社会実装についての熟議の場~討論劇を用いた科学技術コミュニケーションを
      事例として~

  要 旨:報告者が行っている討論劇を用いた科学技術コミュニケーションの実践を、熟議システム論の
      観点から整理した。日本の「科学技術コミュニケーション」には、科学技術理解増進と「科学
        と社会」の二つの系譜があり、特に後者は熟議民主主義の狙いである「熟議を通じた参加者の
      意見や態度の変容」と関連している。
            先端科学技術の社会実装を題材として、内容を演じて伝え、その是非を考える討論劇は、熟議
        を進めるための一つの手法になりうると論じられた。

(主催チーム記)