社会科学研究所

公開研究会「コミュニタリアニズムとコスモポリタニズムをつなぐ「住民」」開催報告(社会科学研究所)

2016年12月07日

講師 菊池理夫氏

2016年11月25日(金)、多摩キャンパス研究所会議室2にて、下記の公開研究会を開催しました。

【テーマ】 コミュニタリアニズムとコスモポリタニズムをつなぐ「住民」

【講 師】 菊池 理夫(南山大学法学部教授)

【日 時】 2016年11月25日(金)15:00~17:30

【場 所】 中央大学多摩キャンパス研究所会議室2

【主 催】 第27回中央大学学術シンポジウム「理論研究チーム」

      (社会科学研究所)

 

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【要 旨】

 サンデル・ブームはリーマン・ショック(2008)や東日本大震災(2011)を契機にした、市場主義ネオリベラリズムに対する疑いの広がりに原因がある。個人の自由や権利だけでは、善き社会、善きコミュニティは実現できない。

 現代のコミュニタリアニズムは、特定のコミュニティの価値を「共通善」として絶対化する抑圧的なコミュニティを主張しない。それは、コミュニティの成員、住民が熟議して共通善を追求することが善き社会をつくると考えるのであって、普遍的な価値に開かれ、グローバル・コミュニティにまで開かれコスモポリタニズムへと向かう可能性を持っている。日本では、コミュニタリアニズムを保守思想と捉える傾向が強いが、そのような過小評価や誤解の原因は、伝統的なコミュニティが破壊され、自律した自由な個人の権利が実現されることを自明のこととする、戦後の社会科学の「進歩主義」の影響力の強さにある。

 それでは、コミュニタリアニズムとコスモポリタニズムとの関係をどのように捉えるべきか。もちろん、現代コミュニタリアニズムとコスモポリタニズムには対立点はある。コミュニタリアニズムが個人にとって身近な特定のコミュニティのパトリオティズムから出発するのに対して、コスモポリタニズムはグローバル・コミュニティの一員、世界市民の立場から普遍的価値を唱えるからである。しかし、両者の対立点だけでなく、両者の相互関係を重視したい。

 現代コミュニタリアニズムが考えるコミュニティは家族、地域社会、NPOなど「公」と「私」の中間的組織である「共」組織のすべてを指し、それゆえコミュニティの「住民」にはNPOやNGOのメンバーも含まれる。「公共善」と区別される「共通善」は、同質的な人々ではなく、むしろ対立する生き方を持った普通の人々による合理的な討論、水平的な熟議によって得られる。コミュニタリアニズムの思想的淵源には、アリストテレスやトマス・アクイナスの哲学、自然法の思想が見出されるが、コミュニタリアンは人権の普遍性に訴えるリベラル・コスモポリタンに対して、人間の尊厳(個人の尊厳ではない)を求める。

 以上のように、報告はサンデルを中心とした長年のコミュニタリアニズム研究の蓄積を踏まえつつ、報告者自身の独自の見解を盛り込んだ示唆的かつ論争的なものであった。質疑応答も活発に行われた。研究員以外の方の参加も得て、それぞれの立場(法哲学、フランス研究、ナショナリズム研究、中世研究など)から質問が出され、活気ある意見交換の場となった。

(主催チーム 記)