社会科学研究所

活動報告(2009年度研究チーム)

2009年度研究チーム

「国際政治の理論と現実」

21世紀に入り、国際政治と国際政治学は転換期にあるといってよい。国際政治の世界では予想のできないようなさまざまな事象が生起している。それに対して国際政治学の理論の世界では、さまざまな理論が展開されている。伝統的な現実主義、リベラル理論、統合理論、コンストラクティヴィズム、ゲーム理論、世界システム論、従属理論、英国学派の理論など華々しい。このような諸理論が、国際政治の現実をどれだけ解明、説明できるのか、についてグローバルなレベル、地域レベル、ナショナルやイントラナショナルなレベル、さらに民間レベルでの事象の研究、調査、分析を通して明らかにすることを目指している。 
 今年度は、2010年度での研究成果刊行を目指し、研究叢書の取り纏めについて打合せを開催し、各人の論文タイトル及び要約を持ち寄って内容等の確認を行った。

「社会科学におけるオントロジ」

オントロジ情報システムであるKmapIndexを設計・開発した。KmapIndexの目的は、社会科学における記録情報を形式化することであり、そのために計算可能意味を定義する。KmapIndexが取り上げるオントロジはK-Mapと呼ぶ主題の概念(クラス)構造の図解技法と、そのクラスを帰納的に抽象化するために必要なインスタンスを求める索引技法(Indexing)を用いる。

研究活動
 研究チームによって不定期10回に渡り開催した。そこではKmapIndexの事例研究として「水村美苗著『日本語が亡びるとき』筑摩書房 2008」を選び、実際のオントロジ主題分析を行った。その結果、Web上にその事例研究のKmapIndexを発表し、同時に2009年度の社会科学研究所年報の論文「社会科学情報における計算可能意味の研究」を執筆した。研究活動の成果は以下のとおりである。

(1)Web上の事例研究
http://katase.tamacc.chuo-u.ac.jp/saitolab/horobi/subjectkmap.htm

(2)研究報告の論文 
斉藤孝「社会科学情報における計算可能意味の研究 -オントロジによるKmapIndexの開発-」 
中央大学社会科学研究所年報 第14号 2009年度

「地域社会変動の国際比較」

今年度の活動の中心は、研究成果の刊行である。すでに原稿は出そろい、現在編集の最終段階にある。編集活動の責任者は客員研究員の石川晃弘名誉教授であるが、彼が昨年9月にスロヴァキアを訪問し、スロヴァキア側の関係者との調整を済ませた。間もなく入稿となり、近じか刊行される予定である。

「日本政治の構想と実践」

本チームは、幕末から現代までの日本政治の史的展開を対象とする。開国から150年、日露戦争から100年、そして敗戦から60年が経過し、日本の近現代をめぐっては、その史実をいかに現実の諸問題と関わり合わせて考えていくかが、今日の課題となっている。
 そこで、本チームでは、それぞれの時代状況において、人びとがいかなる問題意識を起点に、どういった構想を抱き、どう実践したのかという「日本政治の構想と実践」のプロセスを、改めて問い直していきたい。その際、背景となる社会の変化を総体として把握しない限り、政治事象の本質的な意義をつかむことはできない。そのため、政治を基軸に据えつつも、法律・経済・軍事・思想・教育・文化・地域・国際関係といった複眼的な視角も積極的に採りいれながら、検討を進めていく。こうした分析の積み重ねが、これまでの歴史像をとらえ直すとともに、日本政治の未来を切り拓く指針を手にすることにつながるといえよう。

研究活動 
①合宿研究会:2009年4月18日(土)~19日(日) 
報告内容:個別研究のテーマ発表 
②研究会:2009年11月28日(土) 
報告者:蔡 数道(客員研究員、韓国慶北大学校助教授) 
テーマ:東亜同文会の教育事業に関する研究-「近代教育」という視点から-

「現代企業文化の国際比較研究」

われわれの研究チームは、世界の各国・各地域で育まれてきた伝統的な企業文化がグローバリゼーションのもとで変容を余儀なくされ、社会経済の秩序の要となるべき新たな企業文化がどのようなパターンをとって現れてきているかという問題関心から国際比較調査を企画し、2007年度と2008年度には日本、中国、ロシア、ドイツ、フィンランド、チェコ、スロヴァキア、エストニアの研究者との共同で、それぞれの国における企業文化の現状把握のための従業員意識調査を実施し、その結果の中間報告会を2008年6月に東京で行った。その成果の一部は「中央大学社会科学研究所年報」第12号、「労働調査」誌2009年3月号、「国際社会学協会(IIS)世界大会」(2008年6月、ブダペシュト)、「台湾社会学会大会」(2008年12月、台北)で発表されている。これをふまえて2010年度は、企業文化の問題をジェンダーの視点からと社会的信頼の視点から捉える作業を展開した。ジェンダーの視点からは2009年6月20日から7月5日まで社会科学研究所で受け入れたベラ・マッキー(メルボルン大学教授)を招いての3回にわたる研究会をとおして方法論を練り、社会的信頼の視点からは当研究チーム幹事の佐々木正道が別途主宰している「社会的信頼」国際比較調査からえられた諸外国のデータと関連付けて、「企業文化と社会的責任」と題するシンポジウム形式の研究会を持ち、ロシア人、中国人、台湾人研究者の参加のもとに知見を深めた。 
 この研究会に引き続いてビジネス・ミーティングを持ち、今後の国際共同作業の持ち方を討議した。まずロシア側が4月6日―8日にモスクワで開かれる国際会議に佐々木を招き、「企業文化と社会的責任」研究の展開をはかり、6月末にスウェーデンで開かれる国際社会学会(ISA)世界大会でこの研究のオーソライズを図るためのラウンド・テーブル会議を開く計画が立てられている。 
 なお研究成果全体の刊行に関しては、2009年度中に英語とロシア語の論文集の形でモスクワの出版社「ナウカ」から出る予定のものが延期となっており、2010年度に持ち越される。日本語による出版物は、この論文集とは別途に、石川・客員研究員が中心となって各国参加者の寄稿翻訳を含めて編集作業を進めており、2010年度中には刊行される予定である。

調査研究

(1)2009年6月:台湾・中国での社会的信頼調査のため、佐々木が台北に出向き、現地の調査機関と打ち合わせを行った。(科研費)

(2)2010年3月:チェコ、スロヴァキア、トルコでの社会的信頼調査のため、佐々木が現地に赴き、国際データの収集を行った。

「政治行動の実証分析」

本研究チームでは、多様なデータ・多様な研究手法によって、政治行動に関する実証的な検討を行うことを目指している。具体的対象としては、投票行動、政治参加、政治意識、政治コミュニケーション、などのトピックを扱う。今年度は、以下の通り、3回の研究会を開催した。

(1)2009年5月26日(火)
"Election Law Violations as Campaign Effort" (Steven Reed 研究員)
「内閣支持率・政党支持率の信頼性」(宮野勝研究員)

(2)2009年6月30日(火)
「日本人のNational Attachmentについて」(安野智子研究員)

(3)2009年7月28日(火)
「民主党支持率の変動:1996~2009」(東京大学社会科学研究所・前田幸男准教授)

「グローバル化と社会科学」

グローバル化と地球規模の問題群についてはさまざまな領域について膨大な研究があるが、それらと社会科学との関係については、あまり先行研究、調査は存在しない。初年度は、本学社会科学研究所設立30周年を記念して、国際シンポジウムを開催し、環境、開発、貧困、紛争、グローバル・ガバナンスなどに関する社会科学の関与と貢献、そして今後の課題について討議し、その成果を広く世界に発信する。2年目以降も、グローバル化と社会科学の各領域との関連性を研究課題として設定し、社会科学がグローバル化によって引き起こされた諸問題にどのように取り組んでいるのかという点に焦点を当てて、研究を進めていきたい。

研究活動 
第1回 公開研究会:2009年6月5日(金) 
講師:吉川 元 氏(上智大学教授) 
テーマ:「マイノリティと国際安全保障―民族自決の果てに―」 
第2回 研究会:2009年8月1日(土) 
講師:張 異賓 氏(中国・南京大学教授) 
テーマ:「中国社会科学研究の展開について」 
第3回 合宿研究会:2010年3月29日(月)~31日(水) 
研究会:3月30日(火)琉球大学 
第一部:研究員の報告会(各人の研究叢書執筆テーマと内容の報告) 
第二部:講師;波平 恒男 氏(琉球大学教授) 
テーマ:「東アジア史のなかの『琉球処分』」 
第三部:講師;松元  剛 氏(琉球新報記者) 
テーマ:「基地負担軽減の虚飾―米軍再編と普天間移設問題―」

「多摩キャンパスの自然Ⅱ」

前回実施した研究チーム「多摩キャンパスの自然」では、学内環境、とりわけ多様性に富む生物相を保有しているその実態を調査し、「多摩キャンパスの日常的生物環境」として"キャンパスの生き物ガイド"風に報告した。他方、生物を絶滅させる環境破壊が生じていることを見出し、対策を講じると共に、保全に取り組んできた:所謂サッカー場の人工芝化により生じた、湧水域の生物の死滅の問題である。 
 今般新たにⅡを企画したのは、生き物の盗掘や盗難が増えていることもあり、絶滅危惧種や希少の動植物(小動物:ホタル、トウキョウサンショウウオ、ヤマアカガエル;植物:キンラン、ギンラン、エビネ、タマノカンアオイ、ヤマユリ)の生息環境の保全とそれらの増殖をはかることが急務であるためと、多様性に富む生物相の実態を、更なる調査で充実させる必要があるためである。 
 加えて、スポーツ環境の保全の立場から、人工芝化による毒物排出の実態を明らかにすべく、専門の青木豊明客員研究員(びわこ成蹊スポーツ大学教授)が担当した。

研究活動 
①人工芝によるスポーツ環境汚染問題 
報告会:2009年8月25日(火) 
報告者:青木豊明(びわこ成蹊スポーツ大学) 
テーマ:人工芝からの有害物質の溶出について 
②希少種、ヤマアカガエルの生息環境の保全 
③トウキョウサンショウウオの保全(継続) 
④ゲンジボタルの飼育と放流(継続) 
⑤生物相リストへの野草の追加

調査研究 
①調査地:熊野古道、就中"熊野参詣道・中辺路"周辺 
②調査目的:古来、熊野参詣のため、都人から法皇に至る多くの人々が通り、加えて、平成16年に「世界遺産」に登録された"紀伊山地の霊場と参詣道"が、どのような植生の生態系をなして現在に至っているのかを調査すること。 
③調査期間:2月23日~26日

「ヨーロッパ研究ネットワーク」

本プロジェクトは、ヨーロッパの研究機関・研究者と日本の研究機関・研究者との交流促進計画として独立した。すでに発足当時からイギリスのシェフィールド大学、フランスのエクス・マルセイユ第三大学とは研究交流があったが、2000年度にイタリアのナポリ大学"フェデリコⅡ世"社会学部、ローマ大学"ラ・サピエンツア"社会学部社会学科およびベルギーのブリュッセル自由大学ヨーロッパ研究所および社会学研究所と研究交流協定を結び、2001年度からさまざまな研究交流が始まった。また2001年から2004年にかけてはミラノ・ビコッカ大学社会学・社会調査学部との間で共同研究プロジェクトを実施した(これらの大学のうち、ブリュッセル自由大学およびミラノ・ビコッカ大学とは2003年度に全学協定を締結し、したがって前者と当研究所との研究交流協定は自動的に解消された。またナポリ大学との協定は、2008年度をもって終了した)。今年度は、サッサリ大学との協定にむけての協議・研究交流を行ったが、条文の整備・調整にともなう諸困難に直面し、年度内の実現にはいたらなかった。 
協定に向けての打ち合わせ:2008年10月29日~11月4日および2009年2月16日~2月18日 
地域:イタリア共和国サルデーニャ州サッサリ大学

「フォーラム『科学論』(再編)」

本年度(2009)は、昨年12月に開催した公開講演会:テーマ「日本の現実と未来―ジャーナリズムとアカデミズム―」のテープ起こし原稿を元に、本研究所年報第14号に講演録として掲載するための編集作業を行った。また、これに続く第2回目の公開講演会を開催する予定でいたが、諸般の事情により2010年度に開催することとした。