2026年3月30日に発行された『ディスカッションペーパー』No.423を学術リポジトリで全文公開いたしました。
論文名:介護給付費の増加要因分析―第7期を中心とした比較検討―
執筆者:代田 知之準研究員(中央大学大学院経済学研究科博士後期課程)
キーワード:社会保障制度、介護保険制度、介護給付費、増加要因分析、選好率、都道府県、地域差、財政力指数
要 旨:
本稿の目的は、介護保険制度における介護給付費の増加要因について、都道府県レベルでの地域差や傾向を捉えることである。介護保険制度における都道府県の役割は、保険者である市町村に対する広域的な支援や調整として位置付けられているため、市町村レベルの分析に先立ち、全般的な傾向を把握するうえで意味のある分析単位だと考えられる。
本稿では具体的に、介護給付費は①第1号被保険者数、②認定率、③受給率、④選好率、⑤1人あたり給付費の5要素で構成されると定義し、地域および財政力の2つの視点から、介護サービス類型別かつ介護度別に増加要因を分析した。
先行研究では、都道府県単位での介護費ないしは介護給付費の地域差や推移、またはその要因を検討した研究が存在する。しかし、増加要因の内訳や介護サービス利用者の選択行動が費用の構造にどの程度反映されているかといった点は、十分に検討されていない。
以上を踏まえ、本稿の貢献は次の2点にある。
第1に、介護給付費の構成要素として、利用者の介護サービス選択を示す指標である「選好率」に注目し、その影響を都道府県レベルで検討した点。
第2に、地域区分および財政力指数という2つの視点から各都道府県を分類し、給付費の増加要因の傾向を検討した点。
本稿の分析結果は、以下の通りである。
第1に、選好率は都道府県レベルでも介護給付費の増加要因として一定の影響を与えていた。この点は、全国レベルの分析で、介護給付費の増加が認定率や人口要因だけでなく、受給率・選好率・1人あたり給付費によっても影響を受けるとした結果とも整合している。
第2に、地域別の分析および財政力指数別の分析を総合すると、介護給付費の増加要因には一定の傾向が見られた。したがって、財政力や地域特性の違いは、介護給付費の構造に一定の影響を与えている可能性が考えられる。しかし、この傾向には例外も見られる点に留意が必要である。
これらの結果から、介護給付費の増加要因には、地域特性や財政力の違いによって一定の差異があり、その構造には利用者の介護サービス選択も関連している可能性が示された。
最後に残された課題は、以下の通りである。
第1に、データの制約である。受給者数の重複補正には全国平均の補正係数を用いており、介護度、被保険者区分、地域による利用構造の差異を十分に反映できていない可能性がある。また、利用している統計間での集計期間にも若干のずれがある。
第2に、都道府県レベルでの介護給付費の増加要因分析を行ったが、その背後にある要因までは把握できていない。とりわけ、選好率の差異は、都市と地方、あるいは財政力の強弱といった区分のみで説明しきれない可能性がある。したがって、今後は介護保険制度の保険者である市町村レベルへと分析単位を移し、選好率に着目した詳細な分析を行う必要がある。