2026年3月30日に発行された『ディスカッションペーパー』No.422を学術リポジトリで全文公開いたしました。
論文名:介護給付費の増加要因分析―制度改正と選好率の効果―
執筆者:代田 知之準研究員(中央大学大学院経済学研究科博士後期課程)
キーワード:社会保障制度、介護保険制度、介護給付費、増加要因分析、選好率、全国
要 旨:
本稿の目的は、介護保険制度における介護給付費の増加要因を全国計データによって明らかにすることである。介護給付費は大きく①第1号被保険者数、②認定率、③受給率、④選好率、⑤1人あたり給付費の5要素から構成されるとし、第1段階として介護サービス類型別分析、第2段階として介護サービス別分析の2段階で、増加要因を分析した。
本稿の特徴は、増加要因を介護保険制度の制度改正との関係性で注目している点。そして、介護サービス利用者の選択を示す指標である「選好率」に注目している点にある。
この問題意識には、少子高齢化の進展に伴って増加する社会保障関係費と、社会保障制度の財政的な持続可能性に対する危機感にある。
先行研究では、介護給付費を構成要素に分解し、増加要因を分析した研究が複数存在する。しかし、分析対象期間が短期間であり、制度改正をまたぐ長期的な変化を十分に捉えていない。また、介護サービス利用者がどのサービスを選択したかという観点も十分に検討されていない。
以上を踏まえ、本稿の貢献は次の点にある。
第1に、介護保険事業計画における第3期から第8期までの長期間を対象として、制度改正との関連を含めた介護給付費の増加要因を検討した点。
第2に、介護給付費の構成要素として選好率に注目して、その影響を検証した点。
分析の結果、次の2点が明らかとなった。
第1に、介護保険制度の改正は主として受給率、選好率、1人当たり給付費の寄与を通じて費用に影響を与えることが確認された。とりわけ、介護サービスの新設や基準の重点化などの制度変更直後は、その影響が強く現れる傾向が見られた。
第2に、介護サービス別の分析結果から、選好率が費用増加の主要因として現れるケースが最も多いことが確認された。また、上位3位以内までの要因を含めると受給率の出現頻度が高く、給付費に対しては受給率が広く影響を及ぼす一方で、選好率が費用増加の方向づけに関わっている可能性が示唆される。
以上の結果から介護保険制度における給付費の増加は、サービス選択の変化によっても左右される可能性があることが示された。
最後に本稿の限界は次の通りである。
第1に、データの制約である。受給者数の重複補正には全国平均の補正係数を用いており、区分ごとの差異を十分に反映できていない可能性がある。また、利用している統計間での集計期間に若干のずれがあり、一部で第1号・第2号被保険者を含む混合データも用いている。さらに、介護サービス別受給者数データの制約から、第2段階の分析対象期間は一部の期に限られる。
第2に、本稿では全国レベルで介護給付費の増加要因分析を行ったが、介護保険制度を運営する保険者は、市町村などの基礎自治体である。全国レベルで増加要因やその推移を確認することは重要であるが、都道府県単位といったよりミクロなレベルで、増加要因の地域差や介護給付費と利用者の選好との関係性を検討する必要がある。