Eventイベント

人文科学研究所

人文科学研究所公開研究会開催のお知らせ

日程
2015年7月25日(土)15:00~18:00
場所
多摩キャンパス 2号館4F  研究所会議室2
日程
2015年7月25日(土)15:00~18:00
場所
多摩キャンパス 2号館4F  研究所会議室2
内容

講 師:マーク・ノーネス 氏(ミシガン大学教授)
 
テーマ:「日中戦争と亀井文夫の映画的戦略」
 
要 旨: 亀井文夫(1908-1987)は日本における最初のドキュメンタリー監督として、1930年代の記録映画の世界に強い影響を及ぼした。そして、その影響のほとんどは、亀井による、中国を題材とする映画に負っている。
 当初、ポースター・アートを通してプロレタリア芸術運動に参加した亀井は、運動が弾圧されると、ソビエトに留学し、そこで映画を学ぶことになる。当時、ソビエト映画はモンタージュ理論を開拓し、世界の映画に多大な影響を及ぼしていた。つまり、各カットと各音声を繋げることにより、新たな意味を創出しうることを実践を通して理論化していたのである。
 留学中の亀井は、ソビエト人女性と出会い、子供をもうけるが、肺結核のために帰国する。しかし、日本政府はソビエト国籍の家族にビザを発給せず、亀井は強制的な家族との別れを経験することになる。日中戦争が次第に激しさを増していた頃、療養を終えた亀井は、「文化映画」の世界に関わり始める。当時の文化映画には「監督」という役割は存在しておらず、カメラマンが現場で取材した映像と音声を、編集者が本国で作品化すると言うのが一般的な方法だった。当初、亀井は編集者として、日中戦争を題材とする作品の制作に参加した。ソビエトで学んだモンタージュ理論を用いた編集方法によって、映画の意味をコントロールできることを確信した亀井は、戦争プロパガンダ映;という形式の中に、複雑な内容を盛り込むことを試みる。亀井は反権威主義者として、政府のプロパガンダ映画の体裁を取りつつ、そこに反戦のメッセージや中国人へのシンパシーを密かに織り込む作品を制作していく。こうして、亀井監督が日中戦争を描いた『上海』、『北京』、『戦ふ兵隊』は、優れたモンタージュ編集を行い、映画史上において極めてユニークな「反戦戦争宣伝映 画」となった。
 今報告では、亀井文夫の手法を具体的な作品の分析を通して紹介するものである。亀井の試みは、言説の自由が存在しない戦時下における一つの可能性を示唆するものとなろう。

主 催:人文科学研究所研究会チーム「中国文化の伝統と現代」