Eventイベント

人文科学研究所

人文科学研究所公開研究会開催のお知らせ

日程
2015年6月 6日(土)13:30~
場所
多摩キャンパス 2号館4F 研究所会議室2
日程
2015年6月 6日(土)13:30~
場所
多摩キャンパス 2号館4F 研究所会議室2
講師

笹川 浩 研究員(中央大学商学部教授)
 

内容

発表の前に、次期(新規)チームについての相談を30分ほどする予定です。

テーマ:「コウルリッジとダン」

要 旨:S. T. コウルリッジは、『文学的自叙伝』の中で、自分と同時代の詩人たちをジョン・ダンをはじめとする形而上詩人を引合いに出して批判している。形而上詩は「極めて純粋で混じり気のない母国語としての英語」(the most pure and genuine mother English)で書かれているが、「風変りで常軌を逸した思想」(the most fantastic out-of-the-way thoughts)が見られ、精妙な知性と機知の発露のために「詩の熱情と熱情的な流れ」(the passion and passionate flow of poetry)を犠牲にしているのに対して、現代詩人たちは、分かりきった思想を風変りで気まぐれな言葉で述べ、その不自然な表現のために「詩の熱情」を犠牲にしているという批判である。このコウルリッジの見解の中で注目したいのは、ダンが「機知」(wit)のために「詩の熱情」を犠牲にしたと述べている点である。不思議なことに、彼はチャールズ・ラムから借りたダンの詩集には、ドライデンやポウプを読む際にはただ音節だけを数えればいいが、ダンを読む時はそれぞれの語に込められた「熱情」を読み取って、そこからそれらの語を読むのにかける時間を測らねばならないという書き込みを残している。
それではコウルリッジがいう「詩の熱情」とは何なのか。今回の発表では、この「詩の熱情」を手掛かりにして、コウルリッジがダンの詩をどのように読んだのか、ダンのどこに卓越性を見出し、どこに欠点を見出したのかを考察して、それによってコウルリッジの詩人観をあぶり出したい。その過程で、コウルリッジが見出した、彼の理想的詩人像としてのシェイクスピアとダンとの類似点と相違点も確認したい。また「熱情」が「機知」(wit)とどのように対立するのかを、「連続的精神」(continuous minds)と「不連続的精神」(discontinuous minds)、「想像力」(imagination)と「空想力」(fancy)、あるいは「狂気」(mania)と「譫妄」(delirium)という二項対立を援用しつつ明らかにしたい。更に時間が許せば、コウルリッジの詩観が、同じく「熱情」を詩の本質的な要素と考えていたワーズワースのそれとどのように異なるかを、特に詩の言葉と韻律に関する考え方の違いに焦点を当てて整理してみたい。
以上の点を考察する上で今回特に注目したい資料は、コウルリッジがチャールズ・ラムから借りたダン詩集とギルマンから借りた英詩集の中に書き込んだ注である。これらの注は限られた余白に書き込まれたために断片的であり、論理的な飛躍があったり一見矛盾しているように見えたりするが、コウルリッジの他の言述を参考にしながらその矛盾を解きほぐし、その意味の間隙を埋めていきたい。
主 催:人文科学研究所研究会チーム「十七世紀の英詩とその伝統」