Eventイベント

人文科学研究所

人文科学研究所 公開研究会(テーマ:視知覚研究の土台を理解する)

日程
16時~17時30分
場所
多摩キャンパス 2号館4階研究所会議室2
日程
16時~17時30分
場所
多摩キャンパス 2号館4階研究所会議室2
内容
◆講 師:竹内 龍人氏(日本女子大学教授)\t
◆テーマ:視知覚研究の土台を理解する~私たちはどこから来たのか、そしてどこへ向かうのか~
 本レクチャーは、視知覚(visual perception)研究を始めたばかりの若手を対象とする。現代の視知覚研究は、私が実験心理学の勉強を始めた二十数年前から様変わりした。学際性の広がりや研究手法の多様化といった点はむろんのこと、情報量、すなわち公刊される論文数が年々増加していることにも注目すべきであろう。私たちのパソコンに保存される論文のPDFファイルは増える一方であり、図書室にかよっては論文を厳選してコピーし、それだけに目を通しておけば研究動向が把握できた牧歌的な時代はとうの昔に過ぎてしまった。
次から次へと公刊される論文の洪水に立ち向かう若手研究者に、数十年も前の過去研究を振り返る余裕はないかもしれない。一方で、サイエンスにおける過去とは、かえりみる必要のない昔話では決してない。論文の査読過程では「先行研究をどれだけきちんとリファーしているか」が重視されることからもわかるように、現在の研究動向の土台を構成しているのは先達による長い思索と実践の積み重ねであり、それを無視した独善的な研究はなかなか受け入れられない。
 計算理論(computational theory)、表現(representation)、並列処理(parallel processing)、分散処理(distributed processing)、モジュール構造(modular structure)、線形システム理論(linear systems theory)、コネクショニズム(connectionism)といった用語は昨今の視知覚研究論文においても現れるが、これらは私が大学院生だった1980年代、新しい概念として視知覚研究や実験心理学分野に怒濤のごとく流れ込んできたものだ。重要な点は、こういった概念が現在においても視知覚研究の土台を構成しており、メインストリームの研究はその土台の上に成立しているべきだという認識が、暗黙のうちに仮定されていることにある。そして、たとえ最先端の研究テーマに取り組んでいたとしても、その研究自体を構成する土台を正しく理解していることは、自身の研究内容を深めるだけでなく、今後その研究テーマにどのようにコミットするかといった点を見極めるための有効な指針となるであろう。
Trends in Cognitive Sciencesに掲載された最近のレビュー論文をいくつか手に取ってみよう。視覚系におけるwhere/what経路(de Haan & Conwey, 2011)や情動(Lindquist & Barrett, 2012)といったおなじみのテーマを選んでみる。一読してわかることは、上記の概念を土台とした研究パラダイム間のせめぎ合いが今後の研究全体の方向性を決める、という将来像がどちらにも明確に記されていることだ。逆に言えば、土台を形成する概念の理解が不足していると、研究における自分の立ち位置や今後の方向性が正しく認識できない可能性も出てくるだろう。本レクチャーでは、文献を参考にして、視知覚研究の土台を構成する各種概念の理解を深める機会を提供することを目的とする。
◆企 画:人文科学研究所 研究会チーム「視覚と認知の発達」