研究

2016年度

外国人研究者受入一覧と講演会等の記録

※氏名をクリックすると講演会等の記録がご覧になれます。

2016年度
フリガナ・漢字氏名 所属 国名 受入区分 受入期間 講演日 講演タイトル
杜 文玉(ト ブンギョク) 中国陝西師範大学歴史文化学院 教授 中国 訪問 2016年4月27日(水) 2016年4月27日(水) 唐長安城大明宮の朝堂の機能について
Dr. Supakorn Phoocharoensil(スパコーン フォーチャロエンシル) タマサート大学言語学部 教務研究副主任 タイ 訪問 2016年5月9日(月) 2016年5月9日(月) Moving Towards ELF: Daunting Challenges for English Teachers and Learners in Thailand
馮 繼仁(フウ ケイジン) ハワイ大学准教授 中国 訪問 2016年7月27日(水) 2016年7月27日(水) Chinese Architecture and Metaphor
Karen Dobkins(カレン ドプキンス) カリフォルニア大学サンディエゴ校心理学部教授 アメリカ 訪問 2016年7月30日(土) 2016年7月30日(土) マインドフルネス実践1日ワークショップ
Aldrin P. Lee(オールドリン リー) フィリピン大学ディリマン校准教授 フィリピン 2群
(文学部招へい)
2016年10月4日(火)~17日(月) 2016年10月10日(月) Voices in Peril: Documenting Endangered Languages in the Philippines
Yannick Séité(ヤニック セイテ) パリディドロ大学准教授 フランス 訪問 2016年11月1日(火) 2016年11月1日(火) À qui s’adresse Rousseau dans ses Rêveries du promeneur solitaire ?
Geoff Lindsey (ジェフ リンゼー) University College London Honorary Lecturer イギリス 訪問 2016年12月1日(木) 2016年12月1日(木) The English pronunciation clinic for Japanese college students: Demonstration and Practice.

杜 文玉氏の講演会

開催日:2016年4月27日(水)
場 所:多摩キャンパス2号館4階 研究所会議室2
講 師:杜 文玉(ト ブンギョク) 中国陝西師範大学歴史文化学院 教授
テーマ:唐長安城大明宮の朝堂の機能について
企 画:研究会チーム「アフロ・ユーラシア大陸における都市と国家の歴史」
前近代における宮殿は、単なる為政者の居住地ではなく、政治・軍事・経済・文化活動の多方面に関わり、社会の制度そのものを構築する独特の舞台空間だった。本講演は、8世紀以後、従来の太極宮に替わって主要宮殿となった唐朝の大明宮に焦点をあわせ、大明宮の建築構造や各官庁の機能の変遷を、朝堂を中核において論じるものである。唐長安大明宮は、唐以後の中国大陸の歴代王朝のみならず、8、9世紀以後の東アジア各国の宮殿建築にも多くの影響を与えたことで知られる。本講演は、最新の発掘情報や文献の精査にもとづき、東アジア都城建築における大明宮の歴史的意義を論じた。 杜文玉教授は、中国大陸における前近代中国政治史研究を代表する研究者の一人である。長年にわたり10数冊の専著や多数の論文を公刊される他、中国唐史研究会副会長兼秘書長をつとめ、国際的に名高い『唐史論叢』の主編者として中国の学界を牽引されてきた。今回、中央大学人文科学研究所において、杜教授の最新の研究成果を拝聴し、研究交流を進めることができたことは、本学の学術交流にとって大きな成果といえよう。杜教授の講演課題は、日本での講演を意識して、唐王朝での政治中枢機関である朝堂の機能について詳論し、日本古代都城で重要な働きをはたした朝堂との比較の資料を提示するる内容だった。講演会には、30名近い学内外の研究者・大学院生・学部生が出席し、質疑応答も活発に行われ、充実した研究交流の場となった。

Dr. Supakorn Phoocharoensilの講演会

開催日:2016年5月9日(月)
場 所:多摩キャンパスヒルトップ2階 Gスクエア
講 師:Dr. Supakorn Phoocharoensil(スパコーン フォーチャロエンシル) タマサート大学言語学部 教務研究副主任
テーマ:Moving Towards ELF: Daunting Challenges for English Teachers and Learners in Thailand
企 画:研究会チーム「言語の理解と産出」
"As Thailand has become an integral part of the ASEAN Economic Community since 2015, English is evidently playing a more crucial role as a lingua franca between L1 Thai speakers and those speaking other native languages. Unlike some ASEAN nations where the majoriy of the citizens speak English as an official or second language, e.g. Malaysia, Singapore, the Phillipines (Kirkpatrick, 2011), in Thailand, which is a member of the Expanding Circle (Jenkins, 2015; Kachru, 1985), English is now regarded, not as just an important foreign language as it used to be, but as an global language with its far more increasing use in a number of contexts, e.g. education, news, media, alongside Thai. Given its current status as a significant tool for mutual understanding in international communication, the focus of English language pedagogy seems to be shifted from accuracy and fluency to acceptability and intelligibility. Such a change means a real challenge for both ELT practitioners and learners.Based on the background, several challenges for Thai learners of English were laid out. First, English is NOT spoken outside English classrooms (Wiriyachitra, 2002). Second, Thai English teachers usually speak L1 Thai in class. Third, many Thai students are passive, poorly-motivated learners (Wiriyachitra, 2002). Forth, many Thais are submissive and lack self-confidence in speaking English (to foreigners) (Noom-ura, 2013). Fifth, the English class size is too large (Noom-ura, 2013; Wiriyachitra, 2002).Sixth, some teachers focus on only one variety of English, e.g. American or British English, at the expense of other Englishes. What are requirements for ELT Teachers in the ASEAN Community including Thailand? According to Kirkpatrick (2007, 2014), ELT teachers who wish to work in outer or expanding circle countries should be aware of the following: (i) Teachers should know the L1 of their students and understand the educational, social, and cultural contexts in which they are working; (ii) Teachers should understand that the local variety of English is an appropriate and well-formed variety that is not inferior to their own; (iii) Teachers should be able to evaluate ELT materials critically to ensure that they do not promote a variety of English or culture at the expense of others; and (iv) Teachers should be able to evaluate the specific needs of their students and teach towards those needs. Nowadays, "English is not solely the property of its native speakers" pointed out by Kirkpatrick (2007) so that well-trained, multilingual and culturally sensitive, sophisticated teachers can best teach today's learners of English."

馮 繼仁氏の講演会

開催日:2016年7月27日(水)
場 所:多摩キャンパス2号館4階研究所会議室1
講 師:馮 繼仁(フウ ケイジン)ハワイ大学准教授
テーマ:Chinese Architecture and Metaphor
企 画:研究会チーム「アフロ・ユーラシア大陸における都市と国家の歴史」
中国建築史の研究は、21世紀に入って急速に進展している。本講演は、12世紀に中国で出版され、東アジア各国の建築に大きな影響を与えた建築書『営造方式』を題材に、 当時の建築技術や建築がそなえた象徴性について系統的な分析を試みるものである。馮継仁氏は、中国清華大学を卒業して北京大学等で教鞭をとった後、渡米してペンシルバニア大学で修士号、ブラウン大学で『営造法式』の研究で博士号を取得し、ドイツのマックス・プランツ研究所等を経て、現在、ハワイ大学でアジア建築史を講じる、アジア建築史の新しい流れを代表する研究者の一人である。
今回の講演"Chinese Architecture and Metaphor""は、ハワイ大学出版局から公刊され、優秀研究書賞を獲得した同名の書物の内容をふまえたもので、英語・中国語・日本語の三カ国語を駆使して行われた。出席者は、東洋学園大学や東大、早稲田大学等の学外の教員・院生を含む12名の出席者を得て、懇親会の席まで議論が続き、充実した研究交流となった。馮継仁氏は、世界各地で研究を続けてきたその経歴からわかるように、豊かな知識と研究知識を有した好青年であり、今後のさらなる研究交流を期して充実した研究会を終えた。

Karen Dobkins氏の講演会

開催日:2016年7月30日(土)
場 所:多摩キャンパス1号館  1410号室
講 師:カレン ドプキンス カリフォルニア大学サンディエゴ校心理学部教授
テーマ:マインドフルネス実践1日ワークショップ
企 画:共同研究チーム「発達障害傾向を有する大学生についての縦断的研究」
近年、日本でもマインドフルネスが注目を集め、企業や民間団体もこれを取り入れたり、学校での実践や新たな学会なども作られたりしている。今回はカリフォルニア大学のカレン・ドプキンス教授(Prof. Karen Dobkins)を招き、実際に7時間の実践を行って頂いた。当日は学外周知が十分でなかったにもかかわらず、3名の一般参加者を含む16名の方々にご参加頂いた。マインドフルネスへの関心の高さが伺える。前半は講師による実践の理論背景の説明が主となり、マインドフルネスのベースとなる仏教の視点、マインドフルネスと関連する脳神経学的な視点、そしてポジティブ心理学や認知行動療法の視点という、宗教、生物、心理というさまざまな視座を統合する説明が行われた。そして瞑想の実践を行った。折しも会場近くは工事中で騒々しいと感じるか、いささか心配であったが、ここはまさにマインドフルネスの実践そのもの。なにも問題にもならず、ただ淡々と今の自分にのみ注意を向ける実践が続いた。昼食を挟み、後半はさまざまな自己に関する陳述(アファーメーション)と現在の自己認知を振り返り、自分にあるものを欠点と思うより『贈り物』と考えるとどうなるか、といういわば認知的変容の実践を行った。講師の英語による質問に、一部の参加者は戸惑いを示したものの、ほぼ概ね順調に進んだ。終了後の懇親会も和やかだった。ドプキンス教授はこのマインドフルネスを研究活動としても位置づけ、今回の参加者にもアンケートをお願いしていた。講師のますますの活躍を祈りつつ、今回のワークショップが成功裏に終わったことをまさに感謝している。

Aldrin P. Lee氏の講演会

開催日:2016年10月10日(月)
場 所:多摩キャンパス3号館 3535教室
講 師:Aldrin P. Lee(オールドリン リー)フィリピン大学ディリマン校准教授
テーマ:Voices in Peril: Documenting Endangered Languages in the Philippines
企 画:研究会チーム「言語の理解と産出」
本講演ではまず、フィリピンにおける言語の現状が報告された。フィリピンでは公用語はフィリピン語(タガログ語)と英語であるが、国内では、7000以上の島々からなる地域において、母語として用いられる言語は約180に及ぶ。しかしながら、近年の国際化において、母語として用いられる言語の多くは、祖父母の代から、子、孫への継承が困難となり、言語としての絶滅の危機に瀕している。そのような背景の中、危険言語の記録が急務になり、フィリピンの言語研究所では2020年までにフィリピンにおける母語の記録を目指している。本講演では Aldrin氏が行った危険言語の言語記録の実情が報告された。中でも興味深いのは、(i) 現地に向かうのに大変な労力がかかること、(ii)適正な母語話者をみつけること、(iii)母語話者との適切なコミュニケーションなどが挙げられる。
第一に、上述の通り、フィリピンが7000以上の群島から成る島国であることで、特定の母語が話される地域に行くためには船による渡航が必要となってくる。加えて、山中の地域の場合は渡航後さらに険しい山道を登る必要がある。舗装もされておらず、決して安全とはいえない移動の様子が映像で示された。
第二に、当該の母語話者のほとんどは決して豊かとは言えない地域の高齢者であるために、必然的に歯が抜け落ちている場合がある。言語を記録する上で、そのような高齢者は正確な発音が難しくなり、言語記録に支障をきたすことがある。そのため、歯が丈夫で正確な発音ができる母語話者を見つける必要性がある。
第三に、母語話者は高齢であるために、あまり負担をかけられず、2から3日の間で短期的に記録しなければならない。加えて、当該の母語話者と友好な関係を結ばないと、調査の存続自体が難しくなる場合がある。したがって適切なコミュニケーションをとり、友好な関係を築くことが大変重要である。
このように、危険言語の保持・記録は国際的に重要な問題になっているが、実際にフィールドワークとして言語記録を行うことの難しさ(・面白さ)をAldrin氏がまとめた実際の映像とともに伺い知ることができた。

Yannick Séité氏の講演会

開催日:2016年11月1日(火)
場 所:多摩キャンパス2号館4階 研究所会議室2
講 師:Yannick Séité(ヤニック セイテ) パリディドロ大学准教授
テーマ:À qui s'adresse Rousseau dans ses Rêveries du promeneur solitaire ?
企 画:共同研究チーム「ルソー研究」
「『孤独な散歩者の夢想』でルソーは誰に話しかけているのか?」と題された講演で、セイテ氏はこのルソー最後の作品、「ルソーのテキストで最も完璧なテキスト」を取り上げ、同一系列とされるいわゆる自伝的作品である『告白』ならびに『対話―ルソー、ジャンジャックを裁く』の2作品と比較しながら、作品における話し手と受け手の関係の問題を、作品執筆時にルソーが置かれていた状況を踏まえながら、言語学的観点、修辞学的観点、哲学的観点などさまざまな角度から論じた。『夢想』は他の自己弁明的な2作品とは異なり、著者の視点は過去に向かうというより著者の現在、そして未来をさえ志向している。『告白』と『対話』が明確に読者(受け手)を想定して、受け手がルソーの無実を確信することを期待しながら、そのための修辞を駆使して書かれているのに対して、『夢想』は読者に対する期待を一切放棄し、純粋に自己のために、自己のみを受け手として執筆された。ところが読者を期待した先行2作品が結局読者との関係を築くのに失敗したのに対して、読者(著作の受け手)を放棄した『夢想』が多くの読者を(死後に)獲得したのは大きなパラドックスだが、それは、『夢想』という作品には、思想と知的創出がいたる所に見られるからだ。受け手のいない著作がこれほど多くの読者を捉えたのは、過去の断片や些細な事実の思い出や日常の小さな出来事をきっかけにして、一新された思考、もしくは前代未聞の思考が読者の眼前で創出されるからであり、読者の知性に対して哲学的用語素を、前代未聞の命題を提示するからだ、と結論した。『夢想』というルソーの「白鳥の歌」の持つ魅力を明快かつ説得的に明らかにした講演と言える。

Geoff Lindsey氏の講演会

開催日:2016年12月1日(木)
場 所:多摩キャンパス7号館 WS2(7201教室)
講 師:Geoff Lindsey (ジェフ リンゼー) University College London Honorary Lecturer
テーマ:The English pronunciation clinic for Japanese college students: Demonstration and Practice.
企 画:研究会チーム英語学研究の接点
はじめにLindsey先生から、次年度のSCEP2017の紹介と、参加を促す説明がなされた。次に、日本人の英語の発音を困難にしている原因のひとつとして、英語からの借入語のカタカナやローマ字表記をあげられた。英語からの借入語のカタカナが、元の英語と異なるため、奇妙な英語発音に響くということである。
まず、最初の20分は、日本人の注意すべき子音の発音についての解説があった。1つめは、英語と日本語の発音の際立った違いの例として、子音の/s/がとりあげられた。日本語の/s/は弱く発音されるが、英語では強く際立つ発音にすることが重要で、複数の単語をあげて具体的に発音練習がなされた。/s/は、舌の前半部を奥に引っ込め、歯の裏側に息を強く当てるので、「歯を見せることが、英語らしい/s/になる条件」と何度も強調された。
2つめに、/r/と/w/について触れられ、どちらも日本人が苦手な「唇を丸めて発音する」ことができるよう、繰り返しの練習が強調された。 さらに、英語の/s/は強い呼気の伴う子音に対し、/θ/は強く発音する必要がないという説明がなされ、sink-think, seem-themeなど、パワーポイントで示された10組のペアーの発音が確認させられた。日本人の中には、苦手意識が強いためか、/θ/を逆に強く強く発音しようとする傾向がみられるが、それは英語の自然な発音ではなくなるということである。関連して、YouTubeのドイツのテレビコマーシャルをとりあげ、ドイツの沿岸警備隊(German coast guards)で/s/と/θ/の区別がつかない一員の発音の問題を、滑稽に扱っている映像が流された ('We are sinking.' 'What are you thinking about?')
英語の/w/が日本語のオのような円唇で発音する一方で、/v/は円唇にはならない。この違いも、wet-vet, went-ventなどの10組の単語を使って練習がなされた。その他には、/ʃ/と/s/の発音練習がなされた。
次の20分間は、基本的な語連結について説明がなされた。語と語のあいだのスペースはリーディングのためであって、スピーキングのためではないこと、つまり、話し言葉では、スペースがないものとして繋げて発音するようにすると、日本人的な発音が少しは改善されることを、an American => anAmerican, for example => forexample, pay attention => payattention, very important => veryimportant, go away => goaway, all along => allalong, fall asleep => fallasleep, long ago => longago, not allowed => notallowed, don't understand => don'tunderstand, straight ahead => straightahead, good enough => goodenoughなどのような例をあげて、口頭練習が繰り返しなされた。
さらに日本人が注意すべきこととして、弱形 (weak form) がとりあげられた。通常、助動詞は、弱形の発音になるが、否定notと一緒になると、強形発音になる。(e.g. You can swim. vs You can't swim.) したがって、肯定のYou can swimのcanを強く発音すると、否定語のcan'tのように聞こえてしまうという。
Yes-No疑問文では、助動詞は弱形で始まることが多いので、冒頭部分を集中して聞くようにするとよい。しかし、もちろん、応答文では文末に来ることもあり、強形の発音になる。(e.g. Can you swim? Yes, I can.)
最後の30分では、撮影した7人の学生のビデオを再生し、それぞれの学生の話す英語について、音声学的問題点を指摘して、問題点の解説と矯正方法について説明が与えられた。7人の個々のポイントの指摘以外に、全員の共通ポイントとしては、以下の点があげられた。
1. ofの発音が強すぎる(e.g. a time of warのof)こと。
2. 語のあいだのスペースを詰めて発音できないこと。
3. /r/の発音の際に、舌先がどこにも付かないように発音すること。
4. –sion, -tionなどの末尾の子音/n/をしっかり発音し、/ə/をしっかりと弱く発音すること(television, station, graduation, persuasion, division, etc.)。