研究

2008年度

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2008年度
フリガナ・漢字
氏名
所属 国名 受入区分 受入期間 講演日 講演タイトル
ユアン,ボーピン
Yuan,Boping
ケンブリッジ大学上級講師 イギリス 訪問 2008.4.7 2008.4.7 第二言語文法は境界面において何をなしえるか
劉 平
Liu Ping
中国社会科学院教授 中国 訪問 2008.4.26 2008.4.26 中国演劇創作と舞台上演の現状
ラコルヌ,ドニ
Lacorne,Denis
パリ政治学院教授 フランス 訪問 2008.5.22 2008.5.22 アメリカにおける政教分離 ‐フランスとの比較
ドプキンス,カレン
Dobkins,Karen R.
カリフォルニア大学サンディエゴ校教授 アメリカ 訪問 2008.6.19 2008.6.19 自閉症スペクトラム障害の危険性をもつ乳児における非典型的な視覚発達
李 強
Li Qiang
清華大学人文社会科学学院院長 中国 第2群 2008.7.20~
2008.8.15
2008.7.23 China leader 中国記事
ラプランチーヌ,フランソワ
Laplantine,Francois
リヨン第2大学人類学教授 フランス 第1群 2008.12.3~
2008.12.23
2008.12.10/12.17 文化人類学の現在/メティサージュ(文化的混淆)について
ルノー,アラン
Renaut,Alain
パリ・ソルボンヌ大学教授 フランス 訪問 2009.1.27 2009.1.27 多様性と平等

ユアン,ボーピン氏の講演会

日 時:2008年4月7日(月)
場 所:研究所会議室4
講 師:ユアン,ボーピン氏(ケンブリッジ大学上級講師)
テーマ:第二言語文法は境界面において何をなしえるか。
企 画:研究会チーム「言語の理解と産出」

著名な第二言語習得研究者であるユアン博士を迎えての講演で、遠くは九州大学から、また関東からは筑波大学、明海大学、東京福祉大学などから参加があり、この種の専門的な研究に関する講演としては、比較的多くの参加者があった。約1時間程度の講演の後、活発な質疑応答があり、データ分析の方法から理論構築まで、様々な面で議論が行われた。たとえば、英語母国語者が中国語の習得において困難を示すと報告された点は、実際には、いわゆるinterface(境界面)における難しさを仮定しなくても、統語モジュール内部における難しさという観点から十分説明可能ではないかという本学教員の指摘は、現在の第二言語習得研究全体の潮流とも関係する話題であるが、この質問を起点として、活発な意見交換があり、和気あいあいとした中にも、かなり厳しいやり取りがあった。人文研の研究員だけでなく、学部生、大学院生の参加も多かった。学生からの質問や意見はほとんど出なかったが、普段、論文の著者としてしか知らなかったユアン博士の講演を直接聞くことができ、彼らの学習意欲向上にも大いに役立ったはずである。多くの学生が、講演後のパーティにも参加し、ユアン博士と直接話をし、いろいろなアドバイスを受けていた。また、パーティには他大学からの参加者も加わって、有意義な時間を過ごすことができた。

劉平氏の講演会

日 時:2008年4月26日(土)
場 所:研究所会議室4
講 師:劉平氏(中国社会科学院教授)
テーマ:中国演劇創作と舞台上演の現状
企 画:研究会チーム「多様化する現代中国文化」

1.中国「話劇(現代演劇)」誕生100周年の主な活動について

2007年は中国の「話劇(現代演劇)」が誕生して100年に当たる年だった。この一年の間に中国では様々な記念活動が行われた。

(1)中国政府が「話劇100周年記念 第五回全国話劇優秀演目連続上演」を主催し、北京で31本の話劇が上演された。同時に、上海、武漢、重慶などでも、記念上演の活動があった。

(2)中国話劇芸術研究会が『中国話劇百年劇作選』(全20巻、外文出版)を編集・出版した。

(3)中国戯劇家協会などの主催、田本相、宋宝珍、劉平、余林、沈玲の監修による「中国話劇百年展」が開かれた。

(4)田本相の編著『中国話劇百年図史』(山西教育出版社)が刊行された。

(5)劉平の編著『中国話劇百年図文志』(武漢出版社)が刊行された。

2.国立劇団による上演の状況について

中国における話劇の創作と上演は、基本的に北京、上海が中心である。その他の都市では、武漢、天津、南京、瀋陽、広州、西安、重慶、福州など、いくつかの大都市で上演があるのみで、その他の都市での話劇の上演はきわめて少ない。現在の中国話劇の創作と上演の状況は「両輪」現象が見られる。ひとつの車輪は国立劇団であり、もうひとつの車輪は民間の演劇団体である。北京の話劇市場について言えば、民間劇団の上演が50%を占めている。まず、国立劇団の創作と上演の状況について説明しよう。近年、中国の国家劇団による創作は数が減っているが、比較的優秀な作品も出現している。

(1)現実を描く話劇、『黄土謡』(中国人民解放軍総政治部話劇団)、『郭双印と故郷の仲間たち』(西安話劇院)、『ある種の毒薬』(北京人民芸術劇院)、『棋盤嶺伝』(河北省承徳話劇団)、『農民』(四川人民芸術劇院)、『九番のバス』(長春話劇院)、『ボタ山』(遼寧人民芸術劇院)など。これらの話劇は現実の社会生活を描き、内容に深みがあり、鮮明な人物形象を作り出した。

(2)歴史上の題材を描く話劇、『天籟』(広州軍区戦士話劇団)、『馬蹄の音』(南京軍区前線話劇団)、『南京陥落』(南京市話劇団)、『秀才と首切り役人』(上海話劇芸術センター)、『張之洞』(武漢人民芸術劇院)、『天に叫ぶ』(天津人民芸術劇院)、『天国でおまえを待っている』(解放軍芸術学院)など。これらの話劇は歴史上の題材や革命戦争を描き、鮮明な歴史人物を作り出した。また、観客に現実社会に対する思考を促した。

3.民間の演劇団体による上演の状況について

中国の民間劇団は改革開放にともなって誕生し、近年、急速に発展した。民間の演劇団体の数はますます増加し、彼らが創作・上演する話劇もますます増えて、若い観客に歓迎されている。民間の演劇団体の作品は芸術的な水準がまちまちで、観客に迎合した笑いを取る作品が見られる。一部の作品は内容が浅薄、舞台上演もいい加減で粗製濫造、真剣さに欠ける。しかし、一部には比較的優秀な作品もある。

(1)社会の現実を反映し、人間の劣悪さを暴く作品。『人形』、『蜘蛛の巣』、『円明園』、『春柳社をさがして』、『二匹の犬の人生論』、『ドン・キホーテのように』など。これらの話劇は誰もがよく知っている社会生活を描いている。良からぬ社会風潮や醜悪な現象を批判して、観客の共鳴を得た。

(2)普通の人々の生活を題材にして、彼らの喜怒哀楽を描く作品。『あっちへフラフラ、こっちへフラフラ』、『ぼくは李白じゃない』、『ある出稼ぎ労働者の美しい期待』など。『あっちへフラフラ、こっちへフラフラ』は大学生の生活を描き、『ぼくは李白じゃない』は商売人の生活を描く。『ある出稼ぎ労働者の美しい期待』は農村から都会に出稼ぎにやって来た労働者たちが休憩時間を利用して自ら創作した作品で、舞台上演の俳優もすべて出稼ぎ労働者だった。彼らの演技は真に迫っていて、観客に感動を与えた。

(3)若者の結婚や恋愛を題材にして、その複雑な感情を描く作品。『ぼくは有名になりたい』、『気ままに愛して』など。若者が社会生活の重圧の下で、精神面で苦悩と絶望を抱いていることがわかる。

ラコルヌ,ドニ氏の講演会

日 時:2008年5月22日(木)
場 所:研究所会議室4
講 師:ラコルヌ,ドニ氏(パリ政治学院教授)
テーマ:アメリカにおける政教分離-フランスとの比較
企 画:研究会チーム「総合的フランス学の構築」

フランスは大革命で王権と結びついた教会権力を倒したため、フランス共和国は政教分離を徹底して行った。信仰の自由を求めて新大陸に渡った新教徒がつくったアメリカは、同じ政教分離の共和国でも、宗派を問わずキリスト教が「市民宗教」になっているとされる。新大統領は就任式で聖書に左手をおいて宣誓し、大統領はしばしば演説を“God Bless America”で終える。1ドル紙幣には“In God we trust”と書かれている。ブッシュ政権の誕生にはキリスト教原理主義勢力の支持があった。これらの事象はフランスでは考えがたい。
トクヴィルは『アメリカのデモクラシー』で、アメリカでは「自由の精神」と「宗教の精神」が両立するとし、フランスの場合も君主制より共和国にこそ宗教が必要だと説いた。本講演はラコルヌ氏は、フランスとの対比で、アメリカの政教分離の歴史と現在を分析した。

ドプキンス,カレン氏の講演会

日 時:2008年6月19日(木)
場 所:研究所会議室4
講 師:Karen R. Dobkins (ドプキンス,カレン)氏
(カリフォルニア大学サンディエゴ校教授)
テーマ:Atypical Visual Development in Infants at Risk for Autism Spectrum Disorders (ADS) 
    自閉症スペクトラム障害の危険性をもつ乳児における非典型的な視覚発達
企 画:研究会チーム「視覚認知機構の発達研究」

要 旨:Many previous studies have documented atypicalities in face processing in individuals with autism spectrum disorders (ASD). Because ASD is not diagnosed reliably before 24 months! , to explore development of these face processing atypicalities, we investigated face processing and low-level visual processing (using event-related potentials, ERPs and psychophysics) in young infants who are at genetic risk of developing ASD because they have an older sibling diagnosed with the disorder. By studying visual processing in these “high-risk” infants, as it compares to that in “low-risk” control infants (i.e., typically developing infants from families without history of ASD), we capitalize on the notion that traits of ASD are often present in relatives of individuals with ASD (i.e., the “broader autism phenotype”). Differences observed between high- and low-risk infants might provide markers of ASD early in infancy.
In our face processing studies, we recorded ERP and psychophysical responses to pictures of faces vs. non-face objects (toys, strollers). ERP results shows that for the P400 brainwave, low-risk infants exhibit significantly faster responses to faces than objects (by ~38 msec), whereas high-risk infants exhibit the opposite effect; faster responses to objects than to faces (by ~18 msec). Psychophysical face data show a similar pattern. In low-level psychophysical studies, we measured sensitivity of the Magnocellular (M) and Parvocellular (P) visual pathways in 6-month-olds. Results show significant differences between high- and low-risk infants only in M pathway processing. Based on known projections from the M pathway to face processing areas during development, we propose a potential causal link between the observed face and low-level visual processing atypicalities. In sum, these findings reveal atypicalities in higher-level face vs. object processing, as well as low-level M vs. P pathway processing, in high-risk infants in the first year of life, which may be risk factors in the development of ASD.

李 強氏の講演会

日 時:2008年7月23日(水)
場 所:研究所会議室4
講 師:李 強氏 (清華大学人文社会科学院院長) 
テーマ:China Leader / 中国記事
企 画:研究会チーム「近代東アジアの構造的な変化」

李強教授はオリンピックを迎える中国の現状を都市社会の変動に焦点を当て、従来の見方と違う解説を行った。オリンピックは中国にとって政治的、経済的、社会的に大きな意味を持つと同時に、三十年間の改革を経た今日において、いかに国内と国際社会からの挑戦に直面し、超越するかという課題に対してひとつの答えを導き出した。具体的には、指導部は「危機改革」ばかりに専念するのではなく、中長期的目標を立てた上で、決断するべきであるとした。すなわち、中国社会に本質的な改革を与えるような政策を打ち出せるかどうかという問題である。次に経済問題では、今年から来年にかけて持続的発展を実現するために、不動産、エネルギーなどの面で、果たして無事に政策を進めていけるのかどうかということについても要注意である。第三点は、国際関係である。つまり、近隣諸国をはじめとして、米ソなどとの協調関係をさらに強化するべきであるということである。

日 時:2008年7月24日(木)
場 所:2841号室
講 師:李強氏(精華大学人文社会科学学院院長)
テーマ:Ingterpreting the society in China/中国社会再検討
企 画:研究会チーム「近代東アジアの構造的な変化」

中国社会を社会学、例えば社会階層論から考える際、13億人の人口を五つの階層に分けて見ることができる。高級層は5分の1ほどであり、中間層は13%~15%ほどである。従って、下層は75%~80%ほど存在することとなる。しかし5分の1という、約20%の人々は社会の55%以上の富を所有しているのが現状であり、均衡、平等、公平に格差を是正する政府の政策如何によって、中国社会は安定した発展ができるかどうかが決定付けられると李強先生は指摘しておられた。

ラプランチーヌ,フランソワ氏の講演会

日 時:2008年12月10日(水)
場 所:3号館3114教室
講 師:フランソワ・ラプランチーヌ氏(リヨン第2大学人類学教授)
テーマ:文化人類学の現在
企 画:研究会チーム「総合的フランス学の構築」

19世紀末から人類学がどのようにして誕生し発展したか、その歴史を研究領域、キーワード、適用分野について説明した。人類学の記述が映画の発明と精神分析学の記述と同時期だったことから、認識論的にも大きな確信だったとの説明は新鮮だった。

ラプランチーヌ,フランソワ氏の講演会

日 時:2008年12月17日(水)
場 所:3号館3455教室
講 師:フランソワ・ラプランチーヌ氏(リヨン第2大学人類学教授)
テーマ:「メティサージュ(文化的混淆)について」
企 画:研究会チーム「総合的フランス学の構築」

メティサージュとはフランス語で「文化的混淆」を指す文化人類学の概念。進んだ文化を遅れた文化が接触すると前者が後者を支配したり排除したりする。しかし後者が前者に屈服すると見せかけて、支配と排除のせめぎ合いから混淆による新しい文化が生み出される。

ルノー,アラン氏の講演会

日 時:2009年1月27日(火)
場 所:研究所会議室4
講 師:アラン・ルノー氏(ソルボンヌ大学政治哲学科主任教授)
テーマ:多様性と平等
企 画:研究会チーム「総合的フランス学の構築」

フランスの共和主義は、個人の差違を捨象して平等な市民を創造してきた。普遍主義的平等原理である。しかし今日問題になっているのは、階級や民族や性による差違をどう勘案しつつ平等を実現するかという課題であり、多文化主義やフェミニズムはそのあらわれである。この講演は多様性を尊重しつつ、いかに平等な社会を実現するかという問題を哲学的に分析整理した。
小野潮研究員が逐次通訳を行った。