日本比較法研究所

2013年度 講演会・スタッフセミナー 概要

テーマ:欧州人権法(1)

 講義タイトルは、「人権は普遍的か?実際にはそうとは言えない・・・」というもの。1948年の世界人権宣言は、人々が所属している地理的位置、国家、人種、文化の違いにかかわりなく人権は全ての人に等しく適用される、と規定する。1993年の世界的人権会議もまた、人権や自由の普遍的性格には疑問の余地がない、と宣言している。本講義では、このような人権の普遍性が検証される。そして結論として、これらの普遍性の主張は、今日の人権保護の現実な課題と障害が残されていることが、それぞれ説得的に語られる。
 講義構成は下記のとおり。
 1.普遍的な人権文書が普遍的には批准されていないこと:第1の課題は、多くの重要な普遍的人権文書(自由権規約、社会権規約、人種差別撤廃条約、女子差別撤廃条約、拷問禁止条約など)が全ての国によって批准されていないことである。さらに、批准国の中にも、条約上の義務を免れるために、重大な留保を付している場合がある。
 2.地域的人権保護における格差:第2の課題は、地域間で人権保護の程度に大きな隔たりがあることである。ヨーロッパ、アメリカ、イスラム諸国、アフリカ、アジアなど、異なる大陸における人権状況の違いが確認される。ヨーロッパには大変効果的で成功している人権保障システムがある(それはとりわけ全欧州規模で憲法裁判の地位を占めるに至った講習人権裁判所のおかげである)のにたいして、他地域では必ずしもそのような人権保障システムがあるわけではない。アメリカでは多くの成果があり、アフリカでも多少の進展があるものの、アジアには地域的人権保障システムはなく、イスラム世界におけるさまざまな宣言は、人権の普遍的適用にたいして重大な問題をつきつけている。
 講義は英語でなされ、西海が通訳。パワーポイントを使い、学生にしばしば質問を発するなど、意欲的で興味深い内容。講義後も多くの学生が教壇まで来て質問をしていた。以上


テーマ:欧州人権法(2)

 講義タイトルは、「性急で過激なのか?人権条約上の実施期間の果たした驚嘆すべきこと、または、人権分野における司法積極主義について」というもの。常設国際司法裁判所が、ロチェース号事件判決で述べられているように、「国際法は、独立国家間の関係を規律し、諸国を拘束する法規範は諸国の自由意思から生まれる。」同事件においてアンチロッチ裁判官は、「国家は、自ら拘束されたいと願うが故に、またその限度でのみ、拘束されるのである」と述べている。人権分野以上に、このような法実証主義が挑戦をうける分野は他にないだろう。実際、さまざまな人権条約機関は、多彩な活動を展開してきた結果、それらは法実証主義的価値から完全に分離してしまった印象がある。そのような印象を与える活動にはどのようなものがあるだろうか。 
 講義構成は下記のとおり。 
 1.フランケンシュタインとしての人権条約:人権条約は、人間(国家)が作ったものだが、当初、国家が期待し想像しなかった方法で人権条約を解釈するに至っている。そのような傾向は、プライバシー、性差別、ジェンダーの領域において特に顕著である。→欧州人権条約判決、自由権規約委員会勧告の諸例。 
  2.人権条約の私人間効力(水平的効果):アメリカ合衆国連邦最高裁判所判決、欧州人権裁判所判決の諸例。
 3.強行法規としての人権法:米州人権委員会と同裁判所は、強行法規としての解釈を展開している。たとえば、18歳未満の少年にたいする死刑を禁止する法規範は、強行法規である、といった具合に。
 4.人権条約の域外適用:トルコ、セルビア、イラクにおける諸例(欧州人権裁判所)。
 結論:これらの事例は、司法積極主義の限界という問題を生じさせている。「解釈の隠れ蓑」をまとった裁判官立法。これへの諸国の反発。とりわけイギリス。人権条約における司法積極主義は、危険ラインを超えていると思われる。 
  講義は英語でなされ、谷口が通訳。パワーポイントを使い、学生にしばしば質問を発するなど、意欲的で興味深い内容。講義後も多くの学生が教壇まで来て質問をしていた。


テーマ:欧州法(3)

 講義のタイトルは、「人権は普遍的か?実際にはそうとは言えない・・・」というもの。17日に行われた欧州人権法(1)の後編。 
 講義構成は下記のとおり。 
 3.イデオロギー上の障害と文化相対主義:人権の普遍性にたいする他の障害として、さまざまな国家群の間のイデオロギー上の相違がある。国連の初期においては、西欧的人権観と共産主義的人権観の分裂があったが、冷戦の終焉とともに、このようなイデオロギー的対立は消え去った。しかし、それに代わる新たなイデオロギー的対立が文化相対主義をめぐって生じた。シャリア法を適用するいくつかのアジアの国々は、人権の普遍性にしばしば挑戦している。他方、欧州人権裁判所は、シャリア体制は欧州人権条約の価値とは別物であるとの態度をとっている。 
 4.人権の普遍性に向けての変遷の兆し:確かに人権は当初は西欧起源のものだったが、現在では非西欧地域においても支持されるに至っている。今日では、もっとも重要な6つの普遍的人権条約は、いずれも170ほどの国々により批准されている。170という数字は地球上の全国家の85%にあたる。20年前の批准率は50%に留まっていた。批准時に付した留保を撤回する国々もある。また、異なる人権条約の間に共通する規範が増えてきた。新たな人権条約が既存の人権条約をモデルに作成されるケースも増えてきた。人権条約それじたいは、大したことは言っていない場合が多い。これを実施する法システムこそが、条約を解釈し、人権保護を前進させてきたのである。人権実施機関は、それ自体としてはたいしたことを言っていない条約規定の大胆な解釈をしばしば行ってきた。さまざまな人権実施機関のかいしゃくは相互に影響を及ばしている。これらの傾向が続けば、将来、真の意味での人権の普遍性を語ることの出来る日が来るかもしれない。 
 講義は英語でなされ、西海が通訳。パワーポイントを使い、学生にしばしば質問を発するなど、意欲的で興味深い内容。講義後も多くの学生が教壇まで来て質問をしていた。以上


テーマ:分離と国際法

 国際法上の民族自決権の形成過程をたどり、外的自決権としての分離権がどこまで認められ、どこから認められないかを考察するもの。報告内容は次の通り。 
  Ⅰ.現代国際法における外的自決権 
 (1)国連と自決権 (2)国連総会と「塩水の理論」 (3)脱植民地化の枠を超えて外的自決権を拡大することの諸国による拒絶 
 Ⅱ.脱植民地化状況以外における分離権の不存在 
 (1)条約における分離権の不存在 (2)慣習法における分離権の不存在 (3)「救済的」分離権の存否をめぐる論争 
 Ⅲ.脱植民地化状況以外における分離を規制する法原則 
 (1)実効性原則 (2)国際的承認 (3)強行規範に違反する分離の禁止 
 Ⅳ.結論に代えて:コソヴォ事件(国際司法裁判所勧告的意見、2010年)についての若干のコメント 
 セミナーはフランス語で行われ、西海が通訳。パワーポイントを用いた報告は参加者の多くの関心を引き、多数の質疑応答があった。


テーマ:フランスのマリ軍事干渉

 フランスのマリ軍事干渉を国際法の観点から評価するもの。報告内容は次のとおり。 
 1.マリ紛争:キープレーヤー 
 2.平和と安全の分野におけるアフリカの諸機構の機能的脆弱さのケーススタディーとしてのマリ紛争 
 3.フランスの軍事干渉が適法であることの一般的承認 
 4.自衛権はフランスのマリ軍事干渉を正当化するだろうか? 
 5.マリ当局の合意 
 6.安保理決議2085の解釈 
 セミナーはフランス語で行われ、西海が通訳。パワーポイントを用いた報告は参加者の多くの関心を引き、多数の質疑応答があった。


テーマ:2005年台湾刑法改正について―未遂犯と共犯に関する法改正を中心に

 台湾においては、近時、刑法の改正が行われたが、講演では、この改正をめぐって、改正に至る過程、改正の具体的な内容、改正前の条項との各比較、改正によって生じていると思われる変化・影響等について、詳細な報告が行われた。この度の台湾刑法の改正には、将来的に刑法改正を視野に入れるわが国においてもおおいに関心が寄せられるところであり、本講演会は、その意味でも非常に有意義は講演会となった。


テーマ:Der Notwehrexzess(過剰防衛)

§1.Gllederuna 
A. Elnfuhrung 
B. Unvollstaendlge Problemuebersicht zu §33 StGB 
C. Slnn und Zweck des §33 StGB 
D. Loesung von Zweifelsfragen 
§2.Faelle 
Fall 1:Elerwerfer-Fall(BGH,Urteilv.13.11.2008-5 StR 384/08, NStZ-RR 2009, 70) 
Fall 2:Albaner-Fall(BGH, Urteil v.24.10.2001-3 StR 272/01, NStZ 2002, 141) 
§3 Normtexte 
§33 StGB Uberschreitung der Notwehr 
Art.27 tuerk. StGB Uberschreitung von Grenzen 
§36 jap. StGB [Notwehr] 
§3 oeStGB Notwehr 
Art. 16 schweizerisches StGB Entschuldbare Notwehr


テーマ:罪刑法定主義の今日的理解(Aktuelle Anderungen im Verstandnis des Gesetzlichkeitsprinzips)

 マンハイム大学のクーレン教授講演会においては、刑事法の基礎である罪刑法定主義について、基礎的な議論から現代的な争点までを取り上げた報告がなされ、これに対して参加者からは積極的な質疑が発せられて、活発な議論が交わされ、有意義な学術交流の場となった。


テーマ:International Torts, Domestic Courts, and the Import of Extraterritoriality

 Prof. Glashausser spoke about a somewhat rare but important topic:the courts of one country making judgments about actions that accurred in another country. In particular, Glashausser discussed the experience of the United States in applying what is called "The Alien Tort Statute." The statute confers jurisdiction on federal district courts to consider a civil action filed by an alien alleging a violationof the law of nations or atreaty of the U.S. Glashausser noted tha American courts have struggled to reach a balance between becoming involved in such internaional disputes and deferring to courts closer to where the actions complained of occurred. The Alien Tort Statute is jurisdictional. The substantive low to be applied in such cases is international law or treaties. Even so, American courts have sometimes been reluctant to assert jurisdiction.


テーマ:"Some Remaining Fundamental Differences Between the Civil and Common Law Systems-with an Interactive Discussion of the Japanese Civil Code"

 Prof. Vetter spoke about a topic of particular importance in Japan and of direct relevance to the Comparative Law Institute: the fundamental differences of the civil and common law. Prof. Vetter comes from the State of Louisiana in the United States, the only American state that uses both the civil law and common law. He talked about the roots of the civil law tradition in Roman law and about the two principal modern branches of it: the French and German. Japan, of course, had contact with both of those branches as it was creating its Civil Code in the Meiji era. Prof. Vetter explained the different points of emphasis in those approaches and their respective strengths and weaknesses. Even through the French and German models differ, they do share certain assumptions. Prof. Vetter noted the those assumptions are fundamentally different from the bases of the common law system. Thus, lawyers need to develop separate analytical tools to operate effectively in civil and common law jurisdictions.


テーマ:Collective Labor Agreement in the Netherlands

 ドイツ協約法、とりわけジンハイマー協約理論の影響を受けつつも、オランダでは独自の協約法理と協約法を形成してきた。とくに産業別の協約とともにオランダでは企業別協約が重要な役割を果たしており、近年とくに分権化や柔軟化の傾向を強めている。もともと分権化(企業レベルの団体交渉)が極端なまでに発展してきた日本の協約法制にとって、オランダの協約法理の展開は、日本法の今後の在り方を考えるうえで、重要な示唆をあたえるものである。


テーマ:ドイツにおける憲法裁判所の役割と機能

 この講演は、「連邦憲法裁判所の役割」と題し、英語で実施された。講演会の際には、英文とその全文を訳した資料が配付された。講演の内容は、まずは連邦憲法裁判所の任務と組織について概観した後、この裁判所をめぐる政治家動向や、法理念等についての幅広い説明がなされた。詳細については、比較法雑誌に掲載する講演の翻訳を参照いただきたい。


テーマ:中国刑法における組織犯と日本刑法における共謀共同正犯に関する比較法的研究

 一.中国刑法の組織犯の立法および理論における問題点 
 二.中国刑法への日本の共謀共同正犯の概念と理論の導入の必要性 
 三.私見 
 講演会の内容については、「比較法雑誌」47巻4号(2014)に掲載した。


テーマ:ドイツによる協約システムの空洞化と安定化の可能性

 ドイツにおいて労働協約の適用をうける労働者は6割にまで低下している。もっとも、業種別でみれば、いまでも100%近い公務部門がある一方で、3割台の情報産業や4割台の小売業と、一様ではない。また、労働協約の適用にあるとともに、ドイツ労使関係の特質である従業員代表のある事業所にいる労働者ということでいえば29%に低下している。かかる労働協約システムの変化は、分権化と譲歩交渉と特徴づけることができるが、内容的にみれば、事業所の個別的事情に適合させる柔軟化であり、企業レベルに異なる協約内容を認める差異化であり、協約水準を下回ることを認める開放条項である。 
 では、協約システムを安定化させるには何が必要か。ひとつは、下からの安定化、つまり、労働組合自身による安定化の努力であり、もうひとつは、上からの安定化というべき政策による安定化であり、労働市場の再規制、法定最低賃金、一般的拘束力宣言制度の改革である。このうち、一般的拘束力宣言をみると、拘束力宣言を受けた協約は1980年代から90年代初頭までは600前後あったものが現在ではその半分の300前後になっている。その業種もかつては、比較的多岐にわたっていたが、現在では、織物業、理髪業、ホテル、飲食業、清掃業の4業種にとどまり、適用をうける労働者は雇用労働者の2.1%にすぎない。これは、現在の一般的拘束力宣言の要件が、労働協約が産業別協約で一般的拘束力を付与することが公的利益に合致することのほかに、適用労働者が当該業種の50%以上いること、協約委員会の同意があることが要件とされていることに原因である。50%要件が高いハードルだけでなく、ナショナルセンター経営者団体が、業種別の使用者団体の意向とは関係なく、同意を拒否することが多いからである。 
 それゆえ、現在、連邦議会の方で、法定最低賃金制度とともに、一般的拘束力宣言制度の改革議論がなされている。その内容は、比率要件を40%に下げる(緑の党)か撤廃すること(SPD,DGB),「公的利益」に新たな定義をあたえること(協約システムの安定化、適正な所得条件等)、そして中央の経営者団体の拒否権を廃止し、産別使用者団体を協約委員会に加える(SPD,緑)といったものである。


テーマ:ドイツにおける低賃金労働部門の拡大とその対応

 ドイツにおいていわゆる低賃金労働者とは、賃金中位置の3分の2以下の賃金である労働者を意味するが、1995年に約600万人であったものが2011年には800万人に増大し、低賃金労働者が労働者全体に占める割合は19%から24%となっている。その要因は、労働市場の規制緩和による非正規雇用の増大、労働協約の意義の低下、組合組織率の低下等が考えられる。ただ、その増大は一様ではなく、業種的には繊維業、理髪業、清掃業で8割以上、飲食業、小売業等で7割以上と多く、性別では男性よりも女性、年齢的にはとくに若年者が6割と多い。なかでも、労働者が税・社会保険料の納入義務を負わない450ユーロ以下のMinijobでは7割を占める。 
 このような構造的特色を持つ低賃金労働者問題の対応策として、現在、最低賃金制度の導入の議論がされているが、その議論を理解するには、ドイツにこれまであった多様な最低賃金にかかる制度を理解しておく必要がある。それは、産別協約による最低賃金、一般的拘束力宣言による最低賃金、越境的労働者配置法による最低賃金、公契約の協約遵守法、最低賃金法等である。このうち、労働協約をみると1998年に76%あった労働協約適用労働者は2012年には60%になっている(西独地域)。また、協約賃金自体のなかにも最低賃金の指標である8.5ユーロを下回る協約賃金の適用労働者が11%いる。特に農業、生花業では9割がかかる労働者である。一般的拘束力宣言でいえば、今日、宣言される労働協約は製パン業や理髪業、警備業等であるが、その適用労働者は協約適用労働者の2.7%にすぎず、きわめてその機能が低下している。越境的労働者配置法による一般的拘束力をもつ最低賃金は、建設業等17業種あるが、建設業の専門労働者では13.7ユーロであるものの、介護、建設清掃等では8.5ユーロの前後である。公契約の協約遵守法にもとづく最低賃金では、西独地域の中心に8.5ユーロ前後の最低賃金が設定されている。1950年代に設定された最低賃金はこれまで適用されたことがない。このように、現行の制度では最低賃金を確保するのに十分とはいえない。 
 現在、大きな政治的課題として議論されている法定の最低賃金制度には、全産業に統一的な最低賃金を定めるモデル、業種別モデルの二つがある。問題は適正な最低賃金をどう決めるかであるが、ハルツ法に依拠する方法、差押え禁止賃金を基礎にする方法、貧困賃金(平均税込み賃金の2分の1)、ヨーロッパ社会憲章の公正賃金(平均手取り賃金の60%)等が議論されているが、他のヨーロッパ諸国の最賃をみながら決めることになろう。多くの国民が全国最賃をもとめており、成立する可能性は高い。最低賃金制度は、低所得者と収入の安定化、内需の拡大、税収の増大と社会給付受領者の減少等をもたらすと思われるが、ただ、それだけでは十分ではなく、一般的拘束力宣言制度の改革(50%条項の引き下げないし撤廃、使用者の拒否権の排除等)、Minijobの改革、派遣・有期法制の改革等と一緒に進める必要がある。


テーマ:ドイツ社会法講義

 ドイツ社会法について英語による講義が行われた。ドイツ社会法の沿革を説き、統計に依拠しつつ、社会法の基本理念と現実の運用が講じられた。 
 講師が一方的に講述するのではなく、受講生に質問しながらしんこうするのも好評であった。終了時には学生から3件の質問を提出され、学生にとっても興味ある講義であったことが窺われる。 
 ドイツ社会法の体系と個別な保険制度との関連性がうまく講述されており、年金制度に関する連邦憲法裁判所の判決の紹介もきわめて興味深いものであった。


テーマ:行動科学に基づく規制の期待と陥穽

 講演約1時間後、質疑応答を約1時間おこなった。 
 質疑応答の主たる内容は、要旨以下の通りであった。 
 第一に、行動科学に基づく規制という観点は、期待できるものであるが、その観点を規制に入れれば入れるほど、法治主義・民主主義との関係やパターナリズムとの関係が争点となることになる。特に潜在的意識を問題とする場合、その争点が先鋭化する。 
 第二に、法律は、個々の目的のために分散して制定されており、それを統合した規制のために、行動科学を利用することになると、をの正当性が問われることになる。 
 第三に、行動科学に基づく規制がより機能する分野(消費者保護など)とそうでない分野がある。 
 第四に、OECD等では、規制の事前評価の一つとして検討されているが、それはまだ始まったばかりである。 
 第五に、行動科学に基づく規制には、市民への教育的機能はほとんどない(人の行動自体を利用するからである)。 
 第六に、国際法ないしは国家の意思決定における行動科学も今後検討されるかもしれない。


テーマ:ベルギーおよび欧州におけるADRと修復的司法

 ベルギーおよび欧州におけるADRと修復的司法の現状と課題について報告した。


テーマ:ベルギーおよび欧州の司法制度に対する世論

 ベルギーおよび欧州の司法に対する社会の信頼について、統計的調査に基づき、その現状と課題について報告した。


テーマ:ベルギーおよび欧州における不法滞在外国人の退去強制

 ベルギーおよび欧州における不法滞在外国人の退去強制について、ある事件を切り口にその現状と課題について報告した。


テーマ:国際犯罪被害者の保護

 国境を越える犯罪被害者の保護とその修復の現状と課題を報告した。


テーマ:中国における仲裁;希望、陥穽および将来

 本講演は、法か大学院のアジア・ビジネス法のクラスを利用して行われた。Gu助教授からは、中国に於いて仲裁に付される件数が飛躍的に増大していること、中央政府も仲裁制度の整備の意義を認識して、2007年に、1995年仲裁法の改正提案がなされたが、まだ改正作業の具体的な手続きは開始されていないこと、その反面で、中国国際経済貿易委員会では頻繁に仲裁規則が改正されたこと、などの概要を話された。さらに、日本刀の外国企業が関係する場合に、これまでは仲裁契約の存在を前提とする厳格な解釈がなされていたが、規則改正により、いわゆる門前払いになるケースは減るだろうとの見藤氏を指摘された。これを受けて、出席者からは、仲裁パネルの構成や仲裁人の資格要件、仲裁手続き中の和解勧告・調停との関係、仲裁判断の執行力の範囲等について質問があり、活発な議論が展開された。特に、将来キャリアとして、アジアでの紛争解決実務に関心のある学生に対して、Gu助教授から、語学の問題もさることながら、比較法的センスの醸成が重要であり、普段の実定法学修において意識することを薦められ、学生たちも学習意欲をあらたにしたようである。さらに、本学教員・弁護士とGu助教授と今後の交流について、打ち合わせを行った。第一に、本法科大学院が実施している短期研修プログラム(SAPI)において仲裁法の位置づけを重視するべきであること、教材その他の作成協力が必要であることについて合意が形成された。第二に、アジア市場がグローバルに発展していくにつれてADRによる紛争解決実務がさらに重要になってくるところ、アジアの文化的価値に適合的な法秩序の形成が必要であり、和解・調停において歴史のある日本法と、コモンローの立場からアジア的ADRに取り組む香港法との間で協力し、比較法的研究を進展させることが必要であるとの認識に達した。近い将来、等研究所の外国人研究者受入制度等を利用した研究者交流を拡大し、それによって本学の比較法研究にさらに貢献することが期待できる。


テーマ:英国最高裁判所のヨーロッパ人権条約への対応

 ブライス・ディクソン教授は、比較法及び国際法に関する多数の著者、論文を発表されてきた傑出した研究者である。 
 今回の講演では、英国最高さいばんしょの設立、組織、構成及び役割等に関する概説の後、同裁判所がヨーロッパ人権条約の解釈、適用に対してどのように取り組んできたかを最新の判例法を交えながら講演していただいた。 
 講演の内容をかいつまんで紹介するならば次のようであった。 
 まず条約の国内的効力を認めない英国の憲法秩序の下では、元来、ヨーロッパ人権条約は国内的には直接効力を欠いていたが、1998年の人権法の制定により、同条約に事実上の国内的効力を与えた。それ以後は、人権法を通じて、ヨーロッパ人権条約が英国の国内においても援用されることになった。以後、多くの事案が裁判所に繫属することになった。最高裁も同様人権法を通じてヨーロッパ人権条約を適用している。ただし、同条約の最終的に握っているのは英国最高裁ではなく、ストラスブールにあるヨーロッパ裁判所である。最高裁判所の判例が、英国の国内において反発を招いている例も見られる。また、最高裁にとっても困惑を誘う判例もみられる。 
 英国最高裁は、ストラスブールの人権裁判所との間で、齟齬を招かないようにするためには、個人の権利と社会の諸利益との間の均衡のとれた解決を図るために、どのような解釈にたっているかを十分説得的に説明することが求められていると指摘した。 
 その後、フロアからの活発な質疑応答の後、講演会を終了した。


テーマ:公法対私法:契約法と資本市場法規制の相関関係にするドイツの論争

 The lecture given by Professor Baum discussed the capital market law regulation and the legal framework regulating the legal relationship between investmen firms, investors and supervisors in Germany and the EU. Wtihin this framework, a basic problem is that the nature of the various rules are still unclear, i.e. whether they are public law or rather private law rules. One reason for this is that the many underlying EU Member States have different legal traditions and because not all legal traditions clearly distinguish between public law duties and private law duties. This phenomenon, however, causes problems of interpretation and application of the rules in thoses countries where traditionally the distinction between public law duties and private law duties is of high relevance. Professor Baum comprehensively explained the various legal theories on the dealing with this problem discussed in Germany today and the case law developed by the German courts, in particular the case law of the Federal Court of Justice, the German Supreme Court in civil law matters. While the Federal Supreme Court classifies many provisions of the German Securities Trading Act as public law (only) provisions the establish only public law duties and have no civil law effects ("primacy of civil law theory"), many scholars in Germany doubt this view and plead that these provisions have to treated as "functional civil law" rules ("primacy of public law theory") or at least should affect the interpretation of the content and scope of civil law duties between investent firms and investors ("diffusion theory"). {For details see the attached handout for the lecture circulated among the audience.}


テーマ:職場におけるアクティブ・エイジングの課題にどう対応するか

 ヨーロッパおよびイギリスにおける年齢差別禁止法の観点から定年退職制をどうみるか、年齢差別と他の社会的差別の相違を踏まえ、興味深い議論を聞くことができ、きわめて有意義な研究交流であった。年齢差別禁止は、エイジングの平等性、仕事の世代間調整の観点から、定年制の廃止に必ずしも帰結するものではないとのVickers教授の議論は、彼我の社会的認識の共通性をうかがわせるものであった。懇親会を含め、学内外の研究者が多数参加し、意見交換ができたことは、とくに若手研究者にとっては、研究上多くの重樹を受ける機会となったと思われる。


テーマ:ドイツ法における犯罪理論の現況について

 ドイツ法における、これまでの犯罪理論の紹介と現在に至る流れ、現在の状況について検討する。


テーマ:EUにおける裁判管轄の衝突を回避するために―現状と展望―

 EU統合に連動して刑事法分野でも裁判管轄の統合が進んでいる現在の状況について考察する。


テーマ:処罰の早期化―その概念、原因、立法技術について―

 リスク社会における刑罰の早期化、重罰化について考える。


テーマ:訴訟費用負担―受給権、権利から保護保険そして訴訟ファイナンスまで

 訴訟費用は、当事者分けても敗訴者負担が原則である。そしてこの訴訟費用負担のリスクが、問題を裁判所等の紛争解決期間に持ち込むことを躊躇させる要因となっている。もっとも、訴訟にかかる費用のうち、特に問題なのは、弁護士費用であることは、周知のところである。この危険を当事者以外に負担させる仕組みは多様である。どのような方策が現在ドイツでは認められているのか、またその方策中もっともドイツで普及している保険(権利保護保険)との関係はいかようになっているのか、キリアン氏の解説を受けて、我が国の問題点とそれを受けた諸方策展開の可能性、特に権利保護保険の我が国における普及の可能性が討論された。キリアン氏の報告については、近刊の比較法雑誌にその訳文が掲載されることになっているので、参照されたい。


テーマ:特別裁判籍における専門弁護士の活躍

 中央大学法科大学院公法勉強会(代表大貫裕之教授)の協賛を得て行われた本講演では、ドイツにおける特別裁判権とそこでの手続の概要とこれらの裁判権を司る裁判所で活躍する専門化した弁護士像が、統計データを踏まえる形で解説され、翻って、我が国の裁判所そして弁護士が専門化していないことによる問題があまりにも多いことがクローズアップされた。我が国の裁判官そして弁護士は、行政法を知らなすぎる。専門化への道は必須であるにも関わらず、それに向けた関心が我が国で高まらない。それでは国民の権利保護の十分を期せないという、公法勉強会のメンバーからのため息まじりのコメントは印象的であった。キリアン氏の講演の内容については、2014年秋に開催予定の専門弁護士制度に関するシンポジウムの際に配布し、その後シンポジウムの成果と共に刊行する予定なので、それを参照されたい。