日本比較法研究所

第26回中央大学学術シンポジウムの開始にあたって

 当研究所は、「法化社会のグローバル化と理論的実務的対応」という課題で、第26回学術シンポジウムに研究計画を申請し、採択されました。これを受けて、公募によって参加を募り、6つの個別研究プロジェクトを設け、それぞれの主査と常任幹事が当該プロジェクトの運営を行う体制を整備することとしました。2014年度より、この個別研究プロジェクトを中心に、2016年度に予定される「学術シンポジウム」に向けて、各種取り組みを実施していきます。

全体テーマ:法化社会のグローバル化と理論的実務的対応

現代において、経済や社会のグローバル化の進展により生ずる多様な法的紛争を公正かつ迅速に解決することが喫緊の課題となっている。当研究所は、「比較法研究を通じて世界平和に貢献すること」を理念として設立された経緯から、このような課題に向けて、総力をあげて取り組むことが責務であると考える。これまでの比較法的研究の蓄積と実務的解決への貢献により、その成果を広く社会に披瀝することが期待される。

個別研究プロジェクト

全体テーマに基づき、以下の研究プロジェクトが設置されました。( )はプロジェクト主査。敬称略。

(1) 裁判規範の国際的平準化(植野妙実子)

国境を越えて共通問題になっている事象の裁判内容や判決基準の『ヨーロッパ化』の傾向を研究する。これにより、グローバル化の時代にあって、人権保護の規範的基準を標準化することの意義を明らかにし、わが国の対応に対する提言も行う。

(2) リーガルサービスのグローバル化と弁護士法(森勇)

国境を越える紛争についてリーガルサービス提供の中心となる弁護士の行為規範とその規制のあり方を研究する。「弁護士法」という成文法の枠組みで対応するドイツ法を中心に、ヨーロッパ・アメリカ・アジアの研究者・実務家を中心に、グローバルなリーガルサービスと弁護士法の課題を探る。

(3) サイバースペースの法的課題と実務的対応(堤和通)

情報技術の進展により、サイバースペースにおける新しい紛争が日々醸成されている。サーバースペースという性質上、国内規範の適用に実効性が担保されないこととなる一方、問題の影響は広く実体社会にも及ぶという傾向がある。プライバシー、サイバー犯罪、プロバイダ責任を中心に、問題の背景と理論的実務的対応の必要性を検討する。

(4) 環境規制のグローバル化と実務的対応(牛嶋仁)

環境汚染等、つねに国境を越える可能性がある問題について、条約・各国法の整備が進みつつある一方、環境政策、規制監督当局の整合的な対応については、様々な問題が生じている。これらのトランスナショナルな性質を踏まえ、条約・各国法・規制監督当局の政策形成に関する研究を行う。

(5) 生命倫理規範のグローバル化と実務的対応(只木誠)

生殖医療、遺伝子ビジネス、臓器移植等の問題が容易に国境を越える現実に対して、各国の伝統的法理や法政策が対応に苦慮している。他方で、問題がグローバル化するにつれて、体系的な規範的枠組みや実務的対応の整備は喫緊の課題となっている。EU法・ドイツ法を中心に、英米・アジアにおける研究の現状と将来の課題を研究する。

(6) 決済取引のグローバル化と実務的対応(福原紀彦)

情報技術・金融技術の進展により、電子商取引・電子決済の取引実務が急速に増加している。各国の一般私法は国内の個別取引を想定し、電子的な取引や決済への対応が不十分である一方、電子的ネット-ワーク・決済システムなどのインフラ整備には途上国が熱心に取り組んでいる実体がある。そこで、国連国際商取引法委員会(UNCITRAL)の条約整備・EU決済法をベースに、わが国の電子記録債権法等の諸法と比較し、電子的な決済取引の法的枠組みの整備と実務的対応を研究する。