企業研究所

2019年5月28日開催 公開研究会開催報告 (研究チーム:「最新の情報技術によるビジネスプロセスの革新」)

2019年05月28日

2019年5月28日(火) 公開研究会を開催しました。  

【内 容】石毛 俊治 氏(一般社団法人日本ジビエ振興協会常務理事)

     「ジビエの食肉利活用におけるトレーサビリティの必要性」  

 

      大前 匡佐 氏(カドルウェア株式会社代表取締役社長)

     「ジビエのトレーサビリティシステムの開発」

【日 時】 2019年5月28日(火)17:00~19:00

【場   所】 多摩キャンパス 2号館4階 研究所会議室1

【要 旨】

 

 石毛氏からは、まず日本においてなぜジビエ[1]の食肉加工が現在注目されているのかについての説明がなされる。現在イノシシやシカの頭数が増加してきており、それらの鳥獣による農作物の被害額は、年間約200憶円以上に及ぶという。統計調査では、その被害額は年々減少しているとされる。しかしながら、実際は、鳥獣被害の負担に耐えられなくなってしまう農家が自らの農作地を放棄することから、被害額が統計上減少しているに過ぎないとのことである。すなわち、被害を受ける農家の数が減ることによって、統計に表れる被害額が減少しているに過ぎない。

 この解決策として、狩猟による鳥獣の頭数の削減、および狩猟した鳥獣の有効活用の一つとして食肉利用の道としてジビエ肉のビジネス展開が考えらえるに至る。一方で、都市部でジビエ肉を調理・提供する多くの店は、安全対策に関する十分な知識を必ずしも有していないという実態もあるという。ジビエ肉は、刺身のような生肉として食べるとB型肝炎に感染するリスクもあるという。

 厚生労働省は、このような状況を踏まえて、ジビエ肉の安全性の確保に向けて、狩猟から消費に至るまでの各工程における、安全性確保のための取組について野生鳥獣の衛生管理に関する検討を行いつつ、詳細な衛生管理事項の条件を定めた「野生鳥獣肉の衛生管理に関する指針(ガイドライン)」を作成している。その結果、2018年度以降、国内のジビエ食肉の本格流通がスタートするに至る。

 現在、農林水産省やジビエ振興協会の指導の下に、食肉の品質を保証できる食肉加工施設の安全性を保証する認証制度も確立され、京都、徳島、長野のジビエ食肉加工業者が承認されるに至っている。農林水産省は、2019年度は、さらに20か所ほどの認可を目指しているという。

 食の安全問題に加えて、ジビエの食肉・加工に関するビジネスの現状は課題が山積しているという。その代表的な課題として、人手不足とジビエ肉の販売ネットワークの未整備のままになっていることが説明される。前者は、ハンターの高齢化に伴う課題でもある。加えて、この高齢化は、次の課題につながる。すなわち、これまでハンターが慣習的に行ってきた狩猟プロセスの一部を、厚生労働省のガイドラインに従ったプロセスに変更することへのハンターの了解・徹底をいかに確保できるかという課題である。この課題については、研修制度の徹底があるという。その中では、ハンターが順守する場合には販売可能性が高まるという意識づけ(ガイドラインを順守する意識の醸成)がカギになるという。

 後者の課題は、狩猟により獲得できたジビエ肉を、安心・安全な食肉として認識してもらいつつ、定期的に注文してもらえる顧客をどのように確保できるのかという課題である。この課題については、現在、流通ネットワーク業者との連携を構築している段階であり、その際ジビエの食肉を記録する台帳として、ブロックチェーン技術(mijin[2]と呼ばれるクラウド上ブロックチェーンを利用できるサービス)を利用しているという。

 加えて、石毛氏からは、なぜブロックチェーン技術という最新技術の導入が可能になったのか、ジビエ肉の販売単価を下げる方策(鹿骨を用いるラーメンスープの開発例)などについても説明がなされる。

 

 続いて、大前氏からは、石毛氏の説明を踏まえて、①ブロックチェーン技術の特性、②なぜジビエ肉をブロックチェーン(分散台帳)に記録する必要があるのか、③なぜ最新技術であるブロックチェーン技術をジビエビジネスで導入することができたのか、④日本ジビエ振興協会の役割、⑤ブロックチェーンサービスmijinを用いて、どのようにジビエ肉の記録が実践されるのかについて詳細な説明がなされる。

 

 両者の報告を受けて、①「狩猟・捕獲方法の違い(罠・銃)によって、販売できるジビエ肉の品質に差は出るのか」、②「人材育成のための具体的な方策とはどのようなものを想定しているのか」、③「ジビエ食肉処理施設の現状の稼働状況とはどうなっているのか」、「mijinを用いる取引記録は、プライベート型のブロックチェーン利用であるのか」、④「ブロックチェーンにジビエ肉を記録することに対する記録者のインセンティブとは何か」等を含めて合計9つの質問が出されることから、参加者はジビエ肉をとりまくビジネスの現状、およびブロックチェーンによって記録することの意義についての理解を深めることができた。

 

 

[1] ジビエとは、シカ、イノシシなど狩猟の対象となり食用とする野生鳥獣、又はその肉のことをいう(厚生労働省webサイト、https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000032628.html、2019年11月27日現在)。

[2] mijinと呼ばれるブロックチェーンについては、下記のWebサイトを参照 https://mijin.io/ (2019年11月27日現在)。