ビジネススクール
フィールドラーニング 戦略1・2 AIケアボットを展開するシャープ元技師長 福井工業大学 芥子育雄教授による特別講義を実施
2026年10月20日
AIケアボットを通じて学ぶ信頼されるAIと産学官医連携による社会実装
2026年10月11日、中央大学ビジネススクール(CBS)の「フィールドラーニング(戦略1・2)」(担当:八尋俊英特任教授)において、シャープ元技師長で、福井工業大学 電気電子情報工学科教授・AI&IoTセンター長の芥子育雄先生をお迎えし、AIケアボットを通じた産学官医連携の取り組みに関する特別講義を実施しました。
概要
講義では、がん患者を支援する音声対話型AI「ケアボット」を題材に、現場の課題を研究開発につなげ、医療機関や企業、行政との連携を通じて社会実装を進める過程をご紹介いただきました。受講生は、AIの技術的な可能性に加え、利用者の信頼を得る設計や、実証から継続的な事業へと発展させるための課題について学びました。
現場の一人の声から広がる社会実装
開発の出発点は、地域医療の現場で活動するコミュニティナースから寄せられた、がん患者の不安や孤独に寄り添う支援の必要性でした。その問題提起が学生の卒業研究、福井県済生会病院との共同研究へとつながり、さらに企業や行政を巻き込む取り組みへと発展していった経緯が紹介されました。
身近な一人の声を捉え、その課題に共感する協力者とともに具体的な仕組みへ育てていく過程は、受講生が自らの事業構想を考えるうえでも示唆に富むものでした。

左写真:芥子育雄教授と福井県済生会病院 宗本義則院長補佐 右:アバター画面
本人の意思決定を支え 医療者へつなぐAI
講義で示されたのは、本人が納得して意思決定できるよう、気持ちの整理や情報へのアクセスを支援するという開発思想です。ケアボットは患者の発話を受け止め、共感を示したうえで情報を提供し、医療者との対話につなぐことを重視しています。
音声対話や医師のアバターの活用など、利用者が安心して話せる工夫に加え、安全性や緊急時の対応、医療現場と連携した実証の重要性も紹介されました。受講生は、AIに任せる範囲と人が担う判断を考え、現場で信頼され、使い続けられる仕組みを設計する視点を深めました。
社会実装を支える連携と事業継続の条件
大学、医療機関、企業、行政が関わる取り組みでは、それぞれの専門性や役割を生かすとともに、言葉や時間感覚、判断基準の違いを橋渡しすることが求められます。講義では、連携の立ち上げから実証に至るまでの苦労も共有され、現場の思いを受け止め、組織を越えて協力を引き出す人の役割に関心が集まりました。
また、社会的に意義のある技術を継続的なサービスにするには、価値を受け取る人と費用を負担する人、事業を推進する体制を考える必要があります。受講生からは、収益化や事業化への道筋を、自らのプロジェクトにも重なる課題として捉える感想が寄せられました。

ディスカッションの様子(2限)
1限の実践事例を2限の事業構想へつなぐ学び
続く2限では、八尋特任教授のもと、講演で紹介された経験を、関係者の役割や組織間の橋渡し、取り組みを継続する条件という視点から整理しました。受講生は、アサヒグループ食品を題材とするプロジェクトに引きつけ、高齢者の食生活支援や孤食・栄養の課題などに、AIの対話設計や連携の仕組みをどう応用できるかを検討しました。
実際の開発・実証の経験を学び、自分たちの事業構想や実装の段取りへと具体化する、フィールドラーニングならではの学びとなりました。
受講生の感想
・現場の一人の声を社会課題として捉える
一人の問題提起を単なる声で終わらせず、社会課題として捉えて解決策を考える大切さに気づいた。その声を具現化する協力者の力や、出発点となる思いの重要性を学んだ。
・AIが人と人をつなぐ可能性
AIに答えを求めるだけでなく、AIが人と人をつなぐという使い方に可能性を感じた。気持ちの整理を支援し、最終的な意思決定は人が行うという考え方は、日頃の実務を見直す機会にもなった。
・使い続けられるための信頼と安全
技術が使えることと、現場で使い続けられることの間には大きな隔たりがあると学んだ。気持ちを受け止め、確かな情報に案内し、判断を医師につなぐ設計は、食の意思決定にも応用できると感じた。
・組織間を橋渡しする人の役割
言葉や時間感覚が異なる組織をつなぐ「翻訳者」が、どのように生まれ、育つのかに関心を持った。現場の課題に共感し、意思決定に関わる人を巻き込むことの重要性を考えるきっかけになった。
・事業を継続するための支払いの仕組み
社会的に意義のある取り組みでも、誰が費用を支払うのかという課題がある。自分たちの食生活支援の構想にも通じる問題であり、自治体だけに依存しない仕組みや、事業化への道筋を考える必要性を感じた。
・講演を自分たちのプロジェクトに生かす
1限で実証の経験を学び、2限でそれを構造として捉えることでプロジェクトを深められた。既存の基盤や関係者の役割、各者が得る価値を整理し、実装に向けた段取りをより具体化できた。
●CBSについてもっと知りたい方へ
フィールドラーニングは、実在する企業の課題に向き合い、経営者の視点から戦略と実行計画を考える実践的な科目です。2026年度はアサヒグループ食品株式会社の協力による寄付講座として、社会構造の変化を踏まえた事業構想に取り組んでいます。CBSでは今後も、専門家との対話を通じ、社会課題の解決と企業の価値創造を結びつける学びを深めていきます。
フィールドラーニングについては、以下のリンクをご覧下さい。
https://www.chuo-u.ac.jp/academics/pro_graduateschool/business/mba/fl/
CBSのカリキュラムの全体像は、以下のリンクをご覧ください。
https://www.chuo-u.ac.jp/academics/pro_graduateschool/business/mba/
AIケアボット関連情報については以下をご参照下さい。
福井工業大学 ケアボットの研究成果をHEALTHINF 2026で発表
https://www.fukui-ut.ac.jp/news/education/ai_iot/entry-12332.html
日本医師会 対話型AIケアボットによるがん患者の心理的支援
https://www.med.or.jp/nichiionline/article/012786.html
福井版・医療対話AI安全ガイドライン V1.0
https://doi.org/10.5281/zenodo.19412293